無事生還
「五奇ちゃん、鬼神ちゃん、氷鶫ー! 無事っスか!?」
響く等依の声に、鬼神は身体をびくつかせた。
「ばっ! 大声出すんじゃねぇーよ!」
いつもより控えめな声で鬼神が言えば等依は何かを察したのか、身体をふらつかせながら寄って来た省エネモードの氷鶫を保護した。
「あ~オレちゃんの氷鶫がこんなボロボロに……。なんとなーく状況はわかるっスけど、鬼神ちゃん?」
「わぁーってるよ。だが、説明の前にコイツを病院へ連れてくのが先だ」
眠る五奇を指させば、等依が運ぶ係を買って出た。そこでようやく火雀と警戒態勢を取っていた空飛が口を開く。
「前衛はお任せくださいませ。僕達で警戒しながら車まで先導させていただきます。はい」
「どのみち、任務も達成っスからね~。オレちゃん達で無知性妖魔達は封印までこぎつけたし? だから……」
「後はこいつらを病院へ……だな」
三人は頷き合うと、洞窟からなんとか脱出した。
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五奇が次に目を覚ましたのは、白い天井と暖かいベッドの中だった。
「あれ? 俺は……?」
ゆっくりと身体を起こせば、全身に鈍い痛みが走る。思わず身体を縮こませると、すぐに看護師と医者が駆けつけてくれた。
精密検査に問診など、一通り受けた五奇に下された診断は全治二週間だった。思ったよりも長い入院に、五奇は悔しさを滲ませるしかなかった。
「アイツ……強かったな……」
病室のベッドの上で一人ぼやく。圧倒的な実力差だった。
「これから俺、やっていけるのかな……?」
傷を負ったせいか、ネガティブな思考が止まらない。ふと、視線を枕元のサイドテーブルにやると妙なものが視界に入って来た。
「……なんだこれ……?」
それはぬいぐるみだった。ピンク色で、兎なのかカンガルーなのか判別できない姿に形容しがたい耳に間抜けな顔をした、なんとも言い表せない姿のぬいぐるみと目が合う。
「えっ……ホント、なに……これ?」
周囲を見渡しながらそのぬいぐるみを手に取り眺めていると、突如として病室の扉が勢いよく開いた。
「目ぇ覚めたって!? 無事か、五奇!」
焦った様子で入って来たのは鬼神だ。その後方から、等依と空飛の声もする。そのことに安心した瞬間、鬼神から、
「って、てめぇ! なに"子クマさん"持ってんだよ! てーちょーに扱えや!」
言われて五奇は思わず硬直する。しばらくして、口を開いた。
「子クマ……さん? え? クマ……?」
「どっからどうみてもそうだろうが! めちゃくちゃ愛らしいだろうが!」
「あー……コホン、そろそろオレちゃん達も入ってよき?」
顔を真っ赤にして叫ぶ鬼神の背後から等依が顔を出し、少しだけ強引に病室内に入って来る。なぜか空飛の口を塞ぎながら。
「等依先輩! その、氷鶫は……?」
あえて空飛やらぬいぐるみには触れずに訊けば、等依が優しい声で答えた。
「だいじょーぶっスよ~。ちーっとお休みさせないとダメっスけどねー」
等依が微笑んだスキを突いて、空飛が等依の手を払いのけ笑い声をあげる。
「あははは! そ、それ! なんてぶさい……むぐぅ!」
再び等依が空飛の口を塞ぐ。等依はそのまま空飛を引きづり、
「じゃーあ、オレちゃん達はロビーにいるっスから~。そいじゃあね~」
そう言い残して去って行ってしまった。取り残された五奇と鬼神の視線が交わる。
「あー五奇。とりあえず、良かったぜ?」
「えっ、あ、ありがとう」
そこでようやく五奇は自分の名前で呼ばれていることに気づき、少し胸が暖かくなると同時に気恥ずかしさに襲われた。




