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落零〈rakurei〉~おちこぼれ達の退魔伝~  作者: 河内三比呂
第一章 初めての任務編
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無事生還

五奇(いつき)ちゃん、鬼神(おにがみ)ちゃん、氷鶫(ひとう)ー! 無事っスか!?」


 響く等依(とうい)の声に、鬼神は身体をびくつかせた。


「ばっ! 大声出すんじゃねぇーよ!」


 いつもより控えめな声で鬼神が言えば等依は何かを察したのか、身体をふらつかせながら寄って来た省エネモードの氷鶫を保護した。


「あ~オレちゃんの氷鶫がこんなボロボロに……。なんとなーく状況はわかるっスけど、鬼神ちゃん?」


「わぁーってるよ。だが、説明の前にコイツを病院へ連れてくのが先だ」


 眠る五奇を指させば、等依が運ぶ係を買って出た。そこでようやく火雀(かがら)と警戒態勢を取っていた空飛(あきひ)が口を開く。


「前衛はお任せくださいませ。僕達で警戒しながら車まで先導させていただきます。はい」


「どのみち、任務も達成っスからね~。オレちゃん達で無知性妖魔達は封印までこぎつけたし? だから……」


「後はこいつらを病院へ……だな」


 三人は頷き合うと、洞窟からなんとか脱出した。


 ****


 五奇が次に目を覚ましたのは、白い天井と暖かいベッドの中だった。


「あれ? 俺は……?」


 ゆっくりと身体を起こせば、全身に鈍い痛みが走る。思わず身体を縮こませると、すぐに看護師と医者が駆けつけてくれた。

 精密検査に問診など、一通り受けた五奇に下された診断は全治二週間だった。思ったよりも長い入院に、五奇は悔しさを滲ませるしかなかった。


「アイツ……強かったな……」


 病室のベッドの上で一人ぼやく。圧倒的な実力差だった。


「これから俺、やっていけるのかな……?」


 傷を負ったせいか、ネガティブな思考が止まらない。ふと、視線を枕元のサイドテーブルにやると妙なものが視界に入って来た。


「……なんだこれ……?」


 それはぬいぐるみだった。ピンク色で、兎なのかカンガルーなのか判別できない姿に形容しがたい耳に間抜けな顔をした、なんとも言い表せない姿のぬいぐるみと目が合う。


「えっ……ホント、なに……これ?」


 周囲を見渡しながらそのぬいぐるみを手に取り眺めていると、突如として病室の扉が勢いよく開いた。


「目ぇ覚めたって!? 無事か、五奇!」


 焦った様子で入って来たのは鬼神だ。その後方から、等依と空飛の声もする。そのことに安心した瞬間、鬼神から、


「って、てめぇ! なに"子クマさん"持ってんだよ! てーちょーに扱えや!」


 言われて五奇は思わず硬直する。しばらくして、口を開いた。


「子クマ……さん? え? クマ……?」


「どっからどうみてもそうだろうが! めちゃくちゃ愛らしいだろうが!」


「あー……コホン、そろそろオレちゃん達も入ってよき?」


 顔を真っ赤にして叫ぶ鬼神の背後から等依が顔を出し、少しだけ強引に病室内に入って来る。なぜか空飛の口を塞ぎながら。


「等依先輩! その、氷鶫は……?」


 あえて空飛やらぬいぐるみには触れずに訊けば、等依が優しい声で答えた。


「だいじょーぶっスよ~。ちーっとお休みさせないとダメっスけどねー」


 等依が微笑んだスキを突いて、空飛が等依の手を払いのけ笑い声をあげる。


「あははは! そ、それ! なんてぶさい……むぐぅ!」


 再び等依が空飛の口を塞ぐ。等依はそのまま空飛を引きづり、


「じゃーあ、オレちゃん達はロビーにいるっスから~。そいじゃあね~」


 そう言い残して去って行ってしまった。取り残された五奇と鬼神の視線が交わる。


「あー五奇。とりあえず、良かったぜ?」


「えっ、あ、ありがとう」


 そこでようやく五奇は自分の()()で呼ばれていることに気づき、少し胸が暖かくなると同時に気恥ずかしさに襲われた。

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― 新着の感想 ―
[一言] 遂に百戦獄鬼と...!己を恐れる主に、どうすれば良いか分からなかったのだね、獄鬼... そして、空飛よ...君は目の前の地雷を片端から踏むのやめよーね...
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