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落零〈rakurei〉~おちこぼれ達の退魔伝~  作者: 河内三比呂
第一章 初めての任務編
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覚醒

 向かい合う五奇(いつき)と青年は、しばらくの睨み合いの後、動き出した。


「邪魔だ」


「お前こそ!」


 青年の刃の猛攻が、五奇を襲ってくる。いなすので精一杯の五奇に対し、青年は挑発するかのように余裕たっぷりな様子で口を開く。


「本気を出してみろ、トクタイ。その程度なら、どのみちすぐ死ぬだろう。ここで死んでおけ」


 それと同時に、容赦のない膝蹴りが五奇の腹部に入った。


「ぐはっ!!」


そのまま蹴り飛ばされ、地面に転がる五奇の様子に鬼神(おにがみ)はというと、震えて動けずにいた。


(怖い、怖い怖い怖い怖い! 無理だ!)


「でも……このままじゃ……」


 このままだと五奇は殺され、氷鶫(ひとう)も殺されるだろう。


「それは……ダメだ……」


(どうしたら、いい? 力が……百戦獄鬼(ひゃくせんごくき)が! チキショウ、なんで!)


「守りたいのに守れねぇんだよ……」


 そう彼女が思った時だった。内側から"声"が響いてきた。


【守ると言ったな? それは(まこと)か?】


「この声は……?」


 物心ついた時、()()()()()()()()だ。あの時は恐怖が先行して、拒絶してしまった。だが、今は違う。


「あぁ言った! 守りてぇ!」


【ならば、()が名を呼ぶがいい。(われ)は……】


 それだけの短いやりとりだが、一人と一体にとっては十分すぎる時間だった。今まさに五奇に振り下ろされようとしている刃がスローモーションに見え、確実に捉えられた。


「百戦獄鬼!!」


 鬼神が叫ぶと同時に、百戦獄鬼が彼女の身体から現れ、青年を勢いよく突き飛ばした。


「えっ……?」


 何が起こったのかわかっていない五奇の元へ、鬼神が駆けよっていく。


「無事……じゃねぇな……。動くんじゃねぇぞ! 後は……俺様達に任せろ!」


「……俺様達?」


 まだ困惑している五奇の身体を支えると、鬼神は百戦獄鬼に向かって叫ぶ。


「百戦獄鬼! ソイツを、ぶっ飛ばせ!」


【任された、我が(あるじ)よ】


 百戦獄鬼は、今までの暴走が嘘かのように鬼神の指示を聞く。その光景に、五奇は驚きを隠せない。


「どう、いう?」


「てめぇは休んでろ」


 言って、鬼神は五奇の目を優しくふさぐ。その温かさと安心感に、五奇は意識を手放した。


「まさか、鬼憑きがいるとはな……。問おう、お前は人間か? 妖魔か?」


 百戦獄鬼に散々にやられた青年が訊く。鬼神は眠った五奇をだいじそうに抱きしめながら答える。


「名前すら名乗れねぇようなヤツに、教える義理はねぇよ!」


「……そうか。なら名乗ることはしよう。名は李殺道(りつーうぇい)だ。ではな、鬼憑き」


 言うが早いか、青年、李殺道は身体から風を出し、その旋風に乗って去って行ってしまった。それを見送り、脅威が去ったと判断した鬼神が五奇の顔を優しくなでる。


「ほんっと、カッコ悪りぃ寝顔……ばーか」


 そう呟いた後、彼女は自分の隣に佇む百戦獄鬼を見つめる。


(あぁ、そうか。そういうことかよ……。俺様が……いつも戦いを無意識に恐れていたから……互いに互いを拒絶していたから……お前も俺様も上手くいかなかったんだな)


 ようやく理解できた鬼神は静かに百戦獄鬼に声をかけた。


「百戦獄鬼……今まで、ごめんな……」


【問題ない。(われ)(あるじ)は認め、(われ)(あるじ)を認めた故にな】


 そう答えると、百戦獄鬼は彼女の中へと戻って行った。

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