落ちた二人と
「おい、おい! 大丈夫かよ! なぁ……おいってば!」
誰かの泣きそうな声で、五奇は目を覚ました。
「うっ……ここは?」
「……洞窟の底だ……。落ちた穴は瓦礫がやばくて近寄れねぇ……。チャラ男が寄こしたコイツのおかげで、五体満足だけどな?」
言われてようやく、五奇が鈍い頭で周囲を見渡せば氷鶫轟鬼が二人を見守るように立っており、鬼神は五奇を膝枕していた。
「ってえええええ!?」
そのことに気づいて、慌てて起き上がろうとする五奇に、鬼神が大声をあげる。
「ばっ! 動くんじゃねぇよ! 怪我がなくても、その……いいから動くな!」
震えた声で言う鬼神の様子に、五奇は首を傾げながら訊く。
「あの……? なんでその、辛そうなんだ?」
「俺様のせいだろうが!」
彼女は目を真っ赤にさせながら、さらに声を張り上げた。
「こうなったのは俺様が油断したからだろうが! だから……だから……」
とうとう顔を覆ってしまう彼女に、五奇は目を見開いて驚く。
(鬼神さん……そんな風に思うことないのに)
そう思い、五奇が口を開こうとした瞬間だった。氷鶫が防御体勢をとり、何者かからの攻撃を防いだ。
驚く二人に、その人物が武器を揺らしながら近寄ってくる。そこにいたのは、
「なっ……お前は! 『爆炎の妖魔』の時に現れた男!?」
あの青年だった。
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その頃。
空いた穴を避けるようにしながら、等依と空飛は無知性妖魔を倒していた。
先陣を切る空飛を、等依の操る火雀応鬼を主軸にした簡易式神の連携でサポートをしていた。
「あの……五奇さんと鬼神さんは大丈夫でございましょうか? っと、あひゃあ!」
無知性妖魔の不意打ちをなんとかかわしつつ、空飛が等依に訊けば、彼は不安げな声で答えた。
「んー? 大丈夫だと思いたいんスけどねー? なぁんか、いるみたいっスね……。にゃんで、空飛ちゃん、無知性ちゃん達、倒しつつ合流するっしょ?」
「いる? とはなんのことでございましょうか?」
等依の式神、火雀応鬼と氷鶫轟鬼は二体で一つの存在だ。故に、ある程度情報が共有できるのだ。
「とにかく! 二人と氷鶫がピンチっぽーなんで、行くっスよ!」
「ピンチ! それはよろしくないでございますね! 承知いたしました! 行きましょう!」
ようやく納得してくれた空飛とともに、等依は二人と一体と合流できないかルートを急いで模索するのだった。
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「お前達こそなんだ? 妖魔と戦う者でありながら、妖魔を庇うのか?」
氷鶫を襲った青年にそう訊かれ、五奇も氷鶫のおかげでそこまでではないが、ダメージを負った身体を無理やり起こしながら答えた。
「妖魔だからってだけで、悪と決めつけるお前こそ! どうなんだよ!?」
氷鶫を庇って立つ五奇の前で、青年は感情の読めない顔と敵意の視線を向けてくる。件の氷鶫は今、青年に吹き飛ばされて壁に激突、省エネモードである鶫の姿になっていた。
「妖魔は滅する。邪魔するならお前も滅する。死ね」
そう言うと青年は、バタフライソードを構え直し、殺気を放つ。その圧に足がすくみそうになりながらも、五奇は負けじと言い返す。
「俺は死ぬつもりはない! 氷鶫もやらせない! 守ってみせるさ!」




