入隊試験
五奇の意識がはっきりしてきて、辺りを見渡せば、木々が生い茂る森の中だった。暗闇の中、鳥の羽ばたく音がどこからともなく聞こえてくる。ライトを取り出して照らせば、小動物が逃げたのがわかった。
「ここは? いや、そうか。ここが試験会場か!」
ようやく状況を理解した五奇は参弥と輪音を構え、警戒しながら森の中を進みだした。
しばらくして、輪音の柄に付いている鈴が二回鳴った。この鈴は、妖魔を探知できるのだ。
「二回ってことは、二体だな!」
この輪音の鈴は、鳴った回数が探知した妖魔の数なのだ。
五奇はまず物理特化の参弥を構え直し、戦闘体勢に入る。
前方から一気に二体の、角の生えた人型の妖魔が飛び上がって襲ってくるのが見えた。
「参弥セット! いけ!」
トリガーを押し、ブレード部分を射出する。ブレードは弧を描き、二体の妖魔の身体を斬りつけた。
「ぐぁあああ!?」
「いてぇじゃねぇか! クソガキぃぃ!」
妖魔の身体は基本的に頑丈だが、祓力を乗せた刃でなら、かなりのダメージを与えることができる。実際、二体の片方の左足ともう片方の右腕は綺麗に斬れていた。今度は輪音を二体の妖魔に向けた。
「"封呪紋"解放! 金の術式! 壱銘、斬葬!」
五奇が唱えれば、輪音の刀身が鈍色から白に変わり、祓力を込めた光の弾が勢いよく放たれた。二体は避けるヒマもなく、消し炭となった。
妖魔を倒したことを確認すると、五奇は深く息を吐く。
「実戦でも通じた! 本当にすごいんだな……退魔術式って」
二つの武器を見つめながら、修行の時にルッツから教わった事を思い返す。
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『退魔術式、ですか?』
黒樹市内のルッツが所有している修練場で、首を傾げながら訊く五奇に、ルッツが頷きながら答えた。
『そう、退魔術式。正式名称はもうちょっと長いんだけどね? とりあえず、そういう術があるって覚えてくれるといいかな?』
『は、はぁ』
いまいち理解出来ていない五奇の様子に、ルッツが訊く。
『五奇君。五行思想ってわかるかな?』
『五行思想?』
五奇が訊き返せば、ルッツが優しく解説してくれた。
『木・火・土・金・水の元素から万物は成り立ち、それらは互いに影響を与え合い、そして循環するという考え方のことさ。ま、とにかくそういうものだと思っておくれよ。で、僕達が使うのはその考え方を元に構築した術式でね? それぞれに銘という技の形態があるのさ』
『な、なるほど?』
いまだわかっていない五奇に対し、微笑みながらルッツが言う。
『君と相性がいいのは金だから、その技を教えるとしよう』
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そうして、五奇は金の術式を三年間身体に叩き込んだ。その技術が試験とはいえ、しっかりと身についていることが嬉しかった。
「よし、進もう。……正直、審査基準がわからないけど」
ルッツからは「とりあえず死ななきゃ大丈夫」と言われ、試験前の説明にも「用意された妖魔を倒し生き残ること」としか書かれていなかった。
(雑にもほどがあるけど……まぁ行くしかないか)
試験を突破し、退魔師になることが最優先だ。そう自分に言い聞かせながら夜の森の中を更に進んで行った。