家族との時間
「……来るの、久しぶりだな」
今日の召集も夜で、空き時間がかなりある。五奇は、父がいる病院にやって来ていた。
ここはトクタイが所有している"妖魔被害者専門"の病院で、五奇の父以外にも被害者達が入院し、それぞれ"専門医"による治療を受けている。
もちろん、中には五奇の父のように治せない患者もいるのだが……。
「すみません、五十土忍の病室をお願いします。あ、息子の五奇です。これ、認証です」
未だ慣れない受付をすませると、看護師の案内で特別病棟へと向かう。この病院は五階建てで、父の忍が入院しているのは四階だ。エレベーターで一気に上がると、待合室に通された。
(……ここに一人で来るのは、初めてだな)
最初に来た時もその次も、ルッツが常に一緒だった。だが、今日は違う。一人だ。
その事を自覚した瞬間、五奇に強烈な恐怖が襲ってきた。
(どうしよう! 父さんと……あの状態の父さんと会うなんて!)
思えば、五奇はちゃんと今の父と向き合っては来なかった。いや、その姿を認識することを無意識に拒絶していた。
だが、あの日から三年が経ち退魔師となった今、ちゃんと見なければならないと思い直した。何が起こり、何を失ったのかを、正しく認識するために。
数分で、その時はやって来た。
無頓着な無地のTシャツに黒のジャージ、そして虚ろな目。何度見ても見慣れない姿が、そこにはあった。
「面会時間は十分です。もし、その間になにかありましたら、途中で中断となりますが、よろしいですね?」
父の車椅子を押してきてくれた看護師に「大丈夫です」と短く答えると、看護師は優しく微笑みながら面会室を後にした。
久しぶりの父子の時間。だが、昔みたいに会話は出来ない。
「その……父さん。俺、トクタイに、妖魔を倒す組織に入ったんだ。それで、いや、それと、今日は、誕生日おめでとう」
そう声をかけてみても、五奇と父の視線が交わることはない。
「……その! 俺、頑張るから! なんとしてでも父さんをこんな風にしたヤツを見つけ出すから! だから! だから……」
それ以上は言葉にならなかった。
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結局、父は一言も発する事はなく面会時間が終わった五奇は、まだ時間があるからと母の墓参りにも行くことにした。
この病院から比較的近い墓地に母は眠っている。
(そういえば、母さんの墓参りも久しぶりだ)
あの日以降、行っていなかったことに申し訳なさを感じながらも、五奇は受付を済ませ、道中で買った花などを持って母の墓まで向かった。
「母さん、久しぶり。なかなか来れなくて、ごめん。その、色々……あったんだ」
一人墓前で手を合わせると五奇は今までのことを母に話した。トクタイのこと、仲間のこと、任務のこと。一通り話し終えると、
「……母さん。俺を……見ていてくれ……」
そう言って祈るように念を込めると、五奇は"家族との時間"を終えた。




