それぞれの思い
庭に出た五奇と鬼神は、折り畳み式のイスを広げ、少し距離を取って座った。
しばらくの沈黙の後、ようやく彼女は口を開いた。
「なぁ……」
「うん?」
「正直に言え。俺様は……足手まといか?」
思ってもいなかった質問に、五奇は目を見開いて驚きながらも間髪入れずに答えた。
「そんなことないよ! 確かに百戦獄鬼を制御できてはいないけど、それは些細な問題だよ! 足手まといなんて、俺も……他の二人も思ってないさ!」
そう言って五奇が微笑めば、鬼神は頬を少し染めて、一言呟いた。
「そうかよ……」
しばらくの沈黙の後、鬼神は椅子を畳んで早々と室内へと戻って行ってしまった。五奇はそれを茫然と眺めながら、
「な、なんだったんだ?」
ただ困惑するしかなかった。
****
部屋に戻った鬼神は、扉を閉めるとその場に座り込んだ。
「はぁ~……」
(足手まといじゃない……か)
「お人好しかよ……」
そう言って近くにあった、お気に入りのぬいぐるみである"くまさん"を抱っこする。それに顔をうずめると、
「ばーか」
誰に聞かせるでもなく、呟いた。
****
その頃。自室に戻っていた空飛は、部屋着である浴衣に着替えて布団に寝転がっていた。思い起こされるのは、『爆炎の妖魔』との最初の戦闘でのことだ。
(僕は黒曜の力を使った……。あの場所ではそうするしかないと思ったからだけど……)
大妖魔"黒曜"。大昔に生きた高位妖魔の一体と記憶している。
(なんで、黒曜として生きていた時代のことは覚えているのに、今の僕が黒曜の力を使うと、記憶を無くすんだろうか? それに、なんで……)
「なんで、数分しか黒曜になれないんだろう?」
そう。空飛には黒曜だった頃の記憶が鮮明に残っている。だが、それなのにも関わらず、空飛として黒曜の力を使うとその間の記憶がなぜか無いのだ。
それがどうにも引っかかるのだが、空飛には名案が思い浮かばないのが現状だ。他の三人に相談してみようかとも思ったのだが、
「いやいや、鬼神さんのことでも手一杯なのに。僕なんかのことまでは、言えないよぉ」
そうして布団の上で頭を抱えるしかなかった。
****
「ふぃ~。あ~あ~、眠いっスねー」
自室で音楽雑誌を読んでいた等依は、読む手を止める。そして、火雀応鬼と氷鶫轟鬼の方を見る。
今の彼らは普段の鬼の姿でも、ましてや休眠モードでもない。火雀は赤い雀、氷鶫は青い鶫の姿を取っていた。等依はその状態を省エネモードと呼んでいる。
そんな彼らの身体を撫でると、等依はいつになく真剣な表情を浮かべ、呟いた。
「さてと……こっからどーなるっスかね? オレちゃん如きにできること、あっかな~?」
こうして、四人の一時の休みは過ぎて行った。




