力で勝たなくていい
「あァ? なんだァ?」
殺気を隠そうともせずに言う『爆炎の妖魔』に対し、五奇が叫ぶ。
「『爆炎の妖魔』! これ以上被害は出させない!!」
五奇が先陣を切って、攻撃を仕掛けた。参弥の刃部分を射出し妖魔に向かって放つ。続いて空飛が二振りの短刀を交差させ、
「行かせていただきます! 黒曜抜刀術! 双十字斬!」
だが、二人の攻撃は妖魔の炎にいともたやすくかき消されてしまった。
「あァ? 弱ぇなァ!? あん時のならまだマシだったがァ……! 今のじゃ弱ぇ! やっぱアイツじゃなきゃダメだァ!!」
『爆炎の妖魔』はそう大声を上げると、全身から炎を噴出させた。その勢いは凄まじく、妖魔が立っている地面が焼け焦げるほどだった。
「あっつ!? おい、マジでどーすんだよ!?」
鬼神の動揺した声に、等依も賛同する。
「そうっスよー。眼中になしって感じなんスけど~」
「……でも! やらないと! それに、ルッツ先生が言ってた通り、力で勝たなくていいんです!」
五奇は先程ルッツとかわした会話を思い出していた。
****
「力で勝たなくてもいいって、どういう意味ですか?」
五奇が訊けば、ルッツが朗らかに答える。
「言葉の通りさ。君達は、『爆炎の妖魔』に力で勝とうとしすぎている。意味、わかるかい?」
首を傾げる四人に対し、彼は言葉を続ける。
「純粋なパワーでなら、確かに今の君達では勝てないだろうね? だけれども、知恵でなら別さ。炎に勝てる能力なら一人、持っているだろう?」
そこで言葉を切り、ルッツは等依の方へと視線をやる。等依は気まずそうに、視線をズラした。
「……確かに氷鶫轟鬼は水属性である氷っスよ? でも、防御特化で……攻撃には回れないっしょ」
いつもよりワントーン低い声で答える等依に、今度は空飛が口を開いた。
「ですが、それでございましたら……!」
****
「ガチで……やるんスか~……えぇい! なるようになれっス!」
等依が意を決したように、氷鶫轟鬼に指示を出す。
「氷鶫! 防御全振りで……超防御結界"氷円鏡"発動!」
『爆炎の妖魔』の周囲に氷の壁が次々と現れ、彼を炎ごと閉じ込めることに成功した。だが、中から暴れている音が響く。
「おい! ここからどうすんだよ!?」
「このままですと、破られてしまいますでございますよ!?」
鬼神と空飛の焦る声が耳に入ってくる。それに対し、五奇は必死に思考を巡らせる。
(確かに二人に言う通り、このままだと時間の問題……時間? あの妖魔……アイツと戦いをやめた時なんて言っていたっけ?)
あの時の『爆炎の妖魔』の言葉が脳裏五奇の脳裏によぎる。
『夜が明けるかァ』
(確かにアイツはそう言った。そして、夜が明ける前に退却していった……なら!)
「みんな! 夜が明けるまでです! 夜を超えるまで、『爆炎の妖魔』を足止めしましょう!」
五奇の言葉に他の三人が時計を確認した。夜が明けるまであと二十分はある。
「ちょー!? けっこーしんどいんスけど……。いや、マジでやべぇ……!」
等依のトーンがどんどん真剣なものに変わっていく。それほどまでに彼にかかっている負荷は大きいのだ。五奇は、どんどん破壊されていく氷の隙間めがけてブレードを放つ。感触で中にいる妖魔の身体のどこかに刺さったのだとわかった。
「これで……! 空飛君と鬼神さんは、妖魔が氷を破りきりそうになったら、一気に攻撃をしかけて! 当たらなくていい! とにかく足止めを!」
「ちっ! やりゃあいいんだろ! やりゃあよ!!」
悪態を吐きながらも、鬼神がファインディングポーズを取った。続けて空飛も短刀を構えなおす。氷鶫が形成した氷の結界がどんどん溶け、破壊されていく。
「うっ……あ……」
等依の祓力が限界を超えた。彼は倒れそうになり、それを火雀応鬼が現れて支えた。
(すみません、等依先輩……! あと、二分!)
完全に破壊された瞬間に、言われた通りに鬼神と空飛が『爆炎の妖魔』に向かって攻撃した。鬼神はとにかく殴りかかり蹴りかかり、空飛はリズミカルに刃で斬りつけようとしていく。
「ちィ! おいおいおいィ! アイツを探してんだァ! 雑魚に用は……はっ! 夜明けか!?」
「そうだ! 悪いけど……倒されてくれ!」
『爆炎の妖魔』が逃げようとするのを五奇がワイヤーブレードを放って巻きつけて阻止する。そうこうしている間に夜が明けた。
「ぬぁあああああ!! 日はダメだァ! 力が奪われる!」
『爆炎の妖魔』の炎が天に向かってのびていき、妖魔の身体が蒸発し始めた。
「ど、どういうことだよ!? 妖魔って日に弱いとかねぇだろ!?」
驚く鬼神に、空飛が静かな口調で答えた。
「おそらくでございますが、この妖魔の特性が、日光に弱かったということでございましょう。……いずれにせよ、終わりでございます。はい」
妖魔の断末魔だけが、辺りに響き、最期は灰すら残らずに消えていった。




