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落零〈rakurei〉~おちこぼれ達の退魔伝~  作者: 河内三比呂
第一章 初めての任務編
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力で勝たなくていい

「あァ? なんだァ?」


 殺気を隠そうともせずに言う『爆炎の妖魔』に対し、五奇(いつき)が叫ぶ。


「『爆炎の妖魔』! これ以上被害は出させない!!」


 五奇が先陣を切って、攻撃を仕掛けた。参弥(さんび)の刃部分を射出し妖魔に向かって放つ。続いて空飛(あきひ)が二振りの短刀を交差させ、


「行かせていただきます! 黒曜抜刀術こくようばっとうじゅつ! 双十字斬(そうじゅうじざん)!」


 だが、二人の攻撃は妖魔の炎にいともたやすくかき消されてしまった。


「あァ? 弱ぇなァ!? あん時のならまだマシだったがァ……! 今のじゃ弱ぇ! やっぱアイツじゃなきゃダメだァ!!」


 『爆炎の妖魔』はそう大声を上げると、全身から炎を噴出させた。その勢いは凄まじく、妖魔が立っている地面が焼け焦げるほどだった。


「あっつ!? おい、マジでどーすんだよ!?」


 鬼神(おにがみ)の動揺した声に、等依(とうい)も賛同する。


「そうっスよー。眼中になしって感じなんスけど~」


「……でも! やらないと! それに、ルッツ先生が言ってた通り、力で勝たなくていいんです!」


 五奇は先程ルッツとかわした会話を思い出していた。


 ****


「力で勝たなくてもいいって、どういう意味ですか?」


 五奇が訊けば、ルッツが朗らかに答える。


「言葉の通りさ。君達は、『爆炎の妖魔』に()()()()()()()()()()()()。意味、わかるかい?」


 首を傾げる四人に対し、彼は言葉を続ける。


「純粋なパワーでなら、確かに今の君達では勝てないだろうね? だけれども、知恵でなら別さ。炎に勝てる能力なら一人、持っているだろう?」


 そこで言葉を切り、ルッツは等依の方へと視線をやる。等依は気まずそうに、視線をズラした。


「……確かに氷鶫轟鬼(ひとうのごうき)は水属性である氷っスよ? でも、防御特化で……攻撃には回れないっしょ」


 いつもよりワントーン低い声で答える等依に、今度は空飛が口を開いた。


「ですが、それでございましたら……!」


 ****


「ガチで……やるんスか~……えぇい! なるようになれっス!」


 等依が意を決したように、氷鶫轟鬼に指示を出す。


氷鶫(ひとう)! 防御全振りで……()()()()()"氷円鏡(ひえんきょう)"発動!」


 『爆炎の妖魔』の周囲に氷の壁が次々と現れ、彼を炎ごと閉じ込めることに成功した。だが、中から暴れている音が響く。


「おい! ここからどうすんだよ!?」


「このままですと、破られてしまいますでございますよ!?」


 鬼神と空飛の焦る声が耳に入ってくる。それに対し、五奇は必死に思考を巡らせる。


(確かに二人に言う通り、このままだと時間の問題……時間? あの妖魔……アイツと戦いをやめた時なんて言っていたっけ?)


 あの時の『爆炎の妖魔』の言葉が脳裏五奇の脳裏によぎる。


『夜が明けるかァ』


(確かにアイツはそう言った。そして、夜が明ける前に退却していった……なら!)


「みんな! 夜が明けるまでです! 夜を超えるまで、『爆炎の妖魔』を足止めしましょう!」


 五奇の言葉に他の三人が時計を確認した。夜が明けるまであと二十分はある。


「ちょー!? けっこーしんどいんスけど……。いや、マジでやべぇ……!」


 等依のトーンがどんどん真剣なものに変わっていく。それほどまでに彼にかかっている負荷は大きいのだ。五奇は、どんどん破壊されていく氷の隙間めがけてブレードを放つ。感触で中にいる妖魔の身体のどこかに刺さったのだとわかった。


「これで……! 空飛君と鬼神さんは、妖魔が氷を破りきりそうになったら、一気に攻撃をしかけて! 当たらなくていい! とにかく足止めを!」


「ちっ! やりゃあいいんだろ! やりゃあよ!!」


 悪態を吐きながらも、鬼神がファインディングポーズを取った。続けて空飛も短刀を構えなおす。氷鶫が形成した氷の結界がどんどん溶け、破壊されていく。


「うっ……あ……」


 等依の祓力が限界を超えた。彼は倒れそうになり、それを火雀応鬼が現れて支えた。


(すみません、等依先輩……! あと、二分!)


 完全に破壊された瞬間に、言われた通りに鬼神と空飛が『爆炎の妖魔』に向かって攻撃した。鬼神はとにかく殴りかかり蹴りかかり、空飛はリズミカルに刃で斬りつけようとしていく。


「ちィ! おいおいおいィ! アイツを探してんだァ! 雑魚に用は……はっ! 夜明けか!?」


「そうだ! 悪いけど……倒されてくれ!」


 『爆炎の妖魔』が逃げようとするのを五奇がワイヤーブレードを放って巻きつけて阻止する。そうこうしている間に夜が明けた。


「ぬぁあああああ!! 日はダメだァ! 力が奪われる!」


 『爆炎の妖魔』の炎が天に向かってのびていき、妖魔の身体が蒸発し始めた。


「ど、どういうことだよ!? 妖魔って日に弱いとかねぇだろ!?」


 驚く鬼神に、空飛が静かな口調で答えた。


「おそらくでございますが、この妖魔の特性が、日光に弱かったということでございましょう。……いずれにせよ、終わりでございます。はい」


 妖魔の断末魔だけが、辺りに響き、最期は灰すら残らずに消えていった。


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