師の教え
「……おい、誰だコイツは?」
鬼神が威嚇するように言えば、ルッツは五奇以外の三人に向かって自己紹介を始めた。
「僕はルッツ、しがない退魔師さ。そして、五奇君の先生と言ったところかな? よろしく。鬼神乙女君に夜明空飛君に、蒼主院等依君」
「よっろ~っス。んで? 五奇ちゃんのおっししょーさんが、どーしたんスか?」
こんな時でも態度の変わらない等依に対し、ルッツは気にすることなく答える。
「さっき言った通り、ほんのアドバイスをしにさ。聞けば、任務が上手くいっていないようだね?」
「な、なぜご存じなのでございますか!? あ、いえ、トクタイのお方でしたら知っていてもおかしくないでございますね……失礼いたしました」
一人で完結して謝る空飛に、ルッツが穏やかに声をかける。
「まぁまぁ。確かに僕はトクタイの人間だけれどね? 『爆炎の妖魔』とやらの事を考えようじゃないか」
その言葉で、昨日のことを思い出した四人は沈黙してしまう。その様子を見かねてルッツがある提案をした。
「ふむ。君達は視野が狭くなっているようだね? では、先生からのアドバイスをば。いいかい? なにも力で勝たなくてもいいんだよ?」
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その頃。
『爆炎の妖魔』は纏った炎を揺らしながら、記念公園の中を闊歩していた。その目的はただ一つ。
「おいおいおいィ? どこにいるんだァ?」
昨日出会った赤髪の青年の無駄のない動き、攻撃力の高さを思い出し、妖魔は武者ぶるいする。
「なにもかもォパーフェクトだァ! 出て来いよォ!」
適当に暴れていればとも思ったが、戦うなら広くて目立つ所がいい。
そう思いこの場所を選んだのだが、現在、人の気配も妖魔の気配すらしない。
(あァ? けっこう色々ぶっ壊したはずなんだがなァ? なんでいないィ?)
疑問に思いながらも、『爆炎の妖魔』は手当たり次第に燃やしていく。
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「……『爆炎の妖魔』……。マジであのルッツとか言うヤツの言う通りにするのかよ?」
鬼神がそう訊けば、五奇が静かに答える。
「ルッツ先生は謎が多い人だけど、信用できると思う。それに、他に手も思いつかないしさ」
四人は今、等依の式神である火雀応鬼と氷鶫轟鬼にそれぞれ乗せてもらっている。その方が広い公園内を移動しやすいと判断したからだ。
「あひゃあ……それにしても凄まじい炎でございますね……。僕、と言いますか、黒曜はよく戦えたなぁなんて思います。はい」
「まぁまぁ、過去っスよ。かーこー!」
「よし、降りますか……。作戦通りに行きましょう」
五奇は少し声を張り上げながら三人に声をかけると、暴れまわっている妖魔の前へと降り立った。




