現実
「はっはっ! いいねェいいねェ!」
『爆炎の妖魔』は愉しげな様子で叫ぶ。
「本気も本気のォ! 限界を超えたパワーだァ!」
とてつもない出力の炎を全身に纏うと、妖魔は青年に向かって行く。そのスピードは凄まじく、五奇達は目で追うのが精一杯だった。
「なぁチャラ男……ホントにこのままでいいのかよ?」
鬼神が等依に訊けば、彼は未だ気を失ったままの空飛を支えながら答える。
「こーゆー時は、静観するにかぎるっスよ。どのみち、今のオレちゃん達にはどーしよ~もないっスからね!」
「それは、そうなんだけど……」
五奇は拳を握りしめ、悔しそうにしながら二人の戦いをただ見つめることしかできなかった。
「オラオラオラァ!!」
動きが速過ぎて、どんな動きをしているのかもはやわからない。ふと視線を横にズラせば、鬼神が唇を噛みしめていた。自分達の実力を嫌でも思い知らされた。そんな中、等依が小さく呟いた。
「……まぁ、これが現実っスよね……」
その声はとても冷めていて、いつもの等依とは別人のようだった。
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「これでェ! 終わりだァ!」
妖魔は大声を張り上げながら、青年に向かって炎の螺旋を放つ。
「……失せろ」
だが、青年はバタフライソードを交差させ、両方の刃に銀色の光を纏わせて炎の螺旋を斬りはらい、妖魔が動揺したその隙をついて青年が懐に入り込み、妖魔の腹を容赦なく斬り裂いた。
「いっつ! やるなァ……!」
胴体から血を吹き出しながら妖魔は空を見上げ、
「夜が明けるかァ……じゃあまたなァ!」
血を流したまま、炎を噴射して飛び上がり、あっという間にいずこかへと消えて行った。それを見つめながら、青年は舌打ちをして、バタフライソードをしまい、五奇達を気にすることもなく、その場を立ち去ろうする。
「ま、待ちやがれ!」
鬼神が声を絞り出してそう声をあげれば、青年はこちらへ視線をやり、一言、
「人間に用はない」
その声はどこまでも冷たくて、青年が本当に興味を持っていないことが嫌でも伝わって来た。どこからともなく現れたバイクに乗ると、今度こそ青年はどこかへと走り去って行った。
取り残された四人はしばし茫然とし、しばらくしてようやく五奇が口を開いた。
「……とりあえず、本部へ戻りましょう。空飛君をこのままにしておけないし」
「そうっスねー。オレちゃんも空飛ちゃん運ぶの手伝うっスから~」
やりとりこそいつもとかわらないが、二人の声はあきらかに沈み、鬼神に至っては覇気がない。全員が、打ちひしがれていた。




