夜にとけて
『爆炎の妖魔』が現れるのは夜十時を過ぎてからだという。その情報をもとに四人は行動を開始した。
妖魔を探し出すため、五奇と空飛、等依と鬼神の二手に別れることにした。
万が一戦闘になったら、人避けの術式が組まれた札を使う、無茶はしないというのを決めて、黒樹市内へ散っていった。
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「んで? チャラ男、俺様達はどこへ行けって?」
鬼神が等依に訊けば彼は簡易式神を出現させながら、
「んん~? とりま、人気のなっさそーな路地裏っスかねー? 騒ぎのせーか人っ子一人いないっしょ?」
そう言われてみれば、人の数がどんどん少なくなってきている。そこそこ都会な黒樹市では、こんなに人がいないのは珍しい。その事に気付いた鬼神は舌打ちをする。
「……それだけ被害が出てるってことかよ……」
(それを、俺様達がどうにか出来んのか?)
鬼神は、自分がまだ百戦獄鬼を制御出来ていないことが不安で仕方がない。ゆえに不安を誤魔化すように、彼女は悪態を吐く。
「はっ! いざとなりゃあ……暴れるだけだぜ」
「でっきーれば、それはやめてほしーっスね~」
簡易式神で周囲を警戒しながら、等依はそう茶化すように言い、
「うーにゃ? 路地裏わりとあるっしょ? どーっすかなー?」
「んなもん、総当たりすりゃいいだろうが! オラ、行くぞ!」
「ちょー! 鬼神ちゃん、先に行かないでほしーっスね!」
二人は路地裏の一つへと足を踏み入れた。
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その頃。
鬼神達とは反対側の地区に来た五奇と空飛は、周囲を警戒しながら町を歩く。
「それで五奇さん。輪音の反応はいかがでございましょうか?」
空飛にそう訊かれ、五奇は輪音に触れる。
「ここらへんに反応はないみたいだ。もう少し奥まで行ってみないと、かな?」
「そうでございますね。……不謹慎ながら、ホラーゲームのようで少し楽しいでございます。ふふふっ」
不穏な夜に似つかわしくない笑みを浮かべる空飛を見て五奇は思う。
(空飛君って、けっこういい度胸してるよなぁ)
「どうされました? 早く『爆炎の妖魔』を見つけましょう!」
楽しげな空飛に呆れながら捜索を開始した。
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気配を感じる。数は二匹。
なかなかの上物か? 男はほんの少しの期待と願望を胸に、寝転がっていた床から身体をゆっくりと起こす。
寝方が悪く、すっかり硬くなった身体をほぐすためストレッチをすると、両手の甲を合わせ、ギラついた瞳で、男は一人呟いた。
「愉しませてくれよなァ、刺激が足りねぇんだァ」
その声はどこまでも、放出している炎とは逆に冷めていた。




