鬼憑き
「五奇ちゃん、おっつ~」
等依に声をかけられ五奇が手を振ると、鬼神がいつも通りの態度で訊いてきた。
「おい、めぼしいのは見つかったかよ?」
「ごめん、見つからなかった。二人はどうでした?」
そう訊き返せば、等依が横に首を振り、鬼神が舌打ちをした。それが全てを物語っていた。二人も見つからなかったようだ。
(っていうか、鬼神さんはホントにさぁ……うん)
内心で不満を漏らしていると、遅れて空飛がやってきた。
「皆様、大変お待たせ致しました。”鬼憑き”についての情報でございますが、僕が探しましたところ、このファイルしか見つからず……」
そう言って、空飛が一冊の古びたファイルをテーブルに置く。
「なっ!? やるじゃねぇーか半妖!」
「ひゅ~! 空飛ちゃんてば、情報収集むいてーんじゃないスか? ナイッス~!」
「空飛君、凄いよ! 早速見てもいいかな?」
鬼神、等依、五奇がそう口々に言えば、空飛が照れ臭そうな顔をする。
「あばば、身に余る光栄でございます? そ、それよりも資料をご覧ください!」
誤魔化すように彼が資料を開けば、そこには『”鬼憑き”についての推察』と書かれていた。
「えーっと……」
『”鬼憑き”とは、鬼神と呼ばれる一族のみに発現する能力のことであり、妖魔の一種にして不可視の異形”鬼”と呼称する存在をその身に宿している者達の総称である。そして、共通するのは、”鬼”は宿主の精神と深層意識で繋がっており、また、それが縁となり、存在を維持しているものと考えられる。よって、この書においては、鬼憑きと鬼の精神下での繋がりを推察する』
五奇が冒頭を読み上げれば、鬼神が続きを促すかのように訊く。
「おい、必要なとこだけでいい。なんかねぇーのかよ?」
五奇は資料をめくり、めぼしそうな箇所を探していく。その間、等依が空飛に声をかけた。
「空飛ちゃんは中身読んでないん?」
「あ、はい。その、皆様とお読みした方がよろしいかと思いまして。はい」
空飛が答えた後、黙って資料を読み込む。しばらくして、五奇が資料をめくり終わった。
「うーん、結論から言うと……『鬼憑きの鬼は宿主の精神に依存する』らしいですね? それを鬼神さんに当てはめるとなると……」
「つまーり、鬼神ちゃんのメンタルをどーこーする感じっスかね?」
五奇の言葉に等依がそう言えば、鬼神が舌打ちをしたのが聞こえた。
「……出てくわ」
鬼神は資料室から一人で出て行ってしまった。その後を追うか考えた後、「一人にしよう」と結論づけた三人は、資料を戻してEチームの部屋、待機室へと戻ることにした。
(鬼神さんの精神になにかあるとしたら、それは俺達に解決できるものなんだろうか?)
五奇の脳裏にそんな思いがよぎる。なぜなら、"自分は嫌われているから"。自覚すればするほど落ち込みそうになる。
その様子に気づいたらしい等依が声をかけてきた。
「五奇ちゃん? どーしたんスか?」
「いや、なんでもないです! 早く戻りましょう!」
待機室に戻っても、鬼神の姿はなかった。心配だが、どうにもできない自分が五奇は憎かった。




