もう一人の鬼神
資料室付近に着いた五奇、等依、空飛、鬼神の四人が自動扉を開け、中に入ろうとした瞬間だった。後方から声がした。
「……乙女?」
全員で振り向けば、そこには長い金髪をツインテールにした、赤い瞳の鬼神と同い年くらいの少女がいた。五奇達と同様にトクタイの隊服を着ているが、スカートを履いており、胸に着けられたバッジには「Team.A」と書かれていた。
その少女は鬼神にだけ視線をやりながら、彼女に語りかけた。
「……久しぶり」
「……柩」
そう鬼神が返すと、それっきり二人は沈黙してしまう。
(えっ、なんなんだ……この、なんとも言えない空気は?)
五奇がそう思っていると、空飛が手をあげて口を開く。
「あの、お二方はお知り合いかなにかなのでございましょうか?」
鬼神が複雑そうな声色で答えた。
「……コイツは鬼神柩。いとこだ」
「……乙女。百鬼とはどう? うまくやれているの?」
その少女、柩が鬼神に訊けば、彼女は気まずそうな顔をする。
(百鬼? 百戦獄鬼のことか?)
五奇が疑問に思っていると、微妙な空気を見かねた等依が柩に向かって声をかけた。
「うーん。いとこちゃんてことは、”鬼憑き”だったりと~か?」
「……そういうアナタは蒼主院の人間のようだけれど?」
逆に訊き返されてしまった等依は頭を掻きながら、
「大せーかい! 等依っス! よっろ~」
まるでなにかを誤魔化すように答える彼に、さして興味もないのか柩は続ける。
「……そう。両我とは随分違うのね? まぁいいわ。それよりも、乙女。どうなの?」
なんとも言えない空気感に、五奇は圧されながら疑問に思った。
(なんだこの空気……っていうか、両我って誰だ……?)
とても口を挟める雰囲気ではないと感じ、黙って見守っていれば、黙っていた鬼神がゆっくりと口を開いた。
「……別に。いつもと変わんねーよ……。もういいだろ? 行くぞ」
柩に向かってそれだけ振り絞るように言うと、さっさと資料室に入って行った。それを見た三人は、柩の方を見れば、彼女はため息を吐いて、
「そう。あの様子だと、まだみたいね? まあいいわ。さよなら」
含んだ声でそれだけ言うと、去って行った。
「ありゃりゃー、行っちった~」
「一体なんだったのでございましょうか?」
「……さぁ?」
状況が飲み込めず、五奇、等依、空飛の三人はしばらく立ち尽くす。しばらくして、五奇が口を開いた。
「とりあえず、資料室に入りますか? 鬼神さんも待っているだろうし……」
頷きあった三人は、資料室へと今度こそ足を踏み入れた。




