知るということ
「目が覚めたようだな、鬼神乙女? 貴様は案の定暴走し、チームメイトに多大な迷惑をかけたのだぞ! はっきり言おう! あのままであれば、死人が出ていたとな!」
「……どういう、意味だ……?」
鬼神が訊けば、齋藤が冷たく言い放つ。
「貴様の鬼、百戦獄鬼の暴走により、蒼主院等依の鬼と夜明空飛の命が危うかったのだ!」
齋藤にそう指摘されて、鬼神の表情が強張るのが五奇達にもわかった。しばらく沈黙した後、ゆっくりと鬼神が口を開く。
「……どうすりゃ……いい?」
その声はいつになく弱々しいもので、五奇はなんと声をかけていいのかわからない。
(いや……そもそも、俺が声をかけたところで、何か変わるのか? ……嫌われているのに?)
そんな思いが頭をよぎれば、等依が口調とは裏腹な冷静な声で鬼神に訊く。
「鬼神ちゃんさー。ひょっとして、百戦獄鬼の制御が出来ない理由、知ってたーりするん?」
鬼神は怒鳴るでもなく、静かに首を横に振った。相当堪えているらしい。そんな彼女の様子を見て、五奇は思わず声を発していた。
「……知らないなら、知ればいいんじゃないかな?」
口を突いて出た言葉は、予想以上に周囲に響いたらしい。皆が目を丸くし、五奇に視線を向ける。
(えっ? あ、思わず言っちゃったけど……どうしよう?)
自分で言っておきながら困惑してしまう五奇に対し、鬼神が顔を伏せながら訊き返す。
「知るっつったって、どうしろってんだよ……? 実家の連中すらお手上げだったんだぞ?」
そう答える彼女に対し、今度は空飛が手をあげた。
「あの……思ったのでございますが、トクタイの資料室などで調べてみるというのはいかがでしょうか?」
彼の提案に等依が同意する。
「なっる~! いーんじゃね? オレちゃん、大賛成!」
明るく言う彼に感謝しつつ、五奇も深く頷いた。その様子を見て鬼神が複雑そうな顔をするが、どうやら受け入れることにしたらしくゆっくりと立ち上がった。
「……この借りは必ず返すからな!」
いつもの調子を幾分か取り戻した彼女に、三人は穏やかな表情を浮かべ、齋藤の運転でトクタイ本部へと戻ることにした。
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「そっれでー? どっから調べるんスかー?」
四人は、資料室で何をどう調べるのかをEチーム専用の部屋でひとまず話し合うことにした。
「つーか、チャラ男。てめぇは”鬼憑き”について、ガチでなんも知らねぇーのかよ?」
鬼神にそう訊かれた等依が、顎に右手を置いて答える。
「う~ん? 蒼主院となっが~い付き合いのある家系なのと、”生まれつき半身としての鬼を宿している一族”ってこっとーしか知らないっスねー」
あっさりと言う等依に、五奇、空飛、鬼神の三人が各々に叫ぶ。
「結構知ってるじゃないですか!?」
「等依さん、それは知らないとは言わないと思われます。はい」
「てめぇ……しらばっくれてんならしばくぞ!?」
そんな三人の反応に、等依が困惑したように返す。
「えぇー……うっそ~ん? オレちゃん、おちこぼれなんスけどー?」
彼の様子に、今度は三人が困惑する番だった。しばらくの沈黙の後、五奇が咳払いをし、促した。
「と、とりあえず……資料室に向かいましょうか?」
「そうでございますね、はい」
「チャラ男……ほかにもしらばっくれてたりしたら、殺すからな?」
「えー……」
そんなやりとりをしながら、四人は資料室へと向かった。




