訓練開始
「五奇ちゃーん? 輪音の探知の方、どーなんスか~?」
等依に訊かれ、五奇は輪音の方を見る。輪音の鈴の音は、持ち主である五奇にしか聴こえないのだ。
「鈴は鳴ってないです! でも、振動はしていますからこっちの方角かと!」
五奇がさし示したのは、敷地内の南方にある古びた病院のような建物だった。
「にゃるほどー! とりま、こーっちでいーってことっスね!」
「とりまってなんだよ! ちゃんとやれや!!」
二人のやりとりに鬼神が突っ込みを入れれば、三人は苦笑いを浮かべるしかなかった。
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「……ここ、でございましょうか?」
空飛の言葉に五奇は頷くと、
「うん、輪音の鈴が振動し始めてるんで。ここのどこかに妖魔がいます。みんな、準備はいいですか?」
「おーけーっスよ!」
「大丈夫でございます、はい」
「いいからさっさと行けや!」
準備が整っていることを確認した五奇は、慎重に廃病院の扉を開ける。ひび割れたガラスが恐怖を煽ってきて、不気味だ。
「お、おい! 横取り野郎、ゆっくり慎重に行けよなぁ……」
(あ、こういうの苦手なんだ……)
鬼神の反応に、五奇はそう思いながら進んで行く。受付を抜け、奥にある階段へと向かっていった。
「なんだかホラーゲームのようでございますね? 僕、けっこう嗜むものですから……」
珍しく楽しげな空飛に、横にいた等依が一言、
「……空飛ちゃんてば、ナイスキャラっスねー」
彼なりのフォローだろう言葉に、空飛が戸惑いながら訊く。
「は、はぁ……左様でございますか?」
そんなやりとりをしていると階段前までたどり着いた。
「輪音の鈴が! おそらく下の階にいます!」
そうして階段を見つめれば、ところどころが崩れていてボロボロだった。意を決して、鬼神が言う。
「おら! さっさと行って終わらせんぞ!」
四人は慎重に階段を下りていく。
「大きく鈴が鳴りました!」
輪音の鈴の音の大きさで、妖魔の大体の強さまでもがわかるのだ。この音の感じだと、中の下くらいの強さだろう。そう五奇が思っていると、等依が口を開いた。
「つくづく便利っスよね~! オレちゃん、そーゆーの持ってないかーら、うらやまっス!」
意外な言葉に五奇は思わず否定する。
「いやいや、等依先輩の式神も便利じゃないですか!」
「んん? オレちゃんはそれしか取り柄ないっスからねー?」
どこか自虐を含んだ声色に、五奇は深く追求することをやめた。
「着きました。ここだと思います」
五奇の言葉を合図に、全員が戦闘体勢に入った。五奇と空飛が武器を構え、等依が火雀応鬼と氷鶫轟鬼を呼び出し、鬼神がファイティングポーズを取る。五奇がカウントを三から数え、一の合図で扉を勢いよく開けた。
「ぐぉおおおおおおおお!!」
瞬間、妖魔の咆哮が響き渡る。それ圧されそうになりながら五奇は攻撃を仕掛けた。
「行きますよ! 参弥セット! ゴー!」
ブレード部分を妖魔に向けて射出すると、妖魔は避けようともせずに攻撃を受けた。予想以上に頑丈だったらしく、ブレードは当たったものの、地面に落ちてしまった。それを見て、等依が自身の鬼達に指示を出した。
「火雀、氷鶫、レッツらよっろ~!」
二対の鬼達が向かって行くと、ようやく妖魔が動き出した。足元に落ちていた参弥のブレードを拾い、ワイヤーをつかむと強く引っ張った。
「うぉ!? うわぁああ!?」
引っ張られた勢いで、五奇は壁に打ち付けらそうになる。
「五奇ちゃん!」
それを氷鶫が身をていして受け止め、助けてくれた。
「あ、りがとう……?」
五奇がお礼を言えば、氷鶫が右の親指を上げた。そして、抱きかかえていた五奇を優しく地面に降ろした。あらためて感謝を伝えると、五奇は状況を確認する。空飛が二対の短刀で妖魔に斬りかかり、鬼神が蹴りを入れる。そこへ火雀の拳が飛んでいた。
「俺も負けてられない! 輪音セット! 金の退魔術式! 壱銘、斬葬!」
五奇が技を放ち、一直線の攻撃が妖魔の腹に当たった。
「やったか?」
五奇がそう言ってから、四人と二体の鬼達は妖魔から距離を取り、様子を見た。
「ぐがががががが!!」
怒り狂った妖魔の身体が、巨大化して行った。