汀様の加護
汀を含めた五人と一柱は、車へと乗り込んだ。今回、運転は齋藤だ。
(神様もシートベルトするんだな……)
慣れた様子で座席に座る汀を見ていたら、自然と目が合う。
「何かの? 五奇殿?」
「あ、いえ! なんでもありません! 失礼しました!」
見た目少年の神様だが、その威厳ある姿に気圧されて思わず謝ってしまった。だが汀は気にしていないらしく、
「そうかの? なら良いのじゃが」
首を傾げる彼にもう一度頭を下げると、五奇も車に乗り込んだ。
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車を降りて辺りを見渡すと、木々に囲まれたなにかの施設のようだった。
「おっひょー? こっこはー?」
等依が訊くと、齋藤が答えた。
「トクタイが所有している土地だ。ここでこれから訓練を行う」
「なるほどでございますが……ターゲットはどうなるのでございましょう?」
今度は空飛が訊く。彼はこういうところは敏感らしい。
「ターゲットは、入隊試験の時同様、雑魚の妖魔どもだ。と言っても、ここにいるのは全て"人造妖魔"なのだがな……」
"人造妖魔"という聞きなれない単語に、五奇が首を傾げる。どうやら他の三人も知らないらしく、同じく首を傾げていた。
「"人造妖魔"については、いつか教えてやる。今は訓練に集中しろ!」
そう言われてしまうと、誰も何も言えなくなってしまう。少しの間の後、齋藤が再び口を開いた。
「では、訓練内容を説明する! 今回のターゲットはこの敷地内のどこかにいる、大型の牛の獣人型の妖魔だ! それを貴様ら四人と汀様の加護で倒せ! 良いな! では、訓練開始!」
合図と同時に、汀の身体が淡く光輝き出した。
「汝らに我が加護を」
汀のいつもと違う口調と雰囲気に、思わず圧倒されていると、自分達の身体もその光に包まれ、変化が起こったのがわかった。
「身体に力がみなぎってくる?」
五奇がそうつぶやくと汀が教えてくれた。
「わしの加護は"身体強化"なのじゃよ。ゆえに、皆の身体能力が上がっておるはずじゃぞ?」
「なるほどでございます。感謝いたします、汀様」
空飛がそう言うと、今まで黙っていた鬼神が珍しく、少しだけ弱気な声で訊いた。
「なぁ……この強化ってのは、"鬼憑き"にはどう作用すんだ?」
そう言われてようやく五奇は気づく。
(あっ、そう言えば"鬼憑き"ってなんなのか聞いてないぞ!?)
しかし話は進んでしまった。
「貴様の場合、"鬼にも加護が作用する"だろうな」
齋藤の答えに、鬼神は「そうかよ」とだけ言うと黙ってしまった。
(何か問題でもあるのか?)
そう疑問に思っていると、空飛も同じだったようで、
「あの……失礼ながら、何か問題でもあるのでございましょうか?」
と勇気を出して訊けば鬼神が怒鳴りながら答えた。
「俺様は鬼の力を制御出来てねぇっつうのは知ってんだろうが! だったら察しろや!」
彼女の様子にあっけにとられていると、見かねた等依が口を挟む。
「あー……よーするに、鬼神ちゃんの鬼ちゃんが動き出したら、暴走する率高くなるっつーことっしょ? "鬼憑き"って暴走すると手ーつけられなくなるって聞くっスからね~」
(あっさり言ったけど、それはかなりの大事なのでは? だってそれって!)
「それは……つまり暴走されますと、抑えるのは僕達になるということ……なのではございませんか?」
「あぁ? そうだっつってんだろ! 悪かったな! クソが!!」
空飛の突っ込みに、鬼神が大声で吐き捨てた。それを見て五奇は、
(一応……気にはしてるんだよな?)
内心で思っていると、齋藤が冷静に指摘する。
「貴様ら、訓練はすでに開始しているぞ? さっさと行かんか!」
どやされた四人は、妖魔を倒すべく動き出した。