それぞれの個性と
共同生活と訓練を開始してから二週間が経った。
その間にも、互いのことが少しづつわかってきた。
まず、鬼神は粗暴な言動や態度からは裏腹に神経質だ。ゴミ出しも風呂掃除にトイレ掃除まで、ものすごく気にする。五奇も何度怒られたかわからない。
次に等依は、あのチャラさからは想像できないほど面倒見がいい。周りをよく見ていて、何かあれば率先して行動してくれる。
ある意味ギャップが一番激しかったのが空飛だ。あの丁寧すぎる口調と礼儀正しさからはうかがい知れないほどに、いつも寝坊ギリギリだし、ズボラだったのだ。だから、
「おい! 半妖! てめぇ、ゴミはちゃんと分けろって言ってんだろうが!!」
今日も、朝一で鬼神の怒鳴り声が聞こえてきた。
(また空飛君が怒られてるのか。確かにズボラだけどさぁ、鬼神さんも神経質すぎんだよなぁ)
歯を磨きながら、そんなことを考える。もはや朝の光景だった。歯を磨き終えた五奇がリビングに入ると、不機嫌そうな鬼神と目が合った。
「ちっ! んだよ?」
「……いや、なんも?」
微妙な空気が二人の間に流れたタイミングで、空飛が二階から降りてきた。
「おはようございます。あの、鬼神さん僕を呼ばれましたか?」
「あぁ!? てめぇが出したゴミがまた分別できてねぇんだよ! 何度言やあわかんだ!? トリアタマか!」
そう怒鳴られ、空飛が頭を下げる。
「も、申し訳ございません! つい……!」
「つい……じゃねぇんだよ! ちっ! クソが!」
苛立ちを隠しもせずに、鬼神は空飛にゴミを分別させる。そんな二人を見て「どうしたものか」と五奇は思案した。
(鬼神さんの主張は真っ当だけど、言い方がひど過ぎるんだよな。もっと言いようがあるだろうに……。だけど、俺が注意すると火に油を注ぐようなものだしなぁ)
五奇も何度か言い方を注意してみたのだが、その度に「うるせぇ! ならちゃんとやれや!」と怒らせてしまい、いつも平行線なのだ。
そうなるともうお手上げだ。どうすることもできず、ただ鬼神の機嫌が直るのを待つだけとなる。
(正直、他人の機嫌を見ないといけないのって、けっこうしんどいんだけど?)
内心でそう愚痴りながら、五奇は冷蔵庫から昨日買ったサンドウィッチを取り出してテーブルに移動した。椅子に座って横目で見れば、分別が終わったらしい空飛がゴミ出しに行かされているところだった。
元々は当番制にしようという話だったのだが、鬼神の口うるささと空飛のズボラっぷりから、管理が彼女に一任された。
「……いただきます」
誰にともなくそう言うと、サンドウィッチを口に運ぶ。具材はハムにキャベツだ。それに満足しながら食事を摂っていると、等依がゆっくりとリビングに入ってきた。
「おっは~。ふあーよく寝たっスー」
「等依先輩、おはようございます」
挨拶を交わすと、等依も朝食の準備を始める。全員の食事の好みが違うため各自で用意している。ちなみに、等依の今日の朝食はピザトーストだった。
(朝からよく食べれるよな……)
五奇は妙な関心をしながら、食事を終えて身支度を整える。そうしているうちに他の三人も合流して、そろって家を出た。
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「おはよう。今日も時間に間に合ったようでなによりだ。さて、早速だが本題に入る。本日より祓神であられる汀様の加護を受けた状態での戦闘訓練を行うこととする!」
齋藤からそう言われ、四人に気合が入る。いよいよ実戦に近い訓練だからだ。
「いい目だ! では、心してかかるように! 着いてこい! 汀様、よろしくお願いします!」
気づけば、汀の部屋へと続く扉が開いており、朗らかな笑みを浮かべた汀が入室してきた。いつも通りの優しい声色で四人に向かって声をかけた。
「皆の者よ、よろしくじゃぞ?」