成敗
一週間後。
市長邸前にて。
「計画は失敗でしたね。市長」
百合芽に指摘され、信護は渋い顔をする。
「なに、妖魔王は不滅じゃないし、またやればいいだけだ」
そう彼が答えた瞬間だった。
「貴方が藤波家を支援していたんですね。そして、俺から全てを奪ったのも」
振り返ればそこには、少年がいた。
「お久しぶりです市長さん。俺のこと、覚えてないですよね? 五十土五奇です」
静かなトーンの五奇に、信護は穏やかな笑みで答える。
「覚えているとも。命の恩人だからね? それで、その。どういう意味かな?」
「全てわかっているんです。貴方が……妖魔王のエネルギーを利用して、町を支配しようとしていたことも。そのためにたくさんの犠牲が出て、それを父に告発されるのを恐れて一すずめを手引きしたことも。そして……あの時倒れていたのは、藤波家の秘術を自身に使おうとして失敗したことも。全部、ね?」
五奇の言葉に、信護の頬が引きつるのがわかった。
「……若いのに、もったいないねぇ。悪いけど、黒武君。……黒武君?」
秘書を呼ぶ反応がない。どうしたものかと見てみれば、彼女は拘束具で拘束されていた。
「なっ!?」
驚く信護に、五奇が静かに告げる。
「終わりだよ。お前」
そう言って五奇は、信護の顔に一発強烈な拳を喰らわせると彼は気絶し、処理班が確保した。その横でルッツが静かに佇んでいた。
「……よかったのかい? これで」
「はい。ルッツ先生こそ、自分の手柄渡して良かったんですか?」
実はルッツは内偵を行っていたのだ。先程五奇が話した情報も、ほとんどがルッツの調べによるものだ。だが、彼はその手柄を五奇へと譲った。なお、鬼神が入手した悪魔の欠片がその媒体の核だったのだという。
「僕は御覧の通り、ただのしがない退魔師でね? それも手負いの、ね? だからこそ、前線は若いものに任せるさ。それより……」
そこで言葉を区切ると、ルッツがにこやかに笑いながらからかうように言う。
「乙女君とは順調かい? まさか君達がくっつくとは予想外だったよ?」
「あはは。俺もですよ……。まさか……」
思い返すのは藤波家との決着が着いた後、病院でのこと。夜中に待合室に呼び出された五奇はそこで、鬼神に告白されたのだ。
『借りは返す……とは言ったが、でかすぎて返せねぇ。だから……一生かけさせろ』
普段の彼女からは想像もできない重たい告白に、五奇は困惑したが鬼気迫る彼女の圧に負けて付き合うことになったのだ。
「ま、まぁ。段々慣れてきましたし……それに……」
「それに?」
五奇は頬を赤らめながら答えた。
「案外、悪くないかなって……思います」
それを聞いてルッツは優しく微笑むと、五奇に声をかけた。
「おっと、そろそろ……両我君の葬儀の時間だ。いいね?」
「……はい」
二人は並んで会場まで歩きだした。