爽快と
壱右衛門の動きがどんどん素早くなっていく。それに合わせて纏っている霧も濃くなっているようだった。
「総員! 急げ! わからんが、危険だぞ!」
齋藤の声で危機感がより一層こみ上げてくる。
(どうする!? どうすれ、ば……!)
焦る五奇の横を白い布がなびき駆け抜けて行った。その勢いは凄まじく、壱右衛門に一気に接近すると鬼達を呼び出して彼の動きを封じた。
金色の鬼と銀色の鬼、金龍応鬼と銀虎轟鬼だ。それは、皆がよく知る人物だ。
「やぁご老人。僕にもそろそろ活躍の場を、ね?」
「ルッツ先生!」
五奇が声を上げれば、彼はにこやかに微笑みながら壱右衛門と対峙する。
「これ以上、好きにはさせないよ?」
だが、壱右衛門は不敵に笑うと静かに口を開いた。
「準備は十全よ。さぁ、鬼の贄となるがいい!!」
壱右衛門の姿が見て行くうちに融解していく。そして、上半身だけではあるが二十メートルは超えるだろう、巨大な一本角の真っ黒な肌の鬼が現れた。
「で、でかすぎんだろ……!!」
鬼神が思わず声を上げる。その声は震えており、足もすくんでいるのがわかる。その場の全員が凍り付く中、五奇が意を決して動き出した。
参弥と輪音を変形させたままで。
「いっけぇぇぇ! 参弥セット、ゴー!」
勢いよく射出されたブレードは、その超巨大鬼にとっては痛くもかゆくもなさそうだった。
「くっそ!」
「五奇ちゃん、無理っスよ! ここは一端……!?」
五奇を止めようとする等依の肩を、ルッツが軽く叩き、唱えた。
「我が身は人にして非ず、我、神の一端を担う者。神よ、今こそ呼び降ろさん。スサノオノミコト!」
ルッツが呼び出したのは、日本神話でもっとも有名な武神の名を持つ再現体だった。
「……アンタ、何者だ。その技は神禊家の者にしか扱えない」
輝也が訊けば、彼はあっさりと答えた。
「簡単な話さ。母が神禊、父が蒼主院。その生まれにより、ありがたくも恵まれたのが僕、蒼主院輝理……ってわけさ。さぁみんな! ここからが正念場だよ!」
ルッツの言葉に齋藤が反応する。
「貴様! 遅れてきておいて! はぁ……動けん者もいるから私はそちらの措置を行う! 後は任せたぞ!」
そう告げると、齋藤は麗奈達の元へと向かって行く。どうみても麗奈が戦える状態じゃないからだ。
「そうねぇ……。じゃあ音操癒々鬼でみんなに癒しを与えるからぁ。頼んだわよぉ?」
由毬はいつもの調子だが、その目つきは真剣そのもので。
「姉貴頼んだからな!? 柩、連携で行くぞ!」
「……えぇ!」
鬼神が柩に声をかける。二人は鬼達に祓力を更に送る。等依も合身一体を再度行い、加わった。
「……援護に回る。夜明は……黒曜か」
「あぁ。儂も援護に回ろうぞ」
空飛は黒曜へと変化し、彼とともに援護に回ると宣言したのを見て、五奇が灰児と視線を交わせる。
「やれるな? 五十土!」
「もちろん!」
総力戦が……始まった。