ひとまず
「火の術式! 伍銘! 舞砲列火!」
「影の術式、壱銘、影縫!」
灰児と琴依が同時に技を放つ。避ける壱右衛門を追うように、等依、鬼神、柩の鬼達が猛攻をしかけ、輝也がアメノミナカヌシで援護をし、空飛は黒曜へと変化していた。その間五奇はすずめと対峙していた。
すずめがこのスキを突いて動き出したからだ。妖魔王の息子となれば、壱右衛門と裏でなにをしているとも限らない。
完全な現場判断だが、五奇はそれよりも気がかりなことがあった。
(気のせいか? なんか、さっきよりコイツの力が増してる気がするぞ!?)
すずめからの攻撃を避けながら、五奇がそんなことを考えていた時、麗奈がふと視界に入った。彼女は美珠と雅姫に支えられていた。
(どうしたんだ? 両我さんもいないし……)
「おやぁ? よそ見なんて余裕じゃーん?」
蹴りを仕掛けてくるすずめから距離を取ると、五奇は参弥を構え直す。
「答えろ! なんであの日、俺の家に立ち入った!」
今まで思っていた疑問をぶつけてみる。そんな五奇に対し、すずめは愉しげに口元を歪ませた。
「なんでだっけ~? あっれ~? 誰かさんのせいだったよ・う・な♪」
どこまでもはぐらかす彼に、五奇はどうすべきか悩み……決意した。
(やってみるか……!)
五奇は輪音と参弥を同時に構え、唱える。
「金の術式、解放!」
五奇の二対の武器が変形していく。大きく、よりメカメカしくなっていく。
「伍銘、封魔刃・零!」
その勢いのまま、五奇は技を繰り出した。今までにない速度で射出されたワイヤーは湾曲して避けるすずめを自動で追尾し捕らえ、輪音の技が命中しすずめの腹部に突き刺さる。
「がはっ!?」
吐血する彼に、五奇は静かに呟いた。
「答えろ。あの日、なぜ……俺の家にいた? いや答えさせる!」
五奇は輪音で突き刺したまま、更なる技を放った。
「封呪文改変解放! 水の術式! 弐銘、暗雲の夢!」
これは、かつてルッツが五奇に使用した技で幻覚系の一種だ。思考が誘導されやすくなるのだ。
「答えろ。あの日、お前が五十土家にいた理由はなんだ?」
出血のせいもあるだろう。思考がまとまらないのか、予想以上にあっさりと彼は答えた。
「……だ、よ……」
それを聞いた五奇の目は大きく見開かれた。それを見てすずめが邪気しかない笑みを浮かべるとそのまま力を封じられ、意識を失った。
力なく倒れる彼を受け止めると、五奇は素早く拘束具で拘束する。動けず、転移もできないことを確認してから、仲間達の元へと合流すべく走り出した。
見れば、今まさに攻防戦の真っ最中だった。慌てて加われば、壱右衛門はなんと計十人の攻撃から逃れていた。
「な、なんなんだ!? この人は!? いや、人……なのか……?」
五奇の疑問に答えられる者は誰もいなかった。