顕現せしは
「な、なに!?」
驚きの声をすずめが上げる。
琴依の術式、火の退魔術式からの派生系である影の術式、影縫。文字通り相手の動きを封じるこの技は、影が濃ければ濃いほどその性能は増す。
輝也のホスセリによる炎の壁の効果により、すずめの動きはより強固に封じられた。
「くっそ! 人間の! 分際で! 妖魔王の息子にかなうとでも!?」
とてつもない暴露に、一瞬固まる五奇達を見てニヤリと笑みを浮かべるとすずめは、挑発するような声色を出す。
「あっれ~? もしかして、当世の妖魔王に息子がいるなんて思わなかった~? ウケる♪」
「お前が、妖魔王の息子だって? そんなやつがなんで……」
やらしい笑いを浮かべると、すずめは愉しそうに続ける。
「知りたかったら~パパに訊いてみたら? さぁ、紹介してあげるよ! 当世の妖魔王"始まりは嘆きから"!」
その声に答えるように、亜空間に亀裂が入る。そして、バラバラだった空間が歪な形で再結合されていく。
「うわぁあああ!?」
足場が揺らいだかと思ったら突如安定し出した。不思議に思っていると、輝也がホスセリからアメノミナカヌシに再現体を切り替えて足場を安定させてくれたらしかった。
「神禊君、ありがとう! 琴依さんも大丈夫ですか!?」
二人に声をかければ、輝也は頷き、琴依が答える。
「だいじょーぶ! 五奇ちゃんの仇は逃がさないから!」
そんなやり取りをしているとみんなが集まってきた。……両我を除いて。
「皆、いるか? 私と由毬、和沙はいるが……おい蒼主院両我はどうした!」
齋藤の言葉に等依が答えようとした瞬間だった。
〔五月蠅い〕
野太く、それでいて威圧する声が響いてきた。声がした方に全員が視線をやればそこには、禍々しい尻尾に異形の足を生やした黒髪の男がいた。黒いオーラを身に纏った彼は静かに告げた。
〔蒼主院か。久しいな〕
ゆったりと話す男に向かってすずめが声を上げる。
「パパ!」
父の助けを期待するすずめの姿に、五奇の胸に何かが刺さる。だが、妖魔王は静かに、告げる。
〔お前か。……好きにしろ。余は眠い。退屈だ。暇つぶしさえできれば……なんでもいい〕
ただ鎮座するだけの男は、それだけ言って欠伸をする。戦う気は微塵もなさそうだった。
(コイツが妖魔王! なんてオーラだ!)
動揺する五奇達の前で、あの翁が現れた。
「妖魔王よ、その退屈この藤波に任せるが良い」
壱右衛門は静かに妖魔王に語りかけると、ゆったりとした動作で五奇達の前に出る。
「さぁ見てるがいい! これが! 藤波の集大成! 最強の鬼よ! 出でるがいい!」
壱右衛門が手をかざし、自身の身体に黒い霧を纏わせる。それは佐乃助達の時と同様で。
「まさか降ろす気かよ!? おい、やべぇぞ!」
鬼神が叫ぶ。その声色で察した全員が、動いた。