時は満ちた
「弐銘、覇斬牙!」
飛ぶ斬撃を放ちながら、五奇はなおも距離を取っては攻撃をかわす、すずめと対峙していた。
(なんて素早いんだ! まるで読まれて……まさか、攻撃を読んでいるのか!?)
その事に思い至った五奇は、一旦攻撃を緩めながら考える。
(どうしたらいい? ……父さん!)
一方。スカーレットと対峙する琴依と輝也もまた、苦戦していた。彼女もまた素早く、そしてなにより力を奪われるのが辛い。
「うっひゃーこれはキツイねぇ~! 輝也ちゃんだいじょぶ~?」
尋ねる琴依に輝也が短く答える。
「……あぁ。だが、これではじり貧だ」
二人とも遠距離向きな上、どちらもメインは使い魔である神の再現体と式神だ。琴依は退魔術式を扱えるが、今この場においては使うのは早計だと判断していた。
そして、五奇とすずめもまた相性が悪いのは明白だった。そんな状況の最中だった。一陣の……風が吹いた。
「なんだこの風は?」
その風と気配に五奇は覚えがあった。思わず名前を呼ぶ。
「李殺道!? どうして……いや、どうやってここに!?」
彼、李殺道は静かに武器を構えスカーレットに向かって行く。
「俺の獲物だ。その女は」
輝也と琴依にそれだけ告げると、彼はスカーレットのみを狙い攻撃して行く。突然の乱入に困惑する琴依に輝也が声をかける。
「……五十土の援護に行くぞ」
「えっ……あ、そーだね!」
二人はとりあえず彼にその場を任せることにした。なぜならこの場において、彼は保護対象であり攻撃目標ではないからだ。
スカーレットと李殺道。同じ赤い色の髪と瞳をした二人が……向かい合う。
****
しばらくして。
「あーもう! うざったいなぁ!」
すずめがようやく苛立ちを見せ始めた。三人を相手にするのは、いくら攻撃が読めても苦戦するようだった。
「武流丸! 五奇ちゃんの攻撃に合わせてねー!」
琴依の言葉通りに武流丸が動く。そこへ輝也からも援護が入る。
「ホスセリ。炎の壁、発動」
すずめの周りに炎の障壁が作られ邪魔をする。
「ああ! うざいうざいうざい! マジで怒った! お前ら……全員パパの贄にしてやるから!」
そう叫ぶとすずめが振り子を振って周囲を振動させる。
(そういえば……なんでコイツ、精神攻撃をしてこないんだ? まさか! 対象は一人?)
思えば、精神攻撃をしてくるとき、決まって彼は対象を絞っていた。その事に気づいた五奇は、輝也と琴依に声をかける。
「すみません! 思い切り援護頼みます! 琴依さん! 退魔術式を!」
「りょーかいちゃん! まっかせて~!」
琴依は振動する中で床に手を置き、術式を発動させる。
「影の術式、壱銘、影縫!」