牙王・售月
「そういえば、アナタ、ゲームが好きらしいわね? 乙女から聞いたわ」
何気なく訊いてくる柩に、空飛も素直に答える。
「はい! 特にホラーゲームが好みのものでございまして! それでよく鬼神……乙女さんに怒られております。はい……」
そんな二人のやり取りを聞きながら、雅姫がゆっくりと薙刀を構えた。その様子で察した二人も警戒する。
「何者?」
雅姫が訊けば、それはゆったりとした動作で低級妖魔達と戯れていた、派手な着物を纏った存在がこちらへ視線をやった。
「ほう? この售月を前にかような態度を取るか。人間に鬼憑きに……半妖よ」
「そういう貴方も半妖でございましょう? 牙王・售月とやら。目的はなんなのでございましょうか!」
いつになく鋭い視線をやる空飛に、售月はつまらなそうに告げる。
「半妖は半妖でも転生体はいらぬ。欲するは……人間と妖魔との交わりにより生まれし半妖よ」
会話をする気がないことを理解した三人は、それぞれ戦闘体勢に入る。空飛は二対の短刀を構え、柩は無偶羅将鬼を呼び出し、雅姫は薙刀・涙を構え、それぞれ仕掛けた。
「黒曜抜刀術! 双十字斬!」
最初にしかけたのは空飛だ。飛び上がりながら斬撃を放つ。だが、售月が使役する低級妖魔達の数に圧され刃が届かない。
「なら、これならどう? 将鬼!」
無偶羅将鬼が勢いよく拳を振り上げ、低級妖魔達を破壊していく。その合間を縫って雅姫が薙刀を振り下ろす。
「火の術式、伍銘、舞砲列火」
炎の弾撃を放つ雅姫。だが、その攻撃は謎の障壁に阻まれた。
「つまらんのう。これでよく退魔などと抜かしておる。はぁ、素体にもならぬし……死ね」
售月は立ち上がると、指を鳴らす。それに呼応したように現れたのは……。
「なっ!? 人造妖魔でございますか!?」
人の手により人為的に作られる妖魔。それもまるで合成獣のようなおぞましい姿で現れて、空飛は思わず絶句した。
(トクタイの人造妖魔とは違う。あれは無機物だけれど、これは……)
柩もその事に気づいたらしい。眉をしかめて、不快そうに口を開いた。
「これ、くっつけたの? 人も、妖魔も、何もかもを」
その声色は冷たい。だが、售月は臆するどころか楽しげに、告げる。
「だと言ったら? この售月の最高傑作の一つよ。さぁ……嚙み殺せ」
三つの口が生えた尻尾が三人を襲う。どうやら伸縮するらしく、自由自在に動いてこちらを追ってくる。
「くっ! こんなこと、赦してたまるものでございますか!」
空飛が黒曜へと姿を変える。人造妖魔の攻撃をかわしながら售月に向かって叫ぶ。
「貴様みたいな半妖など、認めるわけにはいかぬ! 終わらせるぞ!」