06:一網打尽作戦
序
盗賊襲撃から一夜明けて翌早朝。
東の空が薄っすら色づいてきたころ、背の高い岩が乱立する岩場ではまだまだ宵闇が支配していた。
その闇に紛れるように、巨岩群に隠れるようにして一台の大型積載車コーボゥが停まっていた。
そこに近づく影一つ。マントのフードで顔を隠し、肩に下げるは連射電気銃。
あたりを警戒しつつ慣れた手つきで電子施錠を解除。車内へと侵入を果たす。そこは居住区であった。
「モーカリィ社の積載車なら、ベッドルームは……こっちか」
フードを取った侵入者は、頭の中で販売会社のパンフレットに書かれていた見取り図を思い浮かべながら車内を移動し、目的のベッドルームへと足を踏み入れる。先ほどまでの慎重な足取りではなく、実に堂々とした歩みでベッドで寝入っている2人の住人へと近づいていき――
「起きろポンコツども!!」
大声でたたき起こしたのだった。
「誰だ!?」
「な、何だぁ!?」
跳ね起きる男2人。この車の持ち主、エドワード・ガイルとキミ・ユウ・チャオである。彼らは突然の侵入者に驚くも枕元に隠していた小電気銃を取り出したところで、エドワード――エディは相手の顔を確認して驚いた。
「また会ったね、色男さん?」
「ファンナノネ・ヤム。君か」
侵入者の正体は昨日の盗賊団『カーマセ一家』の一味、ファンナノネ・ヤムだった。
◇
それから少しして。場所をコーボゥのリビングダイニングへと移して、俺たち3人は朝食をとっていた。
「全く、あんた達の無防備ったらないね。こっちがマジもんの盗賊だったら今頃お陀仏だよ」
「うるせーっ、ってかお前――ヤムだったか。どうやって入ったんだよ。寝る前にしっかり施錠したはずだぞ?」
ヤムの小言にチャオが反発しつつ、こっちに向かって「なあ?」と確認してるので、パンを飲み込みつつ頷いた。
「ハッ、馬鹿ね。販売会社と車種さえわかれば電子錠の解き方なんてね、盗賊ご用達のアングラサイトですぐに手に入るのよ」
その言葉に、そんなサイトがあるのかと、俺とチャオは驚いた。……まあ、俺はアニメ知識で知ってたけど。もっと言えば今日ヤムが侵入してくるのも知ってたし、これから彼女が言わんとすることや、これからの身の振り方を語るのも知ってるんだけどさ。
「あんたら、電子錠ついてたヤツのまま使ってるでしょ。メーカーは解読不可なんて謳ってるけどさ、これを機に別のメーカーのに変えなよ」
他社の製品が混じってるだけで解析されるリスクが減るんだとか。理由はどの会社も解析防止のために外装を統一しているかららしい。企業努力ってやつだな。
まあ、そんなヤムのありがたい忠告を頂いて、今度電子錠を買い換える決心をしつつ、ヤムにここにきた理由を訊ねる。
「カーマセ姐さんが各地に散らばっている一家を集めて、3日後に襲いに来るよ」
「何だとぅ!?」
チャオが食べていたサラダを吹き出しながら対面に座るヤムへと身を乗り出すも、「汚い! 座れ!」とフォークで額を刺されてのたうち回っていた。ナカイーナー
「おい、エディ。盗賊女の言うことなんて信じるこたぁねーぞ。どうせ罠だ!」
「あたしゃそんな安っぽいことはしないよ!」
「昨日は俺を嵌めたじゃねえか!」
「アンタは別にいいんだよ! あたしが言ってるのはエディによ!」
「なんで俺はいいんだよ!? この貧乳女ぁ!」
「Bはあるわい!」
そんな2人のギャーギャーとした罵り合いを横目に、俺はふむりと考え込む。Bか……違う、考えるのはそこじゃない。
チャオは疑っているけど、ヤムの言っていることは本当だということを、俺はアニメで知っている。
アニメだと今は2話のAパートの初めといったところだ。これから3話分を使ってカーマセ一家との度重なる戦いが始まる。
その最中に、盗賊の一味に紛れて武器の売買を行っていた、重鋼騎士レガートの裏ボス、アカンヤロ・アカンダロの手下を殺めてしまう。そんな彼が、息を引き取る前に残した言葉を頼りにアカン商会へと近づいてゆき、物語は加速していくという重要なイベントがあるんだけど……その肝心なアカンヤロ・アカンダロがこの世界にいないっぽいし、アカン商会もないんだよなあ。
ということは、アカンヤロ・アカンダロの手下も存在しない。
つまり、カーマセ一家との戦いは、盗賊退治以上の要素はないわけで。……う~ん。別にこの戦いの最中に新キャラが出てくるわけでもないし、とっとと終わらせるのが吉か? 確か度重なる戦闘でけっこうレガートやられてたよな。メジャー級H・Rの主人公機がダメージを負うくらいなんだから、いくら俺のザコイアがカスタマイズされているとはいえ、所詮はマイナー級H・Rでしかない。きっとレガート以上のダメージを負うだろうなぁ。……やっぱ手っ取り早く終わらせる方向でいくか。
思考を切り上げ、2人に顔を向ける。
「よし、決め――」
「このアンポンタン!」
「自称Bカップ女!」
「オールバック妖怪!」
「「ああんっ!!??」」
……まだ言い争ってたかー。ホントナカイーナー
◇
「決めたよ。向こうが仕掛けてくる前に、こっちから仕掛ける」
どうにか醜い争いを終わらせて、俺の考えをチャオとヤムに伝えた。
「こいつの言うことを信じるのかよエディ! こいつは盗賊の一味なんだぜ!?」
「信じるさ。多分ヤムは悪い娘じゃない」
根拠はアニメ。
俺が言い切ると、ヤムが「さっすがエディ!」と喜色満面で抱き着いてきた。流石イケメン俺。異論は受け付けない。アニメのヒロインの1人をメロメロにしちゃったぜぃ。
「……わーったよ。で、仕掛けるってどうやるんだ?」
「理想は一網打尽だな。ヤムの話だと各地に散らばってる一家を集めるって話だけど」
ヤムを見やれば首肯する。
「そうだよ。こいつを使ってね」
自分の端末を操作して俺たちに見せてきたのは、盗賊ご用達のサイトだった。
「なるほど、これがさっき言っていたアングラサイトか」
ヤムが見せてくれたサイトには色々な掲示板が一覧で表示されていた。これを利用してカーマセは一家を呼び集めるつもりか。このサイトに張り付いていれば集合場所を特定できるかもしれないが――
「できればこちらが有利になる場所に集めたい……」
そうすれば色々と事前に仕掛けられるからな。
「そうは言ってもよぉ、それが出来れば苦労しないぜエディ」
ふむ……散らばっている盗賊を一か所に集める方法か。……ん~~~。ん~~。ん~。ん……んん? なんか薄らぼんやりと頭に思い浮かんでくるものが……?
ぽく、ぽく、ぽく……チーン!
ヒラメイタ!
「チャオ、ヤム。方法だけど、どうにかなるかもしない」
「マジかよエディ!?」
「本当!?」
驚く2人に力強くうなずく。
とつぜん頭に思い浮かんだ光景。恐らく前世で見たものだと思うけど、その光景と一緒に思い浮かんだ言葉もある。
『釣り』と『○○ホイホイ』と『こうかはばつぐんだ』。
この3つの言葉は俺の感想だろうけど、これらの言葉を信じるなら、さっき見た前世の光景はきっとうまくいく。
「俺に任せろ!」
端末を取り出した俺は例のアングラサイトを開き、勢いよく文字を打ち始めた。カタカタバリバリー!
◇
ものの数分で完成したのがこちらです。ドン!
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【急募】盗賊稼業のお陰で彼女ができて社長にもなれました【みんな集まれー】
1:始まりの盗賊
ここは世の中に隠れている盗賊をスカウトするスレだゾ。
集団でも個人でも可。近々シャチホッゴの方で、でかいヤマを狙おうと思ってるから我こそはと思う盗賊さん、カモンだゾ!
※概要とか集合場所・日時は16時ちょうどに書き込むゾ
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「……え? なにこれ?」
「見ての通り、盗賊ホイホイだが?」
「ソコガワカラナイ……」
安心しろ2人とも、俺もよくわかってないから。でも突然思い出した前世の知識だから、それなりに使える……かもしれないゾ。
「こんなんで集まるかあ?」
「カーマセが呼び集める前にこうやって書き込めば、金に目がない盗賊はカーマセの呼びかけよりもこっちを優先する……ハズ」
「盗賊もそこまでバカじゃないんじゃ……いや、ありうるか?」
「おいオールバック、なんであたしを見て納得する」
「それにカーマセ一家の誰かがこのスレを見てカーマセに進言するかもだしな」
「俺たちよりもまずはこっちのお宝から――ってか? ないない……いやあるかも?」
「だから何であたしを見る?」
「イヒヒ、なんでだろうなぁ?」
喧嘩売ってんのか? お? お? と2人がチンピラのごとくメンチを切りあう。……ほっとこう。
「うん? チャオ、ヤム。見てみなよ、もう書き込みがある」
「んなわけ……マジだ」
「わーお、盗賊ってバカなんだねー」
「お前もその一味なんだけどな」
「あたしゃ入ったばかりだったからノーカンよ、ノーカン」
「さいで」
「口げんかが終わったんならどんな書き込みがあるか見てみようか」
「だな」「だね」
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【急募】盗賊稼業のお陰で彼女ができて社長にもなれました【みんな集まれー】
1:始まりの盗賊
ここは世の中に隠れている盗賊をスカウトするスレだゾ。
集団でも個人でも可。近々シャチホッゴの方で、でかいヤマを狙おうと思ってるから我こそはと思う盗賊さん、カモンだゾ!
※概要とか集合場所・日時は16時ちょうどに書き込むゾ
2:名無しの盗賊
>1
俺の力が必要のようだな
3:名無しの盗賊
>1
ふっ、呼んだか?
4:盗賊系登山家
>1
でかいヤマと聞いて
5:名無しの盗賊
登山家は帰ってどうぞ
6:名無しの盗賊
>1
でかいヤマ(意味深)と聞いてムネ……話をモミに……聞きにきました
7:名無しの盗賊
エロい人も帰ってどうぞ
8:名無しの盗賊
>1
俺の出番か
9:名無しの盗賊
盗賊がたくさん沸いてて草
10:名無しの盗賊
↑お前もなー
11:名無しの盗賊
べ、別に盗賊じゃねーし!
>1の為にきたんじゃないんだからね!
12:名無しの盗賊
>11
ツンデレ乙
13:名無しの盗賊
ここに来てる時点で盗賊なんだよなー
14:名無しの盗賊
盗賊の横つながりでしか知れないPASS使わないとココ入れないしな
15:†脱獄60回目の堕天使†
>1
待たせたな!
俺が来たからには勝利しかないぜ!
16:名無しの盗賊
その勝利は警ら隊側の勝利なんだよなぁ……
17:名無しの盗賊
脱獄60回ってことは60回も逮捕されたってことだもんな
18:名無しの盗賊
どんだけザルな刑務所なんだよw
19:名無しの盗賊
盗賊の腕はからっきしかもしれないけど、脱獄の腕は一級品かもしれないだろ
20:名無しの盗賊
だったらもう盗賊やめて縄抜け専門の大道芸人にでもなれよ
21:誰かスレタイに突っ込んでやれよw
22:†脱獄60回目の堕天使†
>20
なるほどその道があったか!
ちょっと近くの職安でサーカスの募集があるか聞いてくるわ! サンクス!
23:名無しの盗賊
え?
24:名無しの盗賊
え?
25:名無しの盗賊
え?
26:名無しの盗賊
>22は本当に職安に行ったのか?
脱獄中なんだろ? そんな奴が公的機関なんか行った日にゃあ……
27:名無しの盗賊
あ
28:名無しの盗賊
あ(察し
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あ(察し)
これはもう逮捕までRTA不可避ですわ(確信)……RTA? 自分で言ってて何のことか分からない。前世の記憶が開いての言葉なんだろうけど。アニメ関係以外の記憶の蓋は一瞬しか開かないんでだよなぁ。
まあ何はともあれ。こうしている間にもスレはどんどん加速しているみたいだし、これが『釣り』ってやつなんだろう。流石は盗賊ホイホイ。こうかはばつぐんだー。
さて、あとは16時に場所やらを書けばいいだけか。
「なぁエディ、書き込みが増えてるのはいいとして、なんて書き込むんだ?」
そこら辺はアニメから拝借するつもりだ。具体的には、カーマセ一家に紛れ込んでいた、アカンヤロ・アカンダロの手下が行っていたとされる取引を横からかっさらう計画……とする。まあ、アカンヤロ・アカンダロがいないんだからそんな取引もないんだけどね。
まあいないのは人物だけで、地図や地名なんかは原作通りだから、アニメで見た取引場所をそのまま出せば、多少はリアリティもでるハズ。
というわけで書き込み開始!
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【急募】盗賊稼業のお陰で彼女ができて社長にもなれました【みんな集まれー】18
1:始まりの盗賊
ここは世の中に隠れている盗賊をスカウトするスレだゾ。
集団でも個人でも可。近々シャチホッゴの方で、でかいヤマを狙おうと思ってるから我こそはと思う盗賊さん、カモンだゾ!
※概要とか集合場所・日時は16時ちょうどに書き込むゾ
56:名無しの盗賊
そろそろ16時なんだが
57:始まりの盗賊
オッスオッスみんな来ちくれてチョーアリガチョー(´;ω;`)ブワワ
58:名無しの盗賊
お、来たか……ってなんだそれw
59:名無しの盗賊
顔に見える記号?
60始まりの盗賊
(。´・ω・)? ナンノコト?
61:名無しの盗賊
そ れ だ よ
62:始まりの盗賊
顔文字のこと?
63:名無しの盗賊
まんまだったw
64:名無しの盗賊
>60
どうやってるんだ?
65:名無しの盗賊
>64
自分で打ってるんだろ?
66:始まりの盗賊
まあ顔文字のことは置いといて(/・ω・)/☐ ヨッコイショ
67:名無しの盗賊
おいとくのか
68:始まりの盗賊
話が進まないからね しょうがないね
そんじゃ、仕事の内容を書いてくドー
オイラが狙うのは非合法の武器の売買だゾ
結構な額で取引されるらしい それを全部頂くんだゾ!
69:名無しの盗賊
口調のせいで緊張感皆無w
70:名無しの盗賊
>68
結構な額って幾らなんだよ
71:始まりの盗賊
ざっと1,000万エーン以上
72:名無しの盗賊
1,000万以上!?
73:名無しの盗賊
ファ!?
74:名無しの盗賊
途端に胡散臭くなってきたな
1,000万エーンなんてメジャー級H・Rを買ってお釣りがくる額だぞ
75:名無しの盗賊
ってことは始まりの盗賊のいう武器の売買の内容ってメジャー級H・R?
76:名無しの盗賊
メジャー級H・Rの売買とかありえねーだろ
どっから仕入れてきたんだよ
メジャー級H・Rは全部コウセイヤ軍が厳しく管理してるはずだろ
77:名無しの盗賊
始まりの盗賊は情報源をだせよ
78:始まりの盗賊
>77
すまんがそれはムリなんだゾ
胡散臭い話ってのはオイラも理解してるから信用できないってやつは参加しなくてOKだゾ!
参加人数が少なくてもオイラは逝くんだぜ!
79:名無しの盗賊
逝くんだぜって死ぬ気か>78!
80:名無しの盗賊
お前だけ逝かせはしない!俺も行くぜ!
81:名無しの盗賊
ワイも!
82:名無しの盗賊
拙者も!
83:始まりの盗賊
おまいら(´;ω;`)ブワワ
84:名無しの盗賊
何だこの茶番w
でも俺も参加するぜ
せっかくのでかいヤマだからな
85:名無しの盗賊
俺も参加すっかなー
今さっき団から呼び出しあったけど説得してみる
団でも参加OKなんだよな?
86:始まりの盗賊
もちろんだゾ(^_-)-☆
87:名無しの盗賊
>86
うぜぇw
88:始まりの盗賊
そいじゃあ参加する奴は明日の17時までにシャチホッゴのモウカリマカー峡谷のY=F1、X=D13地点に集合ダ!
分かりやすいように目印もおいとくからナー
そこで詳しい取引場所を教えるゾ!
そいじゃナー
===================================
俺が書き込みを終えた後も、盗賊たちの書き込みは続いている。見る限り参加する盗賊の方が多いようだ。
「ま、こんなもんだろう」
「いやこんなもんて……」
書き込みの流れを見ていた2人は盗賊の間抜けさに呆れている。気持ちはわかる。俺もこんなにうまくいくとは思わなかったからな!
「この85の書き込みって多分カーマセ一家の者よね」
「呼び出されたってあるし、多分そうなんじゃないか?」
「あとは85がカーマセを説得できるかだけど……」
俺が口にしたところでヤムの端末にメールが入った。
「カーマセ姐さんからだ…………エディ」
「うん?」
「カーマセ一家はあんた達より、ありもしないお宝を選んだようよ」
「そいつは朗報だ」
釣りは上々。あとは集合場所に罠を仕掛けるだけってね。