03:旅立ち! というかもう旅立ってけっこう経つ
マズン大陸の北東付近にある、20mを優に超える大岩が乱立する岩場にて。
さて、一通りこの世界のありさまを確認したところで、今度はやり残した作業をつづけるかなーっと。
かすかな振動を体に感じながら、目の前に横たわるH・Rザコイアを眺める。全長17mもあるのでこっからだと全身は見れないけどね。
マイナー級H・Rザコイア。全身17m。重量25tの人型。メインカメラは頭部中央にある単眼のモノアイのみ。
装備は前腕部側面に取り付けるエレクトリック・レーザーランチャー(通称エレキ・ランチャー、もしくはランチャー)。シールドはなし。背部に飛行ユニットの簡易型フライングブースターを標準装備。動力源は太陽光。
フセイヤル軍……違ったコウセイヤ軍の主力H・Rである。ちなみに標準色はこげ茶。
ちなみにマイナー級っていうのは、H・Rの性能ランクのこと。
上からメジャー級、マイナー級、アドバンス級の3つに分別されていて、性能はメジャー級とマイナー級では月とスッポンくらいの差があるし、この2つとアドバンス級には超えられない壁があるのだ。
余談だけど、アドバンス級は単純化された人型(頭がない、手の指が3つのみ、下半身は足でなくホバークラフトユニット)のため、正式にはH・RではなくM・Dという。あいかわらずのネーミングセンスゥ。
ともあれ、ザコイアは軍用H・Rではあるけど、別に俺は軍人じゃないぞ。じゃあ何で軍用H・Rを持ってるかといえば、軍学校を卒業したからだ。任官は断ったけど、嘱託軍人になった。
嘱託軍人ってのは、正規軍が動くには腰が重い案件を代わりに請け負ってお金をもらう職業のこと。
嘱託軍人になれば、コウセイヤ軍からマイナー級H・Rのザコイアか、トローンのどちらかを貰える。貰えるというと語弊があるか。軍指定の依頼5件を無償で引き受けると報酬として貰えるってのが正しい。それまでは貸し出しという形で所有することとなる。
まあ、こんな設定アニメに出てこないし、メカニックデザイナーが好き勝手に書いた裏設定にもない、完全にこっちの世界オリジナルなんだけどね。なんだよ嘱託軍人って。お陰でH・Rが貰えるから助かるじゃないか! 最高かよコウセイヤ様、ありがとうコウセイヤ様!
ごほん、話が逸れたから戻すぞー。
嘱託軍人の数が正規軍の半分以下とはいえ、全員にマイナー級H・Rを提供しているなんて太っ腹だと思うだろ? それにはちゃんとカラクりがある。
ぶっちゃけると重鋼騎士って安いのだ。
どれくらい安いかといえば、アース大陸で生産されている量産モビルメイル1機分の値段で、マイナー級H・Rが3機作れるくらいの安さだ。ビックリなお手頃価格!
H・Rの内部フレームの殆どが安価なナノカーボン製で、装甲もソーラーパネル機能を有した同質素材。動力源は100%太陽光なので燃料いらず。馬力を得るために各所に配置されている油圧式シリンダーやスプリング用のオイルを全身に循環させてはいるけど、洗浄機能を頭部に持っているので実質交換不要。簡単な整備なら、半日かければ一人でも可能なほどシンプルな構成。これはメジャー級もマイナー級も変わらない。
H・R最高! ヒュー! H・R ヒュー!
なんてアホなこと考えながらも脚部フレームの点検、点検~っと。フレームに歪みなし、股関節・膝関節・足首および爪先可動部のがたつき・摩耗は許容範囲内、オイルチューブや電装ケーブルのたるみ・劣化なし、油圧シリンダーからのオイル漏れなし、蓄電池の液漏れもなし、ふくらはぎ部にあるエアッサーユニットもすこぶる良好、脚部エアッサーの安定翼を兼ねる装甲のスイッチタイルの開閉もスムーズっと。……うん、全項目問題なし! 脚部ユニット、オールグリーン!
手元の端末に表示されているチェックリストに✓を入れて終了っと。
端末から顔を上げて、ザコイアを見る。……はぁ、かっこいい(うっとり)
実はこのザコイア。けっこう手を加えていたりする。H・Rって、そこそこ簡単に改造できるのだ。
大抵の部品はメジャー級・マイナー級関係なく規格が統一されているので、マイナー級にメジャー級のスプリング等に交換することで馬力をあげたり、コンデンサーを高性能のやつと交換することで太陽光を効率よくエネルギーへと交換できたりと、性能の向上を図れるのだ。
俺のザコイアも、幾つかのスプリングや部品、エアッサーユニットをメジャー級の物と交換して、性能を向上させている。まあ、向上しているといっても標準のザコイアの1.2倍くらいかなぁ。……だって高品質の部品は性能に比してお高いからね。全身あちこち交換とはいかないから仕方ないね。あっという間にお金が溶けていくもの。この沼はハマるとヤヴァイ(震え声)
あと、外装のカスタマイズもできちゃったりする! むしろここ重要!
大抵の町に1つはある工場に頼めば、自分でデザインした外装を3Ⅾプリンターで作ってもらえるのだ。しかも意外と安い。全身分を作っても大体20万エーン(エーンは通貨単位)。そりゃあ作るよね! 3Ⅾプリンター最高!
形はもちろん(?)『重鋼騎士レガート』の主人公機レガートそっくりにした! だってこの世界、主人公のサバがいないんだもの! 主人公がいないんだからレガートも存在しないんだもん! だったら外装だけでも作るしかないじゃん!? だから作った!
一番悩んだのが、『眼】だ。レガートは二つ眼で、ザコイアは単眼という、数の問題。デュアルアイに変更? ……お高いのよ。よって却下。
この問題は、レガートはカメラを守るために『サングラス』と呼ばれる黒い強化プラスチックで守っていたので、俺のザコイアにも追加して対応した。これで見た目はデュアルアイ。
そして色もレガートと同じく純白指定!
いやぁ、俺に絵心が無いせいで外装デザインの説明に手間取ったけど、納得のいく形になったよ! サンキュー工場の人たち! グッバイ25万エーン!
こうして俺の、見た目だけはレガートのザコイア・カスタムが完成したのだった。ドヤァ!
思い出に浸っていると、隣から声をかけられた。
「エディー、どこまで終わった?」
「チャオか。ちょうど本体は済んだところだ。あとはコクピットのシステム周りの点検くらいかな」
「お、午前中でそこまで終わってるんなら上出来じゃないの」
笑いながらH・Rの装甲を叩くこの男は、俺の小さいころからの幼なじみで、キミ・ユウ・チャオという。
袖なしのシャツと長ズボンは黒一色。気合を入れて整えられた金髪のオールバック。顔のつくりは中の上といったところだけど、たれ目のせいで優男といった印象になっている。声が若干高いのと、お気楽&お調子者な性格がより一層、優男の雰囲気をかもしだす。
ちなみに、こいつも俺と同じく嘱託軍人だ。軍学校では整備科目を選択していたこともあって、普段はチャオがザコイアの整備・点検をしているけど、たまには俺も自分でやってる。ロボをこう、カチャカチャといじれるとか、カッコよくない?
ちなみに俺たちは今、大型積載車(ホバークラフトタイプ)の後部にあるH・Rを1機、寝かせて搬送できる荷台の上にいたりする。
全長26m×全幅8m×全高4m。積載量40tを誇る車体で、通称は【コーボゥ】。
こいつは軍用じゃなくて、民間企業が販売しているヤツ。俺とチャオでお金を出しあって購入した。
民間製品だからって侮るなかれ! 運転席の後部にはリビングキッチン・シャワー・ベッドルーム完備の居住区があり! 荷台ではH・Rの整備までできるし、車体前方にはレーザーキャノン3門も付いてるから、敵が来ても自衛できる万能キャリアカーだ!
なりより主人公サバが所有していたのと同タイプってのがね! いいね!
元の色は若草色だったけど、アニメの再現がしたくて鈍色の赤に(勝手に)塗装したらチョーイケメンになった! チャオには怒られて殴られた! だけど反省も後悔もしてないよ!
いやー、アニメで見たまんま! むしろアニメには描かれてなかった細部まで見ることができるからアニメ以上といっても過言じゃないね! おっとここ現実だったか。じゃあやっぱアニメ以上だわ! アニメを超えたねやったね! テンション上がるぅ⤴⤴!(オタク特有の早口風思考によりここまで0.1秒)
「なあ、本体まで終わってるんだったら、そろそろ飯にしないか?」
「ん、それもそうだな。チャオ、今日のメニューはなんだ?」
「あのねぇエディ。俺ずっと運転席にいたのよ? 作ってるわけないだろぅ」
「どうせ自動運転にして端末で女の人の裸、見てただけじゃないのか」
「ギクゥッ!」
どうやら図星だったらしい。
「好きだねぇ」
「うるせーなぁ! あーいうのはね、ロマンなの! ……わーったよ作るよ! なんか適当なもん作りゃいいんでしょ!? だからその目はやめろエディ!」
◇
それからしばらくして、俺たちは程よく開けた場所にコーボゥを停めて、居住区から携帯電気コンロやら鍋に包丁などの調理器具、食料を抱えて外にでた。
もちろん作るのはチャオだ。どうやら兎肉のシチューを作るらしい。ワイルドにぶつ切りにした肉を、同じくワイルドにざく切りにした野菜類とともに、水を張った鍋へと骨ごとワイルドに投入。しばらく煮込んだら、あとは牛乳やらチーズを加えるだけらしい。うーんワイルド。(小並感)
それを眺めながら地べたにごろん。あー、振動がないだけで落ち着くんじゃあ……。あくびだって漏れちゃう。コーボゥはホバークラフトだから快適だけど、エアッサーユニットの起こす微かな振動だけは、どうしたって完全には吸収できないからねぇ。
「やっぱ食事は外でする方が好きだな、俺。……お、いい匂い」
「同感。あとは塩コショウをふりかけてっと……ほい完成。エディ、お皿取ってくれー」
あいよ。と返事を返しつつ皿を渡して、チャオがシチューをよそっている間にロングパンを適当に2つに割っておく。
「ほれ。熱いんだから口にかっこんで火傷すんなよ」
「子供か俺は」
へッと笑うチャオから皿を受け取り、割っておいたパンの片方を渡す。
「そんじゃ――」
いただきます! 声をハモらせて食事を開始。スプーンですくった熱々のシチューを息を吹きかけて冷ましつつ口にイン。……うん、美味い。野菜はトロトロで肉も柔らか。固めのパンはそのまま食べてもよし。シチューに浸して食べてもよし。
「腕を上げたじゃないか、チャオ」
「へへん、だろ? 俺の料理の腕をもってすれば女の1人や2人、簡単に落とせるってもん――」
「へぇ、落とせたことあるのか。聞いたことなかったなぁ」
「――落としたことねえよ!」
願望かよ。ジト目……いや、憐みの目で見てやろう。
食べ終わるまで見てやってたらキレられた。解せぬ。
「それにしてもよぅ……」
「うん?」
「本当にこんなところに盗賊なんているのかね?」
俺たちがこんな辺鄙な田舎の、さらに辺鄙な奥地までなんで足を運んでいるのかといえば、チャオが今言った盗賊が関係している。
「いるんじゃないか? 被害にあった商隊の被害届けだけじゃなく、目撃情報だってあるんだし」
「なんだってこんな辺鄙な場所で盗賊稼業なんてやってるのかねぇ」
「軍からの情報だと小規模な盗賊団らしい。H・Rを持ってるわけでもなし。M・Dは持ってるらしいけど、せいぜい2~3機らしいから――」
「町の近くだと、警ら隊のH・Rにすぐに蹴散らされちまうわけか」
そういうこと。M・Dなんて数機いたところでH・R1機いれば一蹴できてしまうからね。
そんな弱小盗賊団くらいじゃ、被害のあった周辺住民からの要請があったところで軍も警ら隊も中々動いてくれないし、動けない。国の組織はお高いからね。
そんな時に出番なのが、俺たち嘱託軍人なわけだ。組織を動かすよりも圧倒的な安さで依頼を出せるからね。まあ、安いといっても依頼1つで一般労働者の給料1ヵ月分くらいはあるんだけど。
ちなみに軍からの依頼は、軍のサイトにまとめられて載っているので、俺たち嘱託軍人や賞金稼ぎは端末から依頼を選ぶ。無事に依頼を終わらせると、クレジットカードに報酬が振り込まれる仕組みになっている。
んで、今回俺たちが選んだのは、この周辺を荒らしている盗賊団の壊滅の依頼。……なんだけど。
「ここら辺をさまよって早10日。全然見つからねえなぁ」
チャオが皿を置きながら辺りを見渡してそう言った。
「そうなんだよなあ。最近だと被害届も目撃情報も出てないみたいだし」
「エディ。もしかしてアイツら移動したんじゃねーの?」
「ここらへんだと稼ぎが悪くてか? ……ありうるか」
俺の言葉にチャオが「だろ~? 俺って頭いいんだよ。うひひ」と相好を崩す。ウザい。
「まあとりあえず、あと何日かこの辺探してみようよ。もしかしたらH・R持ちの俺たちのことを事前に聞きつけて、身を潜めているだけかもしれないし」
「そうすっか。ま、どの道食料も少なくなってきたから買い出しに戻らなにゃいかんしな」
「その時に次の方針を決めればいいさ」
できれば見つかってほしいけど。そうしないと完全に赤字だ。言えばチャオも苦笑い。
「それじゃ、俺は整備に戻るよ。ごちそうさま」
整備といってもあとはコクピット周りだけだけど。
「おうよ。片付けが終わったらコーボゥ動かすから、荷台から落っこちるなよ、エディ」
「そこまで子どものつもりはないよ」
後ろから「どうだかねぇ」なんて聞こえてきたけど、無視だ無視。とりあえず、あとでアイツが使っている整髪料に豚の脂を混ぜといてやろう。きっと喜ぶ(確信)
◇
はい、あっさり終わりましたー!
コクピットの整備・点検なんてシートのがたつきを確かめたり、システムの電源を入れてプログラムチェックのソフトを走らせるだけだしね。10分もかからずに終わるよね。結果はどこも異常なし。システムオールグリーン。機体もオールグリーン。……さてどうしよう。
チャオには整備が終わったと無線で知らせたし。アイツのいる運転席に戻るか、居住区で昼寝するか。
「ふあぁ~~……」
……ここで眠るか。
システムを落とすと、唯一の光源だったモニターが暗くなり、コクピット内が暗闇に包まれる。
もう一度あくびを漏らしてから、瞼を閉じた。
それじゃ、SEE YOU AGAIN……。