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キャンプ場近くの廃墟

 大学が休みになると、俺たちはどこかへ出かけようと考えた。

 車もあるし、遠出するのもいい。そんな話になったので、サークルの女子たちとともに、どこかへキャンプに行こう──ということになった。

 いろいろ考えたすえに、あまり有名でない──N県、M町の小さなキャンプ場に行くことに決め、男5人、女6人が2台の車で目的地へ向かう。


 林道の奥にある、ひっそりとしたキャンプ場へ向かう途中、車の中で女子の1人が何かを発見した。

「見て、あそこに何かある」

 彼女が指さす方向にあったのは、さびれた建物であるらしかった。林道に脇道があり、そこから入って行けるみたいだ。

 この辺りでは結構大きな建物で、2階建ての病院みたいだが……


「廃墟かな」

 車が通り過ぎるわずかな時間だったが、女子の1人が「あっ」と声を上げる。

「いま、2階に誰かいた」そう言うのだ。

「いやいや、廃墟でしょ」

「幽霊かも」

 そんな話を車の中でしていたが、俺たちはキャンプ場へ向かう。──その廃墟から、車で数分の場所にキャンプ場はあった。


 管理者に駐車場とキャンプ場の利用料金を払い、俺たちはテントのある場所に向かうと、それぞれが料理を始めたり、持って来た寝袋などをテントに運び込む。

 夕暮れまで近くの小川で釣りをしたり、山の中をトレッキングしたりして自然を満喫した。




 夜になるとリーダー格の林田が、こんなことを言い出した。

「さっき聞いたんだけどさ、この近くに廃墟があるらしいじゃん。おもしろそうだし、肝試しに行こうぜ」

「え~~」とか「やだ──」とか反対の声も上がったが、これからすることもないので3人を残し、8人で廃墟に行くことになった。


 その廃墟はやはり病院だった。汚れた看板には「金枝かなえだ医院」と書かれている。どうやら1階が病院で、2階は人が住んでいた場所であるらしい。

 俺たちは懐中電灯とカメラなどを用意して、ぞろぞろと建物の前に集まり、写真を撮ったりしてから──入り口のドアを開けようとしたが、鍵がかかっていた。


「あ──だよね──」

「いや、こっちの窓ガラスが割れた場所から中に入れるぞ」

 林田はそう言って、先に建物の中に入って行く。


 俺たちは2組に分かれて1階から各部屋を見て回った。病院は診察室や手術室があったが、器具や棚の中身など、ほとんどの物がなくなっていた。廃墟になる前に処分したのだろう。


 ただ、病室の1つは壊れたベッドがそのまま放置され、汚れた木の板や、折れた角材、壁には大きな角を生やした鹿の頭の剥製はくせいなどが置かれたままになっていた。


 2階へ上がると、木製の階段はきしんだ音を立て、俺たちを不安にさせる。

 1階の床はタイル張りだったが、2階は多くの物が木製で、1階よりもこぢんまりとした作りだった。ぎしぎしと音を立てる床を歩き、いくつかの部屋を調べたが、とくに目を引く物はない。


 寝室らしい部屋の中央にひどく汚れた場所があり、その部屋には異様な臭いが満ちていて、俺は部屋を出ようとしたが、林田は部屋の中に入ると、小さな机に近づき、何かを手に取る。

「机の上に、こんな物があった」

 と、林田が持って来たのは──小さな手帳。

 そこには、この医院の金枝という医師の言葉が残されていた。


 懐中電灯で照らしながらその中身を読み、最後の方にこんなことが書かれているのを見つける。




 ああ……やはり、こんな場所で開業するんじゃなかった。町からの給付金が出るというので始めたが、1年もしないうちに町の住人は多くが、よそへと移り住んでしまった。

 頼みの綱の観光業やキャンプ場も閉鎖が相次いで、いまは町中が火の車。うちの医院もローンが払えず、もう頼る者もいない……

 願わくば、()()()()()()()()()()()()()()()()()ばかりだ。

 ホースで首が吊れるかどうか、それだけが心配だ。




 それを読んだ俺たちは、しんと静まり返った部屋の中で、どこからか聞こえてくる「ミシミシミシッ」という音を耳にした。


 カメラを手にした村上が部屋に入って来て、写真を撮りながら「この部屋、すげえくせえなぁ……」とこちらに近づいて来る。


 すると、林田の足下が突然、音を立てて崩れ落ちた。

 もの凄い音がして、下の階に落下した林田。


「だっ、大丈夫か⁉ おい、林田ぁ!」

 床に開いた穴から懐中電灯で下の階を照らすが、もうもうと上がったほこりのせいでよく見えない。


「いまの音はなに⁉」

「床が抜けて、下の階に林田が落ちた!」

 俺たちは声をかけ合って、下へ向かうことにした、林田が落ちた先は──おそらく病室だろう。そちらへ向かおうとすると、林田は病室のドアを開けて出て来た。

 肩や背中、腹部などの衣服に穴が空いていたが、怪我はなさそうだ。


「大丈夫か⁉」

 すると林田は首をかしげる。

「お? おう……平気だよ」

 後から考えると、なんだか様子がおかしかったが──そのときは、林田が無事だったのでほっとし、肝試しを切り上げてキャンプ場に戻ることにしたのだ。




 たった1日のキャンプだったが、問題が起こったのは数日後のことだった。


 林田が──帰って来ないと言うのだ。


 そんなはずはない。俺たちは車で仲間たちを1人1人送り届け、最後の方になったが、確かに林田を自宅に送り届けた。


 行方不明になったと捜索届けが出された林田。

 そんなとき、カメラで写真を撮っていた村上が慌てた様子で電話してきた。

「ちょっ、ちょっと、見てほしい物があるんだ」

 呼び出された俺たちは、村上の持って来た写真を見た。デジカメから自宅で出力した物だという。


「これ、これだよ」

 そう言って1枚の写真を見せる。

 それは、あの林田が床を突き破って落ちる、少し前に撮った写真だった。


 そこには俺と仲間2人と共に林田も写っている。──しかし、その背後に、写っているはずのない物が写り込んでいた。


 それは男の胸部から下が写り込んだ1枚の写真。

 写真の位置からして、その男は天井から()()()()()感じで写り込んでいるのだ。林田の頭あたりに男の腰が写り込んでいる。


 そしてもう1枚の写真を村上は見せた。──病院から出て来た所を撮った1枚だ。

「な⁉」

 仲間の2人はそう言われてもわからなかったようだが、俺にはわかった。

 本当なら、この写真には──()()()()()()()()()()()()()()()()()()()なのだ。




 数日後、林田は発見された。


 キャンプ場近くにある小さな病院の廃墟の中で尖った角材の上に落ち、腹部に落下してきた鹿の剥製の角が突き刺さった格好で、発見されたという……

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