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田舎から都市へ配送されるモノ

 過疎化かそかが進む集落がある。

 昔から都市部の方に牛や豚などの家畜を売って生計を立てている、牧畜産業をおこなう人が多い地域だ。


 だが、この辺りの集落の人々は、昔から仲が悪い。部落差別だと言う者もいるが、そんなに大層な話じゃない。同じ職業をしているにもかかわらず、一方が富むと、もう一方がそれをうらやむ。

 その関係が積もりに積もってできた、恨みつらみの連鎖が凝り固まった人間関係の魔窟なのだ。


 問題はほかにもある。

 都市部のわがままに振り回された、彼ら生産者の恨みというものだ。


 昔からこの辺りの集落は、都市からやって来る仲買人の餌食となっていた。彼らは集落の人々の足下を見て牛や豚を安く買い叩き、それをありえないくらいの高値で東京の料理屋などに持って行くのだ。


 そうした憎しみが、彼らの心をむしばんでいる。

「東京もんが」という憎しみが、どんどん彼らの中で膨れ上がっていたのだ。




 ある日、若者二人が、その集落にやって来た。

 東京からの旅行者だという彼らは、東京で珍しい牛肉を食べさせるという店で牛肉を食べ、その店から、この集落のことを聞いたらしい。


「ブランド牛とは違う、野生味あふれる牛肉が食べられる、というのが売りの焼肉屋で」

 と若者たちは得意げに語って聞かせる。

「ジビエ」がどうだとか言っている若者たち。

 別に彼らが悪いわけではない。

 彼らが悪かったのは「運」なのだ。


 彼らはその後、行方不明になった。


 * * *


 数日後、仲買人が集落にやって来た。

「どうですか、順調に育てていますか?」

そんなことを尋ねてくる男に、村人はにこやかに微笑ほほえむ。


「ええ、ええ、今日は『特別なジビエ』が手に入ったんですよ。しし肉です」

 そう言って村人は冷蔵庫から、切り身になった肉を取り出して見せる。

「へえ、鹿しし肉ですか。この辺りの山にも鹿が出るんですね」

 ええ、ええ。と村人は笑顔でうなずく。


「食べてみますか?」

「う──ん、そうですね。野生の物は臭みが強そうだけど、調理しだいで美味しくなるのかな」

 それならいい調理法があるんですよと、蜂蜜はちみつとオレンジの果肉に漬け込んだ肉を取り出してくる。


「へえ、洒落た料理をするんですね」

 ええ、ええ。村人は笑顔でその肉を焼いて、仲買人に喰わせた。

 少し鼻につくような臭いもしたが、オレンジなどのおかげでクセが弱まっている。仲買人はそう言って、その肉を買うと言った。いつも通りの低価格だったが、村人は満足そうだった。


「ええ、ええ、きっと()()()()()()()されると思いますよ」

 仲買人は気づかなかったが、村人の笑みには冷たい、冷酷な──冷笑が隠れていた。

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