エレベーターの人影
僕は郵便配達をしている配達員だ。
重要書類や小包などを各家庭に届けるのが、おもな仕事内容で──その日は、ある小さな集合住宅の建物に荷物を届けに行った。
そろそろ夕方になるという時間帯。遠くの空は薄暗い夕焼けに染まっていた。
僕は急いで車から荷物を取り出すと、エレベーターに向かう。
エレベーターは建物同様に古く、小さな物だったが、4階までしかないこの建物には充分だった。
小走りに近づいて行くと、誰かがエレベーターに入ったのだろう。ドアが開いたばかりだ。
僕はさっとエレベーターの中に入り、4階のボタンを押す。
……おかしいな。
誰かがエレベーターに入ったと思ったのだけれど、中には誰もいなかった。
ガコガコと音を立てながら閉まるドアの前に立っていると、グゥィィィイィィン──と大きな音を響かせて、エレベーターが上の階へと上って行く。
その途中、かちかちと電灯が付いたり消えたりして、僕を不安にさせたが、エレベーターは無事に4階にたどりついた。
4階に降りて部屋に向かうために廊下を歩こうとすると──視界の隅、エレベーターの中に、白い物が見えて慌てて振り向くと……そこには、白い服を着た女性が立っていた。
「うわぁっ⁉」
僕は驚いて荷物を落としそうになる。
確かに誰も乗っていなかったと思ったのに……
その女性はエレベーターの奥の方に立ち尽くし、ぼうっとした表情でこちらを見ていたが、ゆっくりとした動きでお辞儀すると、ドアが閉まって行く。
しかし、エレベーターが下の階に降りて行く様子がない。
僕は躊躇い、恐怖を感じながらも、好奇心か──それとも、何かの間違いだと自分に言い聞かせたくて、僕は薄汚れたドアを開くために、下に向かう矢印が表示されたボタンを押した。
ガコガコと音を立てて開いたドア。
エレベーターの中は無人だった。
僕は大急ぎで荷物を届けに402号室を訪ね、受け取りに出た60歳くらいのおばさんに、エレベーターで変なことは起きてないかと尋ねた。
「ぇえ? エレベーター? ああ、いつまでたっても業者が直しに来ないのよねぇ。だから毎日、階段を使わなくちゃならないのよぉ」
と、そのおばさんは言った。
僕は荷物を届け終えると、エレベーターには乗らずに、階段を使ってこの建物から出る事にした。