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日記の中の悪夢

 私は高校二年生になった。

 学校生活では彼氏もできて順風満帆じゅんぷうまんぱん

 小学生の頃に大病をわずらって記憶の一部がはっきりとしない私は、中学生の頃は学校にも、ろくに通えず──友人のいない、寂しい学生生活を送ったのだった。


 なぜかはわからないが、小学生から中学生の終わり頃まで「不安定な精神状態」にあったと、お父さんから聞かされている。

 自分ではそうした思い出はなく、友だちと仲良く遊んだりしたことも、うっすらとだが覚えていた。


 小学生から中学生の──二年生の頃まで私の家は、よく引っ越しをしていた。親の転勤が理由だと思うが、よく覚えていない。


 母親は、私が中学二年の頃に他界した。

 母親はノイローゼだったんだと、お父さんから聞かされている。

 今は父子家庭だけど、お父さんは働きながら私のことをたった一人で育ててくれた。




 そんなある日、自分の部屋にある古くなった机の代わりに、新しい机と交換するというので整理していると、鍵のかかった引き出しの中から、一冊のノートが出てきた。記憶になかったが、ノートの表紙には「にっき」とたどたどしい字で書かれている。


「私、日記なんかつけていたんだ」

 興味を引かれた私は、最初から読んでみる気になり、簡単に流し読みすることにした。


 とりとめのない話がつらつら書かれている日記は退屈で、幼い字と文章で書かれたそれは──読んでいても、ぜんぜん自分のことが書かれているといった気持ちにはならなかった。

「なんか不思議……」


 その内容には日常に起きた「○○ちゃんと遊んだ」といったことの他にも、特徴的なことが書かれるようになっていった。──それは、見た夢の内容を記録しているのだ。




 ○月 ×日 △曜日


 また電車に乗っているゆめを見た。

 わたしはよく電車やえきのゆめを見る。

 電車がすきでもないのに、ふしぎだ。




 そんなことが書かれるようになっていった。

 夢のことがたびたび書かれるようになり、段々と日常の事柄よりも──夢の中で起きたことについての内容が増えていく。




 ○月 ×日 △曜日


 たんにんの先生は本当にきらいだ。

 わたしがわからない問題のときばかり、わたしをさして、こくばんの前にわたしをよび出す。

 本当にいやな先生。

 消えちゃえばいいのに。




 ああ、そんな先生がいたのか。

 子供のことだ、たまたま出席番号で当てられたとしても、意地悪でやっていると思い込んだのだろう。

 私はそう思い、なんだか微笑ましく──まるで他人の子供時代の日記を読んでいるような気分になっていた。




 ○月 ×日 △曜日


 ゆめを見た。

 えきのホームに人が立っているのが見える。

 かいだんを下りてその人の近くにいくと、それはたんにんの○○先生だった。

 先生はわたしには気づかずに、はくせんの手前に立ってぼうっとしている。

 わたしはしずかに、そうっと歩いて、先生の後ろに立った。




(え、なにをする気なんだろう)

 私は日記の中の「わたし」に不気味なものを感じはじめた。




 先生の後ろに立つと、えきの近くのふみきりの音がなりはじめる。

「カンカンカンカン」

 しゃしょうさんの声が聞こえる。


「はくせんの()()()()()()()()()()()ください」


 わたしは先生のせなかを押して、せんろの上につきとばした。

「ぐしゃぁっ」

 電車が通って、まっかな液体の入った水ふうせんがばくはつしたよ。おもしろかった。




「え……私って、こんな子供だったの……?」

 夢の中のこととはいえ、あまりにショッキングな内容だ。まして、子供のすることじゃない。


 その後のページにも、信じられないことが書かれていた。




 ○月 ×日 △曜日


 つぎの日に学校にいくと、○○先生が亡くなったと聞いた。えきのホームから電車にとびこんだって。

 ゆめみたい。




 その後のページにも、○○ちゃんとけんかした、○○ちゃんきらい。といったことが書かれると、翌日には駅に立つ友だちの背中を押して、線路上に突き飛ばし……その友だちを夢の中で殺してしまった。


 すると、その翌日には学校で、○○ちゃんがえきからせんろに下りて、電車にはねられて死んじゃった、まあ、しかたがないよね。

 みたいなことが書かれているのだ。


「なによこれ……まるで夢の中で殺した相手が、現実でも死んじゃうみたいじゃない……」

 私は日記を読むのが、だんだんと怖くなってきていた。




 その後も繰り返し、複数人の友人や先生が死んだと書かれている。

 立て続けに学校の、おもにクラスの生徒や教師が死亡したこの事件は──学校内で大きな問題となったようだ。

 そのことについて書かれた後で「わたし」はこんなことを言っている。


「わたしをいやな気持ちにさせる人は、みんな死んじゃえばいいんだ」


 なんてことだ。

 私の過去に、こんなまわしいことがあっただなんて。私の過去の記憶が曖昧あいまいなのは──この現実を理解したくなかったからなのかもしれない。


 夢に出た人を次々に殺害し、現実でもその人が死亡する──そんな、バカな話があるものか。

 私はそう思い込もうとした。


 その後のページをめくるのが怖かったが、私は勇気を振り絞って、最後の方のページを見ることにした。そこには中学生になった私が、()()()()、短い文章を書き殴りしてあった。




 ○月 ×日 △曜日


 お母さん、大嫌いよ。


 あなたなんて……いなくなればいい。

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