第4話『古代語よりは弱いけど、意外と強いファイアボール』
「火の精霊よ、我が魔力を糧とし力を示せ。ファイアボール!!」
男が叫ぶと、掌から迸る炎が、展開された魔法陣を通って何倍にも拡大され、標的目掛けて一直線に飛んでゆく。
炎の基本魔法、ファイアボールはしっかりと的の中心を捉えて焼き尽くした。
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こんな感じの文章、よく見ますよね。魔法学校だったり冒険者試験だったり、何はともあれファイアボールが炸裂し、的を射抜く。最近じゃかませとして使われて、主人公の魔法に圧倒されたりしますが。
試験の時、ちょっと優秀な雰囲気を醸し出すキャラが得意げに打つファイアボール。実際に周りはおおっ!と驚き、それなのにその後の主人公の魔法に圧倒され直ぐに忘れられます。
優秀そうなファイアボール君は驚き、時には苛立ち、妬みの目線で見てくる。
「また俺なんかやっちゃいました?」
じゃねえよっ!俺らはチートねえんだよ!!
まあそんなことを思ったりしますが、ではこう言った時に主人公が使う魔法について考えましょう。
まあ炎系で強いといえば「インフェルノ」ですよ。
主人公はなんの意識もなくインフェルノを発動させ、建物ごと破壊する。
威力は絶大ですよね。そりゃ地獄の炎だし?それくらいじゃなきゃね?でもインフェルノもテンプレらしさはありますよね。
テンプレの魔法には2パターンあります。まずひとつ、ほぼ詠唱なし。2つ目、長い詠唱を唱える。
この2つに分かれがちです。
そこまで考えた後に、前回言ったように魔法使い同士の戦いについて考えます。
魔法使いが出てくる作品では、往々にして基礎体力が低い、だから魔法使いの戦いは肉弾戦ではない、などと書かれます。それでは一体どうすれば勝つことができるのでしょう。
正解は、どれだけ早く詠唱したか。それがひとつです。しかし、それと同じくらい、長い詠唱をする、ということでもあります。
よくあるシーンを2つ書き出します。
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「なんで君はそんなすごい威力が出せるの!? ふつうは出来ないそんなの!」
「ああ、それはな、長々と無駄な詠唱をするからだよ。要するに詠唱をするのは想像力を高めるためだろ? 明確に思い浮かべられるように。俺はそれを脳内でやるんだ。脳内で浮かべば詠唱を長くしすぎてなにも考えないより威力は高い。まあ、あとは魔力量だな」
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はい、これがひとつ目です。続いて2つ目。
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「く、くそっ、貴様、なんなんだその強さ! そんな詠唱は知らないぞ!? 一体何者なんだ!」
「何者か。名乗るほどでもねえ。それに俺の強さ? 簡単簡単、詠唱だよ。お前たちはファイアボールファイアボールって唱えるだけで大した威力もねえ。魔法ってのはイマジネーション。まあ、想像だよ。思い浮かべる魔法をより濃くするために詠唱を工夫するんだ。長ければ明確にイメージもつくだろ。だから俺の魔法は強い。まあ、あとは魔力量だな」
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はい、これが2つ目です。どちらも見たことあるでしょう(笑)これに物理を参考にして考えろ、が加わることも多いです。
見たことありますよね。そりゃね、よくあるやつですから。
もう悲しいですよ僕は。ファンタジーを押し出しているのにこれかぁ、と。
ではこの2つと、さらに使われるのが「戦闘魔法」のみ、という点を踏まえて戦闘について考えましょう。
始めに、チート主人公ではない魔法使い同士を前提として考えます。
まず魔法使いの体力は低い。となれば、魔法を肉体的に避けることが難しいはず。なら先に魔法をぶつけた方が勝ちます。
もちろん回避する魔法なんかもあるでしょうが。しかし、お互い攻撃魔法に集中し、相手を殺すことを考えると、先に魔法をぶつけた方が勝ちます。
この理屈からいくと、詠唱は少ない方がいい。とすれば、1つ目の主人公の言っていた、無駄な詠唱はいらないことになりますね。
ただのファイアボールだって、体に引火すれば死にますよ。
では、長い詠唱は無駄なのか。それも否です。
長い詠唱の意味は、ずばり威力です。
言葉というのは古くから世界各国において強力なものとして扱われます。聖書には初めに言葉があったとされていますし、日本でも言霊なんてものを聞きますよね。
つまり、前にも挙げたように「言語」はとても重要なのです。言語を理解することはその本質に近づくことができる。
ファイアボールにしたってそうです。
ファイアボールは果たしてどんなイメージを浮かべれば良いのか。冒頭の一文をもう一度。
「火の精霊よ、我が魔力を糧とし力を示せ。ファイアボール!!」
これには2つのことが明記されています。
1つ、火の精霊の力を借りていること、もう1つは、自分の魔力を対価として差し出していること。
その等価交換によって火の球を出現させているのです。
では詠唱をもっともっと長くしてみましょう。
試しに、真っ直ぐ進む、ということを明記します。
「火の精霊よ、我が魔力を糧とし力を示し、眼前に現れし敵を撃て。ファイアボール!!」
はい、これで明確に、敵に向かって進むイメージが湧きますね。
では、追尾能力をつけましょう。
「火の精霊よ、我が魔力を糧とし力を示し、眼前に現れし敵を焼き尽くせ。ファイアボール!!」
一見追尾には見えないかもしれませんが、要は精霊に敵を焼き尽くす、という結果を求めているんですね。対価をもらった精霊はそれを果たすものです。約束を守らない精霊がいれば魔法なんて使えませんからね。
最後に威力です。
「火の精霊よ、我が魔力を糧とし力を示し、周囲の空気を喰らいて火勢を増し、眼前に現れし敵を焼き尽くせ。ファイアボール!!」
さてさて、これで長い詠唱の準備が整いました。それでは、男Aのファイアボールvs男Bのファイアボールの戦いを再現してみましょう。どうぞ!
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「ハッ、無駄な詠唱ばかり。俺の簡略詠唱の前に勝ち目はねえのさ!」
「馬鹿なことを。やりあえば分かるさ」
2人は掌をかざし、向かい合った。周囲に緊張が走る。
「いくぜっ!ファイアボール!!」
「火の精霊よ、我が魔力を糧とし力を示しーー」
Aの放ったファイアボールが宙を飛ぶ。発せられる熱に思わず後退りする観客。ファイアボールはそのままB目掛けて飛ぶ、が、全力疾走のBに避けられてしまった。
「ーー周囲の空気を喰らいて火勢を増しーー」
「チィっーー! ファイアボール!!」
「眼前に現れし敵を焼き尽くせ。ファイアボール!!」
Aの2発目のファイアボールと同時に、Bのファイアボールも準備が整った。空中に向き合って出現したファイアボール。相手目掛けて一直線に進む、が、毎秒火力が大きくなるBのファイアボールは、あっという間にAのファイアボールを飲み込み、そのままAへと直進した。
「なっ、なんなんだ!!」
慌てて回避行動に移ったAは、なんとか避けた、と思った刹那、向きを変え尚追いかける炎に飲み込まれた。
「うぐぁぁぁぁぁあああ!!!」
Aは炎に焼き尽くされた。
◆
はい、というわけで、いかがだったでしょうか!
詠唱が短いはずのAに、Bが勝ちましたね。理由は明白、威力と性能です。
Aは2度唱えることができましたね。剣においては手数はとても重要ですが、魔法においては例外の場合があります。
今回も、1度目のファイアボールは、命の危機に瀕したBの全力疾走に負けました。人間意外と避けられるんです。銃弾なんかよりよっぽど遅いですからね。
2度目も火力負けし、消え去りました。
つまり長い詠唱は強いんです。
では、短い詠唱は弱いのか。それも違います。短いなら短いメリットを活用するんです。短い合間に他の魔法を使ったり、相手を誘導したり。ですが、単体で見た時には、実は長い詠唱はつよいんです。
主人公のいう魔力量、これも確かに大きく割合を取ります。しかし、言葉に込めた魔力、巧みな言葉によって魔法を放てば魔力差があっても勝てる場合がある。なぜなら主人公はこの世界に来たばかり。生まれた時から親しんでいる住人が弱すぎることはない!
とまあ、主人公がチートだと色々アレですけどね。
さて、言語について絡めて参りましょう。
言語を作ると言いましたね。背景設定なども一緒に、と。
魔法と言語は相性がいい。言語はより明確なビジョンを作る上で欠かせません。想像ということを言えば、短い詠唱で長い詠唱のようなものを作ることもできるはずです。だって魔法ですから!
この詠唱問題を考えるうえで、古代語は役に立ちます。古代語と現代語が同じ文字数ではないでしょう。英語と日本語みたいなものですね。ネコはcatだし、冷蔵庫はrefrigeratorです。
では長い詠唱を短い古代語で詠唱すればどうでしょう。意味を理解していれば同じ効果を発揮しますね。
おっと、そろそろ迷子になり掛けの本題を持って参りましょう。
第3話で言った通り、設定凝りすぎなんてのも聞きますが、言語を作るのは魔法に相性がいい。
より強い魔法を作るなら古代語でいいんです。
とすれば、造語だってなんだって、かっこいいと思ったものを古代語として魔法名にして仕舞えばいい。設定がどうって言われるのなら、その魔法名を補うような文を書けばいい。
凝った名前は分かりづらい、というなら、先ほど述べた言語、古代語などの重要性を作品内で納得させる。納得すればなぜ凝った名前なのか分かりますから。
その先は書き手の自由です。凝った名前にするもよし、ファイアボールでいくもよし。ですが、軌道に乗ってきた話であれば、ファイアボールよりも古代語のほうが読み手もワクワクする!詠唱の長さは独自に短い古代語としてもいいし、がっつり唱えさせてもいい。自分は古代語なら短い派です。
今までの通り、ファンタジーですから。魔力量だけで差別される世界に行きたいですか?努力で強くなれる世界の方が良くないですか?
そう、だから、言語を作るべき。
最後に男Cのファイアボールと男Dの古代炎魔法の決闘をどうぞ。
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「俺の従える火の精霊から全力を引き出してやる。俺に殺されることを喜びな!」
「ふむ。まだ立場がわかっていないと見える」
「抜かせ! いくぜ、ファイアボール!!」
生み出された火球は、灼熱の魔力を纏いながらDを焼き尽くさんとする。しかしDは落ち着いた様子でただ一言呟いた。
「<イグニ・カリエンテ>」
突如として空間が捻れるかのように揺らめく。陽炎が立ち上ったかと思うと、煮えたぎるような熱量に立っていることすらままならなくなる。
「ーーっ、あ、ほ、炎がっーー」
膝をついたCの見た光景は、文字通り地獄だった。Cの真上の捻れた空間、立ち上る陽炎に、目眩を起こす。空間の捻れから炎が滲み出している。熱にやられて動けないCの頭上に、たらりと一筋、炎が伝って来た。
「やっ、やめて、やめてくれっ!」
「もう遅い。古代の精霊は一度古代語の命令を聞いたなら絶対にやり遂げる。お前に生きる道はない」
「う、うぁぁ、あっーー」
Dの目前には、伝う炎に飲み込まれ悶え苦しむCがいた。当然の報いだという気持ちとともに、これじゃあ殺人になることを思い出した。
しかたねえなぁ。古代の精霊をより強力な古代語によって捻じ伏せ、Cを助け出した。息も絶え絶えのCは、これで良かったと思えるほどには痛ぶられていた。
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はぁい、こんな感じです。古代魔法のほうが色々やりやすいでしょ!?結局読み手はファイアボールなら火の球だと読む前から分かっても、古代語ならどういうものか注目してみますからね。
ちなみにさっきの魔法、<イグニ・カリエンテ>はラテン語とスペイン語の造語です。さっき適当に作りました。熱い炎的な意味ですね。
ですから僕のオススメは言語を作る!多少なりともあればテンション上がりますし、これぞファンタジーです!エラゴンなんかは古代語にもっと踏み込んでいて面白いです。
え?なになに、ファイアボールの存在意義が無いって?いやいや、もちろんありますよ。
だって魔法は想像でしょ?ファイアボールですよ。ファイアーのボール。火の球!こんなに分かりやすい魔法がありますか!?完全に思い浮かべられたら意外と強いと思いますよ、ファイアボール。
魔法についてでした。まあ、魔法は重要なファクターですから。オリジナリティを出す必要は絶対にありますよね。たしかにファイアボールもいいですけど。でもやっぱり古代語を作ってみてください。ファンタジーにうまくハマりますよ。
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