宝石があらわれた!
今日、息子がはじめて、髪の毛を切りに行く。
いつもはおうちで、ちょきちょきやさんをやってたんだけど、保育園に通うことになったから、かっこよくしてもらわないといけないねって、お話したら、「ぼくきりにいくよ」って言ってくれたんだよね。
初めての理容室。
いすの上に、子供用の底上げいすを置いて、その上に息子が座った。
白いケープが、ふわっとかけられた。
はさみの音が、ちょっと怖いみたい。
耳元をちょきちょきするたび、息子の顔が、不安そうなものになる。
「こわくないよ、がまんできる?」
「がんばれる・・・。」
不安そうではあるが、男気のある返事に、三歳児の心意気を見た。
恐る恐る散髪を見守っていたが、何とか泣く事もなく、かっこよく仕上げてもらえた。
ケープが取り払われる。
?
息子が左手に、何か、持ってる・・・?
散髪料金を支払って、理容店をでる。
「えらかったね!泣かなかったし、おとなしくできた!すごい!!」
めちゃめちゃほめると、息子は誇らしげな顔で私に報告をしてきた。
「こわかったけど、ほうせきがでてきたの。」
「?宝石?なにそれ。」
そういえば、息子は左手に、何か持っていたな。
「こわいなって、てをひらいたり、とじたりしてたら、てのなかに、ほうせきがでてきた。」
「でてきた?」
「うん。てのひらのなかに、ほうせきがあったから、ずっとそれをさわってたら、こわくなかった。」
なんだそれ。
なんかボタンでも取れたのかな?
「今も持ってるの?」
「うん。」
息子がゆっくり、左手を広げると。
「うぅわっ!!!くさ!!!くさいいいいい!!!」
息子が誇らしげに見せたのは、カメムシだった。
小さな、小さな、5ミリほどの丸いカメムシが。
散髪中のケープの下の、息子の手の平に入り込んで。
息子の不安をかき消すために、ずーーーっとにぎにぎ、されていたらしい。
「これ、ほうせきじゃ、ないの?」
宝石ではない!!!
虫だ!!!!
しかも飛び切りくさいやつ!!!!
しかしここで私が悲鳴をあげたら、あげたらああああ!!!
ぐっと悲鳴を飲み込んで。
「これは、宝石のふりをした虫なので、庭に逃がしてあげようね。」
「わかった。」
息子の左手に握られていたカメムシは、庭に放たれた。
私は家に帰って、息子の左手を、石鹸でもっしゃもっしゃ、洗ったけれど。
なかなか匂いが落ちずに、半泣きになった、というお話。