プロローグ5 エルフと最後のダークエルフ
中身が見えてない...
主人公のキャラ弱いなぁ。
空には雲一つ無く、青空が澄み渡り。爽やかな風が若葉を揺らし、木々の間を吹き抜けて行く。優しい光が射す清々しい朝。
俺が、グラムのおっちゃんの勧めで、衛士隊の見習いになってから一月が過ぎていた。
毎日の修練は辛いけど、異世界に来てから初めて充実した日々を送っている。
ジュドー達は、一緒に頑張る【仲間】であり、仲のいい友人だ。
一月も一緒に過ごしてると彼等の癖や仕草、特技なんかも分かってくる様になる。
朝から全力疾走している俺の背後から声を掛けられた。
「おーい、ゼロォ!」
はしりながらふりむくとジュドーも全力疾走で走っていた。
二人共修練場に急いで走っている。
「ん?珍しいじゃん、ジュドーが遅刻なんて。」
「昨日、バイトが遅くってさ…朝寝坊しちまったんだよ。」
今日は、朝から月に一回の特別修練がある。
普段は、訓練士官に指導して貰っているのだけど、この日だけは、スペシャルゲストが指導しに来る。
先月は、騎士団団長が来てくれたらしい。
その時は一日中基礎訓練をさせられたそうだ。
今月は、誰が来るか聞かされてはいないが、遅刻は間違い無く不味い…
遅刻なんてしたら何をやらされるか分かったもんじゃ無い。
なんとか時間内に修練場に辿り着いたので、急いで修練着に着替える。
(…にしても、今日は取巻きが多いな…)
人混みを掻き分け、中に入ると50人位の見習生が来ていた。
既にエルナ達は整列して教官が来るのを、待っていた。
俺達も急いでその後ろに並ぶ。
「遅いわよ、あんた達。
今日は、何の日か分かってるの?しかも、ジュドーまで!」
「悪りぃ、ちょい寝坊した。」
ジュドーが、頭を掻きながら言い訳する。
「まぁ、ゼロは、何時もの事だから気にしてないけどね。」
「ですよね。」
「でも、間に合ったから今日は怒られないね。」
ラバージに迄突っ込まれる…俺って…
見習生達が、一斉に敬礼する。教官が入って来たようだが…一番後ろにいるから何も見えない。
周りが敬礼しているので、俺も慌てて敬礼する。
見習生の間に響めきが起こる。
「何々?誰が来たの?」
歓声が上がる。
「セルフュリア様ぁ〜!」
(えぇー?!此処に来てんの?セルフュリアさん?マジか…)
壇上にサーシャ副隊長とその隣にセルフュリアが立っていた。
セルフュリアさんは、相変わらず凛とした立ち姿で、顔立も神が造形したもうたかの如く美しい。
女子から黄色い声援が、飛びまくっている。
男子だけでなく、女子からも絶大な人気があるようだ。
「えぇい、うるさいぞ、静かにしなさい!」
サーシャ副隊長が、浮き足立っている見習生達を一括する。
「今日は貴様らの為に態々エルフ国大使セルフュリア様に来て頂いている。」
セルフュリアが一歩前へ出てから、
「私の名は、セルフュリア・ド・エルフィン。
今日は、大使としてではなく、一剣士としてお主達と剣を交えに来た。存分に日頃の成果を見せ、遠慮なく我の肩を借りるが良い。」
(どっひゃー、どんだけ上から目線だよ。)
「この場にいる全員の相手をして頂く訳にはいかんので、練武会の成績上位5名のみ相手をして頂きます。」
月一回【練武会】と呼ばれる昇進試験がある。総当たり戦で上位者3名が、試験官と対戦する権利を持つ。
これに受かれば、正式に衛士隊に配属される事になる。
(ふぅ、良かったぁ、俺まだ【練武会】やってないから順位50人中50位だし。)
「上位5名の者は前に出よ。」
呼ばれた5人が前に出る。
皆、屈強で有名な先輩達ばかりだった。
「皆、強い先輩ばかりじゃん。」
「そりゃあ、上位5名だからねƪ(˘⌣˘)ʃ」
「一位のゼンライ先輩なんて、騎士団からもスカウト来てるらしいよ。」
情報通のアリシアが、そう説明してくれた。
「それと、セルフュリア様から指名されている者があと2名いる。名を呼ばれた者は前に出るように。」
再びどよめく場内。
「一人目は、エルナ・イシュタール。」
エルナが、前に出て行く。
「うっそぉ!」
アリシアが驚く。
アリシアだけでなく会場にいる誰もが驚いている。
見習生として、日も浅い少女が呼ばれるとは、誰も予想してなかった。
「もう一名は…」
(…なんか…嫌な予感がする。)
「ゼロ、前に出なさい。」
予感通り、サーシャ副隊長に指名される。
(やっぱり、俺かい!)
「えぇ?!な、何でゼロなの?なんかやらかしたんじゃないの?」
「ゼロ、何やらかしたんだよ!良いから謝っとけよ!」
アリシアもジュドーも俺が何かやらかして、呼び出し食らったと思ってるようだ。
(俺ってコイツらの中でどんなキャラなんだ?)
内心かなり傷付いていた…
「ゼロ、怪我しないでね。」
シェリルが俺に優しい言葉を掛けてくれた。
涙が出そうになるのを堪えて、前に出て行く。
(大体、何で俺が呼ばれて…あっ!)
ある事を思い出した
「他の者は、しっかり観戦するように!
他者の戦闘を見る事で参考になる事は多々あります。
あらゆる戦闘分析も、修練の一つなのです。」
修練場の中央に設置してある闘技場は、四方10mの石畳で造られている。
その中央に、セルフュリアが少し長めの木剣を持って立っている。
「上位5名の者は、まとめて相手をします。
お主等の持てる総ての力を尽くし、心して掛かって来るが良かろう。
手を抜く気は無いのでな。」
5名が、闘技場に上がる。
サーシャ副隊長が、号令をかける。
「それでは、始め!」
号令と同時に2人が斬り掛かり、後方で2人が詠唱に入る。
セルフュリアは、一振りで斬りかかて来る2人を同時に吹き飛ばし。
吹き飛ばされた2人が、詠唱していた2人を巻き込んで闘技場の外へ飛んで行く。
「チェストォォッ!!」
叫びながら、
間髪入れず、ゼンライ先輩が頭上から上段に構えたままの姿勢で、飛び込んで来る。
(上手い!)
死角から飛び込んでスピードに乗った一撃を打ち込む!
当たる!と思った刹那、横薙ぎ一閃。
ゼンライ先輩はくの字になって、壁まで吹き飛んでいった。
数秒の出来事に、場内は静まりかえる。
「最後の攻撃は、まぁまぁであったが、死角を突くのであれば、声など出さず気配を殺して来るのじゃな。そうすれば、少しはマシになる。」
(…ヤバイ、これもしかして大ピンチなんじゃ…何で俺も…)
「それまで!」
サーシャ副隊長が終わりを告げる。
セルフュリアが、木剣を収め元の位置に戻る。
「誰か、そいつ等を救護室へ連れて行け。」
サーシャ副隊長の指示で、
5人は、担いで連れていかれた。
「セルフュリア様ぁ〜、なんてお強いのかしら。」
アリシアが、恍惚の表情で呟く。
セルフュリアの強さを目の当たりにして、場内が騒ついている。
「では、次の対戦を始めます。エルナ、用意なさい。」
エルナが、木剣を2本持って段上にあがり、
一礼して剣を構える。
左手の剣は中段に、右手の剣は上段後方に、腰を少し落とし…構えに隙がない。
(…アレって二刀流?普段は一刀しか使ってるとこ見た事無いけど、それでも俺等の中では剣の腕はずば抜けてた…
普段あまり喋らないけど…エルナは多分かなり強い…」
「それでは、2戦目始め!」
サーシャ副隊長の号令が終わっても何方も動かない。
エルナの額から汗が滑り落ちる。
「お主とは、一度手合うて見たかったのじゃ、
南部の森に住んでおったダークエルフの血を継いでおるお主の事は、気に留めておったからな。」
「…姫様…」
(エルナは、ダークエルフ…?聞き慣れない言葉…
…って何だろう?黒いエルフの事かな?)
「掛かって参れ、剣で語り合おうでは無いか。」
エルナは、一つ頷いて一息に間をつめる。
右左の剣で隙なく剣撃を繋げていく。
一合毎にスピードが増していく、もはや目では追い付かなくなる程に。
場内から響めきが聴こえる。
セルフュリアも最初は避けていたが、徐々に剣で受け始め、反撃どころか受けるので精一杯になってきている。
しかし、
セルフュリアが一瞬霞んだ様に見えた瞬間、エルナの背後に現れた。
エルナの前にいた残像が消える…よりも早く、エルナは回転して背後に剣を回す!
その一撃を受け流しつつ、
「見事!」
剣撃を受け流され、体が流れたエルナへ掌底を撃ち込む!
「!」
腕を固めて受けるが、衝撃を殺せず、後方へ吹き飛ばされ片膝をつく。
すかさず、セルフュリアが間を詰める!
「くっ!」
まだ立ち上がれていないエルナに向けて、剣撃が迫る。
木剣が頭部にあた…らなかった、セルフュリアの剣は何かに弾かれた。
淡い光に包まれているエルナ。
「ほぅ、これは見事じゃ…精霊に寵愛されておるな。
詠唱なしで、精霊の加護を受けられるとは…確かに我等の血を色濃く継いでおる様じゃな。」
セルフュリアは、剣を納めた。
「じゃが、まだまだ精進が足らぬ様じゃな。更に剣の修練を積む事じゃ。」
「はい、今一層励みます。」
跪きそう答えるエルナ。
「うむ…
そう言えば、其方は身寄りがないのであったな…嫌でなければ何時でも我が元を訪ねてくるが良い。其方の為に常に門を開けておくでな。」
エルナは涙ぐみ、
「有り難き幸せです、姫様。」
そう答える。
俺達は、達人同士の戦いを目の当たりにして、その凄さに声も出せなかった。
段上から降りて来たエルナの前の人垣が自然に割れる。
その先には、優しく迎えてくれるジュドー達が待っている。
エルナはそこへ戻っていった。
「実に見事な試合でした、お前達もこれを見習って更に修練するように。」
サーシャ副隊長が、そう言って締め括った。
(次俺だよなぁ…これヤバイな…)
ソワソワしている俺にサーシャさんが近付いて来た。
「セルフュリア様に私が怒られたんだが、貴様何をやらかした?」
(やっぱり…)
「怒ってましたぁ?(^^;)」
「やっぱり、何かやらかしたんだな!」
コソコソ話していると、
「サーシャ副隊長、私も疲れた故、其の者は後程我が屋敷へ連れて参れ。 そこで、稽古を付ける事とします。」
セルフュリアが、稽古の中止を宣言して、さっさと闘技場を後にしたので、
「は、はい、畏まりました…
では、今日の修練はこれまでとします。あとは各自自主練しておきなさい。」
サーシャ副隊長は、そう言いながら慌てて後を追って行った。
副隊長が、ドアから消えると同時に鐘が鳴る。
寄宿舎の隣の建物が、食堂になっている。
衛士から見習生まで、誰もが利用できる。
学生食堂に似ている。
バイキング形式で色々選べる様に成っている。
「オバちゃん何時もの超大盛りね!」
「ゼロちゃん、相変わらず元気だねぇ。」
「育ち盛りだからね!お腹空いてんのさ。」
「わかってるよ。何時ものね。」
食堂のおばちゃんとは仲が良く、いつも超大盛で盛り付けてくれる。
俺はニコニコしながらみんながいる席に着く。
「あんた、ホントよく食べるわね。」
アリシアが、呆れたように聞いてくる。
俺は口いっぱいに料理を頰張っているので、
「ばって、ぼなかがぶいべるんぶぁからびがだなあばろ!」
「食べるか、喋るかどっちかにしなさいよ。」
アリシアが、怒る。
そんな何時ものやりとりを見て、エルナとシェリルが笑っている。
「それにしても、エルナがダークエルフの末裔だったなんてなぁ。」
ジュドーが、切り出した。
「ホント、驚いたわ。エルナ教えてくれないんだもん。」
アリシアがチョットふくれ顔になる。
「うん。ごめんなさい、なかなか言い出せなくて…」
エルナが、俯く。
「私達みんな、エルナの親友だよ!」
「だな、もっと信頼しろよ。俺達は何があってもお前を信じてるからさ。」
ジュドーも親指を立ててそう話す。
「うん、ありがとうみんな。」
シェリルは優しくエルナの肩を抱いている。
「そうだよ!俺、エルナ大好きだし、信用してるぜ。」
シェリルが、ピクってなった気がした…
「ところで…ダークエルフって何なの?」
「はぁあ?」
一斉に言われた。
「あんた、マジで言ってんの?ダークエルフを知らない人がこの国に、否この世界にいるわけ無いわ。」
(異世界人だからね…)
「…」
「ホントに知らないんだ…アンタそう言えば、出身どこだっけ?」
アリシアが、聞いて来た。
「そう言えば、聞いた事ないな?」
ジュドーも、
(今まで、聞かれてないから答えなかった…
ホントは怖くて言えなかった。俺が、異世界人って分かったら…避けられたり、嫌がられる気がして…)
「…」
俺は口を開けなかった。
それを察してくれたのか、シェリルが話してくれた。
「言いたく無い事は、誰にでも在るわよね。
話したくなるまで聞かないのも親友としての優しさだと思うの。」
「そうね。私も私の一族の話をするのは怖かったし、皆に言えなかったから…」
そうエルナもフォローしてくれた。
「そうだなぁ、話したくなる迄俺は待つぜ。」
ジュドーも、
(コイツらホント、いい奴らだなぁ…)
俺は、少し話してみようかと思い。
「俺さ、出身地が無いんだよ…」
「え?出身地が無いの意味が分からない、どういう事?」
アリシアが訊き返す。
「俺【転生者】なんだ、だから敢えていうなら、出身地は異世界かな。」
「!」
「アンタね!嘘つくならもう少しマシなのにしなさいよ。」
アリシアに怒られる。
「だよな、毎日遅刻するし、大飯食らいだし、掃除も洗濯もしないし、トラブルばっかりおこすし…」
ジュドー…お前…
「ですよね、何でもすぐサボるし、めんどくさがりだけど、優しくって、困ってる人はほっとけないし…」
シェリルは、少しフォロー入ってるな。
「天然ボケだけど仲間想いで…」
エルナまで…
「モゴモゴ…」
ラバージ…まだ飯食ってんのか∑(゜Д゜)
「まぁ、そんな奴が【転生者】なわけは無いわね。
出身地言いたく無いならもう聞かないわよ。そんなの知らなくても仲間は、仲間でしょ。」
アリシアが締め括った。
(ホント、お前等大好きだよ。)
「ゼロ君が、ホントに知らなそうだから教えてあげるわ。
ダークエルフのこと…」
シェリルが、話してくれた。
5年前迄、西の大森林にはエルフの王国があり、南の森林にはダークエルフの王国が栄えていた。
西と南のエルフ族はお互い親密関係にあり友好的に付き合っていた。
5年前、北の帝国が戦争を起こしル=シャルロット王国を侵略しに来るまでは…
帝国は西と南のエルフを仲違いさせ、ダークエルフを騙し【精霊の加護】を奪い去った挙句、南の森林を焼き滅ぼした。
【精霊の加護】を手に入れた帝国は勢力が増し、シャルロット王国は劣勢に追い込まれたが、西のエルフ族の助成により帝国を退けることに成功した。
南の森林は焼き尽くされ、ダークエルフも一握りの生き残りを残すだけとなる。
生き残りのダークエルフ達は、シャルロット王国から庇護を提案されたが断り、エルフィン王国に身を寄せることも無く、自分達一族の非を恥じながら自害して逝った。
エルフィン王国の王は悲嘆に暮れ、いまなお 聖域に引き篭もっていると言われている。
エルナは、その途絶えたダークエルフの血を受け継いでいるのだ。
話を聞き終えた俺は、
「…軽く言える話じゃ無いかも知れんけど、エルナには、俺達がいる!セルフュリアも何時でも来いって言ってたし、エルナは1人じゃ無いからな!」
「うん、ありがとう。ゼロ。」
「ちょ!アンタ今、セルフュリア様を呼び捨てしたわね!」
(あ、つい…)
アリシアに足蹴にされる。
「あー、ごめんなさいぃい、あぅ!」
「だいたい、何でアンタがセルフュリア様の個人レッスン受けれるのよ?なんかやったんでしょ?白状しなさいよ!」
アリシアに、更に暴行されそうになった時、
「おい、お前がゼロか?」
ブリッツ先輩が、声を掛けてきた。
「はい、俺です。」
「サーシャ副隊長が呼んでおられる、急いで行き給え!」
「はい。」
急ぎ足で、その場から逃げ出す。(アリシアの暴力から…)
精錬棟(衛士が、勤めている建物)は、寄宿舎から食堂を挟んで反対側にある。
最上階に執務室があり、そこには衛士長等上級士官が数名詰めている。
昇降機に飛び乗り、急いで最上階まで上がる。
(サーシャさん、待たせると機嫌が悪くなるからな…)
執務室の前で、扉をノックして待つ。
「入れ。」
扉を開き、中にはいる。
「失礼します。」
何時もの様にグラムのおっちゃんとサーシャさんがいた。
グラムのおっちゃんが、
「わざわざ済まんな、ゼロ。」
「なんかあったんすか?」
この人当たりの良いおっちゃんに、俺は気軽に話しかける。
「ふむ。実はな、エルフィン王国のセルフュリア大使殿下が、お前を御指名されていてな。
聞けば、特別修練でもお前を名指ししたらしいしな。」
(やっぱり…怒ってるよな…)
「貴様今度は何をやらかした!」
サーシャさんにも問われれ、
挙動不審になる俺。
「…はぁ、全くお前は何時も面倒ばかり起こすな。」
大きく溜め息をつくサーシャさん、
「まぁ、何をしでかしたのかは敢えて聞かない事にしよう。聞いてしまうと、こっちに迄とばっちりが来るかも知れんしな。
エルフィン王国は、我が国にとっては大恩ある国でな、セルフュリア様はその国の皇女様であられる。
まぁ、殺される事は無いだろうが、呉々も粗相が無いようにな。」
(オィィ、おっちゃん怖い事言うなよ…)
「セルフュリア様の面会は、夕刻18:00にしてあるので、遅れぬように。」
「まさか、俺一人っすか?」
「そのまさかだ、貴様一人で来るようにとの仰せだ。」
「まぁ、頑張ってこい!」
グラムのおっちゃんが、何時に無く険しい顔だった。
其れ位、セルフュリアは、重要人物なのだろう…
(気が重いなぁ…)
――――――――――――――――――――――――――
王侯貴族が暮らしている王都北地区の西側にエルフィン王国の大使館は建っている。
広大な敷地面積を有し、門の前から中を見るが建物は見えず、門を抜けて中に入ろうとして門衛に止めれたが、名前を告げるとすんなり通してくれた。
門から中にはいると森林が広がっており、更に20分程、その森林を歩いて行くと開けたところに出た。
大きな2階建のお屋敷があり、森と一体化している印象を受ける。
正装して行く様に言われたので、窮屈な格好で小剣を腰に下げている。
高さ3mはありそうな綺麗に細工が施された扉の前に立ち、
呼び鈴を鳴らす。
程なくして、扉が開く。
中は、シンプルな作りではあるが綺麗に清掃されている。
奥の階段までレッドカーペットが敷いてあり、その両側には、エルフのメイドさんが並んでいる。
執事らしきエルフの男性が、此方の方へ歩いてきて、
俺に一礼する。
「お待ちしておりました、ゼロ様。
私は、このお屋敷で執事をしております、ミランジュと申します。
この度は、態々当家の主人の為にお越し戴き有り難うございます。
彼方に席を用意しておりますので、お待ち頂けますでしょうか。
私共の主人の支度が整い次第此方へ参ります故。」
「あ…はい。」
(なんか思ってた雰囲気と違うな…もう少し雑な扱いかと…なんか丁重にされてる感が…)
∑(゜Д゜)
(まさか、持ち上げといてドン底に叩き落とすってヤツか…)
執事のミランジュさんに促され、ついて行くと一階の客間に通された、置いてある家具の細工がどれも手が込んでいて素晴らしい物ばかりだった。
12人掛けの長テーブルも、一枚板で出来てるし、椅子も有名な細工師が作った様だ。
いままでの御屋敷や建物は、何処か近未来的な感じだったのだが、ここは中世のヨーロッパ建築に何処と無く似ている。近未来の要素が何も見当たらないのだ。
待っている間、メイドさんが持ってきた香りの良い飲み物を飲んでいた。
(アンティークが多いなぁ、気品を感じるな。)
執事のミランジュさんが、戻って来た。
「ゼロ様、お待たせ致しました。支度が整いましたので、おいで下さいませ。」
(そろそろ年貢の納め時かな…どんな罰が待っているんだろう…)
俺は不安だらけだった。考えても始まらない…
あった瞬間にまず謝ろうと決めていた。
今度は、謁見の間に案内された。
奥行がかなり有り、一番奥に席が置いてある。
そこには、セルフュリアが座っていた。
扉を閉め、振り向き傅きながら、
「姫様、お待たせ致しました。ゼロ様をお連れしました。」
「ご苦労でした、貴方は下がりなさい。しばらくは誰も通さぬ様に!」
「…畏まりました。」
そう言うと、執事のミランジュさんが退出する。
ドアが閉まったと同時にスライディング土下座した。
額を床に擦り付け、
「すんませんっした!セルフュリアさんとの約束を
一月も放ったらかして!」
「あぁ…ん、頭をお上げくださいませ。」
いつの間にか、側にきて俺の手を取り立ち上がらせる。
(ん?あぁ…ん?)
純白に金の刺繍が入った綺麗なドレスを着た、神の造形し賜うたように美しい容姿のセルフュリアが、目の前に立っていた。
セルフュリアさんは、いい匂いがする。
俺が立ち上がると同時に、セルフュリアさんが跪き俺に傅く。
「良くぞお出で下さいました、ゼロ様。」
(あれぇ?これなに?この展開ってなに?)
俺の頭の中は、混乱しまくりだ。
一月前、「後で話せる時間作る」って言て今日迄、連絡もしなかったのは、俺だよな?
「あの…セルフュリアさん、〈後で話す時間作る〉って言っておいて今日迄放ったらかしてしまって、すみませんでした。」
「あぁ、このような卑しき身に貴方様が、謝る必要などございません。
この一月、ゼロ様にお会い出来る日を心待ちにして、貴方様に逢えぬ日々に想いを募らせ、お慕い申しておりました。」
セルフュリアが顔を上げると、
俺を見つめる瞳が潤み、頬を赫らめている?
「この様な気持ちになったのは、400年以上生きてきて初めてで御座います。
朝の修練場では、貴方様のお顔を拝見しただけで、心の臓が張り裂けんばかりに高鳴り、居た堪れず逃げ出してしまい…申し訳ありません。」
セルフュリアさんが、半泣きになる。
(…セルフュリアさん、恋してる?みたいだ。しかも、俺と先生とを勘違いして…る?)
「セルフュリアさん、ゆっくり話しませんか?
一月前の約束を果たします。」
(これは、早いうちに誤解を解いとかないと…)
2階のテラスに出る、日が暮れ辺りは暗くなっていたが、夜空に浮かぶ2つの月の灯りに照らされ、セルフュリアの美しさをより際立たせる。
(どう話したものか…)
考えあぐねていると、セルフュリアの方から話してきた。
「お尋ねしたいのですが、ゼロ様は何処からお出でになられたのですか?
貴方様の事は、風の噂にすら聞いたことがないのです。
この世の事象は、総て精霊達が教えてくれるのですが…」
「俺は、一年前に異世界からやって来た【転生者】です。」
隠し事はしない。
「では、やはり…貴方様は…」
セルフュリアは、俺を見つめる。
「…多分、セルフュリアさんは勘違いしてると思う。」
「勘違いでございますか?」
「俺は、【転生者】だけど何の力も持ってないんです。
異世界から転生して来たのも…唯の偶然だし。」
「いいえ、勘違いなどではごさいませんわ。
貴方様の御霊の輝きが私には見えております。…今は二つに別れているようですが…それでもその御霊が持つ御力は、我等に古より伝わる原初の神の御霊そのもの。」
「!」
(…魂が2つって…セルフュリアさんには、もしかして先生が見えてるってこと…?先生と俺を勘違いしてる訳じゃないのか…?)
「ゼロ様のその2つの御霊の波動を感じ、
誰にも傅く事のない我が精霊達ですら、畏怖と畏敬の念をもって平伏しています。
御迷惑でなければ、貴方様に幾星霜の刻を何処までもお仕えさせて頂きたく思います。」
真摯な眼差しで俺を見てそう告げるセリフュリアさん。
「セルフュリアさんが、俺に仕える?」
「はい、御主人様」
ドレスを少しつまみ上げ、優雅に一礼してみせるセルフュリアさん。
「あ、いや…ちょっと待って、俺に仕えるとかありえないっしょ?
セルフュリアさんより、俺の方が弱いし…地位も名誉も持ってないよ?」
「その内に秘められた偉大なる〈御力〉は隠しようも無く。
人が定めた地位や名誉など貴方様には意味がございません。」
「あ…いやでも…」
「お願い致します、私をお側に。」
強固な意志を秘めた瞳だった。
(ふぅ…駄目だな、どうあがいてもセルフュリアさんの意志は変えれないだろう…)
「セルフュリアさんが、俺に仕えるのには流石に抵抗があるから…友達から始めてみようよ。」
「御心のままに、御主人様。」
セルフュリアさんは、嬉しそうに微笑んでいる。
「あと人前では、敬語禁止ね。」
(エルフの皇女が、衛士見習いに敬語使ってたらおかしいしね。)
「では、私の事も〈セルフィ〉と愛称で呼んで頂けますか?」
耳まで真っ赤になって、セルフュリアさんがそう言う。
「ちょっと恥ずかしいけど、これからそう呼ぶよセルフィ。」
「!」
セルフィは、雷に打たれたかの様に倒れかけたので俺が抱きとめる。俺に抱かれているのを見てそのままセルフィは気絶した。
(おいおい、何で気絶したの?もう何が何だか分からん…)
気絶したセルフィを寝室まで運び、執事のミランジュさんに、顚末を話して看病を任せる事にした。
(気絶した顚末を話した時のミランジュさん何か驚いてたな?また地雷踏んでないよな…)
翌日、セルフィから手紙が届いた。
内容は、
〈俺への礼と、エルフの剣技を教えるから毎日屋敷まで修練に来て欲しい〉
と書いてあった。
俺は、その言葉に甘えて次の日から毎日大使館に出入りする様になった。
次から強くなって成長した姿を書くとおもいます。