プロローグ4 ドワーフとエルフと
少しづつ前に進んでます。
だんだん、仲間を増やしていく予定なので、ヨロシクっす。
ル=シャルロット王国、王都セルアル。
中央に城があり、東西南北に自治区が分かれている。
東側は、衛士や騎士達の地区。
南側は、庶民が暮らしている地区。
西側は、商業や工業が盛んな地区。
北側は、王侯貴族が住んでいる富裕層地区。
昨夜遅くまで続いた宴席で、
俺が、金も住む所もないと知って、ティエラさんが暫く居候させてくれる事になった。
人の姿でゆっくりベッドで寝たのは1年振りだった。朝起きて顔を洗いに行き、鏡に映る姿に、驚愕した。
其処には前の世界の顔と姿形をした俺が居たからだ。
朝早く目が覚めたので、外に出て散歩しようと2階から階段を降りて行く。
カウンター越しに、俺が降りて来るのに気付いた恰幅の良いおばさんが、声を掛けてきた。
「おや、もうお目覚めかい?お客人。」
「えぇ、おはようございます。」
俺は、カウンターまで歩いて行き挨拶した。
「あたしは、この店の給仕長を任されてる、ジョワンナってんだ。
あんたの面倒見るように、ティエラ様から仰せつかってるからさ、なんでも言っとくれ。」
「そうなんすね、俺はゼロって言います、ヨロシクっす!」
(気さくな感じのおばさんだな。)
「ついでにうちの娘達も紹介しとくよ。」
奥から4人のメイド服の女の子達のが出てきた。
「お前達、自己紹介おし。」
左から
赤い髪をポニーテールにした少し小柄なかわいい感じの女の子。
「シャロンですぅ~。」
濃い紫の髪の長身の女の子は美人系かな。
「セシルです、よろしくお願いします。」
長い黒髪を編み込んで、後ろで束ねている。美人系のお姉さん。
「シェリーヌと申します。」
最後の娘は、たぶんアンドロイドメイドさんだな、白金髪で長い髪、すらっと伸びた手足、肌は少し透き通っている金属的な感じだ。顔立ちはすっきりしているが、瞳が明らかに人とは違う機械的な…
「お初にお目に掛かります。ルナと申します。」
「ルナちゃんは、最新型のアンドロイドメイドさんなんですぅ~。」
シャロンちゃんが、俺の戸惑ってる様子を見て答えてくれる。
「まぁ、これからこいつらがあんたの世話するから、よろしく頼むよ。」
ジョワンナさんが、そういうと女の子たち全員が声をそろえて、
「よろしくおねがいしま~~す。」
と挨拶してくれた。
女の子達は、挨拶が終わるとそれぞれの与えられた仕事に戻っていった。
「ジョアンナさん、ちょっと街の散策に行ってきますね。昼までには戻りますから、」
そう言って、ラフなスタイルで街に繰り出していく。
「気を付けて行っといで~。」
明るく送り出してくれるジョアンナさん。
昨日は、色々あって街の見学なんて出来なかったからなぁ。
それにこの世界のお金持ってないからなんとかして稼がないと...なんかバイトとかないかな。
(ま、探してみるかな。)
街を歩いていて、朝から行き交う人々の多さに気づく。
この辺りは商業地区だったよな、それにしても賑やかだなぁ。
『ここは人間種が多いな。』
(おや?先生起きるの早いですね!)
『主は何を言っておる、わしは睡眠をとることはないぞ?』
(そうなんすか?)
『そんなことよりもここは何という場所じゃ?これほどの人間種が棲息しているとは、かなり繁栄している文明なのだな。』
(そうみたいですね...)
俺にわかるわけないっしょε-(´∀`; )昨日来たばかりっすよ。
よく見れば、いろんな種族がいるなぁ、猫耳や犬の耳が頭に生えてて尻尾もある、あれは獣人族だろう、ドワーフやエルフの姿も見える。あとは、角の生えた人?鬼かな?それに流線形の金属のような肌を持ってる人、たぶんアンドロイドだろうもちらほら歩いてる。
サイボーグ馬に乗る人や荷馬車も行き来し、空には飛空艇が飛び交っていた。
商業地区というだけあって、ショッピングモールのような建物やレストランが建ち並んでいる。
いろんなサイン看板が、お客さんを吸い寄せている。
(それにしても、かなり文明は進んでるよな…俺が居た世界の未来みたいだよ。)
『おぉ、なんじゃあれは?』
(町には塵一つ落ちてないし、建物にまで手の込んだ装飾が施されてて…)
『ぬぉぉ!船が空を飛んでおるぞ!』
(…ってさっきから頭ン中で先生が五月蠅過ぎる。)
『あれは何じゃ?こっちのは何なんじゃ?』
(あ~~~っ、もうなんすか先生、そんなに物珍しいんですか?)
『あぁ、すまぬな、あまりにも目新しいものが多くてな、年甲斐もなく興奮してしもうたわい。』
(楽しんでいただけてるなら良いんですけどね。)
しばらく歩いて行くと人集りが出来ている。
人垣を掻き分けて中に入っていくと、小柄でズングリしている男とスラっとした華奢な体系の女性が口論しているようだった。
(あれって、ドワーフとエルフじゃないっすか?)
野次馬の方達の話を聞いてみると、ドワーフの方はこの先の工業地区で働いているらしい。
エルフの方は、旅人か観光客かもしれない。
口論の原因は、どうやらそこのドワーフの男が開発している最新の【魔霊機関】についての様だった。
そもそもドワーフとエルフは種族間で争いが絶えないらしい。
お互い長命の種族であるが、その思想や根本となる生命の構造が違うのだろう。
「お前さんも頭が固いのう、精霊の力を【魔霊機関】に組み込むことでどれほど技術が飛躍するか。」
「そんな話ではないと何度も言っておろう、頭の固い醜きものよ。
精霊は自然の加護そのもの、創世の時代より存在し、今なお我らに力を貸してくれている。
その御力を、あろうことか【魔霊機関】なる卑しい機械に使おうなどと、不遜が過ぎるのも大概にするがよい!」
「頭が固てーのはどっちだよ。嬢ちゃん」
呆れたように頭を掻いているドワーフの男。
「嬢ちゃんと呼ぶな醜き若造が!こう見えても400歳を超えておる!」
(まじか!どう見ても18・9歳位にしか見えねぇ~ぞ?)
「これ以上、口論しても拉致があかん。その身に直に教えるとしよう。」
エルフのお姉さん?が腰の細剣に手を掛ける。
「やろうってのかい、エルフの嬢ちゃん。」
ドワーフの男は、大槌を構える。
(段々過激になって来たなぁ、このまま騒ぎが大きくなると衛士隊が来そうだな…)
かと言って、さっきより野次馬が増えたこの人垣の中を抜けるのはもう難しいし…
(…仕方ない。)
この状況で、出来る選択肢は一つしかないな…
仕方なく、今にも戦闘になりそうな二人に、近付き声を掛けた。
「ちょっと、ゴメンね。」
殺気立っている二人が同時にこちらを振り向き、
「何だ、小僧。」
「なんじゃ、お主?」
「こんな街中で、朝っぱらから騒ぎ起こしてたら衛士隊に捕まっちゃうよ?」
「お主には、関係なき事じゃ、捨て置かれるが良かろう。」
エルフのお姉さんの話し方は古臭い感じがするな。
400歳ならそんなものかなと思いながら、
「こっちにも事情がありまして、そう言う訳にもいかないんだよね。」
朝から宿を抜け出して散歩してるのが、サーシャさんにバレたら…たぶん殺される_:(´ཀ`」 ∠):
今のところまだ、監察対象者だし…
「お主の事情など知らぬ、下がっておれ怪我をするぞ。」
どやらエルフのお姉さんは、引く気がないみたいだ。
ドワーフの男は、そのやりとりの間、ずっと俺を観ている。
(…さてどうしたものか、仲裁に入ったは良いけど何も考えてなかったし…)
『…主の行動はいつも突拍子がないのぉ。何も考えておらぬから出来るのだろうがな。』
(人を阿保みたいに言いますね(ー ー;)
…にしても俺って戦闘力は皆無なんだよね…こないだも大広間で意識がないうちになんか終わってたしな…)
あとで先生に聞いたら、『主の意識が消えれば、我の意志で肉体を動かせるのは道理。』とか言ってたし…大体、勝手に人の体使って悪びれもせず…って魂半分先生のだからいいのか?
(これもし、戦いとかになったらどうなります?先生。)
『主は、己の能力や力量もわからんのか?我の【魂の半身】がこれほど阿保だとは…頭が痛くなるわ。』
言われ放題だが本当のことだから言い返せない…
(なんか、すみません。出来れば教えて貰ってもσ(^_^;)
『仕方ないのぉ、簡潔に説明してやろう、
主は、我と魂の融合をしてまだ日が浅いためその能力の一部しか使えぬ。今使える能力は以下の通りじゃ。』
個体名:ゼロ(ヒューマンモード)
HP560 MP120
通常スキル:高速移動、高速演算、自己修復(回復小)、
特殊スキル:火耐性、水耐性、風耐性、土耐性、闇無効、魔無効
個人スキル:肉体形状変換、痛覚遮断、
固有スキル:黒の波動。
『今の主ではこのくらいじゃな、魂が完全に融合してしまえば、我の全ての能力が使えるようになるのであろうが…
技や技能・魔法といったものは、主の鍛錬と努力でしか養われん。』
(基本スペックくらいしかないってことっすね(/ _ ; )
あとはレベル上げるしかないと…)
大体の能力は解ったけど戦闘に使えそうなのはないので、ここは穏便に持っていきたい…
「えっと…エルフのお姉さん、一先ず剣を納めない?」
「黙るがよい!この地の底に住む醜き者は、その高潔なる精霊の力を我が物顔で使おうとしておるのに許されるわけがなかろう!其方も邪魔するのであればここで斬って捨てる!」
エルフの姉さんが細剣を抜き放つ、良く手入れされた美しい刀身が朝日を反射して光っている、
(やっぱりこうなるよね…)
「仕方ない、あんまり気が進まないけどここは僕が相手するよ。」
そう言って、剣の形をイメージして、意識を右手の平に集中させる。
数秒後、右手にロングソードを握っていた。【肉体形状変換】でロングソードを生成してみた。
その光景を目にしていたドワーフの男が、
「な、なんだと…?物質形状変化じゃと…しかも己の肉体を使って!とは…なんじゃ、あの体…」
驚き目を丸くして、そう呟いている。
「エルフの姉ちゃん、じゃあこっちから行くぜ!」
俺は、剣を斜に構えて腰を落とす。
「笑止!たかが人族の分際で、私と剣を交えると言うのですか!」
エルフの姉ちゃんが自然体で構えてるのにどこに打ち込んでも交わされるイメージしかわかない。此れが隙がないってことなのか、と感心しながらも…
俺は一息に動く。
「ほう…」
エルフのお姉さんが少し目を細める。
俺は、【高速移動】のスキルで、人の目にも映らないくらいのスピードを出し攪乱してみる。
(うまくいってるのか?)
一頻り攪乱してから背後に回る。
エルフのお姉さんは反応しきれていないようだ。
振りかぶったロングソードを振り下ろしながら、
(いける!)
そう思ったとき、
「…話になりませんね。」
エルフのお姉さんは振り返りもせず、俺の一刀を跳ね返していた。
弾かれた反動で俺は吹き飛ぶ、立ち上がろうとする喉元に細剣の切っ先が突き付けられる。
「人族にしてはかなりのスピードだが、ただそれだけだ気配も消しておらぬし技も稚拙。
修行が足りぬな、ここまでのようじゃ。」
(ダメか…)
エルフのお姉さんの瞳と剣先に殺気が走る…が剣は動かない。
俺が発している波動に気づいたのだ。
【黒の波動】
「こ…これは…この波動は…お主…いや貴方様は…」
エルフのお姉さんの瞳がかなり動揺している。
それはドワーフの男も、その場にいた亜人種にも同じ現象が起こっていた。
(あれ?刺されてない?っていうか皆の反応が…おかしくない?)
『お主が今無意識で放っておる【黒の波動】は、我の力の一端だからな。感知力の高い種族には、わかるのであろう、我の偉大さがな!がははははっ。』
(なんすかそれ?ただの先生の自慢っすか?!)
その時、
「お前達、そこで何をしている!隊士は、この鬱陶しい野次馬共を追い払え!」
衛士隊にてきぱきと指示を出している、
聞き覚えのある声…
(超…まずい予感…)
野次馬が居なくなり、俺達は衛士隊に取り囲まれる。
装飾の施されたハーフプレートに面付きの兜をつけた衛士が前に出る。
「セルフュリア卿、エルフ大使である貴女様が、お供も連れず街にお出になるとは。
それにこの騒ぎは一体何事ですか?」
「そのエルフの嬢ちゃんは儂と口論になってのう。」
ドワーフの男が、前に出る。
「ガルバ技師長!あなたもこの騒ぎに?全く何をして…」
こっそりその場から立ち去ろうとする俺の姿を見て、
「…ばれましたか( ゜д゜)」
「貴様…ここで何をしている?」
この後の展開は言うまでもなく、俺はこっ酷く叱られ、衛士隊舎へ連れていかれた。
エルフのお姉さんとドワーフの男は、お咎めなしで放免されたようだった。
――――――――――――――――――――――――――
王国の東地区の南側に衛士隊の隊舎がある。修練場や寄宿舎も並列して建っており、国の治安自治を任されている。
一番隊舎には執務室があり、隣には大会議室が設けられている。
俺は今朝の一件で、その執務室に連れて来られていた。
頑丈で重そうなデスクと椅子が置いてあり、応接セットも設置されている。本棚には難しそうな書物が並んでいる。
サーシャ副隊長にシコタマ説教を喰らい、やっと解放されると思いきやここに連れて来られた。
(サーシャさん、超怖ェェェ。あんなに怒らなくてもよくない?
マジで苦手だあの女性。それに早く帰らないとジョワンナさん達が心配するかも…)
程なく、入り口の扉が開いた。入ってきたのは、|グランノーツ衛士隊隊長とサーシャさんだった。
「よぉ、ゼロ君。君はよくトラブルに巻き込まれるようだな。」
やれやれという感じでデスクに寄り掛かる。
「お前は、何をやっているんだ?自分が経過観察中だという自覚はないのですか?」
サーシャさんはまだ怒っていた。
「ホント、すんません。」
「まぁ、その位にしてあげなよ。
そこでなんだけど、ゼロ君。俺の隊へ入らないか?」
藪から棒にそう言ってきた。
「は?俺が衛士隊に入るって事?」
「隊に入るといっても正式に入隊してもらうのではなく、見習いとしてではあるんだが。」
「見習いっすか?」
「うむ。昨晩の話では職もないといっておったのでな、お給金も出るし、剣などの修行とかもできるぞ。色々な処に出入り出来るようにもなるし、我等としても、監察対象者が近くにいるのは助かるしな。」
(お給料がもらえるのか…)
ちょっと心惹かれるな…剣の修行もしたいと思ってたし…
「それじゃあ、お言葉に甘えて見習いになります。」
ほぼ即答だった。
「おぉ、良かった。ではサーシャ副隊長の下で見習い衛士となって働いてくれ。」
「!」
満面の笑みで毒を吐くとはこのことか!
サーシャさんの下で働けって言いやがった!そんな恐ろしい事できる筈がない。
「あ…いや、ちょっと、ま…」
「何か不服か?」
サーシャさんの冷たい声が聞こえた…
「いえ!喜んでお引き受けします。」
これから先の日々が苦難と恐怖に満ちていることを予見した…
(なんだこれ?一体何プレイだよ(T ^ T)
「それでは、初任務を与えます。工業区の【魔霊機関】研究所へ同行しなさい。」
――――――――――――――――――――――――――
王都の西区北側が工業区になっている。
魔霊機関の研究や様々な機器を開発・生産している地域であり、最先端の技術の集大成がここにある。
主にドワーフ族が住み込みで働いているが、人間の研究者も多数いる。
工場は常に働き手を供給しているし、ここもかなり活気がある街だった。
地区の中央に地上15階地下6階建ての近代的な建物が建っていた。
総ガラス張りで重要施設機関は重要度に応じて地下の改装で研究されている。
地上階はデータ管理や演算解析などがメインで動いている。
俺は、サーシャ副隊長に同行してその建物を訪れた。
1階の受付で面会の依頼をし、15階の応接室へ通された。
そこに待っていたのは、今朝のドワーフの男だった。
「足を運ばせてすまんな、腰を掛けてくれ。」
促されるままに副隊長と俺は長椅子に腰掛ける。
「自己紹介がまだだったな、俺はガルバ・ドワルドここで技師長をやっておる。」
握手し、再度長椅子に座る。
(このおっちゃんもお偉いさんかよ。人は見かけによらない…そういやドワーフだった。)
「それで、ガルバ技師長。私共を…ゼロを呼び出した理由をお聞かせ願えますか?」
サーシャ副隊長が、冷たく言い放つ。
「あぁ、すまんね。彼に少し質問があってね…
すまんが、彼と二人きりで話がしたいのでな、サーシャ殿は別室で待って居てもらいたい。」
「なっ、それは一体どういう…」
サーシャが喰って掛かろうとするが…
「これは王国の最重要機密に値するかもしれない話なのじゃ、其方が居ては何かと不都合があるでな。」
そういうと秘書みたいな人がやってきてサーシャ副隊長を別室へ連れて行った。
サーシャも不承不承ではあるがそれに従う。
「さて小僧、いやゼロ殿。少し質問しても良いかな?」
ガルバ技師長が気難しい顔で聞いてきた。
「俺にわかる範囲ならなんでも答えますよ。」
「おぉ、それは助かる。
それでは最初の質問じゃが、ゼロ君。君は一体どこから来たのかね?」
(答えていいのかな…)
『この者の思考は好奇心だけで動いておるようじゃし、普通に答えてやってもよかろう。』
(先生がそう言うなら。)
先生からの了解を貰ったことだし、
「俺は、異世界からここにやってきました。」
「なんと【異世界人】だったとは!道理で…
だがよ、その肉体はアンドロイドだろう?体内に【魔霊機関】を有しておるにも関わらず、生体エネルギーを有し、尚且つ思考と行動も生身の人間と何ら変わらない。その体組織もどんな物質を使っておるのか…どんな原理なのか全く理解できん。」
(一見しただけで分かるのは凄いな…でも、その答えは俺にもわからないっすよ、先生に聞かないと…)
『我が、話しても良いのか?』
「それは、俺では答えられないんでわかる人に代わるっすよ。」
「?」
ガルバ技師長も何の事か解らず戸惑っている。
(じゃあ先生おねがいします。)
そう言って意識を先生に渡す。
「小さき者よ、其方の質問には我が答えてやろう。」
目の前の少年の雰囲気がさっきまでとは全く別物になったのは一目瞭然だった。
それは少年が放つその圧倒的な【存在】感によるものだろう。
「こ・これは…」
ガルバ技師長が恐れるのも仕方ない…
それを気にする風もなく先生は語り始める、
「一度しか言わぬから心して聞くのじゃぞ。そもそもこの肉体に使われている【魔霊機関】は不完全な擬似回路で作られておる、
魔霊核を生命エネルギーの代わりに組み込んであるが、先ずそこから変えねばならん。
魔霊石を精製する段階で生命の源である精神体を組み込み精製することで生命エネルギーに近い核が造れるのじゃ。其の方等が精製する技術力にもよるがの。」
「な・なるほど…」
「この肉体は、アンドロイドではなく【人造生命体】の完成体といえるものじゃ。」
「【人造生命体】、それは神話で語られる失われた技術では…」
ガルバ技師長は青ざめていた…それは神の領域に踏み込む技術だったのだ…
(もしかして、あんまり先生に話させちゃ…ダメなのかも…)
俺は意識を集中させる。
「ん?もう御終いか?つまらんなぁ。」
(先生の話は刺激が強いみたいなんで…あとは俺を介して話しましょう。)
先生と入れ替わって元に戻る。
「ちょっと刺激が強すぎましたね。あとは時間かけてゆっくりということで…」
俺の言葉で我に返ったガルバ技師長、
「今のは…一体、いやそうじゃな、あとはゆっくり聞くとしよう…」
「異世界の話でもしましょうか?色々参考になるかもですよ。」
「そうだな、それも楽しみだのう。」
気を取り直して、ガルバ技師長が興味津々の顔で俺の話を聞いていた。
1時間以上話した俺達は、意気投合した。
なぜか技術顧問にされていたが…まあ、たまにきて異世界の話をするだけでいいみたいだし、給料も貰えるようなので良しとしよう。
技術研究所を後にした俺達は、隊舎に戻る。
その道中で、サーシャさんに根掘り葉掘り聞かれたのでかなり疲れた…
宿舎に戻る前に聖夜の雪亭によって事のあらましを説明してから昼食を頂き、隊舎に戻った。
サーシャ副隊長は報告があるといって、俺に待機命令を出し足早に去っていった。
(隊舎からは出ちゃダメみたいだからその辺歩いてみるか。)
しばらく歩いていると声を掛けられた。
「おーい、君ィ~。」
振り返ると同じ見習い服を着ている若者が5人立っていた。
男の子が2人に女の子が3人。みんな年恰好は俺と同じくらいみたいだった。
「君も見習い?」
声を掛けてきた青年が、気軽に話しかけて来た。
「ん?あぁ、そう今日入隊したんだ。」
久し振りに同い年の奴と話してちょっと緊張してるな俺…と自己分析してみる。
「新人君かぁ、俺達も最近入隊したんだけど、仲間がもう一人増えたな。
とりあえず自己紹介しようぜ。」
ジュドー:声を掛けてきた黒髪で短髪の青年。
アリシア:茶髪でツインテールの女の子。
シェリル:緑の髪が肩まである女の子。
ラバージ:金髪の青年。ちょっとぽっちゃりしている。
エルナ:褐色の肌に黒髪の女の子。
「俺は、ゼロ。よろしくな!」
どうやら彼らは、修練場へ行く途中だったようだ。
歩きながら色々話してみた、
彼達は皆、辺境地区からここへ来たらしい。
年に1回ある採用試験を受けに来て合格したそうだ。(試験は誰でも受かるそうだが…)
どうやらジュドーがここのリーダーっぽいな。
見習いの仕事は宿舎の掃除や給仕の手伝いが主らしく、護衛任務や通常の職務はなかなか回ってこないらしい。
毎日修練場で剣や体術の訓練をしているらしい。
上等訓練士に勝つことができれば、正式に衛士隊へ入隊となるそうだ。
「俺が憧れているのは、やっぱりグラムノーツ衛士長だなぁ。」
ジュドーがそう言い出した。
「俺も俺も。」
ラバージも共感する。
「王国最強の剣士。やっぱ男のロマンだよなぁ。」
(あのおっさんってそんなに強かったんだ…)
「女子の憧れは、やっぱりサーシャ様よねぇ。」
「お美しいしお強いし、あの凛としたお姿が、痺れるわよねぇ~。」
(女子はサーシャさんに憧れてるんだ…様付けだし…)
「あたしはアルーシア様かなぁ、あの美しさの虜になっちゃった。」
「セルフュリア様も捨てがたいわよねぇ~。」
(セルフュリアって誰だろ?っていうかどこの世界も女子はこんな感じなのか…)
「ゼロ君は、誰かいるの?憧れの人。」
アルーシアが、聞いて来た。
「俺?俺は…今んとこ誰もいないかも…」
「ふ〜ん。来たばっかりだし分かんないよね。」
たわいも無い話をしながら歩き続ける事5分、やっと修練場らしき建物が見えて来た。
「あれが、修練場よ。」
シェリルが指差して教えてくれた。
ドーム状の屋根、3階建で円形になっている。
近付いていくと人集りができている。
(なんだろう?)
「あれ何かしら?ちょっと見て来る。」
そう言ってアリシアが走っていく。
「あ、待って私も。」
シェリルもアリシアについて行った。
後を追いかける様に俺達も走り出す。
かなりの数の衛士達が修練場に集まっていた。
先に走って行った、アリシアとシェリルに合流する。
「もう、人が多くて何も見えないじゃない!」
「これじゃ、入り込める隙間もないわね。」
二人が愚痴っている。
合流した俺達も人垣の後ろから、中を見ようと奮闘するが全く見れない。
(う~~ん。これ無理だな、もういいや。)
あきらめて立ち去ろうとしたとき、轟音が響いた。
ズドンッ!!
修練場を取り囲んでいた衛士何人かも巻き込まれて一緒に吹き飛んできた。
(なんだ?人が飛んできたぞ??)
「あれ、ブリッツ先輩じゃない?」
飛んできた衛士の中に、先輩がいた様だ。
人垣に穴が開いたおかげで中が見れるようになっていたので様子を窺っていた。
(!)
見てはいけないものを見た…
朝のエルフの姉ちゃんが木剣を手に修練場の真ん中に立っていた。凛とした美しさがある綺麗な金髪の偉丈夫。
(これ見つかったらやばい感じがする…)
時すでに遅かった。エルフのお姉さんは俺を見つけた様で、木剣を背に回し片膝をついて傅く姿勢を取り、
「あぁ、お探ししました。ゼ…」
俺の名を言いそうになった。
俺は迷わず、完全に気配を消して【高速移動】を使い、エルフのお姉さんを抱きかかえて走り抜けた。
その場に居た者は、誰も俺の姿を見ることは出来なかったようだ。エルフのお姉さんが、突然消えた様に見えたみたいだし。
「お見事です、我が主」
抱きかかえられているエルフのお姉さんは、顔をほんのり赫らめながら、上目遣いに俺をみている。
俺は慌ててお姉さんを降ろす。
「お姉さん、何でこんなところへ?」
傅いているエルフのお姉さんが頭を下げたまま、
「これは、申し遅れました。
私は聖晶の森に暮らすエルフ族を統べる王の一人娘、
セルフュリア・ル・エルフィンと申します。」
(このお姉さんも王族すか⁈)
顔を上げ、敬意の篭った目で俺を見ている。
「後で話せる時間作るんで、今は俺と知り合いなのは内緒という事で!」
「御心のままに、我が主。」
(我が主って?)
よくわからないけど早く戻らないと怪しまれる。
セルフュリアを置いて、【高速移動】で同僚達の所へ戻る。
ジュドー達の背後にコソッと回り込み、何食わぬ顔で歩いていく。
俺に気付いて、ジュドーが、
「ゼロ、どこ行ってたんだ?今凄かったんだぜ!
セルフュリア様が膝をついたと思ったら、一瞬で姿が消えたんだよ!」
「へ・へぇ…それは、驚きだぁ。」
焦って言葉が棒読みになる。
「あんな技始めて見たわよ!やっぱりセルフュリア様は、凄いわ!」
エルナが、興奮して話している。
「おい、何かあったのか?」
背後から声を掛けられるた。振り返るとグラムノーツ衛士長とサーシャ副隊長が立っていた。
ジュドー達は一列に並んび、最敬礼する、俺もそれに倣って少し遅れて同じポーズをとる。
「直ってよし、ジュドー発言を許可します。何があったか説明しなさい。」
サーシャさんが前に出て聞いてきた。
指名されたジュドーも、一歩前に出る。
「私も今来たばかりですので詳しくは解りませんが、多分セルフュリア様が、週に一度の剣技の指南に来られていたようです。」
「また、あのお姫様ですか、全くあの方は自由に行動し過ぎですね…それで、まだ中にいらっしゃるのですか?」
「それが…」
「ん?どうしまさした?ちゃんと答えなさい!」
「修練場の中央にいらしたのですが、一瞬でお姿が消えてしまいまして…」
「?」
「なるほど…」
衛士長が、俺の方を見てニヤニヤしている。サーシャさんは、超冷たい目線で俺を刺し貫いてくる。
冷や汗が出っぱなしの俺。
「大体分かりました、それよりも丁度良い機会です。
新しい見習いを紹介しておきましょう。ゼロ、前に来なさい。」
俺は冷や汗を拭い、サーシャ副隊長の横に立った。
「どうやらすでに知り合っているようですが、紹介しておきます。」
俺はもう一度皆んなに自己紹介した。
これから、一緒に苦楽を共にする仲間達を見渡しながら…
何人か、増やしました。
次話で、主人公の人となりを書いておこうと、おもいます。