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〈王都動乱編〉第1話 胎動

本編がやっと始まりました。

色々書いていきたいですね。


最近忙しすぎて執筆活動が滞ってるけど、

気長にお付き合いください。



一年程前、【転生】して来た世界…


天空には昼間でも薄っすらと二つの月が浮かび、異世界である事を物語っている。


この世界には、大陸が3つある。

その中央大陸にあるル・シャルロット王国は、世界でも有数の大国で、王都セルアルは栄華を誇っていた。


中世ヨーロッパの様な雰囲気がある街並みだが、空には飛空挺が飛び交い、綺麗に整備された路を、荷車を引いて走り抜けて行くサイボーグ馬…

独自の文明が発展した未来のヨーロッパを見ている様だ。


行き交う人々の中には、亜人種やアンドロイドも混じっている。


俺は、買物袋を抱えてその人混みをすり抜けて行く。


(…朝から誰かに見られてるな…何処と無く知ってる気配なんだけど…)


『…隠形で気配を消しておる様じゃが、良く気付いたのぉ。』


(エルナに比べたら…普通に気付くでしょ。

…にしても、先生(リューヴェルド)、この気配って…)


『…そうじゃな、主の知る者で間違いなかろう…』


周りには行き交う通行人しかいないが、俺は話し掛ける。


「エルナ居るかい?」


俺の従者であるダークエルフに声を掛けてみる。

彼女の〈隠形〉は、俺どころか、先生(リューヴェルド)にすら、分からないらしい。


「…居ますよ。」


いつのまにか俺の横に音も無く並んで歩いている褐色の肌に黒髪の女性。

風で靡く(なびく)黒髪、見え隠れしているエルフ特有の耳が少し尖っている。


「悪いんだけど、其処の建物の屋上にいる女の人を【聖夜の雪(シエルスノー)】亭に連れて来てくれないかな。

俺の知り合いみたいだからさ、何か用事があるみたいだし。」


「…ゼロ様の知り合いですか…その…女の人?」


エルナが、どことなくテンション低めな気がする…


「あぁ、多分向こうの世界の友人だと思うんだよね。」


「ご友人ですか!では、迎えに行って参りますね。」


何かちょっと元気になった様だが…

言うなり、姿も気配も完全に消えてしまった。


(ホント、見事な〈隠形〉の技だよなぁ…今度教えて貰おう。)


俺は急ぎ足で【聖夜の雪(シエルスノー)】亭に戻った。




聖夜の雪(シエルスノー)】亭、俺が居候させて貰っているレストラン兼宿屋だ。


王都の西地区は繁華街に成っていて、その中でも1・2を争う程人気が在るお店で、いつも繁盛している。


裏口に回り、厨房に買物袋を置く。

何人もいる料理人が、慌ただしく動き回り、料理を作っている。


「何やってんだテメェ等、もっとテキパキ動きやがれ!

そんなんで美味い飯が作れると思うなよ!」


料理長が、怒鳴り散らしている。

触らぬ神に祟りなし…

俺が買物袋を置いて、コッソリ立ち去ろうとしている処を見つかる。


「おぅ、兄ちゃん御使いありがとな!」


袋の中を見ながらお礼を言ってくれた。


「あ、い…いえ、仕事っすからね。あはは…」


「そう言えば、ジョワンナ女史が探してたぞ?」


「え?ジョワンナさんが?」


「中庭に行ってみな、多分いるはずだぜ。」


(…何だろう?…今日なんかやらかしたっけ?)


いつも怒られているので、被害妄想が膨らむ。

ちょっとビクビクしながら、中庭に行ってみると、ジョワンナさんとシャロンさんが、ティーカップを手にポーチに座り、休憩していた。


「おや、戻って来た様だね。」


ジョワンナさんは恰幅の良いおばさんで、給仕長をしている。


「ゼロ君、お帰りですぅ〜。

帰って来るの待ってたんですよぉ。」


シャロンさんは、赤髪でツインテールの小柄な給仕で、喋り方が少し特徴的。


「あの…、俺なんかやらかしましたっけ?」


俺はおずおずと聞いてみる。


「何もしてないさぁね、ちょっとお前さんに話があってねぇ。」


「…話って…?」


「シャロン話しておくれ。」


「はーい、えっとぉ…ゼロ君は、衛士見習いから〈護衛隊士〉に昇格したしぃ、それに魔物達と友好関係を結ぶ〈親善大使〉にも任命されたでしょぉ〜。」


「…そうっす。」


「そして、ティエラ様にまた居候をお願いしちゃった?」


「ですね、もう暫く居候させて貰う事にしました…」


「そうよねぇ…じゃあ、うちの信条は知ってるわよねぇ。」


「えぇ…『働かざる者、食うべからず。』…です。」


俺には、全く先が読めない…シャロンさんが何を言いたいのか、予想も出来なかった。


「見習いだった時は、遠方からのお客様だったからお店のお手伝い程度でしたけど、此れからは()()()()()()()も手伝って貰う事になるんですぅ。」


「もう一つの仕事?」


「…詳しい話は、また夜にでもしょうかね。

どうやらあんたのお付きの()が来たみたいだからね。」


ジョワンナさんが話を止める。

誰か来た様だが、俺には気配すら感じない…


「じゃあ、あたし等は仕事に戻るからね。あんたも用事が終わったら手伝いに来るんだよ。」


そう言ってジョワンナさんとシャロンさんは立ち去って行った。

入れ違いにエルナが入って来た。


(?!…まじか、ジョワンナさん…エルナの〈隠形〉を見破ったのか?!まさか…)


困惑し、驚いている俺に声を掛けて来る、エルナ。


「ゼロ様、連れて参りました。」


エルナの後ろに見た事のある人物が居た。


「ありがとう、エルナ。」


俺はエルナに礼を言い、後ろの人物に尋ねる。


「それで、何か用があるのか?莉奈。今朝からずっと監視してただろ?」


俺に尋ねられた人物は、


「やっぱり、怜君だったか。

…にしても、この()何者なの?あたしも〈隠形〉には、自信があったのに…この()気配が全く無いなんて…真後ろで声掛けられて、ビルから落ちるかと思ったわよ。」


「自信があったの?俺にも気付かれてたけど?」


「えぇ?!」


莉奈は、俺が【転生】するキッカケを作った人物で、向こうの世界では、同じ高校に通っている同級生なんだけど、

こちらの世界では【召喚者】でもある。


自信があっただけにかなり落ち込んでいる莉奈に声を掛ける。


「それで、何か用があったんじゃないの?莉奈。」


異世界(アナザーワールド)では、リーナって呼ばれてるよ、ゼロ君。」


「確か…王国近衛隊 〈翠〉【聖緑の剣士】だっけ?」


「そうそう、よく覚えてるね。」


リーナは、微笑んでいる。


「近衛隊の【聖緑の剣士】様?!ですか、申し訳ありません。【召喚者】様にご無礼を致しました。」


エルナが跪く。


「気にしないで、あたしも畏まられるの好きじゃないし。それに、貴女もゼロ君のお友達でしょ?

だったらあたしも貴女の友達みたいなものだよ。」


そう言って、エルナの手を取り立たせる。

此方に向くなり、


「そうそう、お城は今【転生者】の噂で持ちきりになってるんだよ、ゼロ君知ってた?」


(…何それ?!)


「し、知らない…何で【転生者(オレ)】の噂が…?」


「どっから出た噂かは分からないけど、【召喚者】からでは無いわね。

ゼロ君の事を知ってるのは…王国では、私と総司君だけだからねぇ。」


「滝川もこっちに来てんの?」


「彼も呼ばれたから暫くこっちに居るんじゃないかな?

総司君、所属が違うからあんまり分かんないけど…」


「…それで、忠告しに来てくれたってとこか。」


「王国は、【転生者】の噂には不干渉みたいだけど、裏社会の組織の連中も動いてるみたいだし、気をつけた方が良いよ。」


(…なんか、面倒が起きそうだなぁ。)


「それにしても、何で朝から俺を付けてたんだ?

知り合いなんだから声掛ければ良いのに。」


「えぇ?!最初からバレてたの?私の〈隠形〉って…

…声掛けて良いのか迷っちゃって…

それに…【転生】したゼロ君にとっては、此方の世界の方が、現実だろうし…」


リーナは、少し俯いて話している。


(俺に気を使ってくれているのか…)


「気にすんなって、何処に居ようが俺達は、友達だろ?」


「良かったぁ、ゼロ君にそう言ってもらえると嬉しい。」


リーナは晴れやかな顔になり、笑顔になる。


「じゃあ、私仕事があるからお城に戻るね。

ゼロ君、今度はゆっくり遊びに来るねぇ。」


そう言って、リーナは手を振り帰って行った。

後に残された俺は、エルナに話し掛けようと振り返ったが、何の気配も無く消えていた。





聖夜の雪(シエルスノー)】亭から北側のそう離れていない場所に技術開発研究所がある。

この王国の最先端技術の粋が、集まっている場所である。


そこの技師長とは顔馴染みで、良く遊びに…じゃなく、開発を協力しに行っている。


俺は、いつもの様に研究所の受付の女性に挨拶しつつ奥のエルベーターに向かう。

受付の女性も笑顔で通してくれる…最近は顔パスになっていた。

此処へ来る時は、何故かエルナは付いて来ない…


エアチューブ状になっているエレベーターで、最下層の研究室に降りていく。

降りて行く途中の階層では、様々な研究が行われているのが見られる。


間を置かず、最下層に到着する。

そこは巨大な格納庫の様になっていて、様々な実験が出来る様に作られている。

中央には見た事もない機械類が、無数に並んでいる。


「おっ、来たかゼロ殿。」


出迎えてくれたのは、背が低くずんぐりとしていて、お腹まで生やした髭が特徴的なドワーフ族のおっさんだ。

名前は、ガルバ=ドワルド。

王国魔霊機関技術開発部門総技術士長という長ったらしい肩書を持っている、この国で最高の技術者だ。


「そろそろ、()()が完成してるかと思ってさ。」


「だろうと思ってたぞ、さっき完成したばかりだ。

さぁ、こっちに来てみろ。」


ガルバのおっちゃんに言われて近づいて行くと、それは姿を現した。


巨大な人型の機械、全長は6メートル位ある。

騎士の鎧の様な出で立ちだが、背中にはランドセルの様なバックパックが付いている。


俺は目を輝かせて走り寄って行く。


「ウォォッ!スッゲエ!!カッケェ!!!」


近寄って行って機体を触りまくる。


「完成できたのは、お前さんのアイディアと知識の協力のお陰だな。」


「これ完成させるなんて、おっちゃん凄いよ!」


「試作機だが、完成度は高いぞ、コイツは。」



鋼導魔霊機士

全長、6メートル

重量、2.5トン


高出力の魔導核を駆動エンジンに組込、魔法回路で擬似体組織を形成させている。

体表を覆う金属は、超強硬度を誇る魔法で精製された〈魔精金属〉である。


飛空挺にも使用されている推進装置の小型版を搭載している為、高速で移動も可能。

しかし、現段階では飛ぶ事は出来ない。


「おっちゃん、動かしてみても良い?」


「勿論じゃ、コイツはお前さん用に作ったんじゃからな。乗り方は分かるか?」


「分かるさ。」


俺は、背中のバックパック横にある半円のレバーを回すと、上半身部分が前に滑る様に動き、中に操縦席が現れる。

それに乗り込む。

乗り込むと同時に上半身が元の位置に戻る。


「ゼロ殿のDNAと指紋を登録してある、正面のモニターパネルに掌を押し当てれば、起動する様に設定されておる。」


「了解!」


言われた通りやってみる。

正面のパネルに手を触れると起動システムが作動し、全方位モニターが映る。

計器類が動き出し、魔霊機関が音を立て始める。


「動かせるかな…」


操縦桿を握り動かしてみる。

右腕が金属の擦れる様な音を立てて上がる。


右脚を前に出す…が、バランスを崩し倒れる。


「うわぁっ!…此れ滅茶苦茶難しい…」


轟音を立て、地面に激突する。

なんとか立ち上がりはしたが、機体の動きがぎこちない。


「…コイツは、動く事は出来るけど…」


「まだまだ、改良しないと使い物にならんな…操舵システムと駆動系の部位への伝達も考えねば…」


ガルバ技師長が、溜息を吐く。


(…やっぱり、これは難易度高かったかな…)


『主が、そのドワーフの好奇心に火を付けて造らせておった様じゃが、この世界の技術では後数年は掛かりそうじゃな…』


俺の心に直接語り掛けてくるこの声の主は、俺の【魂の半身】である。

俺は〈先生(リューヴェルド)〉って呼んでる。



(数年も待てないっす、先生。何か良い方法は…?!

そうだ、【森羅の知恵】があった。)


『…気付くの遅いのぉ、まだまだ【森羅の知恵】の使い方がなってないようじゃのぉ。』


「ガルバのおっちゃん、ちょっと改良するね。」


「ゼロ殿?」


俺は人型の機械を作業用のサークル台に移動させ、機体から降りた。

無数に並んでいる機械やモニターを一通り見回し、コンソールパネルに歩み寄る。


俺は【森羅の知恵】をフルで使う。

目にも留まらぬスピードでキーボードを操作する。


ワーキングサークルでは、いくつもの機械の腕が右往左往しながら猛スピードで働き続けている。

数秒で人型の機械の装甲板は外されて行く。


頭の中で、

駆動系統解析…解析完了。

最適化に移行…

伝達経路解析…解析完了。

最適化に移行…

魔導回路解析…解析完了。

魔霊機関再構築…

緩衝機構構築…

推進システム改良…完了。


操作システム再編成…

思考感知システム組込…

魔霊感知システム組込…

…再編成完了。


魔精製金属軽量化…

耐性金属を付与…精製完了。


オールチェック…オールクリア。


改良が終わった様だ。

組み上がった機体は、流線型の装甲板で覆われていて、重量感を感じさせない。

一連の流れを見ていたガルバ技師長は、目を丸くし開いた口が塞がらない。


「よっしゃぁ、これで完成だぁ、

装備はまた今度作るとして…ちょっと試してみよう。」


「…何と云う…作業スピードも桁違いだが、それよりも技術(テクノロジー)が飛躍し過ぎていて、全く理解出来ん…たかが300年程度生きてきた俺の知識など足元にも及ばんな…ゼロ殿とは、一体…」


ガルバ技師長が独り言の様に呟いている。


搭乗(ボーディング)!」


俺は機体に声を掛ける。

流線型の人型の機体が膝をつき、上半身が前に横滑りする。改良前より操縦席に入り易くなった。

操縦席に乗り込み、


起動(アクティベーション)。」


と声を掛ける。

総てのスイッチに光が灯り、全方位モニターが外の光景を映し出している。

音も無く、上体が元に戻り立ち上がる。

機体の目に光が灯る。


「…まさか、音声認識システム?!」


(音声認識は、あながち間違ってないけど、コイツにはAIを搭載したから、自己認識システムで判断して動いてるんだよなぁ…)


後で説明した時のガルバ技師長の驚き様は凄かった…


操縦席もかなり変わっていた。

頭に脳波伝達用のヘッドギアの機械を被り、腕の付け根から補助アームが繋がり手に操縦桿を握る。

生身の身体の状態を計測するシートに座ると、モニター画面の右下に緑の人型が、映し出される。


(グリーンって事は正常なんだろう…)


機体の状態は左下に映されている。

ガルバ技師長がモニターに映っていて、画面上で緑のサークルにマークされている。

目を凝らすとギアが反応し、ガルバ技師長が拡大される。


外観もかなり変わっていた。

重厚感のある騎士の鎧の様な形からシャープなフォルムへと外装板が変わっている。

それに、機体の色は何故か漆黒の様に黒かった。


此れは先生の仕業の様だが…


「おっちゃん、危ないかもしれないから少し離れてて。」


「…ぉおう。」


急いでその場を離れる、ガルバ技師長。


(…さぁて…)


ゆっくりと歩かせてみる、人の歩行の様にスムーズに動けている。

機体の微妙な補正や調整はAIに任せているお陰で…


操縦席には、振動も無く、視点が上下にぶれる事も無い。

各所の関節が緩衝してくれている。

今度は走ってみたが、此れも問題無し。

勢いつけてジャンプ!

着地で地響きを唸らせるが、さして衝撃は無い。

機体にも異常は出ていない様だ。


(さっすが高性能のAIだな…んじゃあ、最大で性能実験やってみようかぁ。)


両足の踏み込み版を力強く踏む。

機体の足裏に格納されていた車輪が出る。

背中のバックパックと脹脛の装甲が開き、推進装置がエネルギーを放出する。


激走する機体の時速は一瞬で、150km/hにも達していた。

目の前に壁が迫る、


「うぁっ!」


俺は咄嗟に壁を蹴り、空中へ…


「と、飛んだ?!」


ガルバ技師長が目を剥く。


推進力をフル稼働にして暫く飛んでいたがゆっくり落ちて行く。

静かに着地して…俺は、機体の外に出た。


「壁壊しちゃって、すんません。」


俺が蹴り上げた金属製の分厚い壁が、飴の様に曲がっていた。


「そんなこたぁ、どうでも良い!

それよりも…その機体の性能は…一体どんな技術が使われておるのだ?!

生身の人間の様に滑らかに動き、サイボーグ馬より早くも走れる…そ、それに、空も飛んで…」


「空は飛んで無いよ、ゆっくり落ちてただけ( ̄▽ ̄;)」


ガルバ技師長のところまで歩いて行く。


「俺が造り上げた機体にどんな改良を加えれば…」


「疑問は沢山あるだろうけど、俺にも説明出来ないから、後は自分で調べて。」


「なっ?!あの機体を調べていいのかね?

あれは国家機密どころか、全世界を震撼させるほどの技術が施されている…

それを軽々しく扱う事など…」


「まぁ、確かに…この世界では、オーバーテクノロジーかも知れないけど、知らないより知っておきたいでしょ?」


「そ、それは、そうだが…良いのか?

ゼロ殿の技術が世に広まる事になる…そうなればこの画期的な技術の進歩は、この世界に必然的に変革をもたらす事になるだろう…。」


「だろうね…でも、おっちゃんなら、良い方向に未来が進んで行くと信じてるよ。」


『…』


先生が何か言いたげだったが敢えて聞かなかった。


この時、俺は何も考えていなかったのだ…

時代に過ぎたテクノロジーは、良い未来では無く…必ず面倒な方向へ進むという事を…



――――――――――――――――――――――――――




王都セルアル、この世界でも屈指の栄華を誇る都市であり、往き交う人々も明るく足取りも軽い…だが、

光ある処には必ず影がある様に、この都市にも陰となる者達が居る。

貧富の差は何処にでも存在する…富裕層である市民権を持つもの達、日々の食事にも困っている市民権を持たぬ貧民層。

王都に暮らす彼等は、市民権こそ持ってはいないが、それでも頑張って働き、地道に暮らしている…


だが、犯罪に手を染める者も多く、其の所為 で貧民層全体が、不当に差別を受けたり蔑まれる事も、また日常的に行われていた。


此処王都アルセルにあるスラム街を中心にいくつかの犯罪組織が存在しているが、

組織同士は互いに牽制し反目し合っている様だ。


その中でも最大の規模を誇る犯罪組織【紅蓮の牙(ボーディルファング)】は、最凶にして最悪の犯罪者集団である。


王都の東区にある衛士隊の駐屯地は、その先にある貧民街の組織犯罪者達を抑制する為に置かれていた。




貧民街の地下にある薄暗い部屋。

仮面を着けた身なりの良い人物が長テーブルの椅子に座っている。

背後には如何にも強そうな護衛が控えていた。

体格のがっしりした男と長身の男だった。

此方の二人も仮面を着け素性を隠している。


薄明かりの陰に何人かの気配がある。


「それで、要件を手短に説明して貰おうか。」


「簡潔に言えば…お前達を雇いに来たのだ。」


「ほう…俺達を雇う?

犯罪組織を雇うとは、中々面白い事を言うな…お前達の身なりからすれば、上流階級の人間だろう?…何を企んでいる?…暗殺や殺人の類なら他を当たってくれ、俺達【紅蓮の牙】は、そんなものに興味は無いんでな。」


「…」


「…話す気は無いと言う事か?ならば、交渉は決裂だ。

さっさとこの場から立ち去るが良い。」


闇の中に居る人物が、立ち去る気配がする。


「ま、待ってくれ!…全てを話す…だが、決して他言は無用に願いたい。」


「ふん、他言無用ねぇ…俺等がその話を聞いた時点で共犯者になるんだ、他言などするはずも無いな。」


「そ、そうだな…では、話そう。

我々は、この国の未来の為にある計画を進めている…〈賢王〉などと持て囃されているが、虎視眈々とこの国を狙っている列強の国々に対して何の策も講じぬ愚王…穏健派である現国王を誅し、王国を転覆させると言うものだ。」


仮面の男の話は、クーデターを起こすと言っている。


「…それで、俺達を雇ってどうしようと言うのだ?

俺達は、国の為だとかに興味は無い。

国王が誰に変わろうが、世界は変わらんし…犯罪は無くならない…それは歴史が物語っているからな。」


「計画の全てを話そう。お前達に依頼するのは…」


仮面の男は、一頻り説明をし終え、相手の出方を待っている。

暗闇の人物は、少しの間思案していた。


「…その話が事実なら雇われても良いだろう…だが、その前にお前の様な下っ端では無く、計画を立てた本人から直接雇い入れて貰おうか。」


「なっ、何を言うておる?私が本人だ。」


仮面の男は、かなり狼狽し汗をかいている。

とても、本人とは思え無い…


「お前じゃ無い。俺は、そっちの男に言っているのだがなぁ。」


左側の長身の護衛に向かって声を掛ける。


「な、何を根拠に…此方の方は、ただの護衛…」


「もう良い、お前の下手な芝居に引っかかるものなど居るものか。」


左側の護衛は、交渉していた仮面の男を制し、自ら前に出る。


「失礼をした、だが儂もただの代理人に過ぎぬ。

雇い主は、かなりの実力者であるとだけ認識して貰えば良かろう。

それで、どうなのじゃ?雇われる気はあるのか?前金として王国金貨1000枚…

成功すれば、金は望みのままじゃぞ。」


周りから響めきが起こる。

王国金貨を1000枚とは破格の金額だったのだ。

市場に流通している通常金貨は、1枚で10万円くらいの価値になる、その10倍の価値がある王国金貨が1000枚で100億円にもなる。


「雇われてやるぜぇ、その話と報酬金額に見合うだけの働きはしてやる。」


闇の中の人物がそう答える。

長身の仮面の護衛の口元に笑みが浮かぶ。


「お前の一存で決めて良いのか?」


闇の中の人物が、姿を見せる。

身体の殆どが機械であり、頭部にも機会が埋め込まれている。身長は2メートルをゆうに超え、左腕にはガトリングガンが埋め込まれている。


「ふん、良く分かったな。

俺も代理で来てるだけだが、ボスには全権を委ねられているのでな。

それと雇い主には、名を名乗っておこう。

俺は【機械凶剛腕(マシナブルアームズ)】のゴルドー、組織を束ねる5人の幹部の一人だ。」


「【機械凶剛腕】…北の衛星都市ノースファブルを一人で半壊滅させた凶気のサイボーグと言われた男か…此れは頼もしいな。

それでは、これで交渉成立だ!以後宜しく頼む。」


「あぁ、任せておけ。」


この契約を期に王都は、混乱し乱れて行く事になる…




――――――――――――――――――――――――――




綺麗な月明かりに照らされて、

満面に笑みを浮かべた少し貧相な服装の若者達が、嬉々として街を歩いていた。

まだ10代後半位の若者達は、周りの目も気にせず大はしゃぎしていた。


「初めて貰った給金だしよぉ〜、パァ〜と使っちまおうぜぇ!」


精悍な顔立ちの青年は、ニコニコ顔で他の若者達に話し掛けている。


「でも、良いの?ニールが初めて働いて稼いだお金でしょ?こんな簡単に使って…」


「アイリスの言う通りや、俺達に奢ってくれるんは有難いんやけど、お金使うんは勿体無い。貯めるとか…なんか他の事に使った方が良く無いか?」


「ドゥーモ、それは違うぜ。俺はお前達と美味いもん食って楽しみたいんだよぉ。

然も王都で一番美味いって有名な【聖夜の雪(シエルスノー)】亭だぜぇ!」


「エェッ?!」


アイリスもドゥーモも二人して目を輝かせている。


「スラムの仲間達の間じゃ【伝説のレストラン】だぞ?!なんせ王都でも1・2を争う有名店じゃねぇか!」


「だろぉ、俺達が其処で飯食って帰ったら皆んなに自慢しまくりだぜぇ!」


ニールと呼ばれる青年の気分最高潮だった。

鍛治職人の見習いを始めて、親方にどやされながら慣れない仕事を齷齪(あくせく)頑張った。

両親も身寄りもない彼は、自分で汗水流して初めて稼いだ給金を掛け替えのない友人達に使いたいと思った。


「着いたぜぇ!あれが【聖夜の雪(シエルスノー)】亭だ。」


3人は、生唾を飲み込む。

貧民街で育って来た彼等からすれば、初めて来る都会の高級レストランに見えるのだろう。

3人共緊張していた。


「ねぇ、ニール…あたし達こんな格好で入れて貰えるのかなぁ…」


アイリスが、自分の服を見て小さく呟いた。

確かに、綺麗な服なんて俺達が持っている筈がない…


「そうだよなぁ…こんな小汚い格好じゃ、追い返されるのが関の山だよ…」


「な…んだよ、そんなの気にすんなって!ほ、ほら、あんなボロボロの奴だって入って行ってんじゃん。」


ニールが指差した先に油汚れで真っ黒な服を着て店に入って行った…


「な!あんなんでも入れるんだから俺達が入れない…」


汚れた服の兄ちゃんが店のドアから勢いよく叩き出され、目の前を吹き飛んで行った。


「おわっ?!」


「そんな汚いなりで店に入るんじゃないよ!」


おばさんの怒鳴り声が聞こえ、扉が勢いよく閉められる。


「あぃたたたぁ、手加減無しだなぁ。」


吹き飛ばされた兄ちゃんが、頭を摩り(さすり)ながら起き上がる。


「おぃ、大丈夫か?兄ちゃん。」


3人は駆け寄っていき、起き上がるのに手を貸す。


「ん?…あぁ、ありがとう。まぁ、いつもの事だから心配要らないよ。」


「いつもの事って…」


立ち上がった油に汚れた青年は、よく見ると同い年位の様だった。

油に汚れた青年は、3人を見て、


「君達は…店のお客さんかな?」


「あ…あぁ、今から飯食いに行こうとしてたんだけどよぉ…」


「綺麗な格好してないと入れないみたいだし…」


「どうも俺等には敷居が高かったって言うか…」


「お前等何言ってんだよ、まだ食ってないんだろ?さっさと行って食って来いよ。」


汚れた顔に笑顔で言われた。


「アンタが、追い払われてたから入り難いんだよ!」


ニールが、苦笑いで答える。


「あら、俺の所為だったか…そういや名前聞いてなかったな、俺はゼロって言うんだけど。」


「俺はニール。

こっちの女の子は、アイリス。

あれは、ドゥーモ。」


「あれって、酷くね?」


ドゥーモが、憤慨している。


「面白いな、お前等。

えっと…ニールにアイリスとドゥーモね。

ちょっと此処で待っててくれないかなぁ、この格好では入れてくれないからさ。」


そう言って、レストランの裏に走って行った。


「あ、おぃ…何だよアイツ?」


「なんか面白い人だね、ゼロ君。」


「ケッタイな人やなぁ。」


呆気に取られる3人だったが、言われた通り待ってみる。



しばらくして戻って来たゼロは、燕尾服を着ていた。

又しても呆気に取られる3人に、


「お待たせ致しましたお客様。店内にご案内致します。」


ゼロは恭しく一礼し、ニール達を店内へ案内して行く。

店内は、繁盛していて皆綺麗な服に身を包んでいる。


ニール達は改めて自分達が、場違いな場所に来た事を思い知らされる。


「…俺等が来るとこじゃ無かった。」


ニールの口から溢れる声…


「お客様、此処は誰もが食事出来るレストランです。」


そう言ってゼロは、予約席に案内した。


「予約?俺達予約なんてして…」


通された3人は困惑していた。


「良いんだよ、どうやらゼロが飛んだ迷惑を掛けちまった様だからねぇ。」


恰幅の良いおばさんが、話し掛けて来た。


「いや、それはジョワンナさんが俺を叩き出したから…」


「おだまり!」


ゼロは、ゲンコツで思いっきり頭を殴られた。


「アンタ等も美味しいもんたくさん食べていきなよ。」


そう言って豪快なおばさんはカウンターへ戻って行った。


「スッゲェおばさんだなぁ…」


ニールの率直な感想が口から洩れた。


「だろぉ、怒らせると怖いんだけど、すっごく優しくて良い人なんだよなぁ。」


ゼロが、頭を摩りながらそう話す。


「それで、何に致しましょうお客様。

ご注文はお決まりになりましたか?」


「ぇ。あ、いや、まだ…って言うか、お金あんまり無いし…何頼んで良いのか…」


「成る程、ではご予算はいかほどで御座いますか?」


ゼロは、優しく丁寧に聞く。


「俺が働いて初めて貰った給料だから…あんまり無いんだけど…銀貨2枚で食べれる物を…」


「畏まりました、それでは料理はこちらでお選び致しますので、料理ができる迄、暫くお待ち下さい。」


そう言って、ゼロは一礼すると厨房へ歩いて行った。

テーブルでソワソワしている3人に、アクシデントが起こる。

隣のテーブルで呑んでいた王国騎士の酔っ払い達が、絡んで来たのだ。


「おんやぁ〜?ヒック…何で貧民街の餓鬼どもがこんな所に居るんだぁ?ヒック…」


「貧民街の連中が、このレストランに来て良いとでも思っているのか?ヒック…身分をわきまえろよ」


ニールの頭を小突き、アイリスにちょっかいを出す。


「何だよ…俺達が飯食いに来ちゃダメなのかよ…」


ニールの声は小さく、やっと聞き取れる程であった。


「ダメに決まってるだろう、貧民街の薄汚い奴等が居たら、飯が不味くなるんだよぉ。」


「汚ねぇ服着て入って来んじゃねぇ。」


そう言ってアイリスの服を破り捨てる。


「きゃあっ!」

「?!」

「テメェッ、何しやがんだ!!」


立ち上がるニールとドゥーモ、酔っ払いの騎士達が熱り立つ。


「俺達相手にやろうってのか?ガキ共?」


「もう、やめて下さい…私達はただ、食事をしに…」


アイリスが、涙を溜めながら破かれた服を押さえている。


「あらあら、どうしたんですのぉ?店内で揉め事は禁止ですよぉ〜。」


赤髪にツインテールのメイドさんが、いつの間にかテーブルの側に立って居た。


「あぁ?ヒック…メイド風情が騎士に意見するのか!」


騎士達がメイドにも突っかかる、


「止めろよ!メイドさんは関係ないだろ!」


「何だと?貧民のガキが…」


「どうやら騎士様方は、飲み過ぎですのぉ。お代を置いてお帰り下さいですのぉ。」


「何だとこの女!」


メイドに掴みかかろうとする騎士の腕を掴む。

其処には、ゼロが立っていた。


「店内で揉め事は禁止ですので、続きは此方で…」


そう言って腕を掴んだまま騎士を店の外まで引きずっていく。


「なっ?き、貴様、手…手を離せ!!」


ゆうに100kgは超えているであろう騎士を軽々と…

呆気に取られていた他の騎士も後を追う。


「貴様、待て!」


しばし沈黙していた店内には、また活気が戻る。

取り残されたニール達も唖然としていた。


「大変失礼をいたしました。

お客様におきましては、不快な思いをさせてしまい申し訳ありません。」


黒髪を後ろで束ねているメイドが謝っている。


「え…あ、いや、迷惑を掛けたのはこっち…」


「お客様に非は御座いません。配慮に欠けた私共の落ち度、尽きましては、私共からの謝罪をお受け下さいますよう。」


そう言って、手を2回叩く黒髪のメイド。

濃い紫の髪のメイドがやってくる。


「お嬢様、御召し物が綻んでおりますので、此方へ。」


「は、はい。」


アイリスは促されるまま席を立ち、奥の部屋へ連れて行かれた。

入れ替わりにゼロが 戻って来た。


「あの騎士達は…?」

ニールが、聞いて来た。


「丁重にお帰り頂きました。」


何事も無かったように、ニッコリ微笑んでいるゼロ。


「…どうやって…?」


その時、黒髪のメイドとアイリスが奥の部屋から戻って来る。

アイリスは髪をアップし、綺麗なドレスに身を包んでいた。

その姿にニールとドゥーモが声を失う。


「ど…如何かな…ニール。」


アイリスが、恥ずかしそうにニールに感想を聞く。


「あ…よ、良く似合ってるよ、アイリス。」


「ホント…綺麗だ。」


ニールとドゥーモも二人共、顔が真っ赤になっている。


「ありがとう。」


そう言って、メイドが引いてくれた椅子に座る。


「それでは、料理をお持ちしますね。」


黒髪のメイドが、手を2回叩く。


次から次へと運ばれて来る料理が、テーブルに所狭しと並べられて行く。

目を丸くする3人へ、


「それじゃあ、存分に食事を愉しめよ、ニール。」


ゼロが、笑顔でウィンクして立ち去って行く。


彼等はこの後、これまでの人生で味わった事の無い至福のひとときを過ごした。


食事が終わって店の外に出ると、

絡んで来た酔っ払いの騎士達がボコられてゴミ置場に捨てられていた。


3人は目を丸くしたが、顔を見合って笑い出した。




こんな些細な幸せをも搔き消す動乱が此れから起ころうとしている事など…この時の彼等に知る由もなかった。







王都に不穏な動きがありますが、更に増やして行く予定です。


まだリアルが忙しいけど...

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