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プロローグ20 魔王と砦と



遺跡の砦の周りには、木柵に掘りを張り巡らせ、杭柱を縛り門を橋として利用する仕組みとなっている。

今は橋を上げて門柵としている。


門の向こう側にはダンゴウとラルゴ騎士長を先頭に100名程の騎士隊が詰めていた。

騎士長達は、門柵の前まで歩み出て叫ぶ。


「我は、西域辺境地区正騎士団騎士長ダンゴウ。」

「同じく、騎士長ラルゴ。」

仁王立ちで名乗る二人の騎士長。


「我等が領地を腐敗させ、剰え町や村を襲った罪、許し難し。」


「ベクトール伯爵様の御膝下での愚行、断じて許すことは出来ん。開門した後全員の首を差し出せ!」


二人共魔物達を蹂躙する気満々の様子。

眼は血走り、狂気に駆り立てられている。


門柵が騎士長達の前に音を立てて降り、砦内への掛け橋になった。

砦内からサーシャ副隊長とルーレシア副官が現れ橋を歩いて行く、

後ろには、人狼族バードと竜人族ギャランが付いて行く。


「あ?是はサーシャ殿ではないか、…どうした魔物などを従えてきおって、貴様寝返ったのではあるまいな?」


ダンゴウが血走った眼で睨みつけてくる。


「魔物達の会談に呼ばれましたが、彼等に交戦の意思はありません、剣を収めてください。ダンゴウ騎士長。」


サーシャは、橋の中央に立ち止まり、騎士長に説明する。


「ほう、これは面白い事を申されますな…魔物と会談?

そんな事が出来るはずがない。元来魔物は、邪悪で好戦的な種族と決まっておる。」


「あなた方では話になりませんね…この者達は、魔物の大使として此処へ来てもらっています。

ベクトール伯爵へのお取り継ぎをお願いしたい。」


「我等を愚弄するのか!」


憤慨するダンゴウを制止てラルゴが前に出る。

ダンゴウに、目配せしてから話し始める。


「まぁ、待てダンゴウ。彼等の話も聞こうではないか。」


ラルゴが、ダンゴウを説得している。


「…良いだろう、ラルゴ騎士長がそう言うなら、話だけは聞いてやる。」


「と言う事じゃ、大使殿を連れて参るが良い。

詳しく聞かせてもらった後、ベクトール伯爵様への取り継ぎは考えよう。」


「…了解した。其方へ連れて行きますが、彼等への手出し無き様。」

サーシャ副隊長が、きつい口調で言う。


「分かっておる、彼等へは手を出さんと誓おう。」


ラルゴも快諾してくれている様だ。

サーシャ副隊長達は、橋を渡り騎士長達の前まで行く。


「奥でゆっくり話をするかのぉ。」

奥に天幕が張られている。


騎士長達の横を通り過ぎた瞬間、

サーシャと、ルーレシアに凶刃が襲う。

不意を喰らい、二人共反応が遅れ、振り下ろされる剣を避けられない。


しかし、凶刃は二人には届かなかった。

バードとギャランが、サーシャ達を庇いつつ弾き返していた。


「?!」


「チィッ!」

「魔物の分際で邪魔しやがって!」


ラルゴが、地団駄を踏んでいる。

バードもギャランもサーシャ達の前に出て、まるで守る様に身構えている。


「…あなた達…」


サーシャは、信じられない光景を見ていた。

ラルゴ達の不意打ちから救われ、今尚護ろうとしているのは、あの邪悪で残忍とされる魔物なのだ。


「危なかったなぁ、嬢ちゃん。」

バードが油断なく答える。


「何故助けた…私も人族だぞ?」


「そうだなぁ、でも嬢ちゃん達はゼロ殿の友であろう。

ならば我等の友でもある。」


ギャランが、答える。


「そうだぜぇ、友は全力で助ける。それが掟だ!」

バードは全身から闘気を発している。


「…お前達…」


「チッ、小賢しい魔物共め!」


「どう言うつもりだ、貴様等!」


サーシャ副隊長が、騎士長達へ問いただす。


「魔物側へ寝返った裏切者など、殺されて当然だ!」

「おめでたい馬鹿が、我等が武勲を挙げるには、邪魔な貴様等を殺した後、魔物を全滅させれば、我等の名声も世に知れ渡ると言うもの!」


「…愚かな、己の名声や立身出世の為にこの機会を捨てると言うのですか。永きに渡る魔物との反目が終わるかも知れ無いのだぞ!」


「そんな、世迷言を聞く耳など持たんわ。

話は終わりだ、言いたい事はあの世でゆっくり話すがいい!」


ラルゴの全身から殺気が放たれる。


「どうやら、あのオッサンは聞く耳を持たねぇ様だな、嬢ちゃん。」

バードが、やり取りを聞いていて結論を出す。


「…あぁ、その様だな。あそこまで頭が回らん奴も珍しいがな。」


サーシャ副隊長がため息を吐く。


「…」


ギャランが、何か言いたげにしていたが、それには気付かなかった。


「そいつ等を取り押さえろ!首を刎ね、奴等の見せしめにしてやる!!」


ダンゴウが、部下に叫ぶ。

命令を受けた騎士達は、サーシャ達4人を取り囲む。


「バード殿、ギャラン殿。相手が人族だからと言って手加減は無用です。」


「それじゃあ、お言葉に甘えて全力で抵抗してみるか。」

「そうだな、族長の力を見せておかねば、一族の者に示しが付かんしな。」


二人の妖気が、膨れ上がる。

筋肉は隆起し、爪や牙もより鋭く研ぎ澄まされていく。


「じゃあ行くゼェ!」


バードとギャランが、同時に飛び出す。

蹴り出した大地が陥没する程の、力が集約した踏み込み。


盾を構えていた騎士達に、御構い無しに激突する。

二人同時に5人づつ騎士を吹き飛ばす。


次々に吹き飛ばして行く二人の魔物の余りにも壮絶な闘い方に、サーシャとルーレシアは息を呑んだ。


吹き飛ばし捩伏せ続ける魔物達は、突然強者に出くわし、動きを止められる。

バードは、腕を斬り付けられ、ギャランも肩を貫かれ後方へ飛び退る。


「ちっと油断しちまったなぁ。大丈夫か、ギャラン。」


左腕を押さえながらバードが、ギャランに尋ねる。


「あぁ、問題ない。」


ギャランは、肩口から出血している。


「図に乗るなよ、魔物の分際で!」

ラルゴが、槍を構えて叫んでいる。


「貴様等、包囲陣形でそいつ等を追い込め!」


盾を前面に押し出しながら、体を完全に盾の後ろに隠し、円形に陣形を組み、間を縮める騎士達。


「こりゃあ、ちっと分が悪りぃな…」


「槍を投擲せよ!」

ダンゴウの号令で一斉に槍の雨が降る。


降り注いだ槍を回避し切ったが、無傷とは、行かなかった。

バードの腕は付け根から無くなり、ギャランも右の太腿から下が無くなっていた。

サーシャとルーレシアを庇う形で立っていた…


サーシャとルーレシアは擦り傷程度で済んだ様だ。


「悪りぃな、嬢ちゃん。傷負わせちまったな…

これじゃあ、王に怒られちまうな。」


そう言ってバードは倒れた。

ギャランも膝をつき肩で息をしている。


「…あなた達は、そこまで私達を…」


ルーレシア副官が、バードを抱き起す。


「ハァ…、俺達が不甲斐ない為に、王が…来られた様だ、ハァハァ…」

ギャランが、上空を見上げる。


その瞬間、山脈全体に闇が落ちたのかと思う程の【闇の波動】が降り注ぎ、立てなくなる程の圧力(プレッシャー)に押し潰される。


天空には、黒い翼を広げた黒衣の魔王が現れた。


伝説や聖教経典の中で語られ、魂に刻まれる最恐最悪の恐怖の存在が目の前に現れ、騎士達に怯えや動揺が走る。


橋の前に降り立ち、此方にゆっくりと歩いてくる。

その姿は、まさに【暗黒魔王(ヴェルダヴァーナ)】そのままだった。


「…あ、あれが【暗黒魔王(ヴェルダヴァーナ)】…」


ルーレシア副官は、小刻みに震えていた。

魂に刻まれた恐怖は、簡単に払拭する事は出来ない。


サーシャ副隊長は、目の前の存在と砦に居る筈のゼロが同一人物では無いかと疑っていた。

砦の方へ眼を向けると、橋の中央まで魔物達と共に衛士見習いが出て来ていた。


その中に、ゼロの姿を見つけ、


「…やはり、別人だったか。

まぁ、あのバカが【暗黒魔王(ヴェルダヴァーナ)】な訳無いわね。」


サーシャは独り言ちた。


ゆっくりと歩みを進める黒衣の王、騎士達が割れ道を作っている。

サーシャ達の前まで歩み寄る。


「申し訳ありません、我が王。力及ばず、客人に傷を負わせてしまいました…」


平伏するギャランの無くなった右脚に手を翳すと、右脚が、再生していく。

再生が終わるとルーレシアに抱きかかえられているバードへも手を翳し右脚を再生する。


「気にせずとも良い、少しそこで休んでおれ。」


ギャラン達にそう告げると、黒衣の王はゆっくりと立ち上がり、サーシャ副隊長へ向き直る。


「人族の娘よ、我等のせいで不快な思いをさせ、迷惑を掛けたようですね。」


黒衣の王から謝罪の様な言葉を聞き、サーシャは耳を疑った。

暗黒魔王(ヴェルダヴァーナ)】に対するイメージからは謝罪など想像もつかないからである。


「そんな…畏れ多い御言葉…」


サーシャ副隊長は、黒衣の王から滲み出る威厳に気圧されている。

その時、背後から声が上がる。


「貴様、【暗黒魔王(ヴェルダヴァーナ)】だな!!

何たる幸運、こんな所で魔王を討ち取れる好機に巡り会えるとは!」


ラルゴの眼は血走り、嬉々として叫んでいる。


「此れも、我等が神シュラム神の思し召しに違いない。

此処で貴様をブチ殺し、首を晒してやる!」


ダンゴウ騎士長も眼が血走り、殺気を放っている。


「貴様を殺した後は、残りの魔物を一匹残らず殲滅してやるから安心しろ。」


「ほう…我を殺し、魔物も滅ぼすと言うのですか?

…それは面白い冗談ですね。」


黒衣の王の口元が少しあがる。


「お前が信仰している神が我の相手ならまだ分かるのだけれど、人の身で、我に勝てると思っているのですか?」


「ええい、煩い!

お前達、包囲陣形で【暗黒魔王(ヴェルダヴァーナ)】を取り囲め!」


ラルゴが、部下達に命令を下す。

動揺と恐怖心で、動きが鈍いが部下達はなんとか陣形を作り【暗黒魔王(ヴェルダヴァーナ)】を包囲した。


「…仕方ありませんね、神である私と争うのであれば、其れなりの覚悟はあるのでしょう。お相手して差し上げますわ。」


優雅な動きで手を差し伸べる。

その仕草や言動にサーシャ副隊長は頸を傾げている。


「…」


「神は唯一我等がシュラム神のみ!邪教の神など害悪に過ぎんわ!!」


騎士達の包囲陣形が少しづつ狭まって行く。

槍の投擲距離まで縮まった所で、


「殺れ!!」


ダンゴウの号令で一斉に槍を投げる。

いや、投げた筈の槍は空中で一瞬にして消え、寸分違わず投げた者の足先1cmに突き刺さっていた。


「?!」


何事も無かった様に悠然と立つ黒衣の王の手には、いつのまにか黒い鞭が握られていた。


騎士達は、その神業に戦意喪失となり、全員が腰を抜かしてへたり込んだり逃げ出してしまい、

残ったのは、ダンゴウとラルゴの騎士長2人だけとなった。


「貴様等逃げるな!戦え!」

「【暗黒魔王(ヴェルダヴァーナ)】を倒せば褒美は思いの儘だぞ!」


騎士達は、そんな言葉聞こえないかの様に脱兎の如く山を駆け下りていった。


「ちっ、腰抜け共が、帰ったら全員処断してやるわ!」


ダンゴウが激昂する。


しかし、それは騎士達にとって仕方のない事だった。

騎士達は、敬虔なシュラム聖教の信者である。

聖教の信者であれば、【暗黒魔王(ヴェルダヴァーナ)】はまさに最恐最悪の存在、子供の寝物語にすら出て来る恐怖の対象に怯えない者などいない。


「あなた達二人だけになりましたけど、どうするのですか?まだ続けたいですか?」


「だ、黙れ!貴様の首は斬り落とすと言った筈だ!

貴様一人など我等だけで十分だ!」


ダンゴウが息巻いている。


「良いでしょう、ですが、あなた方からは私の嫌いな()()がしているので手加減はしないですわよ。」


黒衣の王は、動作が見えないスピードで手首のスナップを効かせ鞭を地面で鳴らす。


大地が裂けるその深さは、底が見えない…


「死にたい方から掛かって来なさい。」


長剣を構え奇声を上げながら突っ込んでくるダンゴウ。

「うぉりゃぁぁ!」


ダンゴウにとっては、一撃必殺のスピードで繰り出される無数の剣撃、凄まじい剣速だが、黒衣の王にとっては止まって見えるのか軽く避け、全てが空を切る。


ダンゴウが玉の汗を吹き出す。

「ぐっうぅぅ…ッ。」


避け続ける黒衣の王の背後に回っていたラルゴが、槍を突き入れる。

しかし、見えない壁に弾かれる。


「背後から襲うとは、騎士にあるまじき行いですわね。」


「う、五月蝿い!貴様に騎士道など問われたくはないわ!」


ラルゴの眼は血走り、此方も玉の汗を掻いている。


「もう良い、あなた達は不快です。

あなた達から発している〈光の者〉の匂いも臭すぎる…

私の前から消えて、逝ってしまいなさい。」


黒衣の王は鞭を一振りする。

ラルゴとダンゴウの首が宙を舞い地面におちる。

頸を失った体は痙攣しながら倒れた。


「さぁ、砦に戻ります。

人族の娘よ、戻って条約の件を伝えるが良い。

追って此方から使者を送るとしよう。」


そう言って砦に意識を取り戻したバードとギャランを連れて戻る。


「…一つだけお聞きしたい。」


サーシャの言葉に黒衣の王は足を止めて振り返る。


「何が聞きたい、人族の娘よ。」


「畏れながら、騎士長達の言動も行動もおかしな所が多過ぎる気がしたのですが、貴方様が言われていた()()と関係があるのでしょうか?」


「…良く気が付きましたね、あれは〈光の者〉が良く使う洗脳です。貴方も気を付けなさい。」


「〈光の者〉とは…」


「質問は一つだけです。さぁ、お行きなさい。」


そう言って踵を返し砦に向かう黒衣の王とすれ違い、衛士見習い達と俺は、サーシャ副隊長の元へ走って行った。


「ご無事ですか、副隊長。」

ジュドーが、声を掛ける。


アリシアとシェリルはルーレシア副官に手を貸す。


「…問題はない、それよりも本隊に戻り条約の件を伝え、進軍を止めなくては、我等は全滅する事になる。」


「そうですね…あの強さは異常です。もし敵対するなら我が国は、滅ぶかもしれません…」


ルーレシア副官も、この状況に危機感を抱いた様だった。


(でも、取り敢えず戦う気は無いけどね…って言うか、エリスさんやり過ぎじゃない?)


エリスは、女神だけあって外見の形態変化が出来たので、俺の代わりをして貰ったが…本物かと俺が思う位ハマっていた。

俺は内心、冷や汗ものだった事は言うまでも無い。




俺達は、事の報告を討伐隊本隊にする為、急いで山を降りた。





忙しくて更新が遅くなりました。

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