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プロローグ19 不戦条約

プロローグがもう19話に…いつになったら本編に…なるんだろう…


夜空に紅と蒼二つの月が浮かんでいる幻想的な世界。

二つの月の光は合わさり薄紫色の淡い光が夜の帳が降りた世界を照らしている。


白い雪の冠を頂いた山脈の頂上に古の遺跡が在る。

太古の遺跡は、石組みで建てられていて、建物の半分程が雪に埋もれている。


中央にある聖櫃の置かれている祭壇の間は、壁や床があちこち破壊され、腐蝕していた。

石櫃から漂う霊厳な雰囲気の中、石櫃の蓋の上に〈黒い鎧の戦士〉が横たわって居た。


黒い戦士は、ゆっくりと起き上がり石櫃から降りて立ち上がろうとしたが、フラつき床に膝を突く。


(…脱力感が、酷いな。)


俺は呟いた。


『〈転移〉は魂のエネルギーの消耗が激しいからな…まだ今の主では扱うのはきついかもしれんな。

まぁ、完全に融合できれば気にもならんのじゃが…」


フラつく足に力を入れて何とか立ち上がった。

周りを見回してみると、


(あれ?なんか綺麗になってる気がするなぁ…)


前回転移する前に死霊騎士(アーノルド)死の王(サンジェルマン)と闘った破壊の跡が残っている…にしては…


(…あれから2週間か…こんな感じだったっけ?)


「お目覚めですか、御主人様(マイロード)。」


綺麗だがトーンは低い声が聞こえて来た。

振り向くと、艶のある黒髪を腰まで伸ばし、濃グレーの瞳に端正な眉を乗せた綺麗な女性が、入り口からこちらに歩いて来ていた。


(忘れてた…そう言えば、彼女付いて来たんだった…)


俺の傍まで歩いて来て跪く。


御主人様(マイロード)が御眠りでしたので、建物の内部を散策して参りました。

そう言えば、建物周辺には数多の魔物の気配がありましたが…気にする事もないかと捨て置きましたが…」


「魔物の気配…もしかしたら、族長達かも知れないな。」


「排除すべきでしたでしょうか?…今から行って殲滅して参りましょうか?」

そう言って黒い鞭を取り出す。


「あうっ…えっと…何もしないでください…(; ̄ェ ̄)」


(…殲滅って、超過激な事をアッサリと…この(ひと)かなりヤバイ人なんじゃ…エリスって何者なんだろう。)


『その娘は、〈不和と争いの女神〉の様じゃな…』


先生が、教えてくれた。


(不和と争いって…かなり危険なタイプなんじゃ…)


『…厄介な女神に気に入られてしもうた様じゃな。』


先生(リューヴェルド)が何処と無く楽しんでいる様な感じがするのは、目を瞑る事にして。


俺は、黒い身体を〈擬似肉体〉に変化させ、人の姿になる。

黒シャツに白のスラックスにブーツという出立、腰には黒い剣を帯刀している。


「あら、御主人様(マイロード)。そのお姿は何かの催しでございますか?」


エリスが訝しげに俺の姿を見回している。


「この世界では、姿を変えといた方が何かと都合が良いんだよ。」


「ふむ…そう言う事でしたら…私も………?!」


エリスが突然入り口の方へ振り向く。


「魔物が…数体こちらに向かって来ます。」


入り口から姿を見せたのは、人狼族のバードと有翼族のシェーラだった。

俺の姿を見つけて走り出し、こちらに向かって来る。


「ゼロっち様ぁ!戻ってきたぁ~~~!」

「ゼロ殿!ご無事でしたか!」


走り寄って来る二人の足元に鋭く鞭が飛ぶ。


「うぉっ?!」

「キャッ!」


「それ以上、ご主人様(マイロード)に近寄る事は許さん、魔物風情が!」


鞭を床で鳴らし、威嚇しているエリスから冷たい〈気〉が放出している。

バードとシェーラも殺気を放出し、臨戦態勢に入る。


「あんた、何なんだわさ?」

「何しやがんだてめぇ、危ねェ~だろが!!」


「おぃお~~いぃ。ちょっと待って!ドッチモお互いを誤解してるって言うか…」


俺は、慌てて双方の間に割って入る。


御主人様(マイロード)?」

エリスがちょっと驚いている。


「彼等は、魔物だけど一緒に闘った俺の仲間なんだよ…」

エリスに説明し、


「それに、彼女は…俺の臣下?だから…争わないでくれないかな…」

バードとシェーラに説明する。


「そっちの怖そうな姉さんが、ゼロ殿の臣下だと…」

「じゃあ、あたしらも似たようなもんだわさ。」


「あぁ、そういう事ですの。ならば、排除する理由はありませんね。

申し遅れました、この度臣下に加えて頂きましたエリスと申します、以後お見知り置きを。」


エリスは、納得したのか族長達に丁寧に挨拶をした。


「あたしらは、各種族の族長だわさ。あたしは、シェーラよ。」

「俺は、バードだ。宜しく頼む。」


取り敢えず双方とも誤解が解けたようで良かった。


「それにしても、お前等ここで何してるんだ?」

俺は、バード達に問い掛けた。


「ゼロっち様の為の寝所を此処に造ってるんだわさ。」


シェーラは、全く意味が解らない…事を言っている。


「…はぁ?何で俺の家を造ってんの?それって…」


俺は困惑して聞き返していた。


「ゼロ殿が、ゆっくり出来る場所がいるだろ?…完成までお楽しみだな、ダンナぁ。」


「まぁまぁ、御主人様(マイロード)の為に寝所を用意しようとは、殊勝な心掛けですね。其方等を気に入りました。」


エリスが、輪を掛けて話が混乱する。


「え…あ、あぁそうなんだ…ありがとう。」


…良く分からないが、一応礼を言っておく事にした。


「エリス姐さんは、話が分かるだわさ。

家があったらゼロっち様がいつでも来れるし、良いと思ったんだよねぇ。」


「そうですね、活動拠点はあった方が何かと宜しいですわね。

私も手伝わして貰おうかしら?」


「そりゃあ、いつでも大歓迎だぜ。エリスの姐さん!」


(…何か知らないところで話が進んでいってるな。

それにしても…)


「なぁ、バード、あれからどうなったんだ?人族の討伐隊が此処へ向かって来てただろ…」


あれから2週間も経っている…ベクトール伯爵の軍は既に到着し、魔物達と戦闘になった筈なんだが…


「外に出たら解るぜ、ゼロ殿。」


ニヤッと笑いながら、親指を立ててバードが促す。

俺は急いで外に出てみた。


其処には無数の魔物が齷齪(あくせく)働いていた。

外敵侵入用の柵を造っている魔物や柵の外に堀を造っている魔物、あちこちで戦闘準備をしている。


「…これから戦があるのか?」


(ベクトール伯爵軍は退けたのか?…違う戦があるのか?どうなってる…)


「何言ってんだ?ゼロ殿。

さっき自分で言ってたじゃねぇか、人族の大軍がこっちに向かって来てんのさ。」


「ん?何か話が噛み合わないな…俺が消えてから2週間以上経ってるのに…まだ、戦って無いの?」


「…2週間って何だ?」


「ゼロっち様が消えてからまだ2日しか経ってないだわよ?」


「え?俺が消えてから2日…?」


かなり混乱してきた…元の世界に戻って2週間近く経っていた筈なのに、こちらの時間では2日しか過ぎていないのか…?


「…恐らく御主人様(マイロード)は、あちらの世界で転移した際、〈空間転移〉ではなく〈時空間転移〉されたのでは無いでしょうか?」


エリスが、現況の事の顛末を端的に分析してくれた。


(…時間を遡って異世界に転移したって事か…)


「…って事は、もしかして…現在進行形でベクトール伯爵の討伐隊が山登って来てんの?」


「正解だ。今は、山脈の麓辺りだが、人族の兵は300人位いるみたいだぜ。」


(ちょっと待てよ…何でこうなってるんだ?〈死の王〉は倒したし、不死の大群はもう、居ないのに…ベクトール伯爵が進軍してくる意味がない…んしゃ………はっ∑(゜Д゜)

…俺が報告してないから、あっちは何も知らないんじゃ…)


まさか…の自分の所為で、この事態を引き起こした事に気付く。

報告に戻っていれば、進軍を止められたかも知れない…


「おぉ、ゼロ様では御座いませんか!」

「お戻りに成られたのですね。」


邪精霊族のゴブルと邪人族のゲイルがやって来て跪く。


「…今どんな状況なんだ、人族軍はどんな動きをしている?」


早く、状況を把握しておきたかった。


「もう少しすれば、偵察に出ている者が戻りますれば、その報告を待った方が良いかと。」


ゴブルが、言い終わると同時に、

タイミング良く、竜人族のギャランが戻って来た。



皆で再び祭壇の間へ行き、其処で報告を受ける。

俺と5人の族長、それとエリスが同席していた。


ギャランからの報告によれば、討伐隊は腐敗した樹海を抜け山脈の麓に辿り着いた様で、其処に陣を構えているようだ、

人数は、300人程度。

皆武装していて、明日にでも山脈を登り始めるとの事。


「その規模であれば、此処まで7日位で着くと思われます。」

ギャランが、報告を締め括る。


「如何されますか、ゼロ様。」


ゴブルが、聞いてくる。


「その前に皆に少し聞きたい事がある…

お前等、何で此処で戦おうとしてんの?魔物は、人族には関わらないんじゃ無かったっけ?

だったら、こんな処で籠城なんてしないで逃げれば良かっただろう?」


「そりやあ、人族には関わりたくないけどよ…」

バードが歯切れ悪く話す。


「〈死の王〉の代わりに、お前等が討伐されるかもしれないんだぞ?」


「此処は、我等魔物にとって大切な地なんですじゃ。」

ゴブルが、代わりに話しだす。


「大切な地…?」


「そうだわさ、ゼロっち様が消えちゃって、いつ戻るか分からなかったから…だから皆で此処を守ろうと思ったんだわさ。」


「この地は、ゼロ様が戻られるかも知れ無い…我等にとっては神聖な場所。その地を汚させる訳にはいかん。」


(…俺の為なのか…だから家造ったり、闘わなくても良い人族と闘おうとしてるのか…)


魔物の族長達は、俺の前に並び一斉に跪く。


「良くお戻りになられました。

我等一同、これより先如何なる事があろうとも、貴方様に変わらぬ忠誠を誓いまする。」


「…なんで、そこまで俺を…俺はお前等にこんなにも良くしてもらう様な事は何もしていないのに…」


「我等にとってゼロ様は大恩あるお方です。」

「ゼロ殿は俺等の誰よりも強いしな、皆あんたに従いたいのさ。」

「貴方様を皆が慕っておるのですよ。」

「そんなの決まってるわさ、皆ゼロっち様が大好きなんだわさ。」


「あなたの仲間なのでしょう?私達は。」


「…あぁ、皆俺の大切な仲間だよ。ありがとな。」


(ホントいい奴等だな、俺なんかの為に…)


種族や姿形は違っても、こんなに大切な仲間が出来たのはとても嬉しかった。



――――――――――――――――――――――――――



腐食の進行で枯れてしまった樹海を通り抜けた山脈の麓に野営地が設営され、

300人にもなる討伐隊が、ここに集結していた。


【果ての山脈】は、未だ誰も踏破した者は無く、越えられぬ巨大な壁として君臨していた。

それは飛空艇でも超えられない高さ、登る事も厳しい切り立った険しい山肌、そして凶悪な魔物達が棲息していたからである。


山脈の頂上に城を建てれれば、侵略される事の無い難攻不落の自然の城塞となる…

それは、時の権力者達の夢の一つだった。


通常では到底踏破できない道行だったが、現状山脈から流れている川が干上がり道を作り、

魔物達の姿は無く、登頂の遺跡に攻め入るには絶好の機会となっている。


不死の魔物達があの遺跡から出現しているという報告は入っており、

進軍して来て山の麓に陣を構え、登頂の遺跡まで後7日程の道のりの所まで来ていた。


陣屋の奥のテントでは、今作戦会議が行われていた。

列席者は、

ベクトール伯爵と臣下の騎士が2人。ダンゴウ騎士長とラルゴ騎士長。

サーシャ副隊長とルーレシア副官。

タルマン司祭が会議の席に着いていた。

情報収集を担っていた衛士見習いの4人もテントの入り口付近に控えていた。


「どうじゃ、何か案はあるか?ラルゴ騎士長。」


整った髭が目立つちょっと小太りだがデブでは無いベクトール伯爵に聞かれ、

背の高い騎士ラルゴは答える。


「これまでの進軍状況からみると、ここ迄全く魔物の気配は無く、すんなり麓まで到達出来ました。

という事は、あれだけの魔物の大群はこの先にいるという事、ここは慎重に行動すべきかと進言いたします。」


「ふむ。ダンゴウはどうじゃ?」


背は低いが、がっしりとした体格の騎士長ダンゴウは答える。


「は、恐れながら。頂上の遺跡まで道が出来ている、この好機を逃す手はありますまい。

敵の思惑は測りかねますが、こちらは300の精鋭を揃えております。

魔物風情がどの様な謀り事をしようとも退けて見せましょうぞ。」


「其方の意見ももっともじゃな…ふむ…サーシャ殿はどう思われる?」

ベクトール伯爵は、サーシャの方に向きながら尋ねる。


「私のような余所者が、意見しても宜しいのでしょうか?」


サーシャ副隊長の声が低くなった。

二人の騎士長が、きつい目でサーシャを睨んでいる。


「其方の事は、聞き及んでおる。先の帝国とのワルシャ湾の攻防で〈地略の魔女〉と呼ばれておったそうだな。

其方の意見も聞いて置きたい。」


衛士見習い4人が驚いている。


「そうですか、であれば私からも進言致しましょう。

ですが、その前に…現在私の部下が一名偵察任務に出たままもう2日戻って居りません。」


サーシャは、席を立ち話始める。

衛士見習い達も神妙な顔で聞いている。


「既に死んでおるか、魔物に捕まったと考えるのが順当であろう。」


ラルゴが口を挟むが、サーシャは無視して話し続ける。


「ですが、この者が魔物にやられる事は考えられない…となれば、今も諜報活動を行っている筈です。」


サーシャの眼は、強く光っている。


「…情報がこれ程少ない状況で無闇に動くのは愚策。

然し乍ら、川の道が出来ているこの好機を逃せば、今後討伐隊に勝ち目は無くなります。

道が消える前に動かねばなりません。それでは、情報を待つ時間もない…」


「…では、どうすると?」


「隊を3つに分けます。

まず、少人数で斥候部隊を編成します。それならば、2日程で遺跡まで辿り着ける。

途中私の部下と会えれば、より早く情報を得られます。

次は50人程度の部隊で跡を追わせます。

この部隊は陽動です、後ろから追わせる事で支援も出来る上に敵の注意も引けるでしょう。

最後に本隊を動かすのが良いかと。」


「成る程のぉ、流石は〈地略の魔女〉。

一本道では、背後から襲われる事もない。隊を分けておれば、例え罠があったとしても対処し易いか…」


「私もサーシャ殿の意見に賛成です。」


タルマン司祭が、賛同してくれる。


「…良いであろう、サーシャ殿の策を薦める事とする。

斥候の部隊編成は其方に任せる、急ぎ人員を整理し出立いたせ。」


「畏まりました。」


サーシャは一礼して席を離れ外に出る。

ルーレシアと衛士見習い達も共に天幕を出て行く。



サーシャ副隊長の天幕


「魔物の動きどう思う、ルーレシア。」

サーシャ副隊長が、副官のルーレシアに尋ねる。


「そうですね…先ず魔物の動向に違和感が有ります…

それに、ここ数日山からの〈腐敗の波動〉が感じられない。…先程道端に若芽を見つけました。」


「やはり、魔物の群れに何かあったと考えるのが妥当かも知れんな…」


少し考え込んでいる。サーシャ副隊長が衛士見習いの方へ尋ねる。


「お前達は、何か意見がある者は居るか?」


「あのぉ…」

シェリルが、手を挙げる。


「シェリル、遠慮なく考えを話せ。」


「はい、もしかしたら魔物とアンデッドは仲良く無いのかも…」


「…成る程、どうしてそう思う?」


「アンデッドさん達が、森や湖を腐敗させたとしたら、そこに暮らしてた魔物さん達は水も食べ物も無くて困ってるだろうなぁって…こないだ町に来た魔物さんすぐ逃げちゃったけど、逃げる時食べ物いっぱい持ってました。」


「…」


「私も違和感は感じましたね。魔物達からは、敵愾心や殺気を感じなかった…戦う事が目的では無かったとしたら…」


ルーレシアも感想を述べた。


「…少し考えさせてくれ、

明日は、このメンバーで斥候を務める。今日は休息を取り明日に備えておけ。」


シェリル達は、敬礼してから退席して行った。




夜も更けていたので、討伐隊員も余り見掛け無い。

自分達の天幕に戻る途中。


「…にしても、ゼロの奴。何やってんだよ…」

ジュドーが呟く。


「心配です…無事に帰って来て欲しい…」

シェリルが、半ベソ状態だった。


「サーシャ副隊長も、心配無いと言っていたし、私もそう思う。」

エルナが、シェリルを励ましている。


「アイツ帰って来たらとっちめてやるんだからね。」

アリシアが、怒った様に言っている。


ラバージは相変わらず、モグモグ食べながら何を話してるか分からないが…


「明日から斥候任務だけど…もう一つの目的は、ゼロを必ず捜し出す!」


「はい。」

「そうだな。」

「必ず見つけてあげるわ!」

「モグ…」


ジュドーの言葉に全員一致で賛成をみせ、各々のテントに戻って行く。





翌朝、まだ夜が明け切らぬ内に斥候部隊は出発した。

干上がった川を油断なく順調に進む。


川を登り始めて半日の所に落石とかなり朽ち果てた死体が数多く埋もれていた。

数体の魔物も死んでいた。


「何だこれ?!物凄い数のアンデッドの…死体?それに魔物も…」


アンデッドは元々死んでるから…死体というのは可笑しいのか…


「…どうやら、シェリルの推察が正解の様だな。魔物とアンデッドは戦っているようだ。」


サーシャ副隊長は、死体を見分しながら推測する。

ルーレシア副官が傍に近付き、


「…となると、どちらが勝利したのでしょうか?

ここ迄全く魔物共の気配もないし、【腐敗の波動】もここ数日感じません…」


「…おそらく、魔物達が勝利しているでしょう。この落石はたぶん魔物の仕業…

となるとかなりの知略を持つものがいる筈です。

それに魔物の死体が少なすぎる…」


「魔物に戦略が練れるのですか?!そんな話聞いた事もありません…」

ルーレシアが、信じられないといった顔をしている。


「…これは、一刻も早く遺跡まで行かなければならんな。

最悪の場合、我々はアンデッドなどよりもっと厄介な敵を相手にしなくてはならなくなる…」


サーシャ副隊長が山脈を見上げる顔が険しくなる。

一行は再び山脈を登り始める。



翌日夕方頃、サーシャ達は遺跡の側迄来ていた。

遺跡の周りには堀と柵が張り巡らされ、見張りの櫓が組まれていた。

遺跡も石壁が高く作られており容易に侵入できないと思われる。


岩陰からサーシャ達は観察している。

魔物の数は数百体はいる様だ。

種族は、コボルト族、オーク族、人狼族、竜人族とかなり幅広くいる様だ。


「…多種族の魔物達が一同に介しているとなると…彼等を束ねる者がいるという事…」

サーシャ副隊長が呟いている。


「…あいつは、結局見つからなかったな…」


「この砦の中に捕まっている可能性も…」


「ゼロ君はきっと無事です!」

シェリルも泣きそうな顔だが、強い眼をしていた。

その時、


「呼んだ?」


聞き覚えのある声が背後からして。


「?!」


一同は一斉に振り向く。

そこには、ライトプレートに黒剣を携えた俺が立っていた。


「ゼロ君!」

「ゼロ、無事だったのか!」


「貴様、二日間も連絡なしで何してた!!」


おもいっきりサーシャさんに殴られ、後方に吹き飛び、岩に頭を打ち付ける。

衛士見習いの4人はその光景に絶句していた。


「痛っテェ~~ッ…色々あってインカムなくしちゃって、連絡取れなかったんすよ。」


「全く貴様という奴は…まぁ、無事で何よりだったな。

それで、貴様が得た状況はどんなか説明してみなさい、ゼロ。」


(サーシャさんに叱られるのも久し振りな感じだなぁ…)

と思いつつ…


「掻い摘んで説明すると…棲息圏を脅かしたアンデッドと魔物の闘いがあってアンデッドの親玉は倒されたんす。

そん時、魔物に手を貸したら仲良くなっちゃって…とりあえず、皆が来るのを待ってたと言う訳です。」


(…嘘はついていないぞぉ。)


「は…?ま、魔物と仲良くなった?!」

「相手は魔物ですよ??」

サーシャも皆も目を丸くする…


「んで、お迎えが来てるっす。」


有翼族(ハーピー)のシェーラと部下が2名後ろに立っていた。

何の気配もなく姿を現した。


「!!」


「貴方達を人族の大使としてお迎えしに来ただわさ。」

シェーラが話し掛ける。


身構えようとする一同を俺が制する。


「待って、彼等に交戦の意思はないんです。

ここは、俺を信用して付いて行ってくれませんか、サーシャ副隊長。」


少し思案していたサーシャは、

「…いいだろう、お前を信じてみよう、ゼロ。」


「じゃあ、中に案内するからついて来るだわさ。」


シェーラが先に砦の方へ歩いて行く。

それに、付いて行く一同の後ろからハーピーが2人護衛につく。



遺跡の建物前に案内され、石造りの椅子に腰を下ろして暫し待つ。


建物からそれぞれ違う種族の5人の魔物が現れる、その中に先程の有翼族(ハーピー)もいた。


「よう来なさった、人族の方々。」


「我等は各種族の族長達、この会談に列席させて貰いたい。」


会議用にテーブルと椅子が用意された。

魔物側が5人、人族側が7人。

それぞれ対面して席に着く、簡単に自己紹介を行う。


「会談を行う前に、聞きたい事はあるかの?」

ゴブルが、質問する。


「何故、私達を大使役にしたのか、お聞きしたい。」

サーシャ副隊長のもっともな疑問だった。


「御主等の事は、其処のゼロ殿から聞き及んでおる。信頼の置ける者達であると。」


「…成る程。此処に私達を招いた理由は、なんだ?」


「我等には、そなた等と戦う理由が無い…じゃから〈不戦条約〉を交わしたくてのぉ。」


ゴブルは、サラッと本題を切り出して来た。


「闘う気がないと言うのか?…それでは何故、こんな所に砦を造っているのだ?」


サーシャ副隊長は、指摘する。


「此方から戦いを仕掛ける事は無いが、仕掛けられれば、俺達も身を守らないといかんからなぁ…

それに此処は、我等が王が在わす地、何者であろうと汚させはせん。」


人狼族のバードが話す。


(おや?…俺いつのまにか王様にされてね?)


「王様のお城…」


「あたい等の王様は、7つの掟を下されたんだわさ。」


①多種族を見下さず、友と思い接せよ。

②人族とは極力関わらず、双方不可侵とする。

③些事でも事由なく他者に危害を加える事を禁ず。

④友が傷付けられし時は、全力を尽くし是に当たる事。

⑤万一己に危害が及ぶ場合は、是非にあらず。

⑥何人たりとも掟に叛く事なかれ。

⑦掟を破りし者は速やかに裁かれる。


「この7つの掟は、我等には破る事が出来ぬでな。

その為には、此度の人族の侵攻を武力では無く、話し合いで解決するのが最善と考えたのじゃよ。」


「それが事実だとするなら、アンデッドの事はどう説明する?此処へ来る途中で見掛けた大岩に潰された死体…あれは、闘いの跡では無いのか?」


サーシャ副隊長は、更に質問する。


「我等の王が降臨されたのはつい数日前、〈不死者〉に我等が苦められていた時でな、【死の王】を倒し、我等をお救い頂いたのじゃ。」


「…やはり、【死の王】とやらを倒したから大地の腐敗が止まったと言う事でしょうか?」


ルーレシア副官が、サーシャ副隊長に告げる。


「その様だな…彼等の王のお陰で、腐敗の浸食が止まったのは事実の様だな…」


サーシャ副隊長も得心が行ったようだった。


「…どうじゃな?我等は人族と闘う気は無いし、深く関わる気も無いからのぉ。

〈不戦条約〉の件、考えてくれんかのぉ。」


「あたし等、出来れば人族とは戦いたくない…ゼロっちさ…んとは、闘いたくないんだわさ。」


俺に向かって親指を立てやがった。

(おいぃぃ、…気を付けろぉ~~、様って言いそうになっただろ?)


俺は冷や汗を掻いていた。

サーシャ副隊長の眼が細くなる。


「ゼロ君、魔物さん達と仲良くなったのホントなんだ…」


シェリルが驚いていた。


「あ…うん。そうなんだ、なんか気に入られちゃって…」


「ゼロ、ちょっと来い。話がある…」


サーシャ副隊長に呼ばれる。俺はドキドキしながら席を立ち、

少し離れたところで待つサーシャの元へ駆け寄った。


「…貴様今度は何をやらかしたんだ?!」

サーシャが小声で怒鳴って来た。


「えっとぉ、今回はこれといって…魔物達に落石の策を教えたくらいで…」


「あ、あれは、お前の仕業か?!全く…何をやっているんだ…貴様は…

ん?ちょっと待て…魔物の王にお前がなったわけではあるまいな?!」


図星を突かれて、俺の心臓は飛び出るかと思ったが、ここは極めて平静を保つ事に成功した。


「そんな訳ないでしょ!王様は本物の【暗黒魔王(ヴェルダバーナ)】ですよ。」

「本物がいるのか此処に?!」


サーシャがかなり動揺している。


「そんなものがいるのであれば…一国の総軍事力を投入しても勝てるかどうかわからぬ。

ましてや我等討伐隊など虫けらも同然ではないか…」


「ここは、魔物の提案通り〈不戦条約〉を結んだ方がいいかも…」


「そ…そうだな、ここは〈不戦条約〉を取り交わしておいて、【暗黒魔王(ヴェルダバーナ)】復活の報告を王都へ早急にしなくては。」


サーシャは気持ちを落ち着かせ、俺達は席に戻り再び話を続ける。


「結論はでたのかの?」


「その申し受け、有難くお受け致したい…のではあるのだが、私にはその権限を持たぬ。

国に持ち帰り、早々に使者を連れて参る事にしたい。」


「そんなに畏まる事は無いぜ、嬢ちゃん。俺達は、あんたを人族の代表に選んだんだ。

あんた以外の使者が来たって俺達には意味がない。

あんたさえOKなら条約は締結さ。

コチラに危害を加えない限り、俺達は人族に今後一切手を出さないぜ。」


「何でそれ程、私を信用できるのだ…」


サーシャ副隊長は、なぜこれほど無償で信頼されているのか理解できないようだった。


「それは、俺等族長達がゼロ殿を信用しているからだ。

そのゼロ殿が信頼を寄せているのがお前達なのであろう?

ならば、俺達も信用するのが道理だろ。」


「それじゃあ、〈不戦条約〉は成立だわさ。」

シェーラが立ち上がり、他の者も皆立ち上がる。


「そうだな。よろしく頼む。」


ゴブルの差し出した手をサーシャが握る。


「凄いな…俺達凄い現場に立ち会ってるんだぜ…」

ジュドーが呟く。


「数千年来恐れ続けて来た魔物達と〈不戦条約〉が結べるなんて…」

アリシアも驚きで声が掠れている。


「ゼロ君のお蔭で実現したんだよね…ゼロ君って…」

「不思議な男だな…ゼロ」


「彼は…一体何者なんでしょうか。」

ルーレシア副官も俺を視ていた。


その時、物見櫓から有翼族(ハーピー)の戦士が伝令に入って来た。


「族長様、人族の騎士団が100名程迫ってきており、その後方からも更に150名程の大軍が、

こちらに進行中との報告も入っております。」


「皆に伝えよ、条約は締結された。掟に従い人族に手出しすることは許さん。」


「畏まりました。」


魔物達へ伝達する為に、有翼族(ハーピー)の戦士は飛び立って行った。


「2陣がもう到着したのか?早すぎるな…然も100名…」


サーシャ副隊長が怪訝な顔をしている。

到着があまりにも早すぎるのだ…自分たちが1日半でここまで来たというのに、

半日もずれないで100名もの2陣が到着するなんて前もって行動していたとしか思えない…


会談をしていた者達は、砦の門の方へ駆け出して行く。







次回もプロローグは続きますね…早く始めよう異世界2重生活…

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