プロローグ18 限定イベント 終了
やっと序章が終わりそうです。
槍と盾を持つデイモス、黒い鞭をしならせるエリス。
対峙しているこの相手も神なのだろうか…
纏わせている気配は異常な程凄まじい。
「生贄を救いたくば、我等を倒して見せよ!」
デイモスの槍先から迸る気配は、恐怖を感じさせる。
例え持てる力を出し尽くしても、勝てるとは限らない事を、俺は実感していた。
「時間は無いぞ、〈黒き者〉よ。間も無く海魔獣がやって来る。其れ迄に助けださねば時間切れという事だ。」
「…ZERO様、私は自分の定めを受け入れています。どうか、【荒ぶる神】の封印の事だけを御考えを…」
「…それは違う…犠牲の上に成り立つ勝利なんて、敗北と同じなんだよ。そんな物は欲しくも無い…俺は、君を失いたく無い…」
「…ZERO様…」
アンドロメダは一筋涙を流す。
「ふん、理解出来んな。たかが小娘一人の犠牲で世界の災厄が回避できるのなら、小を切り捨てるのに何の問題がある?」
デイモスが、侮蔑している。
「お前等神には、人の感情など一生理解出来んさ。」
「では、貴様の力で理解させて見せよ!」
そう言って、全身に〈白い波動〉を漲らせ、右手に持つ槍を振る。
豪槍が唸りを上げて襲い掛かって来た。
アリアンシールドで受け止めるが、衝撃で後方に吹き飛ばされる。
瞬間、真横にデイモスが現れ、槍を突き出す。
(超高速移動?!)
身を捻り躱し、返す右のフルンティング。
その一撃は、宙を斬る。
デイモスは、瞬間消え去り、俺の背後に現れ盾を叩きつける。
「グハァッ!」
反応が遅れ背中に強撃を受ける。
倒れた俺に更に槍の追撃して来る、倒れながら剣で弾き返し、転がりながら回避しつつ何とか立ち上がる。
「くっそぉ、つえぇなぁ…」
「諦めるか?〈黒き者〉よ。」
「…時間がないからな、全力で行かして貰う!」
盾を持ち物に収納し、ゆるりと剣舞を始める。全身に意識を集中させ、精神エネルギー
を全身に満たしていく…溢れ出し始める【黒い波動】。
デイモスの眼が光を帯び、全身から【白い波動】を噴出させる。
エリスも身構えて妖気を放出する。
波動をフルンティングに集約させて行く…剣筋に黒い線を引く…
「どうやら、俺も本気で相手しないとまずそうだ…」
デイモスの槍にも波動が集約されていく…
【千騎槍】
無数の刺突が迫る、一つ一つが一撃必殺の威力を持っているのが解る。
その全てを流舞で回避しながらフルンティングの黒閃を振る。
技の発動後を狙った一撃は、デイモスの頸を斬り落としては…いなかった。
「!」
俺の腕をエリスの鞭が止めていた。
鞭を流れるように左足の黒閃出切り落とし、右足で黒閃をエリスに向けて飛ばす。
それを、〈白い波動〉を乗せた鞭で叩き落とし、
【万翔鞭】
無数に迫る鞭を躱しきれず、幾つか身体に受ける。
受けた部分は弾けて消失するが、それを無視しフルンティングを振る。
魂の力を最大限に解放していく、意識が飛びそうになるのに堪え。
デイモスと、エリスの同時攻撃を真っ向から叩き返す。
「二人掛かりで対等とはな…」
戦闘を続けながらエリスが漏らす。
「あぁ、こいつの戦闘センスは異常だな…一度打ち合えば、次からそれ以上で切り替えしてくる…」
「〈黒い波動〉も増してるし…ここは不本意だけど…」
「ちっ、やるしかないか、共同作業は嫌いなんだがなぁ。」
最大の波動を放出するデイモスが防御態勢を捨てる。
(…さっきとは桁外れの威力だが、それじゃあ俺には届かない…)
【縛鎖雷鋼鞭】
「!」
デイモスに気を取られ、
エリスが気配を消していた事に気づいていなかった…
俺の四肢と頸に鞭が絡みつき、雷撃が全身を襲う。
「アガァァ…ッ!」
雷撃で麻痺を起こす。絡まった鞭を外そうと藻掻くが、鋼の様に硬い鞭は引き千切れない
【豪爆穿奔流槍】
デイモスの力が爆発する。
(なっ?!これはヤバイ…!)
白く光を発する豪槍が衝撃波を起こしながら突き出される。
身動きの取れない俺に向かって…
白い大爆発が起こり、辺りを消滅させてしまった。
爆煙から姿を現したのは無傷の〈黒い獣〉だった。
爆発で俺の意識は吹き飛び、理性を失っていた…。
俺は、咆哮した。
「うおぉぉぉぉ…ッ!」
【黒い波動】が巨大な奔流となって吹き上がっている。
大気を震わせる程の力の奔流が俺の中から溢れ出す。
「…こ、これは…これ程なのか…」
「…まさか…」
黒き奔流の圧力で、身動き一つとれないデイモスとエリス。
それを見ていた〈傲慢なる者〉は、少し口元に笑みが浮かんだように見えた。
無意識な俺は、超高速移動でアンドロメダの横へ跳び、鎖を引き千切ろうと手を掛けようとした瞬間。
両腕に赤い光のリングが現れ、全身に戒めが現れる。
「ぐぅぅ…うぉあぁぁっ!!」
「忘れておったのか?お前は授かったであろう?…その戒めは〈神託〉によるモノ。」
〈傲慢なる者〉が苦痛の原因を教えてくれる。
全身を苦痛が襲い、苦しむ〈黒き獣〉。
(…駄目だ…)
俺は、意識を取り戻したが、〈怒り〉に身を任せていた…心の中で呟く、
「お前にそれを解く術はない、神であろうと神託の契約は破ることは出来ないからな。」
「うごぉおぁあぁぁ、うがぁッ!」
(そんな…〈怒り〉の力でも…救えないのか…)
俺は絶望感に襲われていた。
「あぁ、ZERO様、もう…もうお止めください…」
苦しみ続ける〈黒き獣〉は、戒めを破壊しようと試みているようだ。
「だが、もう時間も無いようだ、どうやら来たようだぞ。」
〈傲慢なる者〉が、天空を見て告げる。
空が地鳴りのように響く、天が落ちたかと思う程の霊気が神殿を震わせる。
空をも覆い尽くす程の巨大な海龍が現れる。
「キャァァッ!」
霊気に充てられ、アンドロメダが気絶してしまった。
「供物である贄を差し出し、我を呼び出したのは何用じゃ?」
海魔龍が問い掛けて来る。
周りを見回していたが、荒れ狂う〈黒き獣〉を見て動きを止める。
「封印したいのは、その〈黒き獣〉か?」
「ふむ、我ではなくその獣の方が危険だと認識したという事か…」
〈傲慢なる者〉が呟く…
そして、海魔龍に向かって叫ぶ。
「海魔龍よ、封印されるは我である!」
「…ふむ、誰でも良いが、神器はこの場にあるようだからな…贄を食らって神器の力を解放してやろう。」
海魔龍が、巨大な口を開けて気を失っているアンドロメダを食らおうと近付く。
(いや駄目だ、俺は諦めない!必ず助けると誓ったんだ!何があってもアンドロメダを救う!!)
俺の意志が、〈怒り〉を凌駕していく。
〈黒き獣〉が咆哮する!
「グルゥゥラァァァッ…や、やめろぉぉぉ!!」
咆哮が叫びに変わった!
「?!」
【黒の波動】が爆発したように膨れ上がった…それは【黒の衝撃】となり、
海魔龍の霊気すら凌駕し、神殿内をその衝撃で埋め尽くしていく。
俺は安どの眼だの鎖に手を掛ける。
全身の苦痛はさらに激しく体中を駆け抜ける。
「ぜ…絶対助けて…やるから…待ってろよ。」
両手首に赤い光の浮き出る〈神託〉の戒めに亀裂が入る。
鎖を打ち切ると同時に、戒めの赤い光も四散した。
「ば、馬鹿な、〈神託〉の戒めを打ち破っただと?!」
デイモスが驚愕の声を出す。
「…やはり、あのお方は…」
エリスは跪き、小さく呟く…
俺は、アンドロメダを抱きかかえ起ち上がる。
【黒の衝撃】は変わらず爆流の如く吹き荒れているが、アンドロメダにだけはそよ風が吹いているようだった。
「…意志の力で戒めを破ったか…どうやら、心の枷を打ち破れたようだな。だが…」
〈傲慢なる者〉の口元から笑みが消える。
「我に贄を差し出すが良い、さすれば神器の力を解放してやろうぞ。」
海魔龍が空気を読めない発言をしてきた。
「立ち去れ、海魔龍よ。此処に貴様の居場所は無い。これ以上留まるなら叩き潰す!」
そう言って【黒の衝撃】を叩き付ける。
全身に衝撃を喰らい海魔龍は、仰け反る。
「…御詔であるならば、この場は去るとしよう。」
踵を返し、悠然と海原を泳いで行く
海魔龍は、空の彼方に消えて行った。
アンドロメダが気付いたので、床に降ろす。
「ZERO様…コレは…」
「アンドロメダ、無事で良かった。」
俺はアンドロメダの頭を撫でる。
「悪いけど、少し下がっててくれ。
今からラスボスと闘わないとなんだ。」
言われた通り、アンドロメダは後ろへ下がる。
俺は、それを見届けると、振り返り〈傲慢なる者〉と対峙する。
全身から湧き出る【黒の衝撃】が、
肌を刺す様な感覚から高揚感を齎す戦気へと変化していく。
その姿は、これから闘いを挑む戦神の様に見える。
「デイモスに頼みがある。アンドロメダを保護してやってくれ、エリスも頼むよ。」
俺は敵である二人にアンドロメダの事を頼んだ。
俺の言葉に二人は天啓を受けたかの如く衝撃を走らせる。
無意識に発した言葉には、〈言霊〉が宿っていた。
「畏まりました。」
二人同時に頭を傾頭し答える。
「どうやら、〈真の内なる力〉に目覚め始めた様だな。」
(…〈真の内なる力)、この身体から湧き出る力の奔流…此れが〈怒り〉を凌駕する程の意志の力…)
「少しは理解出来た様だな…〈意志の力〉は何よりも強い…だが、まだ不完全だな。」
(…不完全?)
「それは、我と手合わせすれば自ずと見えてくるであろう…でなければ、待つのは死あるのみ。」
〈傲慢なる者〉は地に降り立ち、手に持つ巨大な槌の肢を床に打ち付ける。
大地を震わせる凄まじい白い衝撃が走る。
デイモスとエリスが、アンドロメダを守りながら辛うじてその衝撃を受け止める。
【黒い衝撃】で相殺されているのか、俺は平然としている。
「さぁ、〈黒き者〉よ。我を封印して見せよ!」
〈傲慢なる者〉の言霊が乗った言葉が、魂を揺さぶる。
高揚感はあるが、恐怖や絶望感はない。
「それでは、行きます!」
次の瞬間、〈傲慢なる者〉の背後に現れ、
フルンティングを振る。
(なっ?!…背後に動いて剣を振ると考えただけで…)
フルンティングは空を斬り、斬撃の衝撃だけが、壁を斬り裂いていた。
俺が居た位置に〈傲慢なる者〉が立っていた。いつどうやって移動したのか…思い至ったのは、
「…瞬間移動?!」
〈傲慢なる者〉の姿が陽炎の様に揺らいだ瞬間、俺の背後に現れる。
「!」
巨大な槌が迫る。
俺の身体も揺らぐ…槌がすり抜けると同時に〈傲慢なる者〉もまた揺らぐ。
同じ動きを7〜8回繰り返し、次に俺が出現した瞬間、
フルンティングを何もない空間へ数回振り斬る。
その空間へ〈傲慢なる者〉が現れた。
「!」
フルンティングの斬撃を巨大な槌で受ける。
「ふん、戦闘センスは中々見事だ…だが…」
〈傲慢なる者〉の瞳が金色に光り、その全身を神気が覆う。
異常に膨れ上がっていく神気…
その想像を絶する霊気は、世界を覆い尽くす。
(…?!)
余りにも次元の違う力を目の当たりにし、俺は声も出ない。
「此れが貴様に足りないモノ…〈内なる力〉に目覚めた程度のお前では、この領域は遠く及ばん。」
俺は瞬間移動に超高速移動を混ぜ、連続で展開する。
残像ではない無数の実体を出現させ、その全てのフルンティングを振り、数百の斬撃を〈傲慢なる者〉に放つ!
「…愚かな。」
〈傲慢なる者〉は、指を軽く振っただけだった。全ての斬撃が掻き消えた…
「な…此れ程…差があるのか…」
〈傲慢なる者〉が、俺に向けて軽く指を弾いた瞬間、巨大な衝撃を受けて吹き飛び壁に激突する。
壁は音を立てて崩れ落ちる。
「グフッ…ハァハァ…」
俺は瓦礫の中から何とか立ち上がった。
フラつく身体を何とか奮い立たせる…
〈傲慢なる者〉が、掌を下に向け手を前に出しゆっくり下に下げる。
立ち上がった俺は、目に見えない力に押し潰される。
再び床に突っ伏しめり込んで行く。
(…此れが神の御力…なのか。)
測り知る事の出来ない力に戸惑い畏れを感じていた。
「…オマエはこのイベントを通して何を学んで来た?
その全てを出し切らねば我を封印する事など出来はしないぞ。」
(…学んで来た全て…)
俺は目の前に落ちているフルンティングを見た…
(…『万物の聲を聴き、本来の〈能力〉を発揮する』…俺の〈本来の力〉…俺の中にある聲を…)
巨大なプレッシャーに押し潰されているこの状況の中、
心を静寂で満たし、聲に耳を傾けた…
静かに集中して行く…そして小さな光を見つけた。
魂から放たれる光…
それは眩い光となり、俺の心を満たしていく。
突然、〈傲慢なる者〉の手が跳ね上がる。
「?!」
俺はゆっくり立ち上がる。
その俺の身体は漆黒の光を纏い、全身から壮絶な〈漆黒の神気〉を放出し世界を覆い尽くして行く。
「己が力を知った様だな…然も神の霊気を宿す程の…」
〈傲慢なる者〉の口元に笑みが浮かぶ。
「…あなたを封印する方法が分かった気がする。」
「ほう?」
俺は、持ち物から神器を取り出す。
「ん?…海魔龍が居ない今、そんな物使い物にならんぞ…?」
3つの神器の聲を聴き、【漆黒の神気】を注いで行く…
神器が淡く光を放ち始める。
「なに…?!」
〈傲慢なる者〉が驚く。
淡い光は眩い光になり、神器の〈本来の力〉を取り戻していた。
「有り得ぬ…いや…」
〈傲慢なる者〉は、何か納得した様子で此方を見ていた。
「さぁ、我を封印して見せよ。」
(…封印する法はアリアドネに貰った知識に在る。)
俺は勾玉の首飾りを〈傲慢なる者〉の頭上に投げる。
首飾りは四散し、勾玉が光の柱を天に突き上げる。
7つの光柱に囲まれた〈傲慢なる者〉の神気が、封じ込められて行く。
「…こ、これは…」
「〈傲慢なる者〉よ、あなたを封印します!」
真実の鏡を胸元に掲げ、〈傲慢なる者〉の方へ向ける。
姿を映された途端、鏡に吸い込まれて行く…
「…まぁ、良いだろう。」
〈傲慢なる者〉は小さく呟き、完全に鏡に吸い込まれた。
鏡の周りに7つの勾玉がはめ込まれて行き、封じる事に成功した。
俺はまともに持つ事も出来なかった漆黒の神剣を軽く振り上げ、
「〈傲慢なる者〉よ、此処はあなたの居場所ではない…あなたの在るべき世界に戻します。」
俺は漆黒の神剣に霊気を注いで行く…それに呼応するかの様に神剣の力が増大して行く。
壮絶な力を放つ神剣を肩に担ぐ様に構える。
「次会う時は手加減せぬぞ、その時まで確と精進致せ。」
俺は漆黒の神剣を振り斬る。
その一振りは時空間を斬り、裂け目をつくる。
デイモスが走り寄り鏡を抱え跪坐く。
「〈黒き神〉よ、無礼を承知で申します。
このまま〈神皇〉様を我が手でお連れする事をお許し頂きたい。」
「君とエリスさんにはアンドロメダを守って貰ってるからさ、何でも思う様にして良いよ。」
簡単に了承したので、暫し沈黙が流れた。
「か、かたじけない。この恩はいつか御返し致す。」
そう言って裂け目に消えて行く。
「やれやれ、やっと終わったかな…」
デイモスが鏡を持って消えていったのを見届けて振り返ると目の前に、エリスが跪坐き 畏まっている。
「あの…、エリスさん?何か用かな。」
「〈漆黒の神〉様、お逢い出来て光栄にございます。実は、不躾ながら貴方様に私からもお願いがあります。」
「…えっと、俺に出来る事なら何でも言ってくれ。」
エリスが上げた顔は、真剣な表情をしていた。
「不肖ながら私を貴方様の臣下にして頂けませんか。」
何やらとんでも無い事を言って来た。
「え?」
「我が魂を捧げるは、貴方様を置いて他にはおりません。どうか、臣下としてお側に御使えさせて下さい。」
(…多分、これ断っても付いて来そうだな…)
「じゃあ、お願いします。俺の臣下になって下さい。」
「あぁ、何と勿体無いお言葉。神命を賭して御使え致します。」
エリスの晴れやかな顔が更に美しさを感じさせる。
「よ、宜しくね。」
展開について行けなくなって来たので疑問を投げかけてみる。
「…そう言えば、エリスさんも何処かの世界から来たの?かな…」
(…何となくこのイベントが分かってきた気がする。)
「敬称ではなく、エリスと呼び捨てくださいませ。」
美し過ぎる顔で微笑むエリス。
「じゃあ、エリス。君は誰に呼ばれてこの世界に来たんだ?」
「…申し訳ありません、それはお答え出来ない事になっております。」
(…答えられないねぇ、まぁ大体想像はつくな…)
「そう…それじゃあ…」
エリスに更に疑問を問い掛けようとした時、アンドロメダが声を掛けて来た。
「ZERO様、おめでとう御座います。これで、最終ステージはクリアとなります。」
アンドロメダが、ステージクリアを告げる。
「私の役目は此処までです。またいつか、どこかでお逢いできる事を楽しみにしております。」
微笑みながらそう告げる顔は、何処かもの悲しげだった。
(…そう、アンドロメダはNPCだ。イベントが終わればプログラムは消えてしまう…もう二度と会う事は出来ない…)
俺は此れ迄のイベントを振り返っていた。
「アンドロメダ、君には色々世話になったな…有り難う。」
「いいえ、私の運命を変えて頂きました。私の方こそ感謝しても過ぎることはありません。」
アンドロメダは、微笑みながら涙を溜めていた。
俺は、アンドロメダの頭を撫でて、
「また、いつか逢おうな。」
「…はい。」
『限定イベントはどうであった?』
(先生!)
この感傷に浸ってるタイミングで敢えて声を掛けて来るか…
『主は、色々と成長した様で何よりじゃ。この世界を創った甲斐があったのぉ。』
(やっぱり、先生が創ったんすね!)
『この不安定で稚拙な世界に〈転移門〉など何処にも存在して居らぬのじゃ。主が〈転移〉するには、魂を覚醒させる必要があったのでな、試練を与える為に世界を用意したのじゃが…』
(…NPC…創った世界の住人が、ダメだったんすね?)
『その通りじゃ、この世界の理で創り出したモノは不完全体にしかならなかった…其処で我が、他世界で想像した生命体に制限と役割を与え、連れて来たのじゃよ。』
(…だから違和感だらけだったんすね、NPCではなく本物だったんだから…という事は、アンドロメダも異世界人?)
『生贄の娘も異世界から連れて来たのぉ、図書館の司書や伯爵達もそうじゃ、記憶は一部書き換えておるがな。』
(じゃあ、イベントが終わった後はどうなるんすか?)
『皆、記憶を取り戻し元来た世界に戻る様になっておる。』
イベントが終わると消滅してしまうかと思っていた俺は、少し安堵していた。
『このイベントで我が魂との融合が進み、覚醒に迄到達しておるからな。まぁ、それでもまだ3割程度ではあるが…』
(まだ、3割っすか?!)
『じゃが、3割有れば〈転移〉の為のエネルギーは足りるでな、いつでもとは行かぬが〈転移〉は可能じゃ。』
(おぉ!まじっすか!あの世界に戻れるんすね?)
これで、真也を探しに行ける…
(先生、〈転移〉の方法は…)
〈森羅の智慧〉が反応する。
右手が肩の高さまで上がり、頭の高さより上に黒い魔法陣が現れる。
右手が下がると同時に〈門〉が出現した。
(此れが〈転移門〉!)
『後は、行きたい世界を想い描きながら通過すれば良い。』
俺の行動を静かに見ているアンドロメダに向かって、親指を立て。
「アンドロメダ、必ず君に逢いに行くから。それまで元気で。」
「はい、ZERO様。心待ちにしております。貴方様もお元気で。」
アンドロメダが、和かに手を振り別れの挨拶をしている。
それに見送られ、俺は〈門〉を潜った。
「あぁ、我が君!私をお忘れです!」
エリスが慌てて〈門〉を駆け抜けて行った。
余談…
俺が〈転移門〉に消えた後、イベント島の住人達は元の世界に戻されたが、【仮想現実の世界】から島は消え去らなかった。
後で先生に聞いたら、『創造した世界を消す訳が無い』と言って怒られた( ̄O ̄;)
異世界から連れて来ていた主要人物は、先生が創り出したNPCに切替りホンモノと間違うくらいの仕上がりだった様だ。
第6世代のコンピュータにプログラムを組んでいるこの〈仮想現実世界〉の中で、
【森羅の智慧】を使って第12世代のコンピュータを構成し、プログラムしたNPCを使用しているらしい…
この島の人気は、程なくして、爆発的な勢いで全世界に広がって行く。
製作者不明の島には、未知のNPC…それが、全世界を震撼させた事は、かなり後になってから知る事になる…
余談…終
次回からいよいよ本編スタート…とはなりませんでした(;;