プロローグ16 限定イベント 3の島
謎解きなんて…
夜の闇が下りていた。
空には月が昇り、辺りを照らしている。
朽ちた鉄門にレンガ造りの塀に有刺鉄線が張られているが、錆びて所々切れている。
枯れた庭木が怪しく立ち並んでいる先に、
月明かりに照らされる古い大きな洋館が見える。
3rdステージ、偽りの館。
俺達は、その朽ちた鉄門の前に転送されて来た。
目の前に警告表示が赤文字で出ているので、
仮想端末を出し、確認するとステージ制限が設定してある様だ。
①持ち物・装備制限。
②能力制限。
③ステータス値固定。
「どうやらここはアクションステージじゃないみたいだなぁ。」
「そうですね。ここはアドベンチャーステージです。謎を解きながら進んでいくので、
今までのステージとは趣が異なります。」
「謎解きゲームは苦手なんだよな…」
「ここでは、2つ目の神器を見つけるための謎解きが用意されています。
それでは、館の中に入っていきましょう。」
そう言ってさっさと館の方へ歩いて行く、アンドロメダ。
(…淡々と進めていくのはNPCの特徴なんだけどね。でもなんか違う…んだよな…)
俺も朽ちた鉄門を潜り抜け、屋敷の敷地に入っていく。
玄関扉の前で、
アンドロメダと俺は、呼び鈴を鳴らし出て来た執事に中に案内された。
案内された大食堂には先客が来ていた。
黒い髭を蓄えた男性、白髪の老人、金髪の綺麗な女性。
館の主が座る上座の椅子は空席だった。
「新しい客か…〈真実の鏡〉を求めて来たのだろう?」
黒髭の中年男性が質問してくる。
「俺は、ZERO。」
俺とアンドロメダは席に着きながら答える。
「私は、カーラよ。歓迎するわよ。」
品定めするように俺を視ている。
白髪の老人は無言だった。
執事を連れて、赤毛の女性が入ってくる。
上座の席の横に立ってこちらを見る。
「…ZERO様、良くお越しになられました。館の主に代わりこのゲームの説明を申し上げます。
貴方のお求めになっている〈真実の鏡〉は館のどこかへ隠してございます。
鏡を見つけ出し、御館様の元へ御持ち下さい。」
「その御館様を探すのも謎解きなんですね…」
「その通りです。父はこの屋敷のどこかにいます。
それとこの3人のうち一人を選び協力者として同行を義務付けます。」
にこりともせず、淡々と説明をする。
「謎を解くヒントはこの屋敷にいる者達が持っています…
ですが、それが真実であるとは限りません。」
(なるほど…嘘が混じっていると…)
「何か質問はありますか?」
この館の令嬢ラミアは、少し間を置いた。
「無い様でしたら…」
「1つだけ…貴女が持っているヒントを教えてください。」
俺はすかさず聞いてみた。
ここで聞いておかないと次会えるかわからない…
「…いいでしょう。私のヒントは、鏡に関するヒントです。
『我を求めし者よ、水満ちる時月は満ち導く道が姿を現す』です。」
「それでは、頑張ってください。」
そう言うと、ラミア嬢が執事を連れて退室していく。
残された者は、俺達5人だけになった。
白髪の老人、
「まずは自己紹介からじゃな、儂はゲルドマン子爵じゃ。
儂は有能じゃぞ、連れて行くならこの中で一番役に立つわい。」
金髪美女、
「私は、カーラよ。
退屈してたのよ、私を連れて行ってくれたら…ウフフ。」
黒髭の中年男、
「俺はレイモン男爵だ。よろしく頼む。
謎を解くなら俺の頭脳を頼るがいい!」
(この中の一人を連れて行かないといけないのか…)
自己紹介は終わり沈黙が流れる。
俺は口を開いた。
「ちょっと、皆さんに質問があります。」
「何かしら、厳ついお兄さん。」
カーラは舌なめずりしながら聞いてくる。
(厳つい…ね、まぁ俺だけ甲冑みたいの着てるからね(^◇^;)
「僕に同行したいと思っている人はいますか?」
一同が俺の方を見る。
「何を言っておる?これは儂らの役目じゃぞ?」
「私は、ご一緒したいわぁ、ZEROさんには興味あるし。」
「我らの中に同行したくないものなど居る筈がない。」
3人はそれぞれ答えた。
「…わかりました、では同行はカーラさんにお願いします。」
「あら嬉しいわ。よろしくね、厳ついお兄さん。」
嬉しそうにカーラは席を立つ。
俺の方へ歩いてきて、
「これこの屋敷の地図ね。」
カーラは屋敷の地図をくれた。
俺とアンドロメダそして金髪の美女カーラは大食堂を後にした。
この屋敷は3階建てになっている。
1階は食堂と厨房、中央に階段があり、反対側には礼拝堂がある。
「じゃあ手分けして、聞き込みしてみようカーラさんは俺と一緒に厨房へ。
アンドロメダは礼拝堂の方へ行ってみてくれないか。あとで合流するから。」
「わかりました。では私は先に礼拝堂へ向かいますね。」
「頼む。」
アンドロメダと別れ俺とカーラは厨房へ向かった。
厨房に行く途中、
「ZEROさんに聞いてもいいかしら?」
「何?」
「何で私を選んでくれたのかしら?この美貌かしら?」
腰をくねらせている。
「特に理由はないけど…君だけが義務とかじゃなく俺と同行したがってるように見えたからかな?」
「ふ~ん。まぁ、何にしても選んでくれたんだから少しは役に立ってあげる。」
眼が妖艶な光を帯び、近寄ってくる。
「あぁ、ありがとう、助かるよ。」
そういう俺に纏わり付いて来て、胸を押し付け足を絡め耳元で囁く。
「うふふ、色々喜ばせてあげるわよぉ、お礼はしなくちゃね。」
(…この展開は考えてなかったΣ(゜д゜lll)
「あ、ああ…、えっと、これはちょっとやり過ぎ…」
そう言って俺は飛び退る。
「あら、ウブなのねぇ、かわいいわぁ。
お姉さんが楽しいこと教えてあげるわよ。」
「あ、えっとまた今度お願いします。」
(…って俺何言ってんだ?( ゜д゜))
「ウフフ…」
妖艶な瞳に怪しい光が宿り、口元には笑みが浮かんでいる。
厨房に入ると誰もいなかった、
「あら、誰もいないわね?これじゃ話も聞けないじゃない?」
俺は奥に行ってみると料理人が何人かいたので、
何とか話は聞けた。
話によれば、何処かの部屋に鏡に辿り着ける鍵があるらしいと言うのと後は、御館様は高い塔の先にいると言う情報だった。
厨房を後にして、礼拝堂へ向かう。
「そう言えば、貴方の連れの娘ってどんな関係なのかしら?恋人?」
カーラが、意味深に聞いてくる。
「恋人とかそんな関係じゃない、彼女はナビゲーターで、俺を導いてくれている。」
「ふ〜ん?それって信頼出来るの?」
「信頼?信頼するも何も…」
(当たり前みたいで、そんな事考えもしなかった…)
「此処は、偽りの館よ?誰も信じられない。それは一緒に来た彼女もそう。」
「…」
「貴方は、出会って間もない私が信用出来ないから、厨房へ同行させた。それで、彼女を一人で行かせたのよね?」
(確かに…そうだ…)
「いやでも、あり得ない。食堂を出る迄ずっと一緒だった…し、疑う事なんて…」
「…でも、今は違うわよね。」
(そうだ…アンドロメダを一人にしたのは不味かったかも知れない…考え過ぎか。)
俺は急いで礼拝堂へ向かった。
中央階段の裏を抜け、礼拝堂の扉を開ける。
沢山の蝋燭は灯され、ステンドグラスに反射している。
中に入り見回したが、中には誰も居なかった。
「アンドロメダ、居るか?」
返事はない。
祭壇まで歩いて行くと、奥から神父が出てきた。
「如何されましたかな?」
「すみません、神父さん。此処に女の子が来ませんでしたか?薄い水色の髪の…」
「その様な女の子は、来てないですね。」
「!」
「ほらね、だから言ったでしょ?誰も信じてはいけないのよ。」
(…)
取り敢えず、神父からも情報を貰い、2階に向かう事にした。
2階は廊下が吹抜けになっていて部屋数は10ある、
最初の、部屋から調べる。
3つ目を調べているとアンドロメダが入って来た。
「ZERO様、探しましたよ。」
「こっちも探してたよ、何処に行ってたんだ?」
話を聞くと、礼拝堂に行く前にメイド長に呼び止められて食堂で話した後、礼拝堂に行って俺達の事を聞いたらしい。それから2階へ上がってきた様だ。
(…本当にそうだろうか、…でも嘘を付く理由もない…よな。)
俺の中に疑問が残った…
「…行き違いになったのか…それで、メイド長から何か情報はあった?」
「はい、お話では館の主人は何時も書斎に出入りしている様ですが、鍵が常に掛かっているらしいです。」
カーラの眼が少し細くなる。
「書斎か…今の所それらしい部屋は無かったな。
残りの部屋を回って見よう。」
俺達は残りの部屋を探索したが、扉が開かない部屋が一つあった。
たぶん、それが書斎だろう…
此処で一旦整理して見る。
これまでに見つけたアイテムは、
絵画の裏に隠されていた、鎧の形が刻まれている鍵。
使えそうなランプ、ライター、ロープを手に入れた。
今までの情報を纏めてみる。
干上がった水、月が満ちると開かれる扉。
高い塔の先に館の主人がいる。
隠された部屋に3階へ続く階段。
祭壇は天へ登る入り口。
高貴なる扉は騎士に守られる。
死者は天への道を辿る。
最上階の真実は偽りの壁の先にある。
汝が選ぶ真実の扉は紅く染る。
この8つが、ヒントになっている様だ。
「どれも情報が端的で良く分からないわね…」
カーラが、首を傾げる。
「3階への階段は見当たらない見たいですし、あの開かない部屋が怪しいですよね。」
アンドロメダが現況を告げる。
俺は地図を見ていた。
(開かない部屋は角部屋になっている、まず隣の部屋をもう一度調べて見るしかないな…)
俺達は、もう一度隣の部屋へ向かった。
中に入り部屋の明かりを付ける。
部屋の中には、水が入っていない大きな水槽が部屋の真ん中にあり、天井には夜空が描かれていた。
よくみると壁や天井に丸いアクリル板が埋め込まれている。何かの意味が有るかも知れない…
後は、部屋の隅に水が入ったポリタンクが4つ置いてあるくらいだ。
手分けして、調べたが手掛かりはなさそうだった。
「後は、この不自然な水槽だな…」
「私も調べましたけど何も見つかりませんでした。」
「だよね、でも何かあるはず…」
「…私が意見を言っても宜しいかしら?」
カーラが、何かしら思い付いた様だ。
「なんか分かったら、何でも話してくれ。」
「では、…この部屋で不自然な物は2つそこの水槽とポリタンク…この組み合わせなら…」
「水槽に水を入れてみる…な。」
「あとは、情報にあった水に関するモノ…」
「干上がった水…月が満ちると扉が開かれる…」
俺は口に出してみた。
「そうです…そして月は夜上がるもの…」
「部屋の照明を落として、水を入れれば何かが起こる?!」
「そうなりますわねぇ。」
妖艶なカーラが、可愛くにこりと笑う。
「…」
アンドロメダは、黙ったまま成り行きを見守っている。
俺は部屋のスイッチを切り、ポリタンクの水を水槽にいれた。
水嵩が増すごとに壁面のアクリル板が、一つづつ点灯して行く。
天井の真ん中まで点灯した時、
何処からか鍵が開いた音がした。
「!」
俺達は、隣の部屋に行ってみると先程迄閉まっていた扉が開いていた。
中に入って見るとその部屋は書斎だった。
(此処に隠し階段がある筈…)
書斎には、高級そうなデスクと壁一面に本棚が備え付けてある。
奥へ続く扉が赤と白の2つある。
「…多分何方かが罠になっていると思う…
この部屋に手掛かりがあるかも知れないから探してみよう。」
「そうですね、探してみましょう。」
「何か有れば良いわねぇ。」
俺はデスクを調べた。
抽斗を開け調べたが何も無かった。
机の上にペーパーナイフが置いてあるが、必要は無さげだ。
赤い本を手にして、アンドロメダが声を上げる。
「ZERO様、本の中に鍵が隠されてました。」
「あら、私も見つけたわよ。」
カーラも見つけた様だった。
此方は白い本を持っている。
「ヒントには、『赤い扉が進む道』と有りました!」
アンドロメダが、いつになく主張している。
(…珍しいな、いつもは控え目な感じなのに…)
「そうかしら?ヒントには、『扉は紅く染まる』じゃなかったかしら?」
「ですから、赤い扉が正解なんです!そうですよね?ZERO様。」
尚も、主張するアンドロメダ。
(…余程自信があるのかな?)
「そうかしら?短絡的過ぎないかしら、私ならもう少し調べて見るけどね?」
(カーラの言っている事の方が…)
「…ZERO様は、どうですか?私の意見に賛成ですか?」
俺は、少し言い澱む…
「…そうだな、もう少し調べてからでも遅くないと思う。」
俺の言葉にアンドロメダは目を伏せ、
「…そうですね。」
とだけ返答した。
「じゃあ、もう少し調べましょ。」
そう言ってカーラは再び部屋を調べ始めた。
アンドロメダと俺も無言で調べていると…
「あら?此処に変な穴が開いてるわね。」
カーラが何か見つけた様だった。
見てみると壁に幅1cm位の孔が開いていた。
「細長い物が刺せそうねぇ。」
「!」
(ペーパーナイフがあったな…)
俺はデスクに取りに行き、その孔に挿してみた。
音がして部屋のライトが切り替わった。
先程迄赤だった扉は黒くなり、白い扉は紅く染まった。
鍵が開く音がして、紅く染まった扉が開く。
中には、3階への階段があった。
「階段有りましたね、3階に行って見ましょう。」
アンドロメダが、先に上がって行った。
(…アンドロメダを信じてこっちを選んでいたら…
それに、何であんなに主張したんだ?何時と違う…様な)
俺の中に芽生えた疑惑が大きくなる…
俺とカーラも、階段を上がる。
カーラが見つけた鍵には盾の絵が刻まれていた。
3階に上がると殺風景な通路になっていた。
先に上がったアンドロメダの姿は無い…
「あの娘、また居なくなったわね…」
カーラが、抱きついてくる。
「な…?何んすか?!」
「あんな信用できない小娘なんて、お払い箱にしちゃったら?代わりにお姉さんが、色々してあげるわよぉ。
どうかしら?ウフフ…。」
(…色々ってなんだ?!)
「アンドロメダは、俺のナビゲーターだし…信頼もしてる…」
カーラを払い除ける。
「あぁん、意地悪ねぇ。」
「ZERO様ぁ!」
その時、アンドロメダが走って来た。
その手には、銀で作られた綺麗な装飾の鏡を持っていた。
鏡を俺に向けて見せるとそこには真っ黒な俺が映っている。
「見つけたのか?!」
「はい、この先の部屋に飾られていました。」
和かに屈託のない笑顔を見せる。
「ふ〜ん、其れ本物かしらねぇ?」
「間違いありません、ホログラムの壁が入り口になってましたし、部屋の中央に飾られてました。」
(…偽りの壁の先に真実があるだったな。)
「良くやったじゃないか、助かったよ。
後は館の主人を探さないとだな。」
俺は心の何処かで拭えない疑いを感じていた…
カーラの口元に笑みが浮かんでいた。
「其れでしたら、この先に1階に降りるエレベーターが有りましたよ。」
アンドロメダが、そう告げる。
「多分、礼拝堂の祭壇から地下に降りれる筈だから行ってみよう。」
俺達は礼拝堂の祭壇の下に階段を見つけ降りて行く、中は暗かったので見つけたランプを使って地下通路を進む。
暫く歩いて行くと上りの螺旋階段に繋がっていたので、それを上がって行く。
上りきったところは、大きな鐘が吊ってある塔の上だった。
辺りを調べてみると、
鐘の中に鍵が張り付けられているのを見つけた。
兜の絵が描かれている。
塔から見える先に2階建ての建物が見える。
「あれが、ヒントの場所かしら?」
「その様ですね、彼処に館の主人が居る筈です。」
「どうやって降りるかだなぁ。」
(今、有るのはロープとライター…)
辺りを見回してみる、鐘をつく為のT字型の撞木がある。
持っていたロープを撞木に結び、もう片方を柱に結んだ。
ロープ付きの撞木を2階建ての建物のそばにある木に投げて絡めてロープを張る。
「後は…」
ライターで、釣鐘を吊っている縄紐を焼き切り、手頃な大きさに揃えた。
「出来たぁ。じゃあ、俺がやって見せるから同じ様にやってついて来て。」
縄紐をUにしてロープにぶら下がり滑り降りて行く。
地面に降り立って、塔の上の2人に合図する。
カーラが降りて来て、続いてアンドロメダも降りれた。
「意外と面白かったわ。」
「私は、ドキドキです…」
二人が対照的な感想を漏らしていた。
「もう一息だ、先を急ごう。」
俺達は建物に入って行った。
どうやら納骨堂の様だった。
中に入ると2階へ上がる階段と地下へ降りる階段がある。
(…また、二択か…確かヒントは…)
「私は2階だと思います。」
アンドロメダが、またしても主張して来る。
(『死者は、天の道を辿る』だったな…天の道は死者の道と解釈すると選ぶのは地下の階段なんだが…)
俺はアンドロメダを暫く見る。
(…何でそんなに勧めたがるんだろう?)
疑惑はもう俺の心を支配しつつあった。
「そうかしら、私は地下に行くべきだと思うけど?」
カーラは、これまで真相に導く答えしか話していない。
行動は少し可笑しいけど…信用出来る。
「…2階へ行こう。」
俺は、疑惑を払拭したかった。
アンドロメダを疑いたくなかったのかも知れない…
これまで一緒に歩いて来た戦友を信じたかった。
俺は2階への階段を上り始める。
「まったく、おバカさんね。」
カーラは、そう言ってついて来てくれた。
アンドロメダは、下で動かずこちらを見ている。
次の瞬間階段の床が抜け、俺とカーラは落下して行った。
「?!」
俺の中でアンドロメダに対する信頼が崩れ去っていた…
気付いた時、俺はカーラの膝枕の上に頭を乗せていた。
「目覚めたかしら?お寝坊さん。」
「…カーラ、ここは…」
「納骨堂の更に下に落ちたみたいね…此処、鍾乳洞みたい…出たいなら、彼処の階段から戻れると思うわ。」
カーラの指差している階段は人工物の様だった、あれなら上に戻れるだろう。
俺は起き上がり、
「アンドロメダは…」
「あの娘は、落ちなかったようね…」
「…そうか。」
「じゃあ、戻ろう。カーラ。」
「先に行ってて、私はもう少し休んでから行くわ。」
カーラは、立ち上がら無かった。
よく見ると脚が折れている。
「怪我してるじゃないか!」
「あら、バレちゃったわね。私の事は良いから先にお進みなさいな。」
「そんな訳にはいかない、ちょっと待ってろ。」
俺は添え木になる枝と包帯がわりの布で応急処置した。
カーラを抱き上げて連れて行く。
無言で俺を見つめている。
階段を上がって行くと松明で灯された通路があり、
そのまま、進んで行くと行止まりに青銅の扉がある。
近付いて見ると鍵穴が3つ空いている。
カーラを下ろして、
鍵穴に持っている鍵を挿していくと3本目で鍵が開いた音がする。
重い扉を開け中に入った。
中には無数の鏡がある。
奥に豪華な椅子に、膝を組んで座って頬杖を付いている威厳のある男性がいる。
傍らには、アンドロメダが立って居た。
その目は冷たさを感じる…
俺はカーラに肩を貸し、歩いて行く。
「…アンドロメダ、何で此処に…」
俺の中の疑問は、現実になる…
俺の言葉を遮り、椅子に座る男性が話し出す。
「良く此処迄辿り着いたな。
俺がこの屋敷の主人、ドラクール伯爵だ。
そして此処で最後の謎解きになる。」
「最後の謎解き…」
「そうだ、真実の鏡はこの部屋に置いてある。それを見事見つけ出してみよ。
条件は1つ、彼女達が選んで来た物の何方かを選べ。」
周りは無数の鏡がある。
「…この中から…」
「じゃあ、私が選べば良いのね?」
そう言って探しに行くカーラ。
アンドロメダも探している…
そして、ヒントも何もない…
その時カーラが、
「これ…姿を写さない鏡があるわね…」
(…映らない鏡?)
いくつか見てみた、確かに映らない鏡がある…
「それに…映ってる姿もおかしいのがあるわね…
私は、これに決めたわぁ。」
そう言って1つを持って来て、伯爵の前に立つ。
アンドロメダも、鏡を持って戻って来る。
3階でアンドロメダが見つけて来た見覚えのある鏡だった。
それが、一瞬カーラの方を向いた…
その鏡にカーラは映っていなかった。
(…)
「選んで来た様だな。さぁ、選ぶが良い。」
ドラクール伯爵は、目に紅い光を帯びる。
「伯爵、選ぶ前に1つだけ確認したい。」
「何が聞きたい?」
「伯爵、あなたは…〈偽りの存在〉ですよね?」
伯爵の眼が細くなる。
「ふん、俺が〈偽りの存在〉?…そんな訳ないだろう。」
忌々しく、答える。
(偽りの館の主人が真実を語ることなんて無いだろう…となると、俺の答えは…)
「じゃあ、選ぶのは…」
「俺は、アンドロメダを選ぶ!」
「…残念だわぁ、私を選んでくれると思ってたのに。」
カーラは、口で言う程残念そうではない…妖しく微笑んでいる。
「…ほう、なぜだ?その娘が信用できるのか?
お前を偽り、裏切っていたのは分かっていただろう?」
伯爵が問うて来る。
「この館に入ってからの行動は、疑惑でしか無かったよ…多分、操られているとかだろうけど…」
「それが分かっていたのなら、私ならカーラの方を選ぶがな…」
「カーラは、信用を得る為に頑張ってたよ。
現に今も、彼女なら信頼できると思ってる。」
カーラの頰に少し赤味がさしてるようだ。
「では何故…?」
「アンドロメダは、操られている状態にも関わらず最後の最後にヒントをくれたんだよ。」
「ヒントだと?そんなものいつ…」
「その娘が振り向く時、私の姿を鏡に映してたもの。」
カーラは、分かっていた様だ。
「そう、それで気付いたのさ。カーラは鏡に映らなかった、あの鏡に俺とアンドロメダは映っていたのに…」
「成る程な、真実の鏡に映らない存在…それは、俺達偽りの生を持つ吸血鬼と言う事だな。」
ドラクール伯爵は、椅子から立ち上がり、
「良かろう、お前を鏡の所有者として認める。
それと、その娘の洗脳は解いてやろう。」
そう言って伯爵が指を鳴らすと、アンドロメダの眼に光が戻る。
「あれ?私一体…此処は?ZERO様?」
アンドロメダは、辺りを見回しているが、状況を理解していない様だった。
「君のお陰で〈真実の鏡〉を手に入れられたよ。」
「え?」
「あら、私も役に立ったわよぉ。」
カーラが、豊満な肉体を押し付けて抱きついて来る。
「え…っ、あ、いや…」
グイグイ押し付けて来る柔らかく弾力が有る胸の感触に俺がドギマギしていると、
「私、ZEROが気に入ったわ、私の物にしてあげる!」
俺は勢いよく腕を引っ張られた。
アンドロメダが腕にしがみ付きながら、
「私のZERO様に触らないでください!
良く分かりませんけど、鏡は手に入れたんですから次に行きましょう。」
そう言って、俺を引っ張って連れて行く。
後ろでカーラの声が聞こえて来た。
「またお逢いしましょう、ZERO。その時はもっと良い事してあげるわぁ。」
伯爵とカーラに見送られ館を後にした。
【3rdステージクリア】
難しすぎる…