プロローグ14 限定イベント 2の島(前編)
2ND STAGE(森と湖の浮き島)、周囲10キロ程の浮島は、森に囲まれ、中央に小高い丘と湖がある。
東の森の中に、島で一番高い巨木があり、木の上に小屋が建てられていた。
木の一部に同化してしまっていて、外壁や屋根も蔦や草にびっしり覆われている。
部屋の中には暖炉があり、木のテーブルと椅子2脚用意されている。
壁面には浮島の絵が飾られていた。
俺達は、その小屋の中へ転送された。
「2NDステージに到着しました。此処は、迷いの森と女神の湖の島になります。
これから先は、本ステージになりますので、前回より強力なモブが出現します。」
アンドロメダが、簡潔に説明してくれる。
「…了解だ。」
(さっきのステージはチュートリアルだったね(/ _ ; ))
「そこに飾られている絵は地図になりますのでお持ちください。」
アンドロメダが、指示してくれる。
俺は額から絵を取り出し、画面表示を〈ON〉に切り替えて持ち物袋に入れる。
地図が視界の右上の方に半透明で表示され、視線を集中させれば透明度が変化するようになっている。
地図を見てみると、西の大きな湖に赤いポインターが点灯していて、北の小さな湖にも青いポインターが点滅している。南の大きな森には集落があるようだ。
(これは使いやすいなぁ。意識して集中させるだけでいつでも地図が見れる。)
「それではZERO様、出発しましょう。」
アンドロメダが先に歩いて行き扉を開ける。
外へ出てみると、島全体が見渡せる巨大樹の頂きだった。
そこから見える景色は、一面の青空に深緑の絨毯が敷き詰められていて、所々美しく7色に光を反射させている湖面が見える。
「ステージクリア条件は、西の湖に住むフロアボスの討伐です。」
アンドロメダがサラッと説明してくれた。
(説明は簡単だけど…ボス攻略が一番厄介なんじゃないかなぁ…正攻法では勝てなかったりね…)
「それで…アンドロメダ、ボスに勝つ方法ってわかってるの?」
ダメ元で、ナビゲーターに聞いてみる。
「全く分かりません、まずどんな敵かも解っていませんので、情報収集と敵の戦力分析が必須ですね。その上で倒す方法を見つけるしかありません。」
アンドロメダが、少し思案したように見えた。
(そう簡単には判らないよな…にしても…)
俺はアンドロメダの方を見る。
俺の視線に気付いたのか、
「さぁ、それでは情報集めに南の集落まで行きましょう。あそこには〈森の住人〉が住んでいますから何か聞ける筈です。」
そう言って、木の階段を下りて行く。
「んじゃ、行ってみますか。」
俺も下まで続く長い木の階段を下りて行く。
(前のステージで武器や装備品は手に入れられなかったからなぁ…ってあれチュートリアルだっけ(´・ω・`)出るわけないか…)
色々考えながら階段を下りて行く途中、島中央の一角だけ木が生えていない小高い丘があるのが目の端に映ったが、俺は余り気にしていなかった。
巨大樹を下りて来ると見た目以上に深い森が広がっていた。
空も見えず方向感覚もおかしくなりそうだった。
(…迷いの森ね、地図が無かったらホントに迷ってるとこだな…)
地図を見てみると俺がいる場所は黄色い点滅で表示されているようだ。
アンドロメダは緑の点滅表示になっている。
(これなら、はぐれても見つけられそうだ。それに、地図によれば南の集落までは約3㎞ってところかな…さほど遠くはないけど…)
「ZERO様、モブ来ます!」
その時突然、アンドロメダが叫ぶ。
俺は、即座に両手を手刀にして身構える。
気配はない…と思ったその時、俺は両足を抄われ木の上に宙づりにされた。足首を見ると植物の蔦が巻き付いている。
逆さづりの状態で、森の道の先を見ると〈動く人面樹〉が数体こちらに向かっていた。
手刀で蔦を切り裂き、1回転して地面に着地する。
「大丈夫ですか。ZERO様。」
「あぁ、だが油断するなよ…この先に何体か、向かって来てる奴らがいる。」
(…待ってるより、先手必勝!)
〈動く人面樹〉Lv25 HP4500 MP0
俺は超高速移動で、森を走り抜ける距離を詰める。
数体いる〈動く人面樹〉をすり抜けると同時に黒い線が閃き、すべてを真っ二つにした。
(よっしゃっ、こいつら思ったより…)
その時、右腕が蔦に絡まる。
「?!」
次いで左腕。両足と首も蔦に絡めとられ、そのまま大木に縛られる形になり身動きが出来なくなった。
真っ二つにした〈動く人面樹〉が、再生を始める…
「自己再生能力かよ…」
〈動く人面樹〉達が完全に再生した。
俺の周りに集まってくる…
(こんなのどうやって倒すんだよ…ってそれよりこれどうやって脱出すれば…)
「…ZERO様…」
俺が磔にされている大木の背後にアンドロメダが潜んでいた。
「今から右腕の蔦を斬ります、〈動く人面樹〉の弱点は眉間に埋め込まれているコアです。それを破壊すれば再生することはできません。」
蔦を切りながら説明するアンドロメダ。
俺は〈動く人面樹〉達に気付かれないように少し頷いて見せる。
「…もう少しです。」
その時、一体の〈動く人面樹〉が背後のアンドロメダに気付いた。
(ヤバイ!)
「逃げろアンドロメダ!」
俺は叫んだ。
「まだです、もう少しで…」
アンドロメダが否定し、最後までやり遂げようと…
(!)
〈動く人面樹〉がアンドロメダ目掛けて触手のように蔦を伸ばす。
触手に殴られてアンドロメダが吹き飛ぶ。
「キャアッ。」
「クッソぉぉぉ…ッ」
右腕に意識を集中し力を込め、半分切れかけた蔦を力任せに引き千切る。
自由になった右腕の手刀で残りの蔦を切り裂き、アンドロメダに襲い掛かっている〈動く人面樹〉を細切れに切り裂く。
眉間のコアも同時に破壊した為、もう復活する事はない。
アンドロメダの無事を確認して、残りの〈動く人面樹〉達に向かう。
無数の蔦攻撃を躱し、眉間を一刀両断に斬り捨て、1体消滅させる。
残りの向かおうとした時、
「ZERO様、後ろです!」
蔦が2本背後から襲って来た。
回転しながら跳び上がり、黒い線が閃く。
蔦と2体の〈動く人面樹〉が細切れになり消滅していく。
残り2体を着地際の両足の閃きで切り裂き、戦闘は終了した。
「アンドロメダ、無事か?」
俺は振り返り、磔られていた大木の方を見る。
大木に凭れ掛かって、右腕を抑えている。左頬は負傷しているようだった。
「はい、大したことはありません。」
「悪りぃ、俺にもう少し力があれば…」
「お気になさらずに、それよりもアイテムを拾って先に進みましょう。」
「…ああ、そうだな。」
そう言って、ドロップしたアイテムを取りに行った。
驚いたことに、今回のドロップ品は魔力を帯びた魔剣と魔法盾というレアアイテムが二つも落ちていた。
「おぉ!今回はラッキーだったなレアアイテムゲット!」
魔剣:フルンティング、長剣で柄部分にルーン文字が彫り込まれている。
物理攻撃が効かない敵にもダメージを与えることができる。
魔盾:アイアス・シールド、盾の外周部分にルーン文字が刻まれている。
全属性に対して耐性が施されている。
半刻後、南の集落に辿り着いた。
数十体のモブを倒しまくりドロップ品を集めまくったがレアアイテムはあまりなかったが、
それでも、アンドロメダの装備は一式揃える事が出来た。
聖者のティアラ、グラディウス、絹の衣、封魔のブレスレットを装備させている。
集落の外周は樫の木で作られた柵が張られていて、外敵にも備えているようだった。
外柵の周りには堀があり、水が流れている。
村へ通じる道には跳ね橋をが掛かっていたのでそこを通り集落の中に入って行く。
集落は森の中の木々を利用し家が造られている。
出迎えてくれたのは植物系モンスターの少女だった。
「こんにちはぁ~、あたしはルルーネ。この村はエルドの村だよ。
この村では、色んなお話が聞けるから、みんなに話しかけてみてね。」
そう言うと走り去って行った。
(…あれがNPCだよな…与えられたプログラムだけをこなす存在。)
俺は、アンドロメダの方を見る。
(…)
「さぁ、ZERO様。話を聞きに行きましょう。」
俺に微笑んで返す。
「…そうだな。」
俺とアンドロメダは、村中のNPCに話を聞いて回った。
村人全員に話を聞き終わった後広場に戻ってきた。
「皆さん色々お話してくれて、親切な人ばかりでしたね。」
ニコニコしながらそう言ってくるアンドロメダ。
(うん…NPCだからね…)
「んじゃ、話を整理してみようか。」
そう言って俺は話を整理し始めた。
「先ずはクリアする為の難関、西の湖に住むフロアボス、ヒュドラ。
ヒュドラは、九つの頭を持つ水棲系の竜、首を切り離しても新たに2本生えてくるそうだ…水流を操ることもできるらしい。こいつはかなり強敵だな…」
「でも、倒し方まで知ってる人はいませんでしたね。」
「あぁ、だけど手掛かりはあった。中央の小高い丘に住む老人が知っているそうだから…会いに行ってみるしかない。」
(…とはいえ、ここの連中はその老人を毛嫌いしているようなんだけどな…)
村人の嫌悪感があまりにもひどかった印象が残っている…
「そうですね、ここから丘まではそんなに遠くないですからね。」
その答えに肯き、
「もう一つは、北の湖の女神が持つ剣の噂だな…。」
「…気難しい女神様みたいですから手に入れるのも苦労しそうですね…」
「そうだな…でもやるしかない。」
俺は拳を握る。
エルドの村から小高い丘を目指して歩く事20分、数匹のモブには出くわしたが順調にここまで来る事が出来た。
森の先に陽の光が見えて来たという事は、もうすぐ出口になっている筈だ。
光に近付くに連れ、焦げ臭い匂いが鼻を衝く。
(…?火事でもあったのかな…)
森を抜けると小高い丘が見えて来た。
丘には、所々朽ちた倒木が転がっているだけで、高い木どころか草もあまり生えていなかった。
煙突から煙が出ている石造りの一軒家が立っているだけ…
玄関の横のポーチに古びた椅子があり、そこに襤褸を着た老人がパイプを咥えて座っている。
老人の方へ歩いて行くアンドロメダは、可愛らしかった。
薄い水色の髪は太ももまで伸びていて、前髪は眉でぱっつり揃えてあり、小さな触覚が2本生えている。
耳は少し尖っていて目は大きく愛らしい鼻は低いが整っていて唇は小さかった。
ドロップ品のティアラを頭に装備して、
鎖骨と肩が少し見える膝丈の水色の絹の衣と左手には金色のブレスレットをつけていてる。
足には古代ローマ風のサンダルを履いている。
その仕草や言動はNPCとは思えない程自然だ。
俺は、盾と剣を携えたまま老人に近付いて行くてと、
俺達に気付いた老人が声を掛けて来た。
「こんなところに客が来るとは珍しいのぉ。」
老人は立ち上がる事もなく声を掛けて来た。
「お爺さん、ちょっと話を聞かせてほしいんだけど。」
「ふむ、話を聞かせてほしいとな…人にものを頼みたいのであれば、先ず名を名乗る事じゃのぅ、小僧。」
爺さんに諭される、年長者に対して礼儀を掻くなという事か…
「そうでした、俺の名はZERO。【封印せし者】です。」
素直に名乗った。
「ほうほう、お主が【封印せし者】か、初めて見たわい。
…となると、お主が聞きたいのは西の湖のバケモンの倒し方じゃな。あ奴は普通には倒せんでのぉ。」
「やっぱり倒し方を知ってるんですね。教えてくれませんか?」
「ふむ、教えてやらん事も無いんじゃがのぉ…」
爺さんは、少し考え込んでいる様だった。
「儂は、その昔ある者と力比べをした事があってのぉ、
文字通り純粋に力の競い合いを望んだのじゃが…裏切られてしもうてな、それ以来人と関わり合いを持つ事を辞めたのじゃ。」
「…何で裏切られたんです?」
「さぁ…のぅ、今となっては思い出せんわい。」
お爺さんは遠い目をしていた。
ふと、アンドロメダの存在に気付いたのか、頭を上げる。
「…そっちのお嬢ちゃんは、何方さんじゃな。」
アンドロメダに向かって問いかける。
「申し遅れました、私はアンドロメダと言います。
【封印せし者】のナビゲーターをしています。」
アンドロメダは、俺と違ってしっかり挨拶をしている。
「何じゃと…アンドロメダ…」
爺さんの声が低くなる。
辺りが、熱くなってきた。
「…確かに似ておる…」
段々熱量が上がっていくのがわかる。
(何だ?かなりヤバイ感じがする…)
この熱気は、目の前のお爺さんから発せられている様だった。
「…何だか熱くなって来ましたね。」
アンドロメダも異変に気付く。
「おい、爺さん…あんた一体…」
「…るさん…」
爺さんが何かを呟いている。
熱量が一気に膨れ上がり、爺さんの身体が炎に包まれる。
肌を刺す感覚。
(…これは、この感じはヤバイ…)
「退がれ、アンドロメダ。」
俺は、退がるアンドロメダを庇うように前に立ち、
魔盾で熱気を緩和させる。
「許さんぞぉ!ヴィヴィアン!!」
炎は爆炎となり上昇した。
俺の肌に凄まじい圧迫感が、突き刺さる。
(どういう事だ?!仮想現実の世界に肌で感じる圧迫感なんて…まるで現実そのもの…)
俺は戸惑っていたが、今は考えてる余裕は無い。
「アンドロメダ、そこの家に入れ!その中なら、ある程度炎と熱は防げる筈だ!」
「はい。」
アンドロメダは、指示に従って家の中へ入って行った。
それを確認して、上空の爆炎球を仰ぎ見る。
巨大化し続けていた爆炎球は、凄まじい熱量を発していたが、突然収縮し始める、炎球が小さくなるに連れ更に熱量が上がっていくのが分かる。
(とんでもない力が、凝縮してる…)
収縮が止まった瞬間、玉が弾け大爆発を巻き起こした。
辺り一面火の海と化している。
「この丘に木が生えてなかったのはあの爺さんの所為だったのか…」
爆煙の中に人影が見える、
焼け焦げた爺さんを連想したが…現れたのは、
焔を纏った巨躯の魔神だった。
周囲を見回し、俺の姿を見て名乗りをあげる、
「我は、炎の魔神イフリート。」
(ですよね…定番だよね。)
「…此処はどこだ?…何故我は此処に居るのだ…?」
イフリートの様子がおかしい…
(…爆発で記憶飛んだ?…でも名前は言ってたな…)
「お前は誰だ?小僧。此処で何をしている?」
力解放して記憶のカケラがいくつか飛んでる様だ。
「…俺はZERO、【封印せし者】として、西の湖に住む九頭龍を倒しに行く為に、貴方の助力を得に来たんです。」
「封印せし者だと…見るからに非力そうな小僧の癖に、ヒュドラを倒しに行くのか…その為に我が助力を欲すると…」
何かを思い出そうとしている様だった。
「そうだ、九頭龍を倒す方法があるなら、教えて欲しい。」
「…倒す方法なら幾つかある、
九頭龍の厄介な処は、驚異的な再生能力にあるが、それさえ無ければただの大きな蛇だからな。
有名な方法は、イージスの盾を使い石化させる事だが、そんな物此処にはない。となると…」
「それじゃ、どうすれば…」
「話は終わっておらぬわ、しっかり最後まで聞け、小僧。
盾が無いなら方法は一つ、奴の再生スピードを上回る力で跡形も無く燃やし尽くせば良い!」
何でもない事の様に簡単に言うイフリート。
「そんな…超々高熱の焔の力を使えるものなんて、炎の魔神くらいだろ…」
俺が呟く声が聴こえたのか、
「我の力なら、倒せるかも知れんな…だが、小僧。
貴様に我の力を使う資質があるとは思えん。」
「じゃあ、どうしたら良いい?…どうすれば資質があると認めてくれる?」
何とかして認めて貰わなくては、先に進む事が出来ない。
イフリートは、ニヤリと笑う。
「…我と〈力比べ〉をして、認めさせて見せよ。
さすれば、我が力を授けてやっても良いがなぁ。」
イフリートの熱気が更に上がり、
凄まじい圧迫感を受ける。
(…今の俺では、この化物に勝てないのは肌で感じている…でも、やるしか無い…こんな処で引き下がれない。)
「その〈力比べ〉、受けて立ちます!」
俺は、気持ちを奮い立たせる様に叫んだ。
左手で持つ魔盾アイアスシールドに半身を隠し、右手には魔剣フルンティングを下段に構え、深く腰を落とし、力を溜める。
俺が今使える最強の技を出す!
「小僧、全然なってないな…貴様には落胆させられるわ。
貴様がそこから繰り出す小手先の技が、我に当たるとでも思っておるのか?」
「…」
イフリートが、かなり落胆しているのは見て取れる。
「我をその辺の雑魚と同じだとでも思っておるのか?
…まぁ良い、かかって来てみるが良い。」
俺は、超高速移動+双影身で4方向から見えない攻撃を仕掛ける。
イフリートは、身動き一つしない…反応しきれていない。
4方向の影が消えると同時に、頭上から音速を超える速さで振り下ろされるフルンティングが…
イフリートに当たる事なく、刀身が溶けて蒸発した。
「なッ?!そんな…馬鹿な…」
驚愕して後方に跳び退る。
刀身が無くなり、鍔と柄だけになったフルンティングをみて、次元の違いを再認識させられる。
「…バカはお前だ、小僧。
力任せの攻撃など精神生命体の魔神に効く訳なかろう。
しかも、中々良い魔剣だったようだが、使い方も分からんバカが振り回すだけで、剣本来の力すら発揮していない。」
(…本来の力?…それに、精神生命体への物理攻撃は無意味…なのか…)
「ふん、小僧よ。貴様は、もう少し世の理を知るが良い。…万物全てに元来【力】が宿っておる、万物の【聲】を聴けば自ずと本来の【能力】を発揮する事になる。」
何故か、イフリートは俺に世の【真理】を諭じてくれている。
(…万物の【聲】を聴く…)
「…【聲】は、かなり小さく聞きづらい、静かに…心を無にし意識を傾ける様にしてみろ。」
イフリートの言われるまま、フルンティングの柄に意識を傾けて行く…
静かに…心を虚に…更に意識を傾けて…
小さな光を感じた…瞬間!
柄に刻まれたルーン文字が輝き出す。
「…ほう。」
イフリートが、感心した声を出す。
(…【聲】を感じる…そして、精神エネルギーの具象化…)
無くなった刀身部分に【闇】が集まり形を成形し始める。
闇は凝縮し、黒い刀身に変化した。
凄まじい波動が伝わって来る。
イフリートの眼が細くなり、殺気を帯び始める。
「一度の教えで、出来る様になるか…
まぁ、少しはマシになった様だな、強き者との〈力比べ〉以外は興醒めもいい処だからな。
さぁ、貴様の持てる力を出し尽くし、全力で向かってくるが良い!小僧。」
本気になったという事なのか、イフリートから壮絶な波動が伝わってくる。
俺はそれに気圧される事なく、意識を集中し、全身に精神エネルギーを充填させていく。
「来い、小僧!!」
イフリートの殺気を帯びた怒声に、弾かれた様に飛び出す。
背には黒い翼を広げ、上空にいるイフリートに向かって疾駆して行く。
イフリートの右腕が前に突き出されるのが見えた。掌に高圧縮された火球が膨れていき、勢いよく放たれる。
俺は放たれた火球に向かって、無意識に下段に構えていたフルンティングを軽く振り上げた。
ゆるりと振り上げられた黒い刀身から凄まじい剣圧が放たれ、火球が爆散する。
「?!」
軽く振り抜いただけの剣圧の威力に、俺が驚いた!
(何だこの威力!…此れがフルンティングの本来の力…)
「中々良いぞ、小僧…我も少し本気で行くぞ!」
イフリートが、ゆっくり両腕で円の軌跡を描くと、周囲に無数の火球が、出現する。
大小様々だが、一つゞが、先程以上の威力がある。
「これならどうだ?」
イフリートは不敵な笑みを浮かべ、両腕を体の前で交差させる。
無数の火球が一斉に襲い掛かって来る。
(くっ…数が多すぎる…いや、諦めん!)
俺は、空中で剣舞を舞いながら剣圧で、火球を撃ち落として行くが、左脚に被弾する。
「ぐぅっ…くっそぉ、まだまだぁ!!」
全身に精神エネルギーを充填させていたので、左脚が吹き飛ばずに済んだ様だ。その脚は無視して、ゆるりと剣舞を続け、意識を更に集中させていく。
背中にも被弾したが、盾を背負っていたお陰で被害は少ない…いや、被弾した事にも気付かない程集中していた。
(こんだけ劣勢なのに…気持ちは不思議に静かだな…)
それまで火球に当たって爆散していた剣圧が、火球を破壊した後、突き抜け初め、イフリートの頰を鋭く掠める。
「むっ?!」
イフリートの頰から青黒い血が一筋流れる。
「…どうやら、モノに出来てきた様だな。」
剣舞を終えて、自然に立っているだけなのに内から波動が滲み出てくる。
(…全身に漲るこの感覚は【黒の波動】…先生の助力無しで出せる様に…?)
「…次で最後だ。貴様の持てる力の全てを打つけて来い!
我の持てる全力で相手をしてやる。
少しでも我を凌駕出来れば、我が力を授けてやる!」
イフリートが、吼える!
「ゴォルオァァァッ!!」
イフリートから溢れ出ていた炎気が、爆発した!
〈絶・爆炎衝陣〉!
イフリートが、俺を取り囲む様に分裂し、前後左右上下の6方向で炎の結界を張る。
触れれば一瞬で気化する程の超高熱結界内の密度が、次第に濃く重くなって行く。
俺は結界の中心で、静かに己の魂の力の奔流を感じ、解放していく…
凝縮された炎気が限界に達し、イフリートが叫ぶ!
〈破・閻爆流炎覇〉!!
超高密度の炎熱結界の6方から、俺目掛けて超高熱線が放たれる。
摂氏6000℃を超える超高熱が、6方向から迫る…
(全てを出し切る!!)
俺は魂の力を解き放った!
「うぉおぉぉッ!!」
俺の身体から【闇の波動】が、奔流となって溢れ出す。
「覇ァッ!」
【闇の波動】の奔流を、一気に具象化する。
「!!」
超高熱線が俺に当たる寸前、一瞬にして黒い球体が結界も熱線も消し去る。
辺りに充満していた熱気は、すっかり無くなっていた…
いや、地に一つだけ煙が上がっていた。
全てが消え去る寸前離脱したイフリートが、辛うじて地に逃れていた様だ。
黒煙を上げて片膝をつき傅くイフリート、
「その御力…お見事で御座います、我が主。」
俺は、溢れ出る波動を身に纏い、大地に降り立って翼を収める。
「申し訳ありませぬ、記憶が欠けていたとは言え、我の力など遠く及ぶべくもない御方様と〈力比べ〉などと不遜も甚だしく…」
あれだけ勢いがあったイフリートが、今は見る影もない…
(…先生と間違ってるな…( ̄▽ ̄;)
「え…っと、多分人違いだ…よ。俺、御方様じゃないから。」
一応否定しておく。
「…そんな筈は…」
イフリートが、半信半疑になっている。
「…それで、〈炎の力〉は…」
「も、勿論、お授け致しま…授けて…やろう?」
この後、かなり混乱しているイフリートに〈炎の力〉を授けて貰った。
「いや、実に楽しい力比べであったわ。
我の役目は此処までだ、そろそろ元の世界に戻るとしよう。」
(ん?元の世界?)
イフリートの言葉に何か引っ掛かるものを感じた…
「おぉ、そうじゃ。気付いておらん様じゃから教えておくが、ZERO殿の連れの女子は、北の湖の性悪女に連れて行かれとるぞ。」
「?!」
俺は石造の家に走った、中に居る筈のアンドロメダの姿はどこにも無い…
慌てて地図を見ると北の湖に緑の点滅がある、間違いなく北の湖にいる。
「いつの間に…全く気づかなかった。」
「ZERO殿の剣を熔かした辺りじゃな、
湖の貴婦人ヴィヴィアンには、気を付ける事だ。彼奴は、稀代の悪女だからな…」
イフリートが苦々しく言い放つ。
北の湖の貴婦人…神器を知る者が、何故アンドロメダを連れ去ったのか…
もし捕まっているなら、一刻も早く助けださなくてはならない…
イフリートに別れを告げ、足早に次の地へ向かう…
ゼロをZEROに変えてみました。