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プロローグ12 不穏な始まり

少しづつ主人公の考え方が固まって来ました。



昨日の雨はすっかり上がり、今朝は晴天だった。

地面には暖かな陽差しを照り返す水溜りが残り、辺りを輝かせている。

…こんな気持ちのいい朝だというのに

俺は、憂鬱だった。

玄関のドアを開けると目の前に女生徒が立っていた。


赤毛で腰まで伸びた髪に白い髪飾りが目に付く、身長はそんなに高くない。

瞳は綺麗なブルーアイに整った眉毛が目に付く、鼻筋が通っていて結んだ唇は薄い。

多分ハーフなのだろうその女性は、ウチの制服を着ている。

彼女は、一条 まどか 大会運営委員会から派遣された俺の護衛らしい…


「おはようございます、御上さん。」

にこりともせず、玄関から出てきた俺に挨拶する。


「おはよう…って、一条ホントに毎日迎えに来るのかよ?」


「勿論です、それが私に与えられている任務ですから。」


お手上げと言わんばかりに肩を落とし歩き出す。


「んじゃ、行きますか。…あれ、そういえば何でウチの制服着てんの?」


「今日から校内でも護衛できる様に手配しました。」

何でも無い様に淡々と話す。


「あぁ、そう何だ…ん?」


まただ、誰かに見られている気がして背後を振り返る。昨日の気配とは違う気がする…


「どうかしましたか?」


「あ、いや別に。」


(…なんか変だな、こんな感覚…前は無かったよな…異世界に行ってなんか感覚が鋭敏になった気がする。)


登校中、彩芽と莉奈が声を掛けて来た。

「怜、おっはよ~。」

「怜君、おはようございます。」


「ん、おはよ。お前ら二人で登校なんて珍しいな。」

歩きながら、ちょっと驚いている俺に、


「莉奈ちゃんとは仲良くなったんだぁ~、昨日もVR-EXで一緒に遊んだんだよ。」

「彩芽ちゃんのアバターかわいいよねぇ。」

「でしょでしょ、こないだも課金していいの出たんだぁ。」


(いつの間に仲良くなったんだ…?…女子はわからん。)


「そういえば、そっちの()は、誰なの?」

彩芽が、一条の方を見て問い質してくる。


俺が紹介するよりも早く、

「私は、一条まどか。今日転校してきたばかりで、彼に学校まで同行してもらっている。」

一条がしれっと言い放つが嘘はついていない。


「転校生なんだ…私彩芽、こっちは莉奈ちゃん。よろしくねぇ。」


「よろしく頼む。」


(なにをよろしく頼むんだろう…)


俺は苦笑しながら歩きだす。

後ろでは女子3人が何やらワイワイ話している。


校門に入ってしばらく歩くとスポーツ系の部活が朝練している運動場の脇の道を校舎の方へ歩いていく。


(…ン?何だ…なんか肌を刺すようなこの感覚…)


少し頭を後ろに下げる、目の前を何かが通り抜け、横の木に激突する。

気にめり込んでいるボールを見ながら、


「何?!なにこれ鋼球ボールじゃない!あっぶないわね!!」

彩芽が騒ぎ出す。


「当たってたら大事故になってる…怜君当たらなくてよかった。」


「まぁ、怪我もないしいいんじゃね。」

俺は何事もなかったように歩き出した。


(…もう、肌を刺すような感覚は無くなったな…)


「偶然か…まさかな。」

一条は辺りに気配を配るが…何も感じなかった。



いつもの日常、変わらぬ景色。

退屈な授業…いつものように平穏な時間を過ごしていた。

昼休み、俺は一条の目を盗み屋上に来ていた。他に学生は誰もいない。


「…誰もいないみたいだな。」

屋上の鉄さく迄歩いて行き、校庭を見下ろす。

友人同士で遊んでいる生徒、ベンチで本を読んでる女生徒、運動場では部活がワイワイやっている。

生徒達は皆それぞれの想いで光り輝く青春を桜花している。


「現実世界…か、何にも知らなければ今でも俺はあの中にいる一人だったのになぁ…」


「…あそこに戻れないのは悲しいですか?」


背後に生徒会長の藍田香織が立っていた。


「…いいや、ちょっと寂しいだけさ。」


「そうですか…あなたはもう二度とあそこに戻る事は出来ない…異世界(アナザーワールド)の事を知ってしまった以上、貴方は常に監視される事になる…」

俺の横まで歩いてきて下の光景を眺める生徒会長。


「あんたはどうなんだ、平穏な日常に戻りたいとは思わないのか?」

俺も藍田香織に聞いてみた。


「…私は…平凡な日常が嫌だった…だから今はとても充実しております。」

自分に言い聞かせているような口調だった。


「俺はさ、一度こっちで死んでるんだよ…

あっちの世界に【転生】して喜んだり悲しんだりして生活していくのは愉しいんだろうなぁって思う。」


異世界(アナザーワールド)の生活で充実していたいという事ですか?」


「それもあるけどちょっと違うんだよなぁ…俺は…転生する前は人の目を気にして…流されて…自分の意思さえ通した事がなかった…でも今は、

どこの世界に存在してたって、しっかり自分の意思をしっかり持って、前だけを見て…真っ直ぐ歩いて行きたいんだ。」


晴れ渡った空を見上げて俺は自分の気持ちを言った。


「なるほど…ですが、あなたが選んだ道は大変かもしれませんね…」

藍田香織が俺の横顔を見ながらそう言ってきた。


「いいさ、これは俺が自分で踏み出した道だからな。」


「そうですか、ならば何も言いません。」


藍田香織は、にっこり微笑んで見せてくれた。


「一つ疑問なのですけど、御上君はどうやって異世界(アナザーワールド)へ戻るつもりなんです?そもそもどうやってこちらに戻ってきたのでしょう?【召喚者】であれば〈召喚紋〉で行き来は可能ですけど…」

もっともな疑問だった。


「…【(ゲート)】と呼ばれる転移できる場所が世界のどこかにあるんだ。それを通れば俺でも異世界に行く事もこっちに戻ってくることもできる。」

それ以上は語らないことにした。


「…【(ゲート)】ですか。なるほど…」


「あぁ~~~!やっと見つけましたよ、御上さん!!」

息を切らせて汗を掻きながら一条が走ってくる。


「ハァ、ハァ…、全く貴方という人は、何かあった後では取り返しがつかないんですよ!!」

一条に怒られる、逃げ出してきたのは俺が悪いからな…


「あぁ、一条、心配かけたごめん。」

俺は素直に謝る。


「え…あ、こ、これから注意してもらえればいいんです…」


あっけにとられている一条が背後の気配に気付く。


一条は俺の前に庇う様に立つ。

扉から3人現れる、それぞれがSGを装着していて誰なのか認識はできないが、3人共白いスーツを着込んでいる。


「貴方達は、どちら様でしょう?わが校の生徒では無い様ですが…」

藍田香織が不審な3人組に聞く。


「君達に答える必要はないな、我々は、御上 怜に用が在るだけだ、おとなしくご同行願いたい。」

リーダーらしき男がそう告げる。


(…なんかベタな流れっすねぇ~。)


「お前達、…どこの勢力派閥だ?…予想では法王庁あたりだな…」

一条が指摘する。白スーツの3人組に動揺が走る気配があった。


「やはり…図星か、トップオブトップ(TOT)の本選に出場する新人を勧誘しているという噂を聞いていたのでな…」


「…」


「…しかも従わない者には武力行使するという噂もな…」

一条が身構える。

白スーツの3人組も背中から木刀を取り出し構えている。


(…まじか、そこまでするか普通…ここ現代の日本だよ?)


「…我らの障害となる者は、排除する。」

3人が俺達を取り囲む。


(本気なんだ…にしてもこれ分が悪いんじゃね?俺ってこっちじゃ一般人だし…手助けすらできないよ…というより足手纏い…じゃね?)


木刀を持って襲い掛かる3人と互角に渡り合っているが、素手で闘っている一条は、決め手になる打撃を与えてはいない。

一条は、かなり強かったが、多勢に無勢。

このままでは、体力が持たない…


「ハァハァ、…これは、かなり分が悪いですね…」


背後からの剣撃を転がって躱し、起き上がりざま相手の脇腹に掌底を叩き込む。もう一人が横薙ぎに木刀を打ち込んで来るのを避けようとしたが、脚が絡み体が流れた。


(まずい!一条)


と思った時には体が動いていた。

右脚に無意識に溜めた力を解放した次の瞬間、俺は一条を抱えて扉前に立っていた。


「?!」


その場にいた誰もが、今の出来事が理解出来ていなかった。それは、俺も例外では無く…


(あれ?今…高速移動した?よね…これって、現実世界(コッチ)でも出来る…?)


「き、貴様、今何をした?」

白スーツのリーダーが問い質して来る。

俺は一条を下ろす。


(…今まで考えた事なかったけど、現実世界(コッチ)でもやれるんじゃ…だったら!)


「一条、まだやれるか?」


「も、もちろんよ。ま、まだやれるわ。」

一条は、いそいそと服装と髪型を整える。

俺は、白スーツ達の方へ向き直る。


「女の子に守って貰うのは、やっぱ性に合わないからな。こっからは2対3だ。」

左腕を前に出し、右手は固く握り腰に引き腰を少し落とす。


「お前が、一人増えたからって、何も変わらん!」


俺と一条の周りを取り囲み、木刀を構える。

ドアから更に5人白スーツが現れる。


「おい〜〜ッ、そんなん在りか?!」


「あらあら、これはやり過ぎですわね。私もお手伝いしましょう。」

傍観していた生徒会長も参戦してくれる様だ。


(…3対8かよ…どう見ても状況は不利だが、やるだけやるしかないな。)


俺は一気に突っ込み右拳に溜めた力を解放する。

一人吹き飛んでいく、二人目に回転回し蹴りを叩き込み、地面に叩きつける。


生徒会長と一条も闘っているのが目の端に映ったが、今は気にしている暇がない。


起き上がってきた白スーツの木刀を交わしつつ足を払い、転倒させて鳩尾に一撃入れる。


白スーツが二人同時に打ち込んで来る!

間一髪躱し、右手を地に着け、力を解放して後方へ跳ぶ。

着地と同時に左脚に込めた力を放ち、地を這う黒い弾丸の様に弾け跳ぶ、木刀が振り下ろされるが突進している軌道を変え、避けつつ回転して踵を振り落とす。


木刀で受けられたが、反動で逆回転して前蹴りを入れようとするが、もう一人の白スーツが突き入れて来たのを皮一枚で避ける。


(うっわぁ、危ねぇ…)


頬から一筋血が流れる。


右手を手刀にし、右後方下段に構え、腰を低く落とし構える。目の前の敵にだけ精神を集中させていく。

無意識のうちに身体から気が溢れ出している。

それに気圧される様に後退り、意を決した様に斬り掛かって来た。


正に一瞬だった…手刀が、木刀を真っ二つに斬り落とたように見えただけなのに…二人同時に戦闘不能にしていた。


こっちは何とかなったが他の二人は…大丈夫かと思って振り返ったが、俺の心配を他所に…一条が2人、生徒会長が2人きっちり片づけていた。

8人の白スーツは、全員蹲って倒れている。


「…その辺でいいでしょうか。」

突然、俺達の背後で声がした。

一条も生徒会長もその気配に気づかなかった、俺も全く気付いてない…

振り返ってみると、銀の髪を腰まで伸ばした白スーツの男が立っていた。


(な…全く気配がなかった、この白スーツ…只者じゃねぇ…な…それに、この気配は…昨日感じた…)


「全く…私は丁重に御連れする様に言って置いた筈ですが、これはどういう事なのでしょう?」


銀髪の男から凄まじい気が発せられる。


「!!」

(おいおい、なんて〈気〉だよ…マジでこいつ何者なんだ?…)


「も、申し訳…ありません、勝手な事を…」

蹲っていた白スーツが震えながら謝罪している。


「…仕方ありませんね、動けるものは他の者を連れて、ここから立ち去りなさい。目障りです…」


白スーツ達は何とか立ち上がり、仲間に肩を貸しながら扉から出て行く。

それを見送って、銀髪の男はこちらに向き直る。


「今回の件はこちらの不手際です、本当に申し訳ない。後日改めてこの無礼な行いの償いはさせて頂きます。」

自分達の愚行を素直に謝罪してきた。


「その必要はないよ。お宅らと話す気はないからさ。」


「…憤慨されるのはもっともですね。

私としては、穏便に話し合いたかっただけなのですが…

今日の処は、一旦出直すとしましょう。」


銀髪の男は深々と頭を下げ、踵を返してドアから出て行く。


( 今日の処はね…ってことはまた来るんだろうね。)


「御上君、凄い体術でしたね、何か武術の心得でもあるのですか?」

生徒会長が近づいてくる。


(実際、この人も得体が知れないんだよなぁ…)


「いやぁ、現実世界(コッチ)じゃ何もやってないんだけどね…」

そう言って歩き出そうとした俺…

の全身に激痛が走り悲鳴を上げる。


「ぬぁ?…ウギィ、あぐぅ…ウゲェ、ぐぬぅぉぉ…」


身体を動かすたびに…体中のあちこちが激しく痛む。


「御上さん…その変な動きは?何なのですか。」


「アツッ…何…か、体中が…筋肉痛にオゥグッなったみたい…で…ウガァ。」

あまりの激痛でその場に倒れ込んだ俺…情けなし…


(…そりゃ、こうなるわな…現実世界じゃあ、ゲームとかばっかで毎日だらだらやってたからな…)


「おい、大丈夫か?」

「あら、大丈夫ですか?御上君。」

二人が駆け寄ってくる…俺はあまりの激痛で失神してしまった。




気付いた時、俺は保健室のベッドの上に寝ていた。

顔に手をやると、屋上で切った頬には絆創膏が貼ってあった。

「ん?…ここ保健室か?」

起き上がりながらそう呟いて…全身の筋肉が激痛を伝える。

「あぃ、痛ッてて…」


「おや?気付いたのか、軟弱男。」

美人で有名な保健室の芦浦先生が声を掛けて来た。


「筋肉痛で失神したあげく、女生徒2人に運ばれてくるとは、男子としては情けないな。」


(…マジっすか、そりゃ情けないっすね(^◇^;))

どうやら俺が屋上で倒れた後、保健室に二人で運んでくれたらしい…


「まぁ、もうしばらく休んでいくと言い。筋肉の熱が引けば多少は動けるようになるからな。」

芦浦先生は、そう言ってカーテンの向こうへ行ってしまった。


芦浦 美鈴(25)は全校生徒の憧れの先生である。

スタイル抜群、端正な顔立ちで、性格もさばさばしていて気持ちが良い、生徒に対しては面倒見も良く理不尽なことは嫌いなようだ。

男子生徒だけでなく女子生徒にも絶大な人気を持っている。

2年前に赴任してきた時は、保健室に長蛇の列が出来る程の熱狂ぶりだった。


「へ~い。」

俺は軽く返事してまたベッドに戻り、仮眠をとることにした。




終業ベルが鳴りで目が覚めた。

下校する生徒達が保健室の前を通っている音が聞こえる。

起き上がってみると、さっきまでの激痛は完全に無くなっていた。


(あれ?全然痛くないな…)

ベッドから降りてみる。

全身チェックしたがどこにも痛みは残っていないようだ。


「起きたのか?良く寝ていたようだが少しは良くなったのか?」

芦浦先生が、カーテンを開け入ってくる。

屈伸運動をしている俺をみて、目を丸くする。


「動けるのか?あれだけ筋肉が発熱していたのに…そんな短時間で治る筈は…」


「すっかり元気になったんで、俺そろそろ…」

制服を手に取って保健室を出ようとした俺を呼び止める芦浦先生。


「ちょっと待て、お前ちょっと脱いでみろ?」


「え?」


「あれだけの発熱があったんだお前の体を触診してみる!」

そう言って俺のワイシャツを脱がしにかかる。


「え?あ、いや、もう治ったんで…大丈夫?!」

ワイシャツのボタンを全部外されてしまう。


(手際良すぎ…!)


「男なら、おとなしく脱げ…」

シャツを脱がされそうになって足がもつれたのかベッドに倒れ込む。

柔らかい感触が顔に…


その時ドアが開く音が聞こえた。


「怜ィ、見舞いに来てあげたわよ。」

「怜君、大丈夫ですか?」

彩芽と莉奈の声が聞こえた。

振り返った俺は、ベッドの上で右手で先生のふくよかな胸を掴み馬乗りになっている。

その光景を目にした3人目の…一条、


「き、貴様、一体何をやっているのだ!」


「ち、ちょっと待って、これは誤解だって…」

後は言う迄もなく、俺は女子にぼこぼこにされた…芦浦先生が途中で止めてくれて、事情を説明してくれたので濡れ衣は晴れたようだったが…後でこっ酷く説教された…





粗方登場人物出たので、次回で異世界にもどします。

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