プロローグ11 校内戦終了と二人の護衛
ゴールデンウイーク前半は雨が多くて少し書く時間が出来た。
校内大会最終日、
うちの学校は、毎年シード権を取っている、
全国大会には2名迄の出場権がある。
なので、準決勝で勝ち抜けば全国大会への出場権を手に入れる事が出来る。
去年の全国大会では、
生徒会長の藍田香織は2位、副会長の梶原拓海は11位だったそうだ。
梶原 拓海(18)生徒会副会長。
異世界での役職は、
ミッドガルド帝国軍 南方面軍軍情報部部隊長。
副会長が、俺を視る眼付は刺すように痛い…
【転生者】なんて得体の知れない不審人物なんだろうけど…なんか裏が在りそうな気はする。
濃グレーの髪にインテリ眼鏡、その奥にある切れ長の目が神経質そうな印象を受ける。
筋肉質ではないが背丈はそこそこ高い。
仮想現実教室に入ると生徒会の連中と莉奈が先に来ていた。
「あれ?皆揃ってどうしたの?」
普段通りの口調で話し掛ける。
「全く緊張していないようだな…」
瀧川総司が呟く。
「今日は、事実上の決勝戦ですから、みんなで応援…観戦しに来たんです。」
莉奈が手を振って説明してくれた。
「まぁ、俺に勝ったんだから湿気た戦い方しやがったら、ぶっ飛ばしてやろうっと思ってな。」
風祭俊一が嘯いてくれている。
どうやらこの3人は俺の応援に来てくれたようだ。
「今日の闘いは、此処のモニターで見ることが出来る様にしてあります。」
生徒会長の藍田香織が手配したようだ。
「皆に見られながら戦うのかぁ…ちょっと緊張するけど下手な戦いは見せらんないな…」
「この戦いは、私も興味がありますからね…特に御上君、貴方の闘いを見てみたいのです。」
生徒会長にこう言われると…
「そう言われると、負けれないなぁ。」
「ほう…俺に勝てると言っている様だな。」
副会長の梶原拓海が眼鏡を光らせている。
「お前が何者であるのか確かめる為にも…全力で掛かって来い…まぁ、優勝を譲る気も無いがな。」
眼鏡の奥の眼が細く光っている。
ポッドに入っていく俺と副会長。
「頑張って、怜君。」
莉奈が応援してくれていた。
フィールド:ニューヨークマンハッタン島 夕刻
夕日に照らされる超高層ビル群。
超高層ビルの屋上が出現ポイントだった。
漆黒の戦士と白に金色の装飾と白いマントを羽織った戦士が現れる。
(先生、今回は先生に闘って貰ってもいいっすか?)
『ん?何じゃ、主が闘わぬのか?』
(ん~、あのインテリ眼鏡はちょっとムカつくけど、先生の闘い方も見ておきたいんですよねぇ。)
『…そうじゃのぉ、主は【森羅の智慧】の使い方が下手じゃからな。』
(いやいや、そこまで下手じゃ…)
『そうじゃな、ゴミムシ以下じゃ。』
(即答っすか、酷過ぎる…)
落ち込みまくってる俺を尻目に、意識を切り替えていく先生。
『よく見て学ぶのじゃぞ。』
先生に身体を預ける。
マンハッタン島にあるガラス張りの超高層ビルの屋上に漆黒の戦士は立ち、
黒いタイル貼りの超高層ビルの屋上にあるヘリポートに白マントの戦士が立っている。
「さぁ、始めようか…【転生者】とやら、その力を見せてみろ。」
ルーウェンが、右手の指を2本立て魔法陣を浮かべる。
その手を突き出す。
〈氷柱矢〉
『防御』
4本の氷柱が成形され、ゼロに向けて飛矢の如く向かってくる。
無造作に立ち尽くすゼロに当たる瞬間、氷柱矢は飛散する。
「…魔法防御…か?Ⅰ種界層の小手先の魔法では弾かれるか…ならば!」
『解析……………
解析完了。』
両腕を広げ、指2本づつ突き出すその先には魔法陣が浮く。
『Ⅵ種魔法耐性向上、氷雪耐性向上、Ⅶ種闇魔法組成完了。』
ルーウエンは両腕を頭の上で組むと、合わさった魔法陣は3倍の大きさになる、
組んだ両腕を前に振り下ろし、叫ぶ。
〈雪華陣雹来〉
「Ⅲ種界層の魔法を受けてみるがいい!」
ゼロの足元に氷紋が現れて、ゼロの足を凍らせその地に捕縛する。
暗雲が立ち込める天空より氷塊が現れ、氷紋に捕らわれているゼロ目掛けて猛スピードで襲い掛かる。
氷煙が立ち昇る。それでもまだ襲い続ける氷塊。
モニター越しに観戦している。生徒会長達からも声が漏れる。
「あれは、Ⅲ種界層 の上位魔法ですね…開始早々、使える魔法ではないと思ってましたけど、さすがは梶原君と言った処でしょうか。」
生徒会長が、感嘆している。
Ⅰ種界層…狭範囲型低出力魔法。
Ⅱ種界層…広範囲型低出力魔法。
Ⅰ・Ⅱ種までは、常時発動可能な魔法攻撃、発動までの時間も殆ど無い。
Ⅲ種界層…狭範囲型高出力魔法。
Ⅳ種界層…広範囲型高出力魔法。
Ⅲ・Ⅳ種の魔法は、発動までに時間が掛かるもののその威力は、Ⅰ・Ⅱ種の数倍にも匹敵する。
Ⅴ種界層…狭範囲型超高出力魔法。
Ⅵ種界層…広範囲型超高出力魔法。
Ⅴ・Ⅵ種界層は人が使える最上級魔法を使えるものも大賢者や大魔法使いクラスのみである。
そしてここから先の界層は人には扱えない…魔王や神の領域である。
Ⅶ種界層…狭範囲型超々高出力魔法。
Ⅷ種界層…広範囲型超々高出力魔法。
Ⅸ種界層…
Ⅶ種以上は伝承や古文書の中でしか示されておらず、Ⅸ種界層は存在するかどうかも分かっていない。
「おいおい、あいつやべぇーんじゃ…」
風祭が呟く。
「いくら剣の腕が立つとはいえ…足元を固められていては、動くことが出来んからな…」
梶原総司も感想を言う。
「怜君…やられちゃう…」
「…そうでもなさそうですわね。」
生徒会長の藍田香織が呟く。
一同が、モニターの中の闘いに見入る。
攻撃が止み、氷煙が消えていく。
中から人影が…現れる…地に伏す事も無く、無傷で立ち尽くす漆黒の戦士。
「!」
「…馬鹿な…無傷だと…俺のⅢ種界層魔法を受けて…」
足元の氷塊を砕きながら2、3歩前に歩く。
『牽制及びブラインド』
「ダメージを追わない魔法防御などⅤ種界層以上…賢者クラスだぞ…」
梶原拓海が驚愕する。
『Ⅴ種闇攻撃魔法組成完了。』
翼を広げ飛び立つ。
「?!…Ⅴ種界層以上の魔法防御能力、そして飛行能力…【召喚者】ならかなり上位者だな…」
漆黒の戦士がルーウエンの周りを飛翔する。
右手を突き出し魔法陣を浮かべる。
〈闇獄竜の牙閃〉
闇の牙が成形され、ルーウエンの周囲を旋回しながら連続して放ち続ける。
「なっ?!」
闇の爆炎が連続して起こる。
黒いビルは半倒壊し、ヘリポートも傾いている…
「馬鹿な…Ⅴ種界層魔法を連続で放てる者などいる筈が…」
上空でゼロが巨大な魔法陣を成形していた。
「!」
ルーウエンが上空を仰ぎ見る。
〈極・闇霊子滅懐砲〉
魔法陣から超圧縮された闇霊子が解き放たれる。
次の瞬間、マンハッタン島は消滅した…
【 Your Wins 】
(…先生、ちょっとやり過ぎな感じが…するんすけど。)
『…かなり抑えたんじゃがな…、それよりも【森羅の智慧】の使い方は理解できたかの?』
(解り易く使ってもらったんで…あとは意識せずに使えるようになればいいんでしょ?)
『…主にしては、理解が早い様じゃ。』
漆黒の戦士の姿が霧散していく。
仮想現実教室に戻って、接続ポッドから出てきた俺を待っていたのは静寂だった。
先に戻っていた副会長の梶原拓海も眼鏡の奥に驚愕の色を浮かべている。
「お前は一体…何者なんだ?」
副会長が問い質して来た。
「前にも言ったよね?【転生者】だって。」
「…そんな筈は…それに、最後の魔法はⅦ…いやⅧ種界層魔法…あり得ない…【転生者】とは神や魔王と同じ力があるというのか…」
副会長は、独り言のように呟く…
(さっきのは、先生が、闘ってたんですなんて言えないっすよね…しかもかなり力抑えてたみたいだし…)
「…剣の腕は剣聖クラス程に強く、魔法は魔王クラスか…」
瀧川総司も呟いている。
「…怜君、凄すぎです…まさか此処までとは…」
莉奈が、驚いた顔で俺に近づいて来た。
「在り得ん!そんな者がいる筈などない!貴様など俺は断じて認めんぞ!
何かしらのトリックがある筈だ、そうでなければあんな魔法を使う人間など存在せん!
貴様のその偽りの仮面をいつか剥ぎ取ってやる!」
憤慨して教室を出て行く副会長。
(まぁ、普通ならあんなこと出来ないかもね…あれ先生だし…)
「…気になさらないで御上君、副会長だけでなくここに居る他の者も、今起こった光景を目にした自分が信じられないんです…何しろ人の身で、Ⅶ種以上の界層魔法を使える者が存在するなんて異世界でも聞いた事がないのですから。」
生徒会長が理由を話す。
「怜君の転生した場所って何処なんですか?…あ、言いたくないなら強要してる訳じゃなくって…」
莉奈がオズオズと聞いてくる。
(向こうの情報は、禁忌だったっけ…)
「俺は、シャルロット王国の西側にある果ての山脈…の近くだったよ。」
「…となると、御上君は王国の勢力になりますね…」
藍田香織生徒会長が考え込みながら呟く。
そして俺の方を見て、
「あなたの〈力〉は、帝国と王国やその他近隣諸国の力の均衡が崩れるかもしれません…」
生徒会長の眼が、鋭く俺を射抜くような…
俺はそれを無視して、
「あぁ、俺どこの勢力に入るとか、今の処全く興味ないから気にしなくていいんじゃないかな?」
軽く答えた。
「あら、そうなのですか?」
ちょっと驚いたように俺を視る。
「俺は気楽に異世界で生活したいだけだし、周りの気の合う連中と楽しく暮らしたいだけなんだよね。」
俺は本心で話した。
「なるほど…それでは今は、あなたの言葉を信じましょう…
ですが、御上君は今後気を付けた方が良いかもしれませんね…」
生徒会長が忠告をしてくれる。
「気を付ける、というと…?」
「あなたの力を欲しようと画策する者や誅しようとする者達が現れるかもしれません。
異世界だけでなく現実世界でもです。」
「…なるほど、そう言う事もあるかもな…一応、忠告は聞いておくよ。」
俺はこの時、簡単に考えていた…
翌日、優勝者の俺は表彰された。
クラスの奴らどころか全校生徒が、俺には一目置くようになり、気軽に声を掛けてくるようになった。
だがその中に真也の姿は無い…
まだ異世界から戻ってきていないのだ…
それに、真也が初日に消えた時は、あれ程気にしてた彩芽が、今では存在していなかったような振る舞いだ。
これも【召喚】の効果らしい、異世界に長く存在すれば、こちらの世界に存在していた記憶が消えるという事らしい。
例外として異世界に行った事のある者の記憶は失われ無い様だ。
――――――――――――――――――――――――――
昼から雨が降り出した。
校庭に水溜りが出来る程の本降りになった。
校門に違う学校の制服を着た生徒が二人、傘を差して立っている。
俺は、生徒会室に呼び出された。
ドアを開けて中に入ると生徒会長と見知らぬ制服の生徒が二人立っていた。
「なんか用ですか?」
部屋に入るなり俺は聞いてみた。
「御上君、わざわざ呼び立ててすみません。TOTの運営委員会の方々が、貴方に会いに来られましたので。」
生徒会長が、立ち上がりながらそう説明した。
「紹介しておきます。鬼龍院 神影さんと一条 まどかさんです。」
「僕が、鬼龍院です、よろしく。」
「一条です。」
俺は軽く頭を下げた。
「それで、香織さん、彼は…」
一条 まどかが、生徒会長に目配せする。
「えぇ、彼はこちら側です。」
藍田 香織が、頷きながら答える。
「…そうですか、それなら話は早いですね。」
「御上 怜さん、これから一月後に行われる大会本選終了迄、我々が貴方の護衛にあたります、以後よろしくお願いします。」
「はぁ?」
「あら、お話してませんでしたか?本選初出場者は、運営から護衛が付けられる決まりなんです。」
生徒会長が事も無げに説明する。
「いやいや、護衛って何?ここ現代の日本だよ?」
「この大会は特別なんですよ…毎年何名か事故にあい本選に出れないという事態が起こってますからね…特に初出場の方達は良く事故にあうようです…」
感慨深げに生徒会長が話してくれる。
「…まじかよ。」
「そう言う事です。特にあなたはこちら側の世界の人間ですからね…四六時中我等で警護させてもらいます。」
「我等がついていますので心配いりませんよ。」
鬼龍院神影と一条まどかの二人して追い打ちを掛けてくる。
「…四六時中って…これ断れないんですよね?」
「無理です!」
藍田香織がきっぱり断言してくれた。
――――――――――――――――――――――――――
下校時間、下駄箱で莉奈とあった。外はまだ雨が降っている。
「あれ、怜君ももう終わり?。」
「ん?偶然だな莉奈。校内戦も終わったし、たまにはゆっくり帰ろうかと思ってな…」
ちょっと憂鬱な声でそう言っていると、
背後から声が聞こえた。
「そちらの方は、どなたでしょうか?」
振り返ると一条まどかが立っていた。
「…その女の人誰?違う学校の制服だけど…」
莉奈が不信感を露わにしている。
「あ、あぁ、この人は…」
「私は、一条まどか。これから暫く御上さんとご一緒します。
…ところであなたは?クラスメイトではないですよね。」
一条は、莉奈を問い質す。
「…わ、私は御上君の…と、友達です…」
莉奈が何故か、俺の腕を組んで来た。
「ン?えぇ…と?」
狼狽えて居る俺の腕をしっかり組む莉奈の顔は少し紅かった。
「え…と、そうだな、莉奈は俺の友達だ。」
俺がそう答えると、
「…そうですか、それなら同行を許します。」
一条まどかの高圧的な言葉で許可が出た。
(…超上からだな…この人…)
「な…何なんですか貴方は!あ、貴方に許して貰わなくて結構です。」
ちょっと俺の後ろに下がって一条を指差している。
「黙りなさい、どこの馬の骨ともわからない女を御上君に近づけさせる訳にはいかないんです。」
「馬の骨ですって?!…あ、貴方こそ一体何なんですか!あなた御上君の一体何なんですか!」
なんでかこの二人の間で火花が散っている。
(…何なんだこの展開、どんどん不可思議な処へ向かってる気がする…)
「…ん?」
背後で人に見られている気配を感じた気がして、振り返ってみたが誰もいない。
「…気のせいか…?」
結局、3人でこの雨の中を帰る事になった。
道中で莉奈には一条まどかのことを説明した。
「それなら納得します…私はてっきり…」
「てっきり?」
「な、何でもないです…」
莉奈はまた顔を紅らめている。
「そういや、一条はどこの勢力なんだ?」
何も考えずに聞いてみた。
「え?ち、ちょっと怜君、それは聞いちゃ…」
莉奈が慌てる。
そういえば禁忌だったっけ…
「お前は、遠慮なしで聞いてくるな…まぁ、別に構わんが。私は東のブランド共和国で第2近衛騎士団を率いている。」
「あら、私もシャルロット王国近衛隊の隊長してるの。」
「ほう、…王国近衛隊の莉奈…リーナ?!まさか貴方…」
一条まどかが、驚いている。
「あ、あたし、こっちだから。
怜君また明日ね。一条さんも。」
手を振りながら傘を揺らして走っていく後姿を見送って、
「んで、一条は何処まで付いてくんの?」
俺は聞いてみた。
「勿論、自宅までだ、朝も迎えに来る。」
予想通りの回答だった。
これが、毎日続くと思うと…大きく溜息をついた。
後半は晴れそうだなぁ。
書く時間無いかも...
少しでも書き進めるようにします。