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プロローグ1 そして異世界へ

初めて執筆してみました。キャラやコンセプトがまだ固まってないので順次修正していきます。


気長にお付き合いください。

 


空には濃灰色の暗雲が立ち込め、地上には近代的な街並みが整然と拡がっている。


墓標の様に、幾つもの巨大なビルが建ち並んでいる。

よく見ると整備された道路や橋が、激しい戦闘の跡なのか…無残に破壊されていた。


ビルの谷間を寂しく吹き抜ける風、何処にも人影はなく、静寂が街を包み込んでいた。


その静寂を破る様に重い音が響く。


  ズズゥーン...


遠くでビルが崩れ落ち、土埃を巻き上げる…

それをキッカケに止まっていた刻が動き出した。


一条の蒼い閃光が走りビルに大きな(あな)穿(うがつ)つ、超高熱で(あな)の周りが熔解している。


「?!」


(此れ、光学武器(レーザー)じゃね??

今日は接近戦って言わなかったっけ?アイツ…

くっそぉ…仕方ねぇ、こうなったら走り回って撹乱するしかないな…)


また騙されたと思いつつ、


穿たれたビルの陰から飛び出す黒い影。

全身を覆う〈漆黒の鎧〉を身に付け、左手には小盾、右手には紅く光る刀身の超高熱振動ブレードを握っている。


疾駆するスピードは時速にして100km/hにも達している。


背中のバックパックと脹脛(ふくらはぎ)部分に駆動系の装置が取付けられていて、青白い光を放っている。最高時速は200km/hにもなる。


光学武器(レーザー)持たれちゃ、こんな盾持ってても意味ないな…)


左腕に取付けてあった盾が一瞬で消え、スピードを更に加速させて行く。


3km程離れたタワーの上に、全身蒼い鎧の狙撃手がバレルの長いライフルを構えスコープに獲物を捉えていた。


(へぇ、中々早いけど…甘いよ、(れい)。その程度のスピードじゃ狙い撃ちだぜ!)


蒼い狙撃手が、構えているライフルの銃口から無反動で放たれる蒼い閃光。


閃光が放たれた瞬間、時速200kmで疾駆する〈漆黒の戦士〉の左肩に被弾し肩当てが吹き飛ぶ。


(ちっ!このスピードでも当ててくんのかよ!マジありえねぇ!)


直線で移動するのはマズイと判断し、直角に曲がったりジャンプしたり、スピードも変えたりと不規則にしてみたのだが、全く意味がなかった。


正確な射撃は全弾命中、〈漆黒の戦士〉は(あな)だらけになる。それでも疾走は止まらない。狙撃手のいるタワーまで残り200mの処まで来ていた。


蒼い鎧の狙撃手が呟く、


(怜の奴、意外としぶといな…でもこれで終わりだ!)


スコープ越しに〈漆黒の戦士〉の頭部分を捕捉し、トリガーを引こうとした瞬間。


(?!)


突然 爆煙が上がり獲物()を見失う。スコープで辺りを探すが見つからない。


(煙幕かよ…)


時間にして数秒だった…音も無く蒼い鎧の背後に突如現れた〈漆黒の戦士〉は満身創痍だった。

身体の至る所に(あな)が空き、左腕と右脚は吹き飛んで消失している。


それでも駆動装備をフル稼動させ、〈漆黒の戦士〉は一瞬で間合いを詰める。


(!!)


〈漆黒の戦士〉の右腕を高く振り上げ、手に持つ超高熱振動ブレードの必殺の一撃を放つ!


(よっしゃぁ、オレの勝ちだぜ、真也!)


その刹那、〈漆黒の戦士〉の首が飛んだ。


(あれ…なんで…⁈)


斬り捨て様とした狙撃手の姿は其処には無く、

〈漆黒の戦士〉の背後に、刀身が蒼い超高熱振動ブレードを手にした蒼い鎧の狙撃手が立っていた。


 頸と胴が斬り離された〈漆黒の戦士〉が、四散し消滅した。

その時、蒼い鎧の狙撃手の頭上に文字が…


【Your Wins】




21世紀初頭に開発された仮想現実世界。

開発された当初は、メモリーデータや動作環境も稚拙で一部のゲームや会社のシステム位にしか使い道がなかった。


その上、民営化された通信業界が低迷しており、ネットワークシステムは問題が多く、期待されていた発展は膠着していた。

それを見かねた当局政府が、未来の環境を先見し、再度国の事業としてネットワークシステムの開発を進める事となった。


そして数年後、国が開発したネットワークシステムが全国へ普及される事になる。


そのシステムを利用し、厚生労働省の最新技術開発機関【LTDF】が新たな仮想世界を構築し創り出した。

その世界では、個人データから国の中枢系統まで総てが網羅されていた。


そして現在…


国民は、15歳になると仮想世界でのIDを割り振られる事になり、自分専用のアバターを作成、仮想現実世界で日常生活をする事が可能となった。


いつでも何処からでもアクセスできる様に、モバイル端末も政府から支給された。


仮想世界も最近では、体験型仮想現実【EX-VR 】が主流になりつつある。


*体験型仮想現実【EX-VR】

仮想世界を現実世界の様に体験出来るシステム。視覚聴覚触覚など人間の五感神経に擬似信号を送り、まるで現実世界にいるかの様に認識させる。


最新型のモバイル端末の形状は、眼鏡に近い感じだ。

それは、通称"SG"と呼ばれている。





都立星稜高校、自由な校風で有名な学校にも関わらず、偏差値はそこそこ高い、男女共学の進学校である。

特に【EX-VR】の大会では、毎年全国大会に出場している有名強豪高だ。


「クッソォ〜、またやられた!彼処(あそこ)でカモフラつかってくんのかよ!


俺はSGを外して叫んだ。

星稜高校2年C組、御上 怜(16)


「…って言うか、お前酷くね!『今日は接近戦の訓練だ』なんて言ってた癖に遠距離用の武器だし…

それに、お前いつのまにビームライフルなんて手に入れたんだよ?真也。」


隣の席でSGを外しながらゆっくりと立ち上がる美青年。


星稜高校2年C組、神宮寺 真也(17)

幼稚園からずっと一緒の腐れ縁の親友。


「怜の訓練になっただろ?

ライフルはバイト代注ぎ込んで昨日買ったんだけどさぁ、照準オート機能付きなんだよ。」


「はぁ?!照準オートとかチートだろ…って、

もしかして、お前試し撃ちしたかっただけなんじゃあ…」


「怜、また負けたの?」


背後から聞きなれた声…

悪気は無いのだろうが、無意識に俺をイラつかす天才。


星稜高校2年B組、雑賀 彩芽(16)

コイツも幼稚園からの付き合いになるな…何故かモテる

こんな性格悪魔みたいなヤツが…


「お前には関係無いだろ。大体なんでこっちに来てんだよ、さっさと自分のクラスに戻れよ。彩芽」


(うる)いわね、私は真ちゃんに用事があって来てるんだし、アンタに文句言われる筋合いは無いわよ!」


そう言いながら彩芽は、アカンベェをしてみせる。


俺はお手上げと言わんばかりに肩を竦めて教室から出て行く。

チラッと二人の様子を見ると、

彩芽は何かしら真也に頼み事をしているようだった…



行く当てもなく廊下を歩いていると、雰囲気がいつもと違う…校内は何処と無く落ち着きが無いような…生徒達だけでなく先生もテンションが上がってるようだ。


まぁ、来週から始まる全国生徒会連盟の催し物が原因だとは思うが…


年1回開催されるEX-VRの大会。トーナメント方式で行われるこの大会は全校生徒参加どころか、全国大会延いては世界大会まである。


皆がこれ程浮き足立つのには理由があり、この大会の優勝者に与えられる名声や名誉には、様々な特典が付与されている。


優勝しなくても、高順位者であれば、政府機関や研究機関等、色々な分野からスカウトが来る程、全世界がこの大会に注目している。




下校時間、俺はいつものように真也と大会について話ながら帰宅していた。


「でもさぁ、真也なら今度の大会結構良いとこ迄行けそうなんじゃねーの?」


(…真也には、1回も勝った事ないからな…実力はかなりの物だと思ってる。)


「どうかなぁ、問題は生徒会の連中だなぁ…」


「だよなぁ…アイツ等のアバター半端じゃねぇからなぁ…あれで、基本スペック同じなんて信じらんねぇよなぁ…」


「だよなぁ…装備品は課金すれば、ある程度は何とかなるけど…あの動きは…って、そういえば、怜。昼の模擬戦の時…」


「ん?」


「一瞬であの距離をどうやって移動したんだ?気付いたら後ろに回り込まれてた。」


「その後、頸刎ねられたけどな。」


「貴方達ホント仲が良いわね、何か悪いことでも相談してるんじゃないの?」

背後から声を掛けてきた彩芽は、俺の苦手な女N o.1だ。


「何もして無ねェよ!」

苦手意識からなのかぶっきら棒に答える。


「ふ〜ん。それよりも、お腹空いたから何か食べに行かない?」


言葉は疑問形だが、彩芽の場合はそうでは無い。

SGを起動して仮想端末を操作している。


「駅前のマックが席空いてるみたい。予約入れたから行くわよ!」


身勝手極まりないな…俺は絶句した。何か言い返そうかと思ったが止めた。言っても無駄だからだ…


彩芽という女はとことんマイペースだ、それに付き合ってる俺達の身にもなってくれ…真也の方を見ると呆れたように苦笑している。


嫌だと言っても通用しない事は、幼い頃から良く知っている。

スタスタと歩いて行く彩芽の後ろを、二人して渋々ついていくしか無いのだ。



道路を渡ればマックに着く手前の交差点で、信号待ちになった。夕方の駅前なので交通量もそこそこ多い。


「でね、悠香のアバターがすっごい可愛いんだよ。わたしも、お小遣い貯めて課金しようとおもってるんだぁ。」


「彩芽のアバターもかなりイケてると思うよ。」

「ホント⁈ありがとう、真也。」


こっちをチラチラ見ながらそう真也とはなしている。


(…めんどくせぇ…褒めて欲しいんだろうけど、絶対褒めてやらん!)


素知らぬ顔で目を逸らした先で…一人の女子生徒に気付いた。


(あれ、うちの制服だよな…)


歩きながら、右手が何も無い中空を(せわ)しなく動かしている。

SGを掛けているから仮想端末を動かしているのだろう、信号が変わっていないことに気づかず、車路に歩み出る。


「あっ!あの娘危ないわよ!」


彩芽が気付いて叫ぶよりも早く、俺の足が動いていた。

この時は、全く無意識の行動だった。


面倒事は嫌いだった筈なのに…何故助けに行ったのか、後で考えても説明する事は出来なかった。


(俺って。人助けとかするような奴だったっけ?)


女生徒に向かって走りながら、そんな事を考えていた。


大型トラックが、猛スピードで女子生徒に向かって突っ込んで来た。

運転手も女生徒に気付いて、慌ててブレーキを踏むが間に合わない。


俺は、女子生徒の手を掴み勢いよく引っ張った!

…が、勢い余って俺の身体が女子生徒の位置と入れ替わり…トラックに跳ね上げられた。


(げっ?!コイツは予想外…)


「怜!」


「キャァァ!怜君!」

真也と彩芽の叫んでる声が聞こえた、


(あぁ、真也…悪りぃ、俺大会に出るの無理っぽいわ…)


空中で意識が無くなる寸前、カチッと音がして、

SGの起動メッセージが聞こえた気がした…



 ――――――――――――――――――――――――――




意識を取り戻した時、暗闇と静寂の世界に俺は居た。


 …

 …


声は出ない。光も何もない。


(えっと…確かトラックに跳ねられて、死んだ…のかな?

…って、俺何やってんだろ…柄にも無く人助けなんかしたらこの様かよ…

それにしてもここは何処だろう?何も見えないし、何も感じない…これが死後の世界ってやつかな?)



『…聴こえておるか?我が魂の半身よ。』


(お?声がなんか聴こえる…)


『なんか聴こえるではないわ、馬鹿者が!ちゃんと聴くのじゃ!』


(は、はい…すみません。)


突然頭の中に怒鳴り声が響いて来た。


『お前は今、〈輪廻の輪〉の中に存在しておる。お前が存在しておった世界で言うと【転生】してる最中ってとこだが、ちと問題が生じておってな。』


(問題っすか?というか俺ってやっぱり死んだんですね…)


 この声のおじいちゃん、神様かなんかかな?と思いつつ話を聞く…


『そこが問題なんじゃ。通常なら、死すれば意識体だけが〈輪廻の輪〉に戻ってくるのじゃが、お前は何故か肉体も一緒に戻っておる…その所為(せい)で我の管理しておるこの世界が崩壊の危機に瀕しておるのじゃ。

(しか)も、お前の肉体は、前世界に存在している。という、訳がわからない状況じゃ。』


(先生、意味が全くわかりません。)


『…要するにじゃ。世界を守る為に、お前を消滅させねばならぬ!』


(えぇ⁈)


『と、言いたいのじゃが。お前は、我の魂の半身である為それも叶わぬ…

そこでじゃ、世界の崩壊を防ぐには、お前を即刻【転生】させ、此処から離れさせなければならん…

じゃが、通常【転生】する為には、長い年月を掛け、力を蓄えなければならない。

その上、肉体を所持してとなると更に膨大なエネルギーが必要になる。』


(…じゃあ、どうにもならないんじゃ…)


『さすれば方法は一つしかない…我々の魂を一つに戻せば、膨大な力を有する事が出来る筈じゃ…

ならば汝に問おう、我と魂の融合を成す気はあるか?』


爺ちゃんの声からは、静かではあるが荘厳で厳粛な雰囲気が伝わってくる。

しかし、俺はそれに飲まれることなく訊き返した。


(魂の融合?した後はどうなるのでしょう…)


『融合すれば、(かつ)て一つだった頃の魂の精神エネルギーを取り戻し、肉体を持ったまま転生が可能となる…じゃが…』


(…じゃあ、融合します!)

俺は即答した。

どうにもならんなら仕方ないさ、成るように成る。


『話を最後まで聞かん奴じゃな…それに短絡的じゃが…今はそれしかないでな。

それに、その漆黒の肉体は以前の我の魂の器によく似ておる。』

暗闇の中に、一点の光が現れそれは次第に大きくなっていく。

(暗闇は…俺の心の中か…)


そう感じながら、俺は光に包まれ意識はまた薄れていく…なのに不安はなく、寧ろ懐かしさや安堵感で溢れていた。


(…あれ、ちょっと待って?漆黒の()()って…)



 ――――――――――――――――――――――――――




この世界には、衛星(つき)が2つあり、昼間でもその姿を見る事が出来る。


多種多様な種族が棲息しており、魔獣や魔族の様な魔物や精霊や妖精、エルフやドワーフといった高位種族も存在する。


この世界では、ドワーフが開発した【魔霊機関】と呼ばれる技術が発展しており、鉱山資源としては希少な魔霊石のエネルギーを利用して、生活用品から軍需産業まで幅広く利用されている。


この世界へ()()を持ったまま【転生】して、既に一年以上経過している。

最初は色々戸惑ったけど、今は何とか溶け込んでいると思う…(本人談)


2つの月が空の東側に位置する季節。暖かい風が、優しく吹き過ぎる。


俺は、頭からスッポリ隠れる外套(コート)を着込み、背には一振りの剣。身の回りの物を入れた袋を持ち街の外門の前に立っていた。


(やっと街に辿り着いたよ、ここまで超長かった…な)


俺は感慨に耽る。

【転生】してから此処に辿り着く迄、苦労の連続で…初めて人間が住んで生活している場所へ出て来れた。


『何をしておるのじゃ?早く街に入らんか!我も愉しみにしておったのだぞ。』


頭の中に声が聞こえてくる。


(はぁ?!一体誰の所為でこうなったと思ってるんだよ?)


『…』


(…黙秘かい!ま、仕方ないけどさ…じゃあ早速行ってみますか、先生(リューヴェルド)。)



輪廻の輪の中で俺と融合をした魂の半身。名は【リューヴェルド】と言うらしい。


 本人(リューヴェルド)曰く、


『虚無より世界を創造した、原初の高次元生命体である。我を敬うがよい!』


らしいが、かなり疑わしい…俺の中では、この一年でただのホラ吹きオヤジにまで成り下がっていた。

知識量は凄いんで、俺的には【先生】と呼ばせて貰ってるけど、【輪廻の輪】で話した時は、もっと爺ちゃんぽかった様な気もする…それについて触れた事はない。


外門から街に入ると高度な文明とその活気溢れた光景に目を奪われた。


綺麗に整備された街並み、街道を行き来している様々な人種。まるで中世のヨーロッパに近未来の技術が織り込まれている様な雰囲気だった。


荷馬車を引いているのは、馬の形をしている機械仕掛けのロボットの様だし、空を見上げれば、小型の搬送船が飛んでいる。どれも【魔霊機関】が使われているらしい。


行き交う人々の中にもアンドロイドの様な姿をしている者もチラホラ見える。


(すっげぇ!仮想世界が現実になるってこんな感じかもな…)


『主が、たまに話すその【仮想世界】が良くわからぬが、この世界はかなり文明が良い方向へ発展しておる様だな。』


なんか少し嬉しそうだな…先生…


(まずは宿屋から探してみるかな。街の散策はその後、ゆっくりやろう。それに…)


街に入ってから変な感じがするんだよなぁ…誰かに見られている様な…


その時、


「キャアァァッ、マリア!」


振り返ると、疾走する荷馬車に気付かず走り回っている女の子が目に映った。

叫んでるのは、母親の様だ。


そう頭の何処かで認識するよりも早く俺は行動していた。俺は、女の子と荷馬車の間に割って入る。

突然俺が現れてサイボーグ馬が驚き、荷馬車が横転し横滑りしながら迫って来る。


(なんか前にも似たような事があったような…)


ぶつかる!居合わせた者達は、一様にその後の惨劇を思い浮かべただろう…が、それは裏切られた。


荷馬車が街中央の噴水の方へ吹き飛んでいった!噴水と荷馬車は大破したが怪我人は出なかったようだ。


その場に静寂が訪れる。何が起きたのか誰も理解出来なかったのだろう。


「ふぇ〜ん…」


俺の腕の中で女の子が泣き出した。それに気付いた母親らしき女性が走り寄ってくる。

女の子を俺の腕から抱き上げ力強く抱きしめている。


「あぁ、マリア無事なのね!良かった。本当によかったわ。」


安堵したのか娘さんを抱きしめながら、その場に座り込む母親が俺の方へ向き直り、


「本当に有難うございます!この御礼は何でもいたします。娘を助けて頂いて有難うござい…ま…す?」


顔を上げた母親は、俺の姿を見て絶句した。周りを取り囲んでいた野次馬連中も凍りつく。


俺の外套(コート)が破れ、中から漆黒の甲冑が見えていたからだ…


(この反応って…なんか嫌な予感が…)


女の子が、口を開く、

「お兄ちゃん、暗黒魔王(ヴェルダバーナ)さん?」


(暗黒魔王ってなに?そういえば前にも立ち寄ろうとした村で、同じことを言われて追い返された記憶が…)


「マリア!そんな事言っちゃいけません。」


茫然と立ち尽くす俺を見て、母親は、何かを察したようだ。


「…旅人さんですね。この国は初めてなのかしら?この国でその格好は…余り良くないですわね。

人目に付きますし、御礼もしたいので付いて来て頂けますか。」


そう言うと人垣を掻き分け、足早に俺をその場から連れ出してくれた。


建物の陰で、その様子を窺っている者が居た事には気付いていなかった。



 ――――――――――――――――――――――――――




一年前、

転生して意識を取り戻した時、霊峰の頂にある古い祭壇の上に横たわっていた。

空には二つの月が上り、オーロラのように天空を明るく照らしている。


(ここが、【転生】した世界なのか…)


体を起こそうとするが思うように動かない。

眼を動かしてみると俺は|漆黒の鎧を着ているようだった。


(あれ?これって俺のアバター…いやちょっと違うか…)


『やっと目覚めたか、我が魂の半身よ。その身体にも魂が定着しているようで何よりじゃ。』


(…誰?どっかで聞いたことある声だけど…なんで頭の中に声が聞こえてんの?)


『憶えておらぬのか?…我が名は、リューヴェルド。

主の魂の半身であり、魂の融合を成したが為に主の中に精神体として存在しておる。

…通常ならば魂が融合した際に、何方か片方は吸収され、意識は消えるのだがな…まぁ、今回はレアなケースという事じゃのぉ。』


(…今話してるのが【輪廻の輪】で話してた爺ちゃんなのは理解できたけど…

何で肉体がアバターになってんの?ここって仮想現実世界じゃ無いよね?)


『主の話しておるアバターとやらは何の事か分からんが、意識体と共に【輪廻の輪】に肉体(魂の器)も転移されてきたのは、永劫の時の中で主が初めてじゃ。』


(…そういえば、意識が無くなる寸前にEX-VRの起動音が聴こえていた気がする…俺の意識が消える前にリンクしてこうなったの…か?)


色々思考しながら無為に立ち上がろうとしたが、指の1本さえ動かせない。


『何をしておる…?主は、自分の身体も自由に動かせぬのか?』


(何これ?アバターの肉体なんてどうやって動かすんだよぉ〜?!)


『全く…先が思いやられるな…』


(お前が言うなぁ!)


 そして、地獄の様な特訓が始まるのだが、それはまたの機会に話すことにしよう…



 ――――――――――――――――――――――――――




俺は人目を避けながら母娘の後を付いて行き、暫くすると、2階建の大きな建物に到着した。


中に入るとかなり繁盛している飲食店の様だったが、人目につかない様に素早く其処をすり抜け、奥の扉から良く手入れされている中庭に出た。


母親に中庭の真ん中にある白いテラスで待つ様に言われ、白いベンチに腰を下ろし、暫く待っていた。


「申し訳ありません、お待たせ致しました。」


母娘がティーセットを持って戻って来た。


「私はこの店のオーナーをしております。

ティエラ・バートンと申します。この子はマリア、私の一人娘です。」


紹介された女の子はスカートをつまみ優雅に一礼してから、


「マリア・バートンです。

お兄ちゃん助けてくれありがとう。」


小さな女の子なのにしっかりとした挨拶をしてくれた。

どうやらかなり上流階級の人なのかもと思っていると、


「先程は、娘が危ない処を救って頂き、感謝の言葉もございません。

心馳せながら何か御礼をしたいのですけれど。」


(…俺も名乗らないと…名前か…本名じゃ違和感あるかな…)


「お、俺の名は…ゼロです。

御礼なんて気にしなくて良いっすよ、人が困ってたら助けるもんでしょ?

そんな事よりもなんですけど…聞きたい事があって…」


(前の村やあの広場での疑問を訪ねてみよう…)


「俺の身体って何かに問題あるんでしょうか?」

率直に聞いてみた。


「…失礼ですけど、ゼロ様は旅のお方でしょうか?

それもかなり遠くからいらしたとか?」


ティエラさんに逆に質問された。


「あ、えぇ…そんな感じです。かなり遠くから来てまだ間もないんですけど…」


「やはり、そうでしたか…あの広場の者達が凍りついたようになったのは、ゼロ様のお姿を見たからですわ。

その身に纏っていらっしゃる〈漆黒〉の甲冑の姿を…」


(…どう言う事だ?)


「我等が信仰する、シュラム聖教の聖典である【創世記伝】に綴られているんです。

【黒】は魔を呼び、世界を闇に堕とし崩壊するとされています。

特に信仰心の厚いこの国では()は禁忌とされているのです。

其れを知らないと言う事はかなり遠くから来られた旅の方くらいかと思ったのです。」


(…信仰心か、これはかなりマズイ気がする…)


「なるほど…知らなかったとは言っても、無知は罪でしょうし…ね。」


「ねぇねぇ。ゼロのお兄ちゃんは、暗黒魔王(ヴェルダバーナ)さん?」

マリアが、母の背後に隠れそう聴いてきた。


「ん?ヴェルダ…バーナ?」


広場でも耳にした。野次馬の中にもそう呟く者が居たし…


「我等が光の神を滅ぼす、最凶の災厄的存在。光の対極に位置する破壊の化身とされている魔王です。」


『…』


(おや?先生の機嫌があまり良くない様な…)


「俺はヴェルダバーナじゃないけど…要するに、黒ずくめの俺はこの国では悪者って事ですね…」


その時メイドが慌ててはいってくる。俺を見るなりあからさまに嫌な物を見る眼になる。

それもつかの間用件を思い出したメイドは、


「奥様、大変でございます!」


「どうしたの?そんなに慌てて、王国衛士隊の方々が来られたのかしら?」

慌てた風もなくそう答えるティエラさん。


「その通りです!そこのお客様を引き渡すようにと、すごい剣幕で…」


(…ティエラさんって何者なんだろう…洞察力と言い、状況把握能力も凄いし…)


「あらあら、それは困りましたね…致し方ありませんわね、早々にお引取り願いましょうか。」

そう言うなり、臆する事もなく静かに踵を返す扉を出て行こうとしていた。


(…どうやら超が付く有力者かもな…)


「ティエラさん。」

俺は彼女を呼び止めた。


「どうかなさいましたか?ゼロ様。」

優しく微笑み此方へ振り返る。


「紅茶美味しかったです。これ以上迷惑はかけれません。」

俺はそれだけを口にして、衛士隊の居る店先へ歩いて行く。


「ゼロお兄ちゃん…」


マリアが心配そうにティエラさんのスカートを握りながらこちらをみているのが背中越しにわかる。

俺は、無言で右手をあげてみせる。


「御武運を!」


優しい言葉が、俺の背中を優しく押してくれた。



色々な世界観を盛り込み過ぎたかもしれません(汗)

次回からはもう少し気をつけるっす。


少し修正入れました。


サブタイトルも変更します。

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