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迷宮宝箱設置人 ~マナを循環させし者~  作者:


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獣は獣道を行かん④

「――ん? なに、急に……」


 レザは驚いた顔をして、警戒するのが馬鹿らしくなったのか曲げていた膝を伸ばす。


 ハイアルムが小さく笑みを浮かべクランベルがぎょっとしているなか、クロートは続けた。


「俺は『ノーティティア』だから、お前に話せない情報が多すぎる。……でも、一緒に【ネスメイラ迷宮】に行くんだろ? なら、やっぱり話しておきたい。だから『ノーティティア』に来いよ。ハイアルム、いいよな?」


 ハイアルムは右手をぱたぱたと二度振って、面白そうに金色の双眸を細める。


「レザにその覚悟があれば、例外として今回のみクロートと同じ階級の情報をくれてやろう。――ただし、もし『なにかあった』場合、クロートよ。責任は取れるのだの?」


 ――レザが詳細を知ってから拒否した場合、処刑しろってことだ。


 クロートはごくりと息を呑み、眉を寄せているレザをまじまじと見詰めた。


 レザはなにも知らないがゆえに、いまの状況がどれほど異様なのかわからないだろう。


 それでもこいつは一緒に来る……と。クロートはそう願う。


 ――レザの命を狩るなんてこと絶対にしたくない。……でも、レザならきっと。


 ぎゅっと唇を噛み、クロートは頷いた。


「それくらいの覚悟がないと声なんてかけないさ。……レザ、とにかく俺たち『ノーティティア』は情報を漏らせない。情報を渡した結果、お前が拒否するなら――お前は敵だ。……どうしたい」


 クロートが言い切ると、レザはへらっと笑顔を見せて肩をすくめた。

 

「――仕方ないなー。俺、あんたのこと補助するよう指示されたから聞いてあげてもいいよー? ただ『アルテミ』を抜けるわけにはいかないけどね。……どうせ敵になっても、俺は負けないしー」


 瞬間、こぼれんばかりに目を見開いたクランベルがピンク髪が乱れるほど首を振って驚愕の声を上げる。


「ま、待ちなさいクロート、レザも! ……ハイアルム様、いくらレリルのためとはいえ……そんな簡単に情報を! レザはいいこですけど『アルテミ』なんですよ⁉」


 確かにレザは『アルテミ』の一員であり、『アルテミ』は法の下に人を裁くことができる唯一の組織だ。


 クロートたち『ノーティティア』がなにをしているか知ったとき、それを裁く可能性があるとクランベルは言いたいのかもしれない。


 ――そのときはそのときだ。そうなったら、俺がレザを――。 


 クロートは静かに心を決した。


 ハイアルムはそのやり取りの間も笑みを絶やすことなく、長く勤めている【監視人】へと視線を移す。


「クランベル。……お主の考えはわからぬでもない。だが、複数の組織に所属する者もいるのが現実だ。であれば、妾はクロートが選んだ者に文句はない。――まあ、ちと早すぎるがの」


 彼女はそう言うと、敵意を隠そうともしていないレザへと目を向けた。


「いまは時間が惜しかろう。……レザよ、先に祝福を授けよう。――クロート、説明はお主がするとよい。しくじるなよ」


 彼女は白い指先をレザに向け、すっと息を吸う。


「……ッ!」


 瞬間、レザがびくりと体を跳ねさせた。


 ハイアルムが面白そうに目を細める。


「――ほう、祝福を認識したか? ふむ、なかなか見込みある人材よの。さあ【迷宮宝箱ダンジョントレジャー設置人クリエイター】たちよ、己の【監視人】を追うがよいぞ」


「……祝福ってなに。【迷宮宝箱ダンジョントレジャー設置人クリエイター】? 痛ッ!」


 呟いたレザの背中をクロートがばしりと叩いたのはそのときだ。


「行くぞレザ! クランベル、【ネスメイラ迷宮】の情報出して! ハイアルムはそこのケーキ食っていいぞ! ほら早く!」


「ああもう……! わかったわよ! クロート、レザ、いい? 【ムルシアタンの迷宮】にレリルがいるなら私が必ず連れ戻す。でも【ネスメイラ迷宮】にいるなら――あの子をお願い」


「当たり前だろ! 任せとけ!」

「なーんかよくわからないけど、任せてよー」


 ハイアルムはばたばたと騒がしく飛び出していった三人を見送り、ひとりテーブルに着くと堪えきれずにふふっと頬を緩める。


「――これだけ必要とされておるのに馬鹿な娘よの。……さて、どっちに転ぶか――」


 ……言いながら小振りの唇に運んだ口溶けのよいクリームに、ハイアルムはもう一度、くすりと笑った。


「ああ、甘いの――」


******


【ネスメイラ迷宮】


 たどり着いたとき、アルカがレリルに教えたのがその名だ。


 出発からはすでに十日が経ち、テントゥラス――十の月へと入っていたが、その間アルカはほとんど休憩を取らずに移動を続けていた。


 ときには近道だと言って道なき道を進んだため、目的地にはかなり早く到着したに違いない。


 ……その迷宮は広大な森の中心に穿たれた巨大な『穴』だった。


 どのように掘ったのかは不明だが、闇に呑まれて底が見えないほどに深く――穴の壁面を這うように螺旋階段が下へ下へと続いている人工迷宮である。


 風が轟々と渦を巻き、穴の周囲にせり出した木々の枝葉がざわざわと不穏な音を響かせる迷宮に、レリルは知らず息を詰めていた。


 壁面には階段以外にボコボコと繭のようなものが散見され、ケーン、ケーンと鳴き交わす巨大な怪鳥が穴の中に何羽も飛んでいるのが見える。


 ――あの繭みたいなものが巣になってるのかも。


 螺旋階段での戦闘は避けられないだろうと、レリルは詰めていた息を短く吐き出して身構えた。


「深そうだなぁこりゃ。……レリル、行けそうか?」 


 アルカはちらりと穴を覗き込むと首をすくめてみせる。


 レリルは頷くと、手を前に出した。


「――収束」


「!」


 飛んでいる敵が相手ならアルカの弓がある。


 それなら自分は盾になろうと、レリルは近接用の短剣と盾を手に取った。


「さすが――『特別』だな」


 アルカの口元に笑みが浮かび、鋭い犬歯が覗く。


「え?」


 聞き返したレリルに応えず、アルカはさっとあたりを見回すと「出発しよう」と口にする。


「この下で目当ての『核』を持つ魔物を倒すんだ。レリル、話してないことも、ここで教えてやるよ! さあ」


「――うん」


 ……レリルは再び頷くと、螺旋階段への最初の一歩を踏み出した。


迷宮に来ました。

本日分です。

いつもありがとうございます!

引き続きよろしくお願いします。

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