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迷宮宝箱設置人 ~マナを循環させし者~  作者:


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82/203

暗き地よりいたれりは⑧

******


 クロートとレザは先行して廊下に出ると、階段にいるらしいファンブリールに聞こえるよう足音を立てながら走り出した。


 ファンブリールはすぐに反応して、階段の手摺りに体をぶつけながら上ってくると廊下をずんずん進む。


 歩くよりは少し速い、といったところか……。


 レリルは廊下の角からファンブリールを確認すると自分の後方――さらに奥まで進んでいたクロートたちに、ファンブリールが来たことを手を上げて報せた。


 そして自分は息を殺し、部屋の扉の内側に身を隠す。


「来たぞレザ!」


「やっはぁ! 狩りだ狩りだー!」


 クロートとレザの声が聞こえ、ファンブリールが重い腕を引きずりながら部屋の前を行き過ぎる。


 ズーッ、ガリゴリ……


 床を擦りながら鉄球がレリルの前を通っていく。


 レリルは心臓がどくどくと脈打つのを感じ、口を引き結び、呼吸音さえもこぼれないようじっと耐えた。


 クロートの作戦は、廊下――一周で四辺あることになる――の端からクロートとレザがファンブリールをおびき寄せ、後ろからレリルが矢を射るというもの。


 つまり魔物が廊下の中央あたりまできたら、その背に矢を射るのがレリルのやることだ。


 彼女はファンブリールが完全に通り過ぎると、そろそろと廊下に出た。


 ――大丈夫、これなら。


 黒いゴムのような巨躯はクロートとレザの声を頼りに、できうるかぎりの速度で進んでいく。


 廊下の幅とファンブリールの幅は同じくらいで、すれ違うのは危険かもしれない。


「――行くぞ、レリル!」


 そのとき、クロートの声が響いた。


 レリルは両足を安定した場所にしっかりと下ろし、弓を引き絞る。


 するすると描かれるマナの矢は淡く光を纏っていて、一撃目が尾を引きながらシュッと空気を切り裂きファンブリールの背中に突き立った。


『――』


 ファンブリールが低い唸り声のようなものを上げて、傾ぐ。


「やーっ、はァーッ!」


「馬鹿! レザっ、飛び出すな!」


 瞬間、レリルからはよく見えないファンブリールの向こう側で声が発せられる。


 ファンブリールの腕が瞬時にうねりを上げ、鉄球が廊下の壁を抉りながら跳ねた。


「……っ!」


 レリルは立て続けに矢を放ち、少しでもファンブリールの行動を阻害するべく動く。


 二本、三本――矢が、ファンブリールの丸々とした黒い体に突き立っていく。


『――』


 ガガガッ


 大きな音を響かせファンブリールの鉄球が壁を打つと、館全体がぶるりと震える。


 じりじりとクロートたちとの距離を詰めていくファンブリールに、クロートとレザは身を翻した。


「下がるぞ! レザ!」


「女の子ー、いい感じだよー!」


 レリルからはふたりの姿は見え隠れする程度だが、彼らの頼もしい言葉に小さく安堵の吐息をもらす。


 ファンブリールはレリルに気付かずにじりじりと進むと、突き当たりにズンとぶち当たってから角を折れた。


 ――それにしても、すごい力……。


 レリルはそろそろと後を追いながら、壁に走るひびを見遣る。


 何周かかるかわからないが、時間をかけすぎればこの館が崩壊するんじゃないかと思えた。


 ――私の後ろにはボブゴブリンたちがいるんだ。


 手にする弓を見て、彼女はぐっと腹に力を入れ心のなかで自分を叱咤した。


 ――私がやるんだ。もっと……もっと、強く……!


 そうして彼女が角からそっと覗き込むと、鉄球ごとファンブリールの腕が振り抜かれるところだった。


 凄まじい衝撃に壁がぼろりと崩れるが、クロートとレザはずっと先にいるため届かないようだ。


「やれるもんならやってみろ!」


「あのさー、攻撃していいー?」


「馬鹿言うな! 危険は徹底的に避けること、絶対守れよ!」


「ちぇー」


 気の抜けるような会話をしているふたりの声が聞こえ、レリルはすっと息を吸い込むと角から出て再び矢を射た。


 まるでハリネズミのようなファンブリールの背――それでも動き続ける巨躯に、焦りを抱かないわけではない。


 ――でも絶対諦めない!


 レリルは腹の底に力を入れて次の矢をするすると描き出した……が。


『――――ッ』


 キンッと。


 耳の奥、どこか深い場所で甲高い音が弾けたような気がした。


 ぐらりと視界が揺らぎ、がくりと膝を突いた自分に、レリルは息をすることも忘れて固まる。


 衝撃でガツンと音が立ち、ファンブリールがぴくりと反応した――ばれたのだ。


「……ッ、レリル⁉」


 クロートの声はちゃんと聞こえていたけれど、激しい目眩が強烈な吐き気を伴って襲いかかってくる。

 

 ――え……なにが起きたの……?


 ファンブリールの唸り声によるものなのか、それともマナ術なのか、レリルにはわからなかった。


『ギャギャーッ!』


 そのとき。


 彼女の傍らを小さな魔物たちが駆け抜けた。


 言うまでもない、それはホブゴブリンたちで。


 ――だ、駄目……!


 レリルは咄嗟に声を出したつもりだが、掠れて音にならない。


 手を伸ばして駆け抜ける影を掴もうとするが、距離が定まらない。


 黒い巨躯が、わめき立てるホブゴブリンたちに向けて鉄球を繰り出すそのさまが――レリルにははっきりと見えた。


 それは、瞬きひとつの出来事で。


 レリルには、わかっていた。


 ――私を、守ろうとしてる――!


「駄目ぇ――ッ!」


 今度は声が出た。


 目眩が嘘のように消え、レリルは膝を突いたまま咄嗟に弓を引く。


 しかし彼女の目の前で、三体のホブゴブリンが壁と鉄球にズドンと挟まれ――弾けた。


「くそ、レザ!」


「やーっ、はァーッ!」


 ファンブリールの向こう側、クロートとレザが駆け寄ってきて攻撃を仕掛ける。


 同時にレリルの放った矢はファンブリールの足に突き立ち、魔物がぶるりと震えた。


『ギャギャ!』


『ギャーッ』


 そこで残りのホブゴブリンたちが、わめき散らしながらファンブリールに飛び掛かる。


 ある者は噛み付き、ある者は剣を突き立て、ある者は鉤爪のようなものを振るう。


 しかしファンブリールは壁に体当たりを始め、次々にホブゴブリンたちを押し潰し――飛散した肉片が床に落ちる前にマナへと変わっていく――腕を波打たせた。


 とうとう鉄球が跳ね上がり、レリルへと向かってくる。


「……ッ!」


 けれどレリルは瞬きひとつせずに、ファンブリールの頭が下がった瞬間に次の矢を放った。



日曜ですが投稿です!

よろしくお願いします!

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