それは絶対の覇者たるか⑤
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午後はガルムと模擬戦の予定だったが、レザが当然のように――しかもアルを伴って――やって来た。
場所は昨日と同じく『ノーティティア』の屋上なのだが、今日は『ノーティティア』の職員は誰も付いていない。
「おいおい……ザルな警備しやがって……」
ガルムはぼやいたが、すぐに気を取り直した――実際は諦めただけかもしれない――ようだ。
アルはレリルの様子を見て、黙って頷いてみせる。
レリルは笑顔で返すと、クロートとレザと一緒に模擬戦に参加した。
◇◇◇
「やーッはァーッ!」
「はっ!」
レザが飛び掛かる真横、クロートが長剣を滑らせる。
攻撃をいなしたガルムの前、さっと左右に分かれたふたりの間から突如レリルの盾が突き出された。
「……ッうぉ!?」
ガツンッ、と盾が大剣にぶつかると、体勢を整えたクロートとレザの剣が左右からガルムに襲い掛かる。
「ちぃッ」
ガルムは舌打ちをしながら、大きく後方に跳ぶと、眉間に深い皺を寄せた。
「……レリル、いい一撃だな。いまのは効いたぞ」
「! 本当ですか?」
ぱっと頬を綻ばせたレリルに、レザが笑う。
「ほらね、女の子! 俺たち一緒のほうがいいんだって!」
「う、うん! ありがとうレザ」
そこで、クロートはふたりの様子に首を傾げた。
――あれ? あいつらあんなに話してたっけ。
レザが人を狩ると簡単に言ってのけたとき、レリルは盛大に噛み付く寸前だったはずだ。
いまのふたりの間にそのときの空気は微塵もなく、クロートはそれが不思議だった。
「よし、ちと休憩だー」
ガルムはそう言うと、大剣を下ろす。
「あれー? 俺、もっとやれるんだけどなー! なあ、あんた、ちょっと遊ぼうよ!」
「えぇ……俺も休憩するよ……」
目をきらきらさせたレザに、クロートは首を振る。
レリルがふたりを見て楽しそうに笑った。
吹き抜ける風は今日も心地よく、白い大きな雲がゆったりと流れる空は青い。
……それは束の間の、平穏な時間だった。
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【ダルアークの迷宮】
自然迷宮であるそこは、黒龍が棲まうにふさわしい巨大な洞窟だ。
切り立った鋭い岩が身を寄せ合うように突き立つ山の中腹、巨大な岩の下に大きく口を開けており、ごうごうと風が唸りを上げて吹き抜けていく。
「準備はいいな」
「おー!」
「あぁ」
「大丈夫です」
アルの号令に、レザ、クロート、レリルが応える。
彼らの後ろには『アルテミ』の面々が眼を光らせながら並んでおり、神経を研ぎ澄ませていた。
最深部の龍は、つい最近、かなりの人数を集めたうえで討伐されている。
それは『ノーティティア』にとっても大きな情報……つまり売り物であり詳細を知るには相応の対価が必要となるが、ガルムはハイアルムからその一部を特別に聞いていたらしい。
……クロートは出発前にガルムから聞いた話を思い返す。
『やったのはギルド連合らしい。どの組織が龍の核を持っているかはわからねぇが、奴ら、相当な犠牲を出したみてぇだ』
多くの組織があるなかで、組織同士が手を組む場合がある。
契約を交わし、お互いの情報と人脈を様々な思惑のなかで提供しあう――それが、ギルド連合だ。
今回は複数の組織が――おそらくはかなりの規模で――戦力を出し合ったものと思われ、そうやって手にした核がどうなったのか『ノーティティア』は動向を見守っているという。
龍の核ともなれば国ひとつを動かす価値があるとされているうえに、凄まじい力を秘めている。
手にした組織が著しく成長することも考えられた。
とはいえ……今回の目的は『イミティオ』討伐だ。
そして、あわよくば宝箱を設置してこいとクロートはガルムから課せられている。
そのため、黒龍の核をめぐる情報はクロートにとって興味はあれど必要のないものであった。
「――行くぞ」
アルは『ルクス』――核を燃料にあたりを照らす道具だ――に光を灯し、洞窟内を照らす。
ゴツゴツとした岩肌が顕わになり、奥へ奥へと影を落とした。
クロートは意識を引き戻すと、ふーっと細く息を吐き出して感覚を研ぎ澄ませる。
集団で迷宮に挑むのは初めてのことで胸が高鳴るのを抑えられずにいたが、決して嫌な感覚ではない。
「お前たちは真ん中だ、足下に気を付けろよ」
「集中しろ、でも気負わないでいいからな!」
その間ずっと行動をともにしていた『アルテミ』の面々が、それぞれ言葉をかけながらクロートとレリルの頭や肩を気軽にぽんぽんと叩いていく。
この迷宮までは、ルディア王国の王都から二週間程度。
彼らはギラギラした眼をすることはあれど、根は優しい者ばかりだった。
……こうしてクロートたちは【ダルアークの迷宮】へと踏み込んだ。
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空気は澄み、しっとりと冷たく、直接触れた肌が冷えていくのがわかる。
洞窟内は緩やかな下り坂――といっても足場は悪く、ときおり鋭い岩が突き出してもいる――が続き、クロートたちの無遠慮な足音が木霊していた。
クロートとレリルを挟むようにして、前にはアルを含めた六人、後ろに五人が歩き……レザだけは前後を自由にうろうろしている。
これが『アルテミ』の形なのだろう。
クロートは足下や岩壁の状態を確認したかったが、こう人が多いと列を乱すわけにもいかない。
ルクスの明かりは広範囲を照らすことができ視界は悪くなかったので、クロートはいつでも剣が抜けるよう身構えたままあたりを窺う。
そこで、右隣を歩くレリルが囁いた。
(クロート)
(……どうした?)
(甘ったるい臭いはしてない?)
クロートはレリルに頷いてみせ、考える。
――もし甘ったるい臭いがしたら、それはきっと……。
そのとき、レザがシャキンッと双剣を打ち鳴らして高らかに告げた。
「――来るよ!」
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