狩人たちはかくありき⑤
「レリル、左から頼む」
クロートはそう言って踏み出した。
「わかった」
レリルは応えると盾を胸の前に構え、剣をガルムに向ける。
「――はぁッ」
気合とともに振り抜かれるクロートの剣。
ガルムは真っ向からそれを受け、跳ね上げた。
そこにクロートの左側からレリルの剣が突き出され、ガルムは引き戻した剣で受け止める。
――隙ありっ!
クロートはその瞬間、跳ね上げられていた剣を振り下ろす――が。
「もう少し捻りはねぇのか?」
ガルムは左半身を引くようにしてその一撃を容易く避け、レリルの剣をくるりと絡め取るような動作でいなす。
「うぐ……ッ」
クロートは呻きながらも、すぐに剣を引くと今度は自身の右下から左上に向かって剣を斬り上げる。
ガルムは己の左――肘ほどの高さで、クロートの剣戟に上から剣を打ち合わせた。
ガツッ……!
「――ッ」
ビリビリッと痺れが腕を走り抜けたが、重心を落としたクロートはその衝撃に耐え切った。
クロートとガルムの剣が拮抗し、お互いの刃がこれ以上進まないよう鬩ぎ合っている。
「――ふっ!」
そこでレリルが再び踏み込み、ガルムはクロートの剣と拮抗していた己の剣を突然振り上げ、体を引いた。
当然クロートの剣は押さえられていた反動で跳ね上がり、踏み込むレリルが「わっ!」と声を上げ、飛び退くのを余儀なくされる。
「……ッ」
クロートは唇を白くなるほどに噛み締めて、悔しそうにガルムを見上げた。
――駄目だ。完全に読まれている。
「連携ってのはな、お互いの動きがどうなるのか見極める必要があるんだ。ただし、こうなるはず――という思い込みは命取りにしかならねぇ。あらゆる事態に備えろ」
当のガルムはそう言って、ぐるぐると右肩を回す。
わかっているからこそクロートの悔しさは募るばかりだ。
クロートは落ち着こうと思って一度目を閉じ、深呼吸した。
屋上には心地よい風が吹いている。
草花がゆらりと揺すられるたび、濃い緑の匂いが鼻を掠めていく。
――よし。
体中の疲れが洗い流されるかのような感覚に、クロートは再び剣を構える。
幼い頃から、ガルムとは何百回と剣を打ち合わせてきたのだ。
自分のやり方では、すぐになにかが変わるとは思えない。
「レリル。俺が合わせてみるから、頼む」
「――わかった」
レリルは唇の端を引き上げて、大きく頷く。
クロートが合わせると言ってくれたのが、彼女には嬉しかった。
それなら応えてみせようとやる気が湧き出てくる。
「行きます、ガルムさん!」
「よし来い」
レリルが踏み込んだところに、ガルムは手始めにと剣を振り下ろす。
彼女は左手の盾でそれを受け止め――いや、体当たりの如くもの凄い勢いでぶち当たると、身を屈めるようにして下から剣を突き入れる。
「……ほお」
ガルムは感嘆の声を上げ、身を引いた。
さすがに体当たりの威力ともなれば、瞬間的に押し切れるものではない。
すかさず走り寄っていたクロートがレリルを追い抜きざまに剣を振り下ろすところに斬り上げで応戦しようとして、ガルムは目を瞠った。
――レリルが、ガルムの剣に向かって再び盾を突き出してきたのである。
「おおっ!?」
ガインッ!
盾はガルムの剣を受け――勿論体重を載せていないために今度は弾かれた。
「……つッ!」
踏鞴を踏みながら仰け反ったレリル。
同時に、ガルムの剣の速度と威力が削がれる。
ガルムにとってその遅れは、クロートの一撃に対して致命的なもの――だったはず。
「ちぃッ!」
しかし、さすが熟練の冒険者とでもいおうか。
ガルムは身を屈めるようにして膝を突き、クロートの一撃が到達するまでの時間を稼いだ。
バチィッ!
剣と剣がぶつかり合い、耳に刺さるような激しい音が響く。
「……いってぇ!」
クロートは己の両手をぶんぶんと振った。
彼の剣は少し離れた場所にガツンと落ちる。
……ガルムの剣が弾き飛ばしたのだ。
「……ッ!」
ガルムは一瞬クロートの様子に意識を向けてしまい、視界の端に捉えた『彼女』――好機とみて、攻撃を仕掛けようとしていたのだ――に、無意識に体を反応させてしまった。
くぐり抜けてきた修羅場の数が経験として積み重なり、それが無意識下の生存本能を呼び覚まして『斬れ』と命令を下したのである。
ガルムは振り上げていた剣を横薙ぎに滑らせ、レリルの右の脇腹を――。
――しまった!
ガルムは自分の愚行をなんとかしようと足の裏を床にぎゅっと押し付けて剣を引こうとする。
……そこに加減なんてものは、ありはしない。
このままでは、レリルに強烈な一撃を見舞ってしまう。
そのとき。
「やーっはぁーッ!」
「……うおおッ⁉」
飛び込んできたのは、小柄な少年だった。
クロートに負けないほどの俊敏な動作で、少年――レザは双剣をガルムの剣に叩きつけ、一気に斬り払う。
模擬戦用の武器とは丸っきり手応えの違う一撃は、ガルムの木刀をいとも簡単に真っ二つにしてしまった。
「ぷっはぁー! 楽しそうなことしてるね女の子! 俺も交ぜてよー!」
彼は明るく言い放って体勢を整えると、双剣――間違いなく本物の刃である――をシャンシャンと打ち鳴らす。
「……れ、レザ……?」
自分がどれほど危うい状況だったか理解しているのか、していないのか――レリルがぽかんとした顔で聞き返すと、レザはますます破顔した。
「ん、へへ! 女の子、やっと俺の名前呼んだね!」
彼はふわふわした金色の髪を揺らし、クロートやガルムと似た翠色のぱっちりした猫目を瞬かせた。
クロートは自分が息を詰めていたことに気付き、はーっと大きく吐き出す。
――たぶん父さんの攻撃は無意識だった――いまのが、レリルに当たってたら……。
そう思って、彼は自分の心臓がぎゅっとするのを感じる。
ガルムはといえば、クロートと同じようにはーっと息を吐き出していた。
「――とりあえず。……なんでここにいるんだ、お前?」
クロートが聞くと、レザは器用に双剣をくるくるっと回して鞘に収め、ぽんと手を打った。
「あ、そうそう。『祈祷祭』行こう! 誘いに来たんだー!」
「……は、はぁ?」
思わず顔をしかめたクロートに、レザは歯を見せてへらっと笑った。
昨日更新できてなかったので!
やーっはー!です!
よろしくお願いします。




