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迷宮宝箱設置人 ~マナを循環させし者~  作者:


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41/203

組織にとってはこともなし①

******


 空はすでに薄らと明け始めていた。


 ようやく【シュテルンホルン迷宮】を抜けたクロートは、なんとなく弛緩した気がする空気に、緊張していた肩をぐるりと回す。


 まだ草花も微睡んでいるようで、そこにあるのは静かな平穏であった。


 迷宮は目と鼻の先に存在し、いままさにマナレイド――マナの異常な増加――が起きているというのに……である。


 やはり迷宮は決して優しくなどない。


 見返りが大きい分、強大な危険を孕んでいるのだと……クロートは再確認し、肝に銘じた。


「……長い夜だったね……」


 レリルがほっとしたような顔で伸びをする。


 ガルムは水筒を取り出すと中身をがぶりと呑み込んでから言った。


「お前らも水分摂っておけ。思った以上に消耗してるはずだからな」


「わかった」

「わかりました」


 確かに、体は思ったよりも疲れているようだ。


 クロートは突然感じ始めた四肢の怠さに、水を飲んでからふーっとため息を付いた。


 喉を通り体内に染みていく水が、彼にたまった疲れを流していく。


 どこかでひと息入れて、食事もしたいところである。


「少し先に水場がある。そこで休むからもうひと踏ん張りしろー」 


 ガルムはそんなクロートの考えを読み当てたのか、苦笑した。


 クロートは頷いて、ガルムに視線を向ける。 


「わかったけど……なあ、ただ歩くのもなんだから、そろそろ聞かせてよ父さん」


「ん、ああ、そうだな。……さぁて、とはいえなにから話したもんかね」


 ガルムはガシガシと頭を掻くと、歩きながら話し始めた。


◇◇◇


 ハイアルムからの書状には『イミティオ』のことが書いてあった。


 お前らが【アルフレイムの迷宮】に行っていたことは肩の治療中に当然聞いていたんだが……本当に『イミティオ』に遭遇するとはさすがに思っていなくてな。


 知ってるかわからねぇが『イミティオ』についての情報は【迷宮宝箱設置人】の三級になると解禁される。


 この情報は巷に流れているようなもんじゃねえ、もっと核心の話だ。


 お前が知りたいと思っていることはそのときにわかる。


 言っておくが冒険者の大半は『イミティオ』の存在自体を知らねぇし――そもそも『イミティオ』に遭遇した奴は『ノーティティア』にもほとんどいねぇ。


 だから、ほかで情報を探してもそうそう出てこねぇとは思うぞ。


 あぁ、俺か? 俺は――まあ、遭遇したことはある。あー、戦ったわけじゃねぇんだが。


 で。ハイアルムの書状にも書いてあったが、お前らが知りたいことにアーケイン……モウリスって名乗ってんのか? あいつのこともあるんだろ?


 ――なんつーんだ、あいつは『失踪』しちまってた昔の……そう、仕事仲間っつーか……いや、面倒臭ぇな。


 あいつは【迷宮宝箱ダンジョントレジャー設置人クリエイター】だ。


 まあ、いい大人だから心配なんぞしてなかったんだが……【アルフレイムの迷宮】にも【シュテルンホルン迷宮】にもアーケインがいたとなると――ちと気に掛かる。


 ……悪いがその気掛かりの内容はまだお前たちに話せねぇ。


 だから情報を少しやる。よく聞け。


 いいか、六級に上がると『ほかの【迷宮宝箱ダンジョントレジャー設置人クリエイター】の物語が読める』ようになる。


 そこでアーケインの物語を探せ。


 あいつと【監視人】が見てきたもの、経験してきたこと、それを読んでいきゃ自ずと見えるもんもあるだろうからな。


◇◇◇


 ガルムはそこまで言うと、はーっと息を吐き出した。


 クロートは続きを待っていたが、待てど暮らせどガルムはなにも話さない。


「……え? 終わり?」


 まさかと思って聞いてみると、ガルムは大きな体を揺らして頷いた。


「終わりだ」


「ええ? 本当にそれだけ? なんの解決にもなってないよな?」


「解決もなにも、問題にすらなってねぇだろ」


「いやいやいや、だってさ、モウリスが言ってたんだぞ。『やり方が違っても目的は同じ』って。それどういう意味? 俺たちのやり方って……宝箱を設置すること? じゃあモウリスはどんなやり方でなにしてるんだよ。父さんは知ってるんだろ?」


「……落ち着け。お前、自分が【迷宮宝箱ダンジョントレジャー設置人クリエイター】だって名乗ったのか?」


「名乗るわけないだろ――あ、そっか」


「だろ? 俺に会ったから、あいつはお前らが【迷宮宝箱ダンジョントレジャー設置人クリエイター】だって気付いた。だからその前に言ったことなんてなんの意味も持たねぇよ」


「……いや、でも」


 クロートは口を尖らせた。


 ――でも、なんとなく腑に落ちない。モウリスは俺が【迷宮宝箱ダンジョントレジャー設置人クリエイター】だって気付いていたんじゃないかな。


 クロートはそう思っていた。


 ――なにか切っ掛けがあったんじゃないかな、俺がそうだって気付くような。


 もやもやする気持は形容しがたく、肺をぎゅーっと掴むような息苦しさをクロートに与える。


「――私、仕事で来たって言っちゃったかもしれません」


 そのとき、ずっと黙っていたレリルがぽつんとこぼした。


「普通なら、攻略しに来たって言うはずで……前の迷宮で会ってますから、『アルテミ』じゃないこともわかったはず」


 クロートははっとして顔を上げ、彼女がこめかみのあたりをぐりぐりしながら唸るのを見つめる。


「ええと……それでモウリスさんから、無法者のことをわかっていてきたんだなって確認されて……」


 そこまで聞いて、クロートは小さく息を呑んだ。


「そっか、そのときなら予想できたかもしれないな。……だとしたらあいつ、俺が【迷宮宝箱ダンジョントレジャー設置人クリエイター】だって気付いたからあんなに喋ったのかな……」


「ったく、アーケインめ……余計なことを」


 ガルムはふたりの話を聞くと肩を竦め、諦めたように首を振った。



 

16日分です!

よろしくお願いします!

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