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迷宮宝箱設置人 ~マナを循環させし者~  作者:


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白薔薇は麗しきかな⑦

******


 書状を読み終えたガルムは難しい顔をして黙り込んでしまった。


 ただ――移動だけは始めたので、クロートとレリルも黙って付いていく。


 上には『アルテミ』とモウリスがいるはずだが、なんの音も聞こえない。


 静まり返った塔の中、クロートたちの足音だけがこだましている。


 やがて二階に下りる階段に差し掛かり……クロートは足を止めた。


「父さん」


「――なんだ」


 先を歩いていたガルムが立ち止まる。


「二階で無法者が……レイスに……その」


「ああ――ちょっと待ってろ」


 ガルムは言いにくそうにしたクロートに頷くと、ひとりで様子を見に行ってしまった。


「……書状、なんて書いてあったんだろうね」


 それを見送ったレリルがぽつんとこぼす。


 無法者とはいえ、この先で起こったはずの出来事にレリルは胸を痛めているに違いない。


 彼女の性格を考えれば想像に難くなかった。


 なんとか気を紛らわそうとしている様子に、クロートは頷いてみせる。


「そうだな。帰りに聞いてみよう、なにがあったかも……全部」


「――うん。『アルテミ』の狩りはなかった……だけどマナレイドが起こったから……ガルムさんは塔に入ったのかも」


 レリルはそう応えて、は……と息を吐いた。


「白い薔薇、好きなんだよね私。『ノーティティア』の中庭にも咲くの。……だから今回の核はすごく綺麗だと思ったけど……拾うのは少しだけ躊躇っちゃった。でもそれは――間違ってるよね。私たちは魔物を狩って、その核をいろんなことに使って生きてるんだもの」


 クロートはそれを聞くと、袋から白薔薇の形の核をひとつ取り出して手のひらに転がした。


「……マナを狩り、マナを消費し、人は生活を営む。マナを循環させるのに必要なことだってモウリスが言ってたよな。……人がマナを乱したとも」


「うん。……核のために狩られるマナの生命体たちも……理由なく殺されているって話もしてたね」


 応えるレリルは表情を曇らせる。


 クロートはそれを見て、白薔薇の核をきゅっと握り締めた。


「でも、モウリスはやり方が違っても目的は同じって言ってたよな。――父さんならきっと意味がわかるんじゃないかな」


「あいつ、そんな話しやがったのか」


「うわっ! 驚かさないでくれよ父さん」


 そこにガルムが戻ってきたので、クロートは危うく核を取り落としそうになった。


 等間隔に設置され燃えている松明に、ガルムの影が揺らめいている。


 ガルムは濡羽色の短髪をガシガシすると、右手で肩越しに後ろ――二階を指さした。


「仕方ねぇが『喰われちまった』あとだった。……『アルテミ』もそれで気付かなかったんだろうな。――クロート、お前まだ宝箱設置してねぇよな?」


「え? 宝箱?」


「どっかで設置しろ。ハイアルムからの指示だ」


「は? ……どういう……」


「帰りに説明してやる。夜明けまではまだあるが、まずは宝箱設置して【シュテルンホルン迷宮】を脱出するぞ。マナレイドの真っ只中で休むなんざ考えられねぇ」


 ガルムはそう言うと、さっさと踵を返す。


 わけがわからないが、クロートは【シュテルンホルン迷宮】から脱出するのは賛成だった。


 彼は不安そうなレリルに肩を竦めてみせ、ガルムの後ろを歩き出した。


******


「……『創造クリエイト』ッ!」


 クロートの手のひらに集まったマナが光となって弾け、そこには宝箱がひとつ設置されていた。


 ここは【シュテルンホルン迷宮】の塔から少しだけ入口方面へと移動した大きな建物の中だ。


 途中、黒い獣型の魔物『グールバイト』を数匹屠ったが魔物との遭遇はそれだけ。


 ガルムは塔を出ると、迷わずこの建物へクロートとレリルを連れて来たのである。


 例えるなら聖堂。


 なにかを奉っていたような祭壇らしき石の台があり、あたりは苔生してジメジメした空気が満ちていた。


 いまは朽ち果てて一部が崩落しているが、かなり高い天井だったのがわかる。


 ガルムはあたりに人影がないことをしっかり確認すると、クロートに向かって頷いた。


「少しはマシな形になったじゃねぇか」


「これでもかなり大変な経験してきたからな!」


 ふふんと笑うクロートに、ガルムは少し落ち着いたのかようやく頬を緩めた。


「馬鹿言ってんじゃねぇよ、駆け出しのくせに」


「でもガルムさん、クロート飛び級してもう七級なんですよ。今回も特例とはいえ、六級相当の人工迷宮に来たわけだから……次は絶対に六級以上です」


 こちらもいくぶん気を取り直したようなレリルが言うと、ガルムは彼女の頭をわしわしした。


「すまねぇな、こいつが迷惑かけたんだろ? なんかあればまた頬を引っぱたいてやってくれ。頼んだぞ」


「! あ、あれはですね……」


 慌てたレリルは視線を泳がせたが、なんとなくガルムの言葉が引っかかって尻つぼみになってしまう。


 ――頼んだぞ……って、ガルムさん、一緒に引っぱたけばいいのに……。


 その思考は多少物騒ではあったが、レリルはそこで考えるのをやめてガルムからの話を待つことにした。


 ハイアルムの書状のことがある。きっと、ガルムはなにか思うことがあるのだろう。


「なんだよふたりして。もう大丈夫だよっ……それよりほら、早く出よう。レイスが『リスポーン』したら最悪だし」


 クロートは盛大に不満の声を上げると、ちらと宝箱を確認してから歩き出す。


 ――今回、彼が思い描いたのは麗しき白薔薇だ。


 きっと宝箱の中には、白い薔薇を模した宝石が入っている。


 それは、ここを訪れ命を落とした者たちへの……クロートなりの手向けであった。




本日分です。

いつもありがとうございます!


白薔薇、好きなんですよね。

もともとは『白バラコーヒー』が好きだったからなんですけど。


逆鱗のハルトという私の別の作品でもたびたび出ています。


よかったらそちらもお願いします!

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