白薔薇は麗しきかな⑤
レリルは先ほどマナ術によって弾き飛ばされている。
そのため、受け止めればかなりの衝撃であるということはわかっていた。
反対にマナ術を弾き飛ばすにしても、受け方が悪ければ右腕に負った傷のように血を見ることになるだろう。
彼女がモウリスの横に並ぶ瞬間、『白薔薇の女王』がマナ術を放つ。
レリルはしっかりと盾を構えると、腹の底に力を入れてマナ術へと体当たりするような勢いで突っ込んだ。
黒い雷が小型の盾にぶち当たり、それでも押し戻される体に思わず踏鞴を踏むがすでに次のマナ術が迫っている。
「――うぅっ、く!」
バチバチッ!
二撃、三撃。
なんとか魔装具で受け止めるが、上半身がぐらりと傾いで――とうとう大きく体勢が崩れたところに四撃目が迫る。
「……ッ」
レリルがしまった、と思ったところに、黒いブレストプレートが割って入った。
「腰を落とせ。ぶつかる瞬間に体を押し出す――こうだ」
バチイィッ!
爆ぜるような音は耳をつんざくほどだが、黒い雷は霧散して消え失せる。
モウリスの巨躯を考えればあえてそんなことはしなくてもいいのだろうが――案外面倒見がいいのかもしれない。
レリルは歯を食い縛って、すぐに盾を構え直した。
「やってみます」
それをちらちらと確認しながら、クロートは手を上げた『白薔薇の女王』に詰め寄り胴体を貫く。
クロートの長剣では一撃とはいかないが、体をくの字に折り曲げた『白薔薇の女王』を容赦なく斬り払い、二撃目で仕留めた。
もう一度マナ術を弾くことに挑戦してもよかったが、さすがにここで無様な姿は見せたくない。
「――やぁっ!」
立ち回るクロートには目もくれずにマナ術を受け止め、そのまま進んだレリルは右手の剣で『白薔薇の女王』の手のひらを突き刺し、薙ぎ払った。
蒼白い腕が裂け、絶叫する『白薔薇の女王』。
レリルはぎゅっと表情を歪めた。
――どうして可哀想だなんて思うのかな。
その疑問に答えてくれる人はいない。もしいたとしても、彼女は止まらなかった。
「はあぁっ!」
気合いを吐き出しながら、もう一度剣を突き込む。
ぽっかりと空いた眼孔の奥へと刃がずぶりと埋まり、リッチは核となって彼女の足下に転がった。
******
いつの間にか甘ったるい臭いは感じなくなっていた。
見回せば、所々に白い核が落ちているだけ。
白いドレスのような布地を揺らめかせる魔物はどこにも見当たらない。
「……終わった……?」
思わずこぼした声が思いのほか間抜けな感じだったので、クロートはこほんと咳払いを挟む。
「――はっ、さすがに疲れたな!」
安全を確認したガルムはようやく巨剣を背負い直し、酷い有様の部屋を見てふーっとため息を付いた。
「クロート、レリル。核、拾っとけ」
ガルムはすっかり気の抜けたクロートたちを見ると、そう言う。
「あ、うん」
「はい! ――わ、クロート見て。この核……すごい」
一足先に核へと手を伸ばしたレリルが驚きの声を上げた。
クロートは自分の足下に転がった核をひとつ摘まんでみる。
それは、薔薇だ。
通常の『薔薇の女王』であれば薔薇の形をした黒い核が落ちるのだが――違う。
美しく艶めくその核は……『白薔薇』であった。
親指ほどの大きさの核は、なるほど、装飾品にも使いやすいだろう。
「綺麗……」
ため息が出そうな美しさにレリルは呟いたが、それが『白薔薇の女王』の核だと思い出して、少しだけ躊躇いが生まれる。
「――これ、マナ治療薬にもなるんだろ?」
それを、クロートの言葉がぶつりと断ち切った。
「そうだな。白色なんて滅多にねぇぞ、かなり高価になるはずだ」
応えたガルムに、クロートは「おお!」と歓声を上げ、せっせと核を拾い集める。
立ち尽くしていたレリルは、そんなクロートと目が合って我に返った。
「どうした?」
「あ、ううん。そっか……これ、治療薬にもなるんだね」
クロートの言葉を反芻して、レリルは拾った核を手のひらの上で転がす。
繊細な白い花片が幾重にもなり、凛とした薔薇。
「…………」
レリルは黙ってほかの核も集め始めた。
命を奪おうとする魔物の核が誰かの助けにもなるなんて……皮肉なものだ。
だけど自分たちには必要なんだ……彼女はそう思ったのである。
……そして、ふたりがあらかた核を集め終えたところで、ようやくガルムが話を元に――だいぶ経っているが――戻した。
「で、お前らなんでここにいる」
「……あ、そうでしたね……」
レリルがぽつんと零すと、その近くにいたモウリスが右の太腿に装着された鞘のようなものに武器を収め、踵を返す。
まるで彼らが核を集め終えるのを待っていたかのようであり、レリルはぺこりと頭を下げた。
彼が向かう先は部屋の奥。ガルムが『白薔薇の女王』とともに床をぶち抜いてきた【シュテルンホルン迷宮 塔五階】へと続く上り階段だ。
「――なんだ、挨拶もなしか」
ガルムが鼻を鳴らす。
モウリスは肩越しにちらと視線を送ると、坦々と言ってのけた。
「もともと目的は無法者だ。お前に用はない」
「ならそっちにはもういねぇよ。――全員やられた。逃げた奴もいたはずだ」
「……そいつらなら、下でレイスに……」
クロートが目を伏せると、ガルムは右手で頭をガシガシやって肩を落とした。
「くそ。やっぱりそうなったか……下にはレイスがいるのか?」
「はい――マナレイドで大量に生まれています。もう塔の中にいると……」
レリルが答えたとき。
複数の――かなり大人数のようだ――足音が、三階へと続く下り階段から聞こえてきた。
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