無法者はさもありなん⑬
「――少なくとも、お前たちと目的は同じ――やり方は違えどな。知ったところで、迎えるのは――」
モウリスが言いかけたとき。
奥からばたばたと足音が聞こえ、弧を画く廊下の先から冒険者らしき男たちが駆けてきた。
「わあぁっ!? ――って、人間かよ! ちっ、邪魔だ、退け!」
「くそ、早く出るぞこんなところ! 傭兵どもめ……帰ったら覚えてろよ!」
「いいから早く進めよ! 追い付かれちゃうだろ!」
口々に不平不満をぶちまけながら廊下の真ん中にいるクロートたちに向かってくる男たちは三人……たぶん二十代くらいだろう。
会話の内容から、なにかから逃げているのだとわかる。
クロートはその三人が白い服を着ていないのを確認し、上層階の窓に見えた白い影ではないと判断した。
そこで先頭の男がモウリスの向こう側で立ち止まり、腕を組む。
モウリスはクロートたちのほうを向いているので、男からはモウリスの背中が見えているはずだ。
……細い体に翠色の上等な生地であつらえられた汚れのあまりない服。
腰に装備している剣は装飾がやたらギラギラした鞘に収まっている。
肩で息をしているため、かなり慌てて走ってきたのだろうと予想できるが、どういうわけかそいつは偉そうに胸を反らし言い放った。
「おい。俺たちは貴族だ。お前たち冒険者だな? そこを開けて、ここにやってくる魔物の足止めをしろ」
魔物に追われているらしいとわかったが、偉ぶる余裕はあるのかよと、クロートは嫌悪感に顔をしかめた。
「……」
モウリスは無表情でじろりと男を見下ろす。
男は追い付いてきたほかのふたりとともに、少しだけ後退った。
「な、なんだその目は。俺たちに逆らうと――」
「勝手に通れ」
「……ちっ」
モウリスの放った一言に男は思い切り舌打ちをして、後ろのふたりと一緒に一歩も動かない彼の横を抜ける。
「ふん、退けよ!」
「うわっ」
「きゃ……!」
そして腹いせのようにクロートとレリルを突き飛ばし、廊下の奥へと消えていく。
なんて嫌な感じの奴らだろうと、クロートはふんと鼻を鳴らしながら見送ったが……。
――しまった!
いまの状況を思い出し、クロートは全身が冷えたのを感じた。
「おい、あれ無法者だよな!? っていうか、いま下に行かせたら……!」
「……! レイスが!」
即座に反応したのはレリルだった。
彼女は廊下の向こうに見えなくなった男たちを追いかけようとすぐに踵を返し、足を踏み出す。
しかし。
「やめておけ」
「――え?」
モウリスから言葉とともに発せられたのは、威圧感以外のなにものでもなかった。
まるで殺気のようにも感じ、レリルはびくりと首をすくめて振り返る。
「あんな身勝手な奴らを助けようとして命を落とすつもりか」
「――い、命を落とすつもりなんて……」
否定しようとするレリルに、モウリスのナイフのような灰色の双眸が向けられ、彼女はその先を言葉にできずに身動いだ。
クロートは正直なところ、レリルほど素直に助けに行こうとは思わなかった。
けれど。
「直接助けなくたって――忠告するくらいはできるだろ!」
そう。クロートとレリルは彼らを狩りに来たのではない――『アルテミ』ではないのだ。
言い切って、クロートはレリルの向こう側、二階へと繋がる部屋へと走り出す。
うまくいけば、男たちに追い付けるかもしれないと考えたのだ。
「レリル!」
「っ、うん!」
すれ違い様に彼女を呼び、クロートはモウリスを振り返らずに一気に駆け抜けた。
すぐ後ろ、レリルが付いてきているのがわかる。
クロートはその勢いのまま崩れ落ちた瓦礫を三歩で飛び降り、二階にたどり着くと部屋に設置された罠を避け、扉へと手を伸ばし――――びくりと肩を弾ませて止まった。
『うわああぁぁぁっ!』
『なんっ……ああぁっ!』
扉の向こうから、先ほどの男たちと思われる絶叫が響き渡ったのだ。
「――っ!」
追い付いてきたレリルが息を呑み、ガチンッ、と石の壁になにか硬いものが激しくぶつかる音がした。
クロートの頭のなかに、鈍色の大きな鎌が振り抜かれ廊下の壁を打つ瞬間がまざまざと浮かぶ。
――いる。レイスが、この向こうに。
一階の扉が破られたのか、それとも塔内に『リスポーン』したのか。
男たちの声はもう聞こえず、クロートは扉から手を放してゆっくりと後退し、レリルに首を振った。
彼らがどうなったか……それを確かめる必要は、もうない。
「……くそ」
思わずこぼれたやり場のない気持ちに、クロートはぎゅっと目を閉じる。
勿論、迷宮では当たり前のように起こることだとクロートにはちゃんとわかっている。
しかも男たちは『戦っていない』。つまり生きることを放棄したも同然。
彼らは【シュテルンホルン迷宮】に来るには早すぎた――冒険者と名乗ることすらおこがましいほどの知識しか持たなかったのだ。
――しっかりしろ。このままだと、すぐに三階にレイスが上がるはず。
「行こう、レリル」
瞼を上げ、クロートは気丈にもすぐに三階に戻ることを決めて、泣きそうな顔をしているレリルの肩にそっと右手を置いた。
留まるのは危険――それは確かだ。
クロートとレリルが瓦礫を登り切り廊下に出ると……驚いたことにモウリスはまだそこにいた。
「……無法者はさもありなん」
彼はふたりの姿を確認すると、一言だけ呟いて奥へと歩き出す。
まるでこうなることがわかっていたような態度に嫌味のひとつでもぶつけてやりたいとクロートは思ったが――先ほど起こったことはモウリスのせいではない。
それくらいの理性は、クロートのなかに残っていた。
結局途中となってしまった質問――モウリスは何者なのか――も、先を聞くことはできそうにない。
クロートはレリルを前に行かせ、自分は後ろから来るかもしれないレイスを警戒することにした。
連休明け一発目です。
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