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迷宮はかくありなん③

******


 迷宮攻略を支援する組織は数多くあって、だいたいの冒険者はどこかしらに所属していた。


 組織同士が仲良くしているとこもあれば、敵対心剥き出しで成果を競い合うところもあり、優しい世界もあれば力こそ全てのところもある。


 そんなものだということは、生まれて十六年のクロートでも十分に理解しているつもりだ。


 ガルムはそのなかでも、主に迷宮の情報を手に入れ販売する組織――『ノーティティア』に所属していた。


『ノーティティア』はクロートの知る限りかなり古株の組織で、その名前はガルムいわく、どっかの冒険者がしたためた物語で「助言」を意味する言葉だという。


 迷宮攻略において情報はとても重要であり、『ノーティティア』に属する者は新しく発見された迷宮や未開の地などを回ることも多い。……つまり、迷宮の先駆者として宝箱設置をすることもできるというわけだ。


 そう。『ノーティティア』こそ【迷宮宝箱ダンジョントレジャー設置人クリエイター】たちの隠れ簔だったのである。


『ノーティティア』の本部が置かれているのは、巨大な王都を要するルディア王国だ。


 百万の民と百万の冒険者が常に往来する王都は、まさに情報の宝庫と言っていい。


 ルディア王国は、領土内に難易度の高いものを含めた数百の自然迷宮や人工迷宮が存在する迷宮大国であり、『ノーティティア』のみならず多くの組織がルディア王国を拠点とするのは必然である。


「これからお前の任命式だ。『ノーティティア』の主、ハイアルムへの謁見が行われる」


 ガルムは『ノーティティア』本部到着前にクロートにそう告げた。


『ノーティティア』本部は美しい白色の壁にいくつもの巨大な窪みが作られており、そのひとつひとつに魔物の核を胸に埋め込んだ翼を持つ人型の像が立っている。


 像はすべて女性であり、壁と同じく汚れのない白色をしていて、その美しさは、外観を見るためにはるばる訪れる者があとを絶たないほどだった。


 しかし、ガルムに言わせればあの像は恐ろしい番人であり、『ノーティティア』に仇成す者には彼らの鉄槌がくだるのだそうだ。


 ……あの美しい像が皆、埋め込まれた魔物の核を糧として動くのだと知ったときは、恐くて『ノーティティア』の扉をくぐれなかったっけなぁ、と……クロートはぼんやり思った。


 そんなのは、もうだいぶ昔の話だけど。


◇◇◇


 ハイアルム。


 クロートは、『ノーティティア』の主であるその人に会ったことは一度もない。


 ガルムに聞いても自分で確かめろとの一点張りで、なんの情報も得られなかった。


 助言という名の組織のくせに、職務怠慢だよ。――まあ、俺が情報料を払うのは難しいだろうけどさ。


 クロートは誰もいないなかでひとり愚痴って、白い大理石の廊下をコツコツと靴音を立てながら早足に進んだ。


 目指すのは廊下の突き当たり、ハイアルムが待つという任命式が行われる部屋である。


 廊下に面した庭には色とりどりの花が植えられて、甘い香りと草の匂いが満ちていた。


 廊下と庭の境界には太い柱がいくつもずんずんと並び、その柱にも翼を持つ人型の像が目を――あくまでクロートがそう思うだけだが――光らせ、クロートを見下ろしている。


 装備はそのままでいいというので、黒塗りの革鎧や腰の短剣、使い慣れた一振りの長剣はしっかり身に付けていた。


 それがクロートの気持ちを昂ぶらせるのにひと役買っているのはちゃんとわかっている。


 像の前を堂々と歩きながら、彼はしっかりと前を向き、自分を鼓舞した。


 なんとなく……ここで俯くのは間違っているような気がするのだ。


 ……そうこうしているうちに、遠くに見えていたはずの扉はすぐ目の前まで迫っていた。これもまた見事な彫刻が施された、クロートの背よりはるかに高さのある両開きの扉である。


 模しているのは龍……だろう。クロートは子供向けの本の挿絵でしか見たことがない。


 各扉に一頭ずつ向きあうようにして翼を広げた龍の、雄々しく開かれた顎に並ぶ牙。その頭から伸びる長い首にびっしりと彫り込まれた鱗が、その彫刻の繊細さを物語っていた。


 それを間近で見上げながら、すっかり目を奪われていたクロートは、はっとして首を振る。

 

 ――ぼーっとしている場合じゃないよな。まず、なんて言うべきなんだろう?


 考えたとき、扉が音もなくすーっと向こう側に開いて、クロートは息を呑む。


『――入るがよい』


 響いてきたのは、澄んだ鈴の音のような、綺麗な川のせせらぎのような、よく通る――おそらく、若い女性の声だった。


 扉の奥は、なぜかうっすらと白い靄がかかっているように、なにも見えない。


 クロートは誘われるようにゆっくりと踏み出す。


『――妾はハイアルム。【新しき迷宮宝箱ダンジョントレジャー設置人クリエイター】よ、名乗るがよい』


 一歩、また一歩。

 クロートは少しずつ歩幅を広げ、ぎゅっと手を握り締めた。


 なにかとても大きな存在が、そこにいる。クロートの本能に訴えてくる。


 だけど、俯くことはしたくない。


 クロートはしっかりと肺一杯に息を吸い込んで、声を張り上げた。


「……わ、我が名は、クロート……!」


 瞬間。白い靄が命を得たかのように、ぶわあっと左右に割れた。



もうしばらくは世界観のお話となります。逆鱗のハルトよりは重めのファンタジーを目指します!

よろしくお願いします!

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